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旨辛ご当地ラーメン

全国各地で独自の発展を遂げてきた日本のラーメン文化。地域それぞれの特産品を活かすなど、味や具材に特徴を出し、創意工夫を凝らしたご当地ラーメンが数多く誕生しています。今回、そんなご当地ラーメンのなかでも「旨辛」で人気を集める店にフォーカス。地元の味を広めようと東京近郊に進出してきた話題の「旨辛ご当地ラーメン店」を取材し、多くの人々に愛される店づくりの秘訣について、お聞きしました。

龍上海

新横浜駅から徒歩5分の「新横浜ラーメン博物館」に出店する「龍上海」。山形県南陽市で愛され続けてきたご当地麺「赤湯ラーメン」と「赤湯からみそラーメン」は、学生から年配客まで、幅広い層に受け入れられています。

龍上海(新横浜ラーメン博物館)

住所
神奈川県横浜市港北区新横浜2-14-21
電話
045-471-0503
営業時間
[平日]11:00〜21:00[土日]10:30〜21:00(L.O20:30)
定休日
なし
新横浜ラーメン博物館の地下一階にある「龍上海」

山形県南陽市:「赤湯からみそラーメン」

山形県南陽市赤湯温泉街で誕生したご当地ラーメン。その元祖は龍上海初代店主の佐藤一美さんが店の醤油ラーメンを自宅に持ち帰り、味噌を入れて食べたのが始まり。煮干しの風味が効いた味噌ベースのスープ、ニンニクと赤湯産の一味唐辛子を使ったペースト状の「からみそ」が特徴です。濃厚で深い旨みのあるスープに「からみそ」を少しずつ溶かすことで、お客様好みの辛さで更なる旨味が引き出されます。

形が崩れない、独自の調合でつくりあげた“からみそ”

看板メニューの「赤湯からみそラーメン」(税込930円)
店長の原田敏光さん

昭和の雰囲気を醸し出す「新横浜ラーメン博物館」の地下一階で多くのラーメンファンを魅了し続ける「龍上海」。大量の煮干しを使った醤油ベースのスープが特徴の「赤湯しょうゆラーメン」と、醤油ベースのスープに味噌ダレを加え、どんぶり中央にからみそペーストをのせた「赤湯からみそラーメン」が看板メニューです。

そのなかでも旨辛ラーメンとして評判を集めているのが「赤湯からみそラーメン」。山形県で60年近く続く伝統の味をそのままに表現する店長の原田敏光さんに、その魅力を語ってもらいました。

「本店と変わらない味を楽しんでいただくため、からみそと麺は本店から直送されたものを使っています。辛い物が苦手なお客様でも自分好みの辛さに調節できるのがからみそペーストの良さ。企業秘密ではありますが、箸で溶かない限り、形が崩れないように独自の調合をしているんです。注文時に言っていただければ、からみそペーストを別皿に分けたり小盛にしたりすることもできますよ」

また、鶏ガラ、豚、大量の煮干しを使ったスープには、全国各地の様々な味噌をブレンドしたタレが入っています。そこに山形の本店から直送されたからみそペーストを溶かすことで、ニンニクの旨味と唐辛子の辛さが混ざって味の奥行きを感じさせます。

「麺は本店でつくったものを提供直前に一玉一玉丁寧に手揉みしています。太めの平打ちでモチモチ、しこしことした食感が特徴です。レギュラーサイズは180gとボリュームたっぷりですがハーフサイズでも注文できる点も、ラーメンの食べ歩きがしたいお客様が集まる『ラーメン博物館』ならではだと思います」

すべてのお客様に気持ちよく足を運んでいただくために

モチモチ、しこしことした食感が特徴の太めの平打ち麺

本店と変わらない味をつくりだすために大切にしているのは、毎日の味見。食材の微妙な変化には特に気を配っていると原田さんは言います。

「その日その日の気温、湿度などで食材の質は常に変化するもの。ですから、同じ調理方法だからといって全く同じスープが出来上がるわけではありません。日々の味見をしながら味に微調整を加えて、本店と変わらない味わいをつくりだしています。そのうえで気を配っているのは塩分の濃度。特に夏場は汗をかきやすく、体が塩分を欲する時期なので、ほんの少しだけ味を濃くしています」

今、店舗経営で重点的に力を入れているのはコロナ対策。そこには、辛味のあるラーメンを提供する店であるからこそ、お客様に安心して店の味を楽しんでほしいという強い想いがありました。

「辛さのあるラーメンですから、お客様がむせたり咳き込んだりしてしまうこともあります。その分、コロナ対策には特に気を使う必要があります。パーテーションの設置や座席・ピッチャー類の除菌はもちろんのこと、割り箸を使用したり、コロナ前には置いていた卓上調味料を取りやめたり。すべてのお客様に気持ちよく足を運んでいただくためにできることはすべてやっています」

