深谷ねぎとレンガの街として知られる埼玉県深谷市。小麦の産地としても有名で、古くから麺料理が親しまれてきた土地でもあります。そんな街の商工会議所が中心になって2016年から取り組み始めたのが新・ご当地グルメ「ふかやカレーやきそば」です。その開発経緯について、深谷商工会議所の八ツ田広岳さんは次のように語ります。
「もともとこの地域では、地元で収穫した野菜類をふんだんに使い、幅の広い生めんを煮込んだ『煮ぼうとう』という郷土料理が親しまれています。ただ、冬の料理という印象が強く、夏になかなか需要がないという課題がありました。折しも深谷市内に大型アウトレットができる計画もあったため、その買い物客の回遊性を高め、世代を問わずに親しまれる新しいメニューが必要なんじゃないか、と市内の飲食店を対象にした料理コンテストを実施したんです」
普及のしやすさも考え、料理コンテストで選考基準となったのが「一年中提供できること」「誰でも調理できること」「深谷産野菜など地元食材を活用すること」。これらを見事クリアし、グランプリに選ばれたのが「割烹 楓」の「カレーやきそば」でした。
コンテスト後、このカレーやきそばを提供してみたいという飲食店を集めての試食会と勉強会を実施。現在、28店舗がメニューに「ふかやカレーやきそば」を加えて提供しています。
やきそばであること、カレー味であること、深谷産野菜を使うこと、という3つの定義を満たせばどんな飲食店でも提供できる懐の深さも「ふかやカレーやきそば」の魅力。和・洋・中、それぞれの店で独自の調理法や具材、トッピングを工夫しているため、食べ比べをする楽しさもあります。実際、2017年には提供店舗を巡るスタンプラリーを実施して好評を博しました。
「市内で開催される“産業祭”といった地元イベントでもカレーやきそばのブースを設置し、市民の皆さんからもご好評いただいています。今後はさらに普及すべく、ご家庭でも手軽に再現できる“カレーやきそばの粉”を地元の製麺会社さんと開発しているところです。また、市外の方に向けては、各地で開催されているカレーイベントに出店するといった活動も始めています。いずれ『深谷といえばカレーやきそば』といってもらえるような存在になりたいですね」
<深谷商工会議所>
住所:埼玉県深谷市本住町17−1
電話:048-571-2145
URL:http://fukaya-curry-yakisoba.jp/
※深谷の新・ご当地グルメ「ふかやカレーやきそば」の定義や、
店舗一覧をマップやリストでご確認いただけます
創業以来、地場の野菜と手作りの味にこだわり続けてきた「割烹 楓」。普段の食事から特別な日の会席まで、幅広い客層から支持を集める人気店であり、「ふかやカレー焼きそば」発祥の店です。
ふかやカレーやきそば誕生のきっかけとなった新・ご当地グルメコンテストでグランプリを獲得した「割烹 楓」。2代目の井上昌紀さんは開発経緯をこう語ります。
「当店は約45年前、私の父がお好み屋として創業しました。ですので、もともと焼きそばがメニューにあるんです。また、お客様のご要望やまかない料理として普段からさまざまなアレンジに取り組んでいました。その中から、万人受けして家でもつくりやすいのはカレー味かな、と味を仕上げていきました」
元祖ともいえる楓の「カレー焼きそば」は、コシのある太ちぢれ麺を数種類ブレンドしたカレー粉で炒めた、パンチのある味わいが特徴です。こだわりのカレー粉はあまり辛すぎず、それでいで香りも重視してセレクト。小さな子どもでも食べやすいよう、少しずつマイルドな味に微調整を続けているといいます。
また、麺は地元の製麺所から特別に仕入れたものを使用。麺の幅と辛さとの組み合わせをいくつか試したなかで、もっとも相性が良かったのが今の太ちぢれ麺でした。
