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白湯ラーメン新時代

白濁したスープが特徴の「白湯ラーメン」。鶏ガラでスープを作る鶏白湯ラーメンが人気ですが、最近は鶏以外の材料を使った個性的なラーメンが登場しています。今回は、「鯛」「米」「鴨」「魚介」という珍しい素材を使った白湯ラーメンを提供する4店舗を取材し、スープのこだわりや味の工夫についてお聞きしました。

鯛白湯らーめん ○de▽

JR新大阪駅から徒歩5分。マンションや中小企業のオフィスのある一角にたたずむ「鯛白湯らーめん ○de▽(まるでさんかく)」。大阪市内にある行列ラーメン店「麺’s room 神虎」「麺soba 座銀」を運営する「銀の葡萄」が2018年11月にオープンした新ブランドです。

鯛白湯らーめん ○de▽(まるでさんかく)

住所
大阪市淀川区西宮原1-5-6
電話
06-6152-6370
営業時間
11:00~14:30、18:00~22:30
定休日
なし
JR新大阪駅からほど近い、静かなエリア

大阪では珍しい鯛白湯の専門店

鯛白湯「とろり」880円
店長の長門靖博さん

鯛白湯ラーメンの専門店「鯛白湯らーめん ○de▽(まるでさんかく)」。店名の「○」は「まるでラーメン店ではないようなお店」の「まるで」、「▽」はラーメンの器をイメージしてつけられました。

ラーメンは、鯛白湯「とろり」と、鯛清湯「さらり」の2種類です。そのほか、鯛白湯をベースに豚骨と鶏のスープ少々と魚介のかえしを加えた「鯛つけ麺」、鯛の身とご飯を鯛ダシで炊いた「鯛めし」もラインアップしています。
「系列店の『麺’s room 神虎』は博多豚骨、『麺soba 座銀』は鶏白湯のお店です。社長が『他では味わえないラーメンを作ろう』と挑んだのが、鯛白湯でした。レシピやお手本がないので何度も試作を重ねて、ようやく濃厚な鯛白湯が完成しました」と、店長の長門靖博さんは語ります。

スープの材料は鯛と水のみ

自家製の中細ストレート麺

初めて食べるお客さまの第一声は、ほとんどが「むっちゃ鯛!」。鯛白湯をひと口飲んでみると、鯛の旨みがストレートに感じられます。美味しさの秘訣は、鯛の鮮度が良いことと、スープをつくる際に鯛の骨を驚くほどたっぷり入れていることです。火力が強すぎると臭みやアクが出やすくなるので、弱火で8時間かけて炊いています。スープに奥行きを感じられるのは、数種類の貝を合わせたオイスターソースのようなかえしを加えているためです。
高価な鯛をたっぷりと使っており、鯛白湯の原価はかなり高めだそうです。「鯛の身をフレークにしてトッピングや『鯛めし』に使ったり、自家製麺で麺の仕入れ値を抑えたりという工夫で、コストのバランスをとっています」(長門さん)

中細ストレートの麺は北海道産小麦2種類と外麦を合わせていますが、香りはやや抑えめ。加水率が高めでプリッとした食感も特徴です。
トッピングは、さまざまな香りが楽しめる組み合わせです。イタリア産ドルチェポークの肩ロースを真空低温調理で仕上げた柔らかなレアチャーシューはナツメグがアクセント。玉ネギのみじん切りのほか、鯛の身のフレーク、レモンの皮、木の芽はいずれも個性的なトッピングで、まろやかな鯛白湯と好相性です。メンマが丸と三角の形なのは、店名「○de▽」を表しています。

提供前にブレンダーでエスプーマ(泡)を作る
金のトレイでサーブされる

割烹のような丁寧なおもてなし

和食店のような和モダンな内装

お店は割烹のような和モダンな雰囲気です。男性の店員さんはシャツに蝶ネクタイ、女性の店員さんは作務衣で調理や接客をしています。お客さまが扉を開けると、作業中の手を止めて丁寧におじぎをして「いらっしゃいませ」と出迎えます。また、お客さまが帰られるときには、スタッフが外でお見送りをしています。
「お客さまに喜んでいただきたい、ちょっと驚いていただきたい、という想いを商品にも店舗作りにも反映しました。目指したのは、ラーメン店の概念をくつがえす店舗です。ラーメンの器を乗せるトレイを金色にしたり、紙おしぼりを色とりどりのカラーにしたりと、細部にまでこだわりました」(長門さん)。

