フレンチレストランなど、東京・錦糸町駅界隈でさまざまな飲食店を手がける店主が、「牡蠣」にこだわって立ち上げたラーメン店が「麺や佐市」です。牡蠣の肝からとけだすエキスが自慢の濃厚スープは、牡蠣好き、ラーメン好きの双方から人気を博しています。
東京・錦糸町で人気のラーメン店「麺や佐市」。その看板には「牡蠣だし無化調ラーメン」の文字が大きく掲げられています。
「化学調味料を使えば比較的簡単に旨味のあるラーメンをつくることができます。でも、私自身はそれを食べたいとは思いません。そして、自分が食べたくないものを、お客様に出すわけにはいきませんから」
取材に応えてくれたのは、佐市の店主・金子秀幸さん。化学調味料であるグルタミン酸ソーダを使用せず、自然素材の持つ力だけで「旨味」を引き出すことはできないか? そんな考えから研究を重ね、辿りついたのが牡蠣をふんだんに使って旨味を抽出する「牡蠣だしスープ」でした。
「牡蠣にこだわった理由はもうひとつあります。ほかでは扱っていない素材を使いたかった、ということ。既にあるメニューを提供してもつまらないじゃないですか。納得がいく味になるまでは手間も時間もかかりましたが、結果的に、とても濃厚で旨味がたっぷりなオリジナルの味をつくり出すことができたと思います」
一度の仕込みで10キロの牡蠣を使用するという佐市のこだわりの味は牡蠣好きの間に口コミで広がり、今ではこのスープが味わいたいからとわざわざ訪ねてくるお客様や、最後の1滴まで残さず飲み干すお客様が多いといいます。
旨味とオリジナリティを求め、辿りついた佐市の「牡蠣だしスープ」。ただ、提供する上では難題もあるといいます。ひとつは仕入れ量の問題。そしてもうひとつは価格の問題です。
「牡蠣の種類や産地に関してもいろいろと検討しましたが、年間を通して安定的に供給できるという点も含めて、広島産の牡蠣に落ちつきました。秋に獲れた鮮度のいい状態の牡蠣を冷凍保存して使うことで仕入れ値をできるだけ抑えるとともに、一年中、旬の牡蠣の味わいをご提供することが可能になりました」
一年中、いつでも同じ味が提供できるという強み。そうはいっても、牡蠣という素材のイメージからか、秋や冬に比べると、夏場の来店数が少々落ち込んでしまう、と語る金子さん。そこで、つけ麺の提供を始めたり、期間限定メニューを展開したりといった工夫も続けています。
サービスで人気なのが、ランチタイムの無料ライス。麺を食べた後、残ったスープに入れれば牡蠣雑炊のようになり、最後まで牡蠣の濃厚な旨味が堪能できます。
看板メニューの「牡蠣・拉麺」以外にも、「牡蠣・つけ麺」や「牡蠣めし」、さらには「生牡蠣」まで提供。牡蠣の旨味をさまざまな角度から味わえます。
「やっぱりありきたりなものを出してもしょうがないですから。牡蠣の味を全面に出して、牡蠣に特化したお店として認知していただきたいと思っています」
東京・青梅市の「らーめん いつ樹」、新宿の「五ノ神製作所」。ふたつの人気店で経験を積んだ店主が、満を持して開店したのが「らーめん改」です。貝にこだわった「貝塩らーめん」と煮干にこだわった「濃厚煮干つけ麺」の二枚看板で人気を集めています。
今年2月の開店以来、早くも人気を集めている「らーめん改」。その特徴は、なんといっても大量のアサリを中心に炊き出したスープです。看板メニューである「貝塩らーめん」は、貝の香味油以外、動物系は一切使用していないにもかかわらず、旨味が凝縮されたスープに仕上がっています。
「いろいろ試作して一番上手くいったのが貝を使ったスープでした。開店当初、2?3ヶ月はいろんな貝類を試してみましたが、味にばらつきが出過ぎてしまい、今はアサリを主力に、あまりいじらないようにしています」
取材に応えてくれたのは店主の木場本幸治さん。貝を使ったラーメンに辿りついた背景には、母親の影響もある、と語ります。
「子どもの頃、母がつくる蛤のお吸い物の味が大好きでした。今の世の中、ラーメンも含めて、こってりしたものばかりじゃないですか。だからこそ、あっさりしたラーメンを食べたいな、と思ったんです。そこで、お吸い物を意識してつくってみたら、『これならいける』というものが出来あがりました」