「麺に関しては焼きそばに限らず、煮ぼうとう用の平打ち麺も、創業当初からお付き合いしている五十嵐製麺所さんが当店用に手打ちしたオリジナルの麺を使っています。特徴的なのはスーパーでよく見かけるような白い麺ではなくて、地粉でちょっと黒っぽい麺なんです。この辺は粉文化が盛んだし、お客様の目も厳しいんですが、当店の麺はどの料理でも昔からご好評いただいています」
焼きそばの具材には、地元産キャベツをたっぷり使用。麺の上にのった半熟目玉焼きがさらに食欲をそそり、横に添えられた特製ねぎラッキョウは味のアクセントに。この特製ねぎラッキョウも、コンテストで高評価を集めた要因です。
「深谷といえば深谷ねぎですし、この店のそば、利根川沿いがまさに本場なんです。この地場の味をどうすればカレー焼きそばに活かせるかが鍵でした。カレーといえばラッキョウがお供ですので、ネギを甘酢に漬けて“ねぎラッキョウ”にすればいいんじゃないか、とつくってみたところ、コンテストでも皆さんから好評でした。熱くて辛い焼きそばの横に冷たくて甘いねぎラッキョウ、というのが箸休め的にもいい塩梅なんだと思います」
元祖の味わいとオリジナルのねぎラッキョウを求め、休日には遠方からのお客様も多いといいます。
「提供当初から評判はよかったんですが、あるアイドルの方にこのカレー焼きそばを紹介していただいたおかげもあって、土日になると若いお客様が北は北海道、南は沖縄、海外は台湾からも来てくださいます。先日は産業祭にも出店したんですが、2日間で1,000食が売れました。つくるのは大変でしたけども(笑)、本当にありがたいことです」
ランチタイムには、サラダ・ケーキ・ミニ丼、ドリンク付のセットメニューも人気で、ボリュームも満点。お子様から食べ盛りの男子、そしてお年寄りと、世代や性別を超えて親しまれています。
「小麦の産地だからか、この辺の人は本当に粉物が好き。だから、ご飯と味噌汁ではなくて、ご飯と麺、という組み合わせも珍しくないんです。そんな深谷の食文化も含めて、これからも楽しんでいただければと思います」
深谷駅からほど近い住宅地に店を構える「カフェ花見」。昔懐かしいナポリタンやオムライスが楽しめるだけでなく、お年寄りから若者までどの世代もが集い、語らう「深谷の情報発信カフェ」として人気です。
カフェ花見の創業は1976年。現在、若女将を務める岡村淳代さんのご両親が店を始め、今は親娘三人で切り盛りしています。
そんな店で提供するカレーやきそばは、自家製カレーをソースやきそばにかけ、地場産の卵でつくるふわとろのオムレツをトッピング。その上にソースとマヨネーズ、かつおぶしがたっぷりかかった濃厚な一品です。麺は焼き上げる前に一度湯通しをすることで、ソースの絡みもよく、よりもっちりとした食感が楽しめます。
「私が小学生の頃から両親が提供していた、いわゆる“喫茶店の味”が今でも人気なんです。そのなかのひとつが『やきそば』であり、その上にオムレツをのせてマヨネーズとソースをかけて食べる『オムそば』というメニューも以前からありました。あるとき、私の同級生のラグビー部の子がお店に来てくれた際に、ガッツリしたものが食べたいと『やきそばと卵の間にカレーをかけてくれ』と言われて、それから隠れメニューとして提供していたんです。だから、このカレーやきそばの取り組みが始まる前から、私にとっては馴染みのあるメニューといえますね」
実際にメニューに加えたのは、商工会議所が「ふかやカレーやきそば」の取り組みをはじめた2017年から。その際、新たなアレンジを加えようかといくつかのメニューも考案したものの、やはり以前から提供していたこの味がしっくりきて落ち着いた、といいます。
「だから、このメニューの考案者はラガーマンです(笑)。でも、そんな風にお客様のアイデアや意見を取り入れたメニューや工夫が他にもあるんですよ」
カレーやきそばを提供する際に七味を添え、好みの量をふりかけて食べるのもカフェ花見流。これも、元をたどれば常連客からのアイデアだったといいます。