お客さまの層は、お昼はビジネスマンが8割、夜はビジネスマンと近隣住民が半々です。人通りの多い立地ではありませんが、鯛白湯という珍しさや美味しいという評判で、お昼も夜も行列ができるそうです。

オコメノカミサマ

大阪メトロ「都島駅」から徒歩1分。2018年10月にオープンした、米白湯ラーメンのお店「オコメノカミサマ」。女性オーナーが開発した、オリジナリティ溢れる米白湯が食べられるのは日本でこちらだけ。濃厚なのに軽い口あたりで、女性やファミリーから厚い支持を得ています。

オコメノカミサマ

住所
大阪市都島区都島本通3-22-6
電話
06-6923-7924
営業時間
11:00~22:00(LO/21:30)
定休日
不定休
ファミリー向けマンションが多い都島エリア

農薬・有機栽培のお米を使用

神様からの贈り物ラーメン 850円
オーナーの大端絵里香さん

オーナーの大端絵里香さんは18歳から6年間、よしもと新喜劇の女優として活動をしていました。引退後はラジオなどのレポーターの仕事をしながらラーメン店で修業もしていたという経歴の持ち主です。
「自分の店を持ちたいと思い、大阪市内の阿波座で女性スタッフだけのラーメン店をオープン。ところが1年半後、病気で入院することになったため、やむなく閉店。病気が完治してから、やはりラーメン店をしたいという気持ちが湧き上がりました。しかし近年、ラーメン店はどのジャンルも飽和状態にあるため、個性がないとお客さまに選んでいただきにくい。そこで、大好きなお米を使ったスープ作りに着手しました」(大端さん)。

国内初、米白湯ラーメン

米粉入りの中太麺

米白湯は、お米を溶かしこんだダシに動物性スープを合わせたオリジナルのスープです。お米のダシは利尻や日高昆布、鹿児島県枕崎のカツオ節、干しシイタケの和ダシでお米を炊き、ブレンダーでつぶしたとろとろのスープです。動物性スープは、豚頭の骨、牛骨付きカルビ肉、鶏モミジ、煮干しを合わせたもので、スープに甘みと濃度をつける目的で作られています。

メニューは、お米のダシと動物性スープ5:5にお米エキスを加えた「神様からの贈り物ラーメン」、お米のダシと動物性スープが2:1の「米白湯ラーメン」、米白湯を使わない「あさりの醤油ラーメン」などがあります。お客さまの7割がオーダーするのが「神様からの贈り物ラーメン」。とろりと濃厚なのに、あと口は驚くほどさっぱりしています。

麺はいずれのメニューにも共通の中太麺で、製麺所に特注したオリジナルです。米粉と全粒粉入りで、つるりとしているのにもちもちとした食感。中華麺用の小麦粉と米粉だけだとボソボソとしてしまうので、強力粉を混ぜています。
トッピングは8種類とやや多めです。「シャキシャキ、カリカリなど食感の違いが楽しめるように、水菜、白髪ネギ、レッドオニオン、フライドオニオン、揚げレンコン、ヤングコーンを。SNS映えする可愛らしさを狙い、おにぎり型の軟骨入りつくねも作っています。チャーシューは柔らかな豚肩ロースです」(大端さん)。

お米を和ダシで炊いたスープ
女性のお部屋のような可愛らしい店内

サイドメニューにもオリジナリティが光る

銀シャリと肉みそのセット 350円

お米は、大端さんの実家近くにある、大阪府寝屋川市の「南農園」から取り寄せています。春に咲かせたレンゲを田んぼにすき込む「レンゲ農法」で栽培された減農薬・有機栽培のお米は、栄養たっぷりで体にも環境にも優しいそうです。大端さんは2週間に1度、精米したてのお米を仕入れています。

サイドメニューで目を引くのが「銀シャリ」です。オーダーが通ってから羽釜で炊くご飯に、有明海の大きな海苔、天日塩、肉みそが添えられています。ツヤツヤのご飯と極上の具材が食べられるとあり、オーダー率はかなり高いそうです。
「お米がテーマのラーメン店なので、ご飯にもこだわりました。自家製ツナやシャケのおむすびも人気なんですよ」(大端さん)。米白湯のラーメンも銀シャリも、他店では食べられないものばかりです。「こってりとしたラーメンが好きだけれど、胃もたれが心配」という年配のお客さまからも「米白湯なら、安心して食べられる」と、評判だそうです。