ラーメン博物館に店を構えて17年。親とともに来店した子どもが大人になって、自分の子どもを連れてくることも珍しくはありません。こうしたサイクルが生まれるのは、龍上海の懐かしい味わいがあってこそ。そしてコロナ禍であっても妥協を許さない丁寧な接客が根強いリピーターを生み出すのではないでしょうか。

深いコクと旨み、原点の味の「赤湯しょうゆラーメン」(税込800円)
コロナ対策も万全な清潔感ある店内

広島流つけ麺 からまる

広島名物である旨辛のつけ麺や汁なし担々麺を提供している「広島流つけ麵 からまる」。韓国グルメが盛んな新大久保が近いということもあり、辛い物好きなお客様から近隣の住人まで、幅広い層のリピーターを獲得しています。

広島流つけ麺 からまる

住所
東京都新宿区百人町1-20-7
電話
03-6908-8633
営業時間
11:30~15:00/17:00~22:00
定休日
日曜日・祝日
JR大久保駅から徒歩3分の場所にある「広島流つけ麺 からまる」

広島県:広島流つけ麺

広島市を中心に県全体で普及している「広島流つけ麺」。ツルツルとした食感が特徴のキリッと冷えた麺に、キャベツなどの茹で野菜、茹で卵、チャーシューなどがたっぷりとのります。冷たい醤油ベースのつけ汁は、ニンニク・唐辛子・ラー油・酢・ゴマが入っていて、旨味・辛味・酸味の奥深い味わいがあります。

夏でも冬でも楽しめる冷たい「広島流つけ麺」

広島県のご当地グルメ「広島流つけ麺」(税込850円)
店長の熊原淳さん

大久保駅近くにある「広島流つけ麺 からまる」は、「広島流つけ麺」や「広島流汁なし担々麺」など、広島のご当地麺を提供するラーメン店です。店長の熊原淳さんは、広島で育ち、「広島流つけ麺」は幼いころからのソウルフード。高校生のころにアルバイト先で調理方法を学び、「多くの人に広島流つけ麺のおいしさを知ってもらいたい」と、2014年に東京・大久保で「広島流つけ麺 からまる」をオープンしました。

「つけ汁は3日かけてつくっています。まずは、冷水で煮干しと昆布を一晩寝かせて素材の奥深い味わいを引き出します。次にそれらを取り出してシイタケ、ニンニク、野菜、酢、そして香味と旨味のある『かつお枯節(かつお節をかび付け、日乾を2回以上繰り返したもの)』とともに煮込み、最後に鶏出汁を合わせます。この工程によって、甘みと辛さと酸味のあるさっぱりとした味わいになるんです」

辛さはなんと100段階。おすすめは10辛ですが、もっと辛さが欲しい場合は食べている途中でもスパイスをプラスできます。50辛以上は舌が痛むような激辛唐辛子のエキスを使用しており、100辛は激辛好きのお客様でもなかなか完食できないほど。それでも、期間限定で提供する200倍の辛さに挑戦する猛者も少なくありません。

麺は熊原さんがこれまで地元・広島で食べてきた麺の食感と風味をイメージし、都内の製麺所で特注。さっぱりとしていて歯切れがよく、つけ汁との相性も抜群です。

「具材はチャーシュー、茹で卵、もやし、キャベツ、ネギなど。キャベツやネギは冬場になると霜に当たる時間が増えて甘味・旨味が増すため、寒い季節は夏とはまた違ったおいしさになります」

乳化作用で味に一体感が出る「広島流汁なし担々麺」

温泉卵付きの「広島流汁なし担々麺」(税込850円)

唐辛子の辛さを楽しむ「広島流つけ麺」とともに人気なのが、花椒独特の痺れが特徴の「広島流汁なし担々麺」です。国内で台湾まぜそばが流行する以前から広島県内で人気を集め始めました。「広島流つけ麺 からまる」では、広島のお好み焼きでもおなじみの桜エビやイカ天をトッピングし、広島ならではの味わいを楽しめる逸品だと評判です。

「当店の『汁なし担々麺』は一見すると汁気が多いですが、これは麺の茹で汁です。どんぶり全体をかき混ぜるときに、茹で汁がゴマのペーストとピリ辛ペースト、醤油、酢の味わいに一体感をもたらしてくれるんです。パスタを調理する際の乳化作用とよく似ているかもしれませんね」

かき混ぜると味に一体感が出る

汁なし担々麺に添えられる温玉は、麺をある程度食べ進めた段階でどんぶりに加えて味変するのもよし、