「やきそばのときから七味をつけていて、それがいつのまにか定番になりました。オムそばにもつけていますし、逆に忘れると『七味ください』とリクエストされるほど(笑)。当店のカレーはお子様でも食べられるよう辛さを抑えているので、辛さを求める人もこの七味で満足いただけると思います」
食後には、地元の偉人・渋沢栄一や人気ご当地キャラ・ふっかちゃんのラテアートが楽しめる「渋沢栄一カフェオレ」や「ふっかちゃんカフェラテ」など、ご当地感満載のティータイムもおすすめ。落ち着いたつくりの店内にはいつも常連客で賑わいをみせます。
「朝からコーヒーを飲みたい方もいらっしゃいますし、昼は市役所の方や近くの銀行員の皆さんがランチで利用してくださいます。ランチが落ち着くと年配客が時間をずらして来てくれますので、その常連の皆さんを大切にしていきたいと思っています。この人トマト嫌いだったなとか、この方は食べる量少なめだなとか。そんな“気づき”から、新たなメニューが生まれたりしますから。それに常連客が多いからこそ、井戸端会議みたいにいろんな情報が集まるんです」
そう語る岡村さんは、地域を盛り上げるため「深谷商店街活性隊 若女将」を結成。女性商業者主体の賑わいづくりを目指しています。
「商売って、自分のお店だけじゃだめなんです。そこで、若女将の面々でイベントを企画したり、県知事と話をする機会を設けてもらったりしています。女性の目で物を売ったりお客様を獲得したり、いろんなアイデアの実現に力を入れて、みんなで盛り上がっていきたいですね」
深谷駅から歩いてすぐの場所に9軒の店が並ぶ深谷宿屋台村「ふっかちゃん横丁」。そのなかのひとつ「居酒屋 大八」では、深谷の地酒と季節の魚料理、地場の素材を活かしたご当地メニューが楽しめます。
宮城県出身の店主・本田忠幸さんは、前職の転勤をきっかけに深谷市に移住。いつしか深谷の魅力にはまり、会社員を辞めて地酒や地元食材にこだわる店「居酒屋 大八」を2015年に始めました。
「外から来たからこそわかる魅力ってあると思うんです。深谷といえば深谷ねぎ、と連想しがちですけども、ほかにも大和芋が有名ですし、それ以外の野菜も豊富に採れる“野菜のまち”なんです。実は妻の実家が農家で、店で使う野菜は家で育てたものを使ったり、それ以外でも地場の野菜を買って調理しています。また、魚にもこだわっていまして、高崎市の市場に毎日通って新鮮な魚を仕入れています」
食材へのこだわりとともに売りとしているのが、深谷市内に3つある酒蔵から地酒9種類を常に取り揃えていること。また、深谷市に本社を構える赤城乳業の人気冷菓「ガリガリ君」を溶かしながら味わう「ガリガリ君サワー」も楽しめます。そんな自慢の酒とあう料理も「居酒屋 大八」の人気の秘訣。そのなかのひとつが「深谷カレーやきそば」です。
「もともとやきそばは提供していたんですが、カレーやきそばをメニューに加えたところ、既存のやきそばよりもよく売れるんです。やきそばは居酒屋ならどこでも食べられますけど、カレーやきそばを置いている居酒屋というのはなかなかありませんから。酒のつまみにもなるし、〆の一品として注文いただくことも多いですね。まあ、〆といいつつ、また飲みたくなる味ともいえるんですが(笑)」
「居酒屋 大八」で提供するカレーやきそばは、もちもちした太麺に20種類以上のスパイスを使用したカレールーを使用。調理の際には、こだわりの地元野菜とスパイスを一緒に炒めることで、野菜からの旨味も抽出していきます。やきそばの横に添えるのは、深谷ねぎで作った自家製ねぎラッキョウ。この一皿で、深谷産の野菜がふんだんに楽しめます。
そしてもうひとつ、他店のカレーやきそばにはない、大八ならではの大きな特徴が、豚肉入りとクジラ肉入りを選べる、という点です。