麺麓 menroku

2016年にオープンした、関西で初めての鴨白湯ラーメン店。大阪市と京都市の間にある枚方市の国道沿いにあり、クルマで訪れるお客さまも多いお店です。2018年12月、京都市の祇園エリアに2号店「Gion Duck Noodles(ギオン ダック ヌードルズ)」を出店しました。

麺麓 menroku

住所
大阪府枚方市大峰元町1-6-30
電話
072-396-6749
営業時間
11:00~15:00、17:30~22:00
定休日
火曜・第2、4月曜の夜
店舗が立ち並ぶ国道沿いにある

紀州鴨を使った無化調ラーメン

鴨白湯 880円
店長の岩城晴久さん

オーナーはもともとフランス料理のシェフ。「こってりしたラーメンが好きな若い層に、新しい提案をしてみたい。ならば、使い慣れた鴨はどうだろう」と、開発したのが鴨白湯です。
鴨は、和歌山県有田郡の太田養鶏場の紀州鴨を使っています。丁寧に育てられた紀州鴨はくさみが少なく、脂に濃厚なコクがあるのが特徴です。
「麺麓menroku」では丸ごとの鴨を仕入れて店舗でさばいています。モモとロースはチャーシュー用、手羽先はサイドメニューの赤ワイン煮込み、手羽先はバルサミコソースで煮込んで鴨丼に使っています。肉はすべて使い切り、残った骨がスープ用になります。
「まずは、沸騰させない程度のお湯で鴨の骨を4時間煮込み、清湯を作ります。清湯は、あっさり系の鴨出汁そばに使います。鍋に残った鴨の骨を砕き、清湯と合わせて一気に炊き上げると白濁した鴨白湯が出来上がります。無化調でも旨みをしっかりと感じられるのは、紀州鴨に力強さがあるおかげでしょう」(店長の岩城晴久さん)。

和洋の素材がアクセント

自家製のライ麦入り細麺

「鴨白湯」の鴨チャーシューは、柔らかくもっちりした肉質のモモ、または、脂ののりがよく歯ごたえが感じられるロースが選べます。肉の色がピンク色なのは、低温調理でじっくり火を通しているため。仕上げに、皮をバーナーで炙ってカリカリに仕上げます。
トッピングは、刻み赤玉ネギ、メンマに加え、生の春菊やクレソン、セルバチコというハーブなどが季節ごとに登場します。卓上には、山椒のタプナード(ペースト)が置かれています。一般的なタプナードはオリーブの実とアンチョビで作られますが、こちらは和歌山県「かんじゃ山椒園」のぶどう山椒をペースト状に仕上げたものです。こってりとした鴨白湯に溶かすと、シトラスのような柑橘系の香りがふわりと広がります。「鴨白湯はしっかりした味わいなので、個性的なトッピングやペーストを合わせるとスープの良さが際立ちます。お客さまのリクエストで、タプナードは瓶詰めで販売もしています」(岩城さん)。

麺は、つるつるとした喉ごしの細ストレート。市内にある製麺所で作られています。麺が茶色なのは、石臼で粗く挽いたドイツ製ライ麦を配合しているためです。

山椒のタプナード
鴨チャーシューの皮はバーナーで炙る

アットホームな接客でお客さまと気軽に会話

洋食店のような温もり感のある店内

お店は、コンビニやカーディーラー、ガソリンスタンドなどさまざまな店舗が並ぶ国道沿いにあります。最寄りの駅からは徒歩約20分と離れていますが、駐車場が8台分あるためお客さまの多くはクルマで訪れています。オープン当初は『関西初の鴨ラーメン』と話題になりました。最近は、美味しさを知った常連のお客さまが数多く来店しています。
スタッフはストライプのシャツにエプロンという親しみを感じる服装。大きな声で出迎えることはあえてせず、自然体な接客を心掛けているそう。「お客さまと楽しくお話しさせていただくこともしばしば。さまざまなご意見をいただけるのは、お話ししやすいアットホームな雰囲気だからでしょうね」(岩城さん)。

麺と心7

大阪メトロ阿倍野駅より徒歩2分。人気店「JUNK STORY」「ひるドラ」など大阪市内に5店舗を経営する「ウォームハート」による、鮮魚専門のラーメン店です。下町風情があふれる商店街にあり、学生や20代の男女、年配のお客さままで幅広い層に愛されています。

