100年以上の歴史を誇り、中国国内でも老舗として知られる蘭州ラーメン店「馬子禄」。その日本第1号店が2017年8月、東京・神保町にオープン。本場と変わらない味が食べられるとあって、早くも開店前から行列ができる人気店となっています。
「馬子禄」は、中国で数万軒あるといわれる蘭州ラーメン店の中で唯一、中国政府から「中華老字号(中華老舗ブランド)」の認定を受けた名店です。日本店店長の清野烈さんは、北京での留学時代に食べた本場の蘭州ラーメンに感銘を受け、この世界に足を踏み入れました。
「日本に帰国すると、蘭州ラーメンを食べたくてもお店がない。それならば、自分で開業したいと思い立ちました。そこから再び現地に行って何十軒も食べ歩きを重ね、一番自分の口に合ったのが『馬子禄』。最初は相手にしてもらえませんでしたが、熱意が認められて修業を許されました」
蘭州ラーメンの特徴のひとつは、日本の一般的なラーメンとは一線を画すスープです。牛骨や牛肉を、10種類以上のスパイスと一緒に長時間煮込んでつくることで、牛の旨味と薬膳スパイスの香りが凝縮されています。また、彩り豊かな見栄えには、馬子禄として大切にしているコンセプトがありました。
「蘭州ラーメンには『一清二白三紅四緑五黄』という概念があります。『清』は澄んだスープ。『白』は大根。『紅』は辣椒(唐辛子油)。『緑』はパクチーや葉ニンニク。『黄』は麺の色。これらの色味を一杯の丼の中で鮮やかに表現するということです」
日本人向けに味付けを変えることは一切やっておらず、本場の味で勝負している、という清野さん。ただ、パクチーとラー油に関しては、苦手な方であれば量の調節も可能。もっと食べたい、という客層に向けて、パクチーは+120円、牛肉は+200円で増量することもできます。
馬子禄では客席から見える形で、清野さんが日々、注文を受けてから麺打ちをしています。注文できる麺は、細麺・平麺・三角麺の3種類。本場ではさらにいくつもの麺の種類がある中から、特に日本人と相性の良さそうな麺を3つ選んだといいます。
「細麺は、ほぼストレートな麺です。細さに若干のばらつきはありますが、その食感を楽しみながらスープと絡めて食べていただきたいです。平麺は“きしめん”に近いタイプで、スープと一緒に食べる感覚で味わっていただきたい麺です。三角麺は、その名の通り、三角形に手打ちすることで少しヒダができ、スープによく絡まるのが特徴です。細麺よりも噛み応えがあると思います。まずは一度、細麺を食べ、次回以降の来店で三角麺や平麺を注文して、味の変化を楽しんでいただきたいですね」
開店時間前から行列ができるほどの人気を集めている馬子禄。日本人のお客様はもちろん、中国人の方からも大好評だといいます。
「『あの馬子禄の蘭州牛肉面が東京でも食べられるのか!』と中国人のSNSで話題になっているようです。それがキッカケで足を運ばれたお客様には、本場と変わらない味だと大変喜んでいただけています。ただ、蘭州ラーメンの日本国内での知名度はまだまだ。条件が整ったら日本での店舗数をさらに増やし、一人でも多くの方に食べて欲しいと思っています」
近年、中華料理店や中国人向けスーパーなどが増えてきている埼玉県西川口で、蘭州料理専門店「ザムザムの泉」が2017年8月にオープン。「故郷(中国・蘭州)の味が食べたい」という動機からつくりはじめた“本場の味”を求め、遠方からも来客があるという大盛況のお店です。
「『ザムザムの泉』はイスラム教の聖地メッカにある聖なる泉の名です。蘭州に住む回族はイスラム教を信仰していますので、蘭州の伝統的なハラール料理(イスラム教の戒律によって食べることが許された食べ物)の魅力を伝えたいという思いから、この店名になりました」
そう語るのは、、留学を機に日本にやってきた、店主の鄧斌(トウ・ヒン)さん。蘭州出身の人たちにとって、故郷の料理を食べられるような場所にしたい、という思いから開店を決意。義父がかつて中国で蘭州牛肉麺の専門店を営んでいたこともあり、レシピはその頃のものを受け継いでいるといいます。
「最も重要視しているのはスープの味。10数種類の薬膳と牛肉を煮込んでつくりあげています。義父から受け継いだ薬膳の組み合わせをベースに、厳選した和牛を使用しているのがこだわりです。ハラルマーク(イスラム教が禁じる豚由来の成分やアルコールの使用制限などの決まりを順守した食材)の付いた和牛を探すのにとても苦労しましたが、肉そのものの柔らかさは、外国産のものとは大きな違いがありました」