スープに溶け込んだ貝の香りと三つ葉の香り。一杯のなかに、さまざまな香りが堪能できるのも魅力です。
「三つ葉も、お吸い物をイメージして使用しています。メンマではなく、タケノコを具材として使っているのも、やっぱりお吸い物からのアイデアです」
アサリで出汁をとったスープとともに、「らーめん改」の特徴となっているのが国産小麦を使用した自家製麺です。
「あっさりしたスープには細い麺を使うところも多いと思うのですが、ウチは少し太めの麺です。やっぱり太麺のほうが食べ応えがありますし、小麦の味も噛みながら味わえると思います」
「らーめん改」の麺に対するこだわりで興味深いのは、最初に提供される麺は太いのに、替え玉代わりの「貝油の和えそば」では細麺に切り替わること。貝の香味油とミンチシャーシューが乗った油そばは、がっつり食べたいお客様が決まってオーダーする商品です。
「替え玉と同じですので、スープが冷めないうちにできるだけ早く提供したい、と考えて細麺になりました。太麺と細麺、両方味わえてお得感がある、と言っていただくお客様もいらっしゃいますね」
スープをつくるのは店主の幸治さん。そして麺をつくるのは康世夫人。夫婦二人三脚で、一杯の至極のらーめんが完成します。
「開店に際しては内装も自分たちで考え、壁を塗ったり、床の板を張ったりといった作業も全て自分たちでやりました。だからこそ、この場所でずっとやっていこうという思いも強くなりますね」
お店の将来像も、地元に根づいた店になること、と木場本さんは語ります。
「大流行して行列が絶えない店も魅力的ですが、まずは、しっかりと地域に根づいた店になりたいですね。まだ開店したばかりですが、地元のお客様が通いやすく、こんにちは、と気軽に来てもらえる店になっていきたいと思います」
暖簾にかかげるのはシンプルに「貝」の文字。そのまわりで賑わいを醸し出すさまざまな貝殻。貝にこだわった特徴的な商品を次々と生み出し、貝好きを喜ばせているのがその名もズバリ「貝ガラ屋」。現在は牡蠣にこだわった商品で人気を集めています。
2014年、牡蠣を全面に押し出したまぜそば「汁なしオイスター」で一躍人気となったラーメン店「汁なしイプサ」。その後、さらに味の改良を重ね、貝に特化した店としてリニューアルしたのが「貝ガラ屋」です。
現在の主力商品は「濃厚牡蠣ソバ」と「濃厚牡蠣つけ麺」。広島産牡蠣をふんだんに使った味が、牡蠣好きを中心に話題を集め、最寄り駅から徒歩15分近い立地にも関わらず、口コミで広がったお客様を中心に行列ができる人気店となっています。店主の永山尚吾さんが、店のコンセプトについて明かしてくれます。
「貝にこだわった店、というのはラーメン業界でもまだまだ珍しいと思い、このスタイルに辿りつきました。以前はあさりとしじみを中心にさまざまな貝の味を取り入れた『貝だしラーメン』を提供していましたが、研究を重ねた結果、現在は貝の中でも味と香りの強い牡蠣に特化したソバとつけ麺をご提供しています」
こだわりのスープは、昆布・煮干・鰹節の出汁に牡蠣を大量に投入して仕上げた牡蠣白湯が味のベース。この牡蠣白湯に、より牡蠣感をあげるための牡蠣の濃縮出汁、さらには濃厚な鶏と豚のスープをブレンドしたトリプルスープとなって完成します。
「牡蠣の調理は、臭みを出さないようにするのが大変です。また、フレッシュ感や香りを保つのが難しいので、毎日その日使う分だけを仕込み、フレッシュさを保つように心がけています」
お店の一番人気は「濃厚牡蠣つけ麺」。まずはそのままつけ汁につけて食べ、続いて牡蠣味噌を投入して濃厚感をアップ。途中でレモン汁を入れてサッパリと、という具合に一度で何パターンもの味が楽しめると好評です。
さらに、残ったつけ汁スープには割スープを入れて最後まで飲み干すも良し。サイドメニューの貝めしを豪快に投入して「絶品貝スープめし」として味わう食べ方も常連客の間では定着しています。