麺と心7(セブン)

住所
大阪市阿倍野区阿倍野筋4-12-13
電話
06-6657-7479
営業時間
平日11:00~15:00、18:00~23:00
土日祝11:00~23:00 ※売り切れ次第終了
定休日
不定休
地下鉄の駅出口を上がって徒歩2分

魚介専門に切り替えてオペレーションを効率化

濃厚魚介そば(塩)カジキマグロの炙りタタキ+味玉半個 950円
店長の林良典さん

2019年春、7周年を迎えた「麺と心7(セブン)」。オープン当初は魚を使っていませんでしたが、数年前より看板商品を濃厚な魚介ラーメンに切り替えました。その理由のひとつは、オペレーションの効率化でした。
運営会社の「ウォームハート」は、店員さんが毎日気持ちよく働ける環境づくりに取り組んでいます。労働時間の短縮や衛生管理のため、スープ、トッピング、かえしの調理と製麺は大阪市内にあるセントラルキッチンで行われています。
「動物性スープはセントラルキッチンから届いたあとも扱いが難しく、常に社員が店舗にいなければ営業ができませんでした。アルバイトだけでもできる方法を探していたところ、鮮魚に行き着いたんです。これまで茹で時間が3分弱だった麺も、やや細めの麺に切り替えることで時間を半分にすることができました」(店長・林良典さん)。

材料の99%が魚介

自家製の平打ち麺

「濃厚魚介そば(塩)」のスープは、原材料の99%が魚介です。ポタージュタイプの魚介白湯はテクスチャーが濃いのに、優しくまろやかな味わいです。ベースは、セントラルキッチンから届く新鮮な鯛の頭や骨のスープと、店舗で作る煮干しのスープを同量合わせたWスープです。そこに、鯛から抽出した脂と小麦粉を混ぜて乳化させたものでとろみを加え、さらに魚粉を少量入れて風味をアップさせています。
魚介白湯の美味しさの秘訣は、新鮮な素材を使うこと。反面、魚介が前面に出てしまうと磯の香りが強くなり中華麺と合わなくなってしまいます。「麺と心7」では自家製の塩ダレで旨みをボトムアップし、「魚介らしさ」と「ラーメンらしさ」を両立しています。

細めの平打ち麺は、ツルリとしているのに、噛むともっちりしています。「濃厚な魚介白湯と相性が良いのは、ややコシがあり、小麦の強さがハッキリと感じられる麺です。コシが弱い麺だと、スープにからみすぎて箸で持ち上げにくくなってしまいます。小麦の風味を活かすこと、コシを強めにすること、喉ごしを良くすることのバランスを取るため、多くの種類の小麦粉をブレンドしています」(林さん)。

トッピングは「カジキマグロの炙りタタキ+味玉半個」か、「低温調理の豚チャーシュー」が選べますが、お店のオススメはカジキマグロです。カジキマグロは柚子で味付けしてあり、スープにも柚子の爽やかな香りが移っています。共通の具材は、青ネギ、海苔、固めに炊いた輪切りのレンコンです。

鯛のアラと煮干しを1:1で合わせたスープ
柚子で味付けしたカジキマグロの炙り

魚介系はシニア層に人気

カウンター席にも床にも木をふんだんに使用

「濃厚魚介そば(塩)」はお客さまの7割がオーダーしています。残り2割は鯛スープ100%の「鯛そば(塩)」、1割が煮干しスープのみの「和風中華そば(塩または醤油)」です。また、1日30食でウニやカキなどを使った限定麺を提供しています。どのラーメンにも動物性のスープは使用していません。
幅広い層のお客さまが来店されるそうですが、もっとも多いのが50代だそうです。濃厚なのにすっと軽めの魚介ラーメンは食後に胃が重くなることが少ないため、シニア層にも受けているのでしょう。

とろりと濃厚、個性的な白湯ラーメンが支持されている理由は「他にない珍しさ」だけでなく、「あと口の軽さ」「胃もたれのしにくさ」のようです。また、スープのベースがしっかりしているため、相性の良い麺や、香りや食感が際立つトッピング選びにも店それぞれのこだわりがありました。今回取材した店舗の「鯛」「米」「鴨」「魚介」以外にも、白湯のヒントになる素材はまだまだありそうです。メニュー開発の参考にしてみてはいかがでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年06月)のものです