開店当初に使用していた外国産牛肉と比べ、仕入れ値は倍近いという和牛を使ったスープですが、無料でおかわりが可能。ラーメン店にしては珍しいサービスといえます。
「ゆっくり食べるお客様の場合、スープを追加しないと麺の食感が変わって食べづらくなってしまいます。お客様には一番おいしい状態で召しあがってほしいので、スープの追加も無料にしています。よく煮込んで味がしみた大根も一緒にサービスしていますよ」
本場では10種類以上の麺があるといわれる蘭州牛肉麺。ザムザムの泉ではその中から、味と食感のバリエーションの違いが楽しめる6種類から選ぶことが可能です。
「6種類ある麺の中でも、幅が2〜3cmほどある大寛(ダイクワン)平麺は、お客様に興味を持っていただけることが多いですね。食べ応えのある厚みもまた好評です」
このほかにも、うどんの太さに近い蕎麦棱(チアオマイレン)三角麺、細くて柔らかい細的(シーデ)丸麺なども人気の麺です。当初はなかなか納得のいく麺がつくれなかったといいますが、さまざまな小麦粉を検証した結果、日本産の小麦粉を2種類ブレンドすることで本場の味を再現することに成功。注文を受けてから素早く手打ちをして仕上げます。
麺のボリュームはもちろんのこと、盛り付けられた大根、パクチー、葉ニンニク、サイコロサイズの牛肉も存在感抜群。和牛を薬膳で煮込んだ醤牛肉(200円)、優しい味付けが特徴の茶たまご(100円)が加わる「ザムザムセット」も人気です。
開店当初はさまざまな蘭州料理を提供していたザムザムの泉ですが、現在、注文できるのは蘭州牛肉麺のみ。メニューをひとつに絞った理由は、飽くなき探究心によるものでした。
「おかげさまで、西川口の方以外にも、東京・千葉・神奈川などから、毎日たくさんのお客様が当店の味を楽しみにいらっしゃいます。だからまずはこのお店で、一人一人のお客様を大切にしながら、蘭州牛肉麺のクオリティを今以上に高めていきたいと思っています。他のメニューは、人手をもっと増やすことができ、蘭州牛肉麺がしっかり浸透してきてから改めて提供していきたいですね」
“日本初の麺線専門店”を掲げる「台湾麺線」。2014年3月、東京・虎ノ門でテイクアウト専門店として開業したのち、同年11月、イートインスペースを設けて新橋でリニューアルオープン。オフィス街のサラリーマンを中心に着実にファンを拡げています。
「台湾麺線」を開業する前は専業主婦をしていたという店主の林千笑さん。店舗経営はもちろん、料理人の経験もないという状況から、いかにして日本初の麺線専門店を開業するに至ったのかを聞きました。
「麺線は、私が初めて口にした台湾料理です。味はもちろん、見た目にも衝撃を受け、何度も台湾に通って麺線を食べるうちに、この味を日本でも食べたいと思ったのがお店を出すキッカケでした」
友人からの勧めもあって開業を決意した林さん。現地の知人などツテを頼ってルートを開拓するとともに、麺線以外にも台湾の食文化を現地から積極的に取り入れながら、“日本人に好まれる麺線”を模索しました。
「麺線は、台湾では南に行けば行くほど味付けが甘くなる傾向があります。私自身は甘い味わいも好きなんですが、当店では、台北スタイルの鰹ベースのスープを採用。日本人にもなじみが深く、海外旅行の経験が豊富な年齢層にも受け入れられやすい味付けなのではないかと考えました」
鰹出汁の効いたやさしい味わいが特徴の台湾麺線。卓上にある烏酢、おろしニンニク、自家製辣椒油などの調味料を加えることで、味の変化を楽しむこともできます。
「烏酢は台湾の黒酢で、中国の黒酢と比べて酸味の控えめなやさしい味です。自家製辣椒油は、日本のラー油と比べるとはるかに激辛ですので、一滴ずつ入れるのがオススメ。おろしニンニクは敬遠される方が多いですが、麺線との相性は抜群ですので、是非試していただきたいですね」
とろみがあって見た目以上にお腹が満たされる麺線は、ローカロリーであるのも魅力のひとつです。
「当店の麺線は大盛りでも250kcal程度で、お腹いっぱい食べても太りにくいと思います。女性にもオススメですし、飲み会のシメとして、当店を利用するお客様がもっと増えてほしいと思います」