「魚にこだわり、市場に毎日通っているんですから、その市場で手に入る食材で何かできないか、と考えました。カレーと魚は相性が悪いイメージがあるかもしれませんが、クジラ肉は独特の香りや味わいがありますから、カレーという強い味にも負けず、ちゃんと存在を主張してくれるんです。この辺は豚肉文化なのでどちらかといえば豚肉の方がよく出ますが、それでも、当店でしか食べられない味を提供することは意義があることだと思っています」
取材の最後に、深谷市出身ではないからこそ感じた“深谷市でカレー味が愛される理由”について教えてくれました。
「はじめて食べて驚いたのが、深谷もんじゃ。昔からこの地域では親しまれている駄菓子感覚のローカルフードなんですが、カレー粉を使っているのが特徴なんです。小さな頃からカレー味に慣れ親しんでいるからこそ、カレーやきそばも人気が出るんじゃないでしょうか。深谷の食文化はなかなか奥が深いので、これからももっと研究して、さまざまなご当地メニューを提供していきたいと思います」
中華風食堂を掲げる金楽では、本格中華はもちろんのこと、さまざまな定食メニュー、カツカレーやドライカレー、オムライスなど、豊富なラインアップが自慢です。昼時には来店客だけでなく、出前注文も入って忙しいといいます。
「元々は60年くらい前に、私の祖父と祖母が始めた小さな食堂がこの店の原点です。ですから、お客様が食べたいものを出す、という部分ではずっと変わらず続けています。カレーライスもそのなかのひとつですね。ランチどきには麺料理とミニカレーのセットを頼まれる方も多いです」
取材に答えてくれたのは、3代目にあたる金井辰弥さんです。商工会議所から「ふかやカレーやきそば」への参加を持ちかけられた際、「カレーはある。もちろん焼きそばもある。ならば地元を盛り上げるためにも参加しよう」と手を挙げたといいます。しかし、メニュー完成はすんなりとはいきませんでした。
「まず、焼きそばにいつものカレーをかけてみたんですが何か違う。いろいろ試行錯誤して、ドライカレーに使っているカレー粉を使ってみたところしっくり来たんです。また、当店の通常のカレーは和風ベースの出汁が特徴ですが、カレー焼きそばでは中華スープをベースにして、そのスープで麺を煮込んでから炒めています。肉もカレーライスは牛肉、カレー焼きそばでは豚肉、と使いわけています」
中華スープで麺を煮込むとともに、炒める際の味付けにはコチュジャンやオイスターソースといった中華食堂らしい調味料も使用。さらに、秘伝の甘だれと粉チーズでマイルドなカレー風味に仕上げています。皿にたっぷりと添えられたマヨネーズをお好みで加えれば、濃厚さがさらに増します。
こだわりの細麺は深谷市の老舗、岡本製麺から仕入れたもの。具材には地元産を中心にしたキャベツ、人参、もやしと、国産豚肉の“麦小町”を使用。たっぷり入ったジャガイモの存在感も特徴です。
「つくり始めた最初の頃は、辛いんだけど粉っぽい感じで……。ただ辛いだけじゃなく、旨味のある辛さを求めた結果、今の味にたどり着きました。また、ジャガイモは元々は入ってなかったんですが、お客様からの要望などもお聞きするなかで辿り着いた味です。“カレーらしさ”もより演出できたと思います」
5年前にリニューアルしたという店内は清潔感に溢れ、休日には創業当時から知る年配の方や、赤ちゃん連れのファミリー層で44席ある店舗が賑わいを見せます。
「改装するときに目指したのは、親子3代で利用できる店にすること。そして、昔ながらのホッとするような味を提供し続けることです。やっぱり、昔の良さってあるんじゃないですか。昭和っぽい、ちょっと落ち着くような。でも、実は少しずつ、時代にあわせて変化を加えていかないと取り残されてしまいます。今っぽくしすぎず、昔の良さも残しつつ。変わってないようで変わっている……表現しにくいんですが、そんな店であり続けたいと思います」
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年1月)のものです