手間ひまをかけて毎日仕込むスープだけでなく、「貝ガラ屋」のこだわりは、具材や麺にも行き渡っています。
そのひとつとして挙げられるのが、「濃厚牡蠣ソバ」と「濃厚牡蠣つけ麺」でそれぞれ異なる麺を使用していること。「牡蠣ソバ」には歯切れの良い弾力を追求したオリジナルの細麺を、「濃厚牡蠣つけ麺」にはモチモチした食感が特徴の太麺を使用。麺の使い分けは他店でも珍しくありませんが、貝ガラ屋ではそれぞれ、別の製麺所に発注しているのが特徴的です。
「太麺が得意な製麺所、細麺のバリエーションが豊富な製麺所、それぞれに長所があります。そこは妥協せず、スープと一番あう麺を使いたいと考えています」。
また、具材で人気なのが低温調理で仕上げた特製のチャーシュー。臭みがなく、肉の味がしっかり味わえるという地元・相模原産のブランド豚「さがみはら香福豚」を使用。やわらかく、脂も甘いと好評です。
立地的に、『わざわざ食べにくる』というお客様がほとんど。だからこそ、スープだけでなく、麺も、具材も、ここでしか味わえないものを提供したいという店主のこだわりが、今日も行列を生み出します。
健康食材として常に注目をあつめる「しじみ」。そんなしじみの魅力と美味しさにとことんこだわり、しじみに特化した専門店として生まれたのが「しじみらーめん」です。新宿歌舞伎町という立地も活かしたメニュー構成でリピーターが多い人気店です。
日本を代表する繁華街、新宿歌舞伎町。その中心地に店を構える「しじみらーめん」の店頭には、こんな垂れ幕が掲げられています。
◎オルニチン効果でひどい二日酔いの予防に
◎タウリン効果で脂肪を燃焼させダイエットに
◎亜鉛効果で肌荒れの改善に
明日も元気に飲むためにまずはご賞味ください。
お酒が似合う街だからこそ、その立地に特化して開発された味が「濃厚しじみらーめん」です。
「ラーメン店というとランチタイムが忙しいと思いますが、当店では夜以降、それこそ深夜帯のほうが忙しいです。お酒を飲んだあとに来てくださる常連客の方も多いですし、飲み過ぎて二日酔いの朝、朝食代わりにスープだけ飲みに来てくださる方もいらっしゃいますね」。
現在の店長、グルン・パルカスさんが語る通り、「しじみらーめん」は眠らない街・歌舞伎町と同様、夜から早朝までの営業時間で、さまざまな客層のニーズに応えています。
もともとは、内臓が弱いのについ食べすぎや飲みすぎで体調をくずしてしまうオーナーが、「自分でも安心して食べられるラーメンをつくりたい」と考えたのが出発点。そのコンセプトが立地と結びつき、支持を集めることにつながりました。
「しじみらーめん」の定番メニューは醤油ベースの「濃厚しじみらーめん黒」、塩ベースの「濃厚しじみらーめん白」、辛醤油味の「濃厚しじみらーめん赤」の3種類です。これらに加えて、夏であれば「冷やししじみらーめん」などの季節限定メニューが並びます。
「もともとは《黒》だけでしたが、飲んだ後はさっぱりしたものが食べたいというお客様からの要望で塩ベースの《白》ができ、その後に、飲んだ後の〆には辛くて濃い目の味がいいと《赤》が加わりました」
味の根幹であるしじみは、ベースのスープをつくるために毎日10キロ近い量を使用。それとは別に、トッピングとして1杯につき30個近い量のしじみが加わります。
また、この店では「味玉」「もやし」「チャーシュー」「レモン」「刻み玉ねぎ」「ニンニクチップ」「金箔」「ドリンク」の8種類のなかから3つまで、無料でトッピングができるサービスが好評です。
「チャーシューや味玉はいつでも定番の人気トッピングですが、しじみとの相性でいえばレモンもオススメです。また、意外な人気を誇るのが『金箔』。縁起物でもありますので、商売をされている方が好んで選ぶのかもしれません」
しっかりラーメンを食べたい人、健康に気を配りたい人、飲食店関係者……多様な人が行き交う新宿だからこそ、さまざまなニーズに対応する臨機応変さもまた、この店の人気の理由なのです。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年9月)のものです