モツ、パクチーがのった「麺線」は650円。プラス100円で大盛りやパクチー増しにすることも可能です。お店で人気No.1の「麺線セット(950円)」は、麺線(大)と豚肉煮込みかけご飯の「小魯肉飯」とのセットでボリューム満点。味・量ともにサラリーマンの胃袋をがっちりと掴んでいます。
「虎ノ門時代からのリピーターはもちろんのこと、最近では日本全国から当店の麺線を食べに来られる方がいらっしゃいます。新婚旅行で日本にやってきた台湾人夫婦が来店したこともありますよ(笑)」
麺線専門店として国内外から注目を集めている台湾麺線。将来的には、麺線のラインナップをさらに充実させたいという目標があります。
「台湾全土の様々な味わいの麺線を出したいですね。高雄などの南部の麺線は甘い味。ほかにも胡椒が効いていたり、山椒が効いていたり……。本当に地域によって味に違いがありますので、そういった地域ごとの味のバリエーションも、いずれはご提供していきたいと思います」
西新宿から徒歩10分の場所にある「台湾佐記麺線」は、昼は麺線の専門店として営業。夜は「台湾バル888」という店名に変わり、お酒を飲みながら台湾の家庭料理も楽しめます。昼夜を問わず、多くのお客様に愛されているお店です。
「台湾佐記麺線&台湾バル888」のオーナーである佐久間梢さんは、かつてチャイナエアラインで勤務をしていたという異色の経歴の持ち主。台湾の屋台で出会った麺線に感銘を受け、独自に開発したのが看板商品である佐記麺線です。
「麺線は、台湾ではレストランや家庭料理にはなく、屋台で食べるものがほとんど。日本でいうと立ち食い蕎麦に近い感覚です。本来はモツや小さい牡蠣が入っていることが多いのですが、当店の『佐記麺線』では、モツに加えて鶏肉やアサリを使用するのが特徴です。“佐記”というのは私(佐久間)のこだわり=“佐久間印”という意味を込めたオリジナルメニューの意味なんです」
具材のオリジナリティに加えて、ニンニクを少なめにしているのも佐記麺線ならではの工夫です。
「麺線に限らず、本場の台湾料理は、慣れていない日本人からすると胃もたれしてしまうほどにニンニクが強めです。そこで当店では、ニンニクを抑え、お客様それぞれが麺線の味を自由にアレンジできるようにしています。まずはレンゲを使って丼の底からよく混ぜ合わせて召し上がっていただき、そのあとに“味変”するのがオススメです」
カウンターに置いてあるのは3つのスパイス。日本より少し酸味が強いウスターソース。唐辛子とニンニク、豆鼓(トウチ)など5種類のスパイスが入った辛口ペースト。隠し味に沙茶醤(台湾のXO醤)が入っているカツオニンニクです。これらの調味料を使うことで、旨味がさらに際立ちます。
台湾佐記麺線では、「新竹紅麺線」という麺を台湾から直接輸入。出汁をよく吸った柔らかい食感も特徴のひとつです。
「麺線で使用する細麺は、麺類の中でもかなり特殊な部類だと思います。というのも、何時間経っても伸びないんです。原料は、小麦粉と塩と水。見た目も材料も素麺と同じですが、製麺の工程には手間がかかっています。ちょうど先日、現地の工場を視察してきましたが、大人ふたりがかりで引っ張り合って手延べして、そこから9時間蒸して水分をたっぷり含ませてから乾燥させていました」
とろみのあるスープと伸びない麺を使うことで、ゆっくり食べても味が変わらない台湾のソウルフード、麺線。台湾佐記麺線ではレギュラー(R)500円、ダーワン(M)600円、チャオダー(L)700円と、リーズナブルなのも人気の理由です。
「お客様が一週間に何回来ても負担にならない金額を考えながら値段設定をしました。私のつくる料理はレストラン料理ではなく家庭料理。週に何回食べても飽きない味を心がけています。実際、1日に2回も来てくれるお客様もいます。さながら、社員食堂みたいな感じでしょうか(笑)」
高層ビルが立ち並ぶ西新宿で、サラリーマンを中心に支持を集めている「台湾佐記麺線&台湾バル888」。将来的には、店舗数を増やしていきたいと佐久間さんは言います。
「台湾には麺線という食文化がある、ということをもっと多くの人に知ってもらいたいですね。そのためには西新宿だけではなく、さまざまなエリアでお店を展開していけたらと思っています」
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年12月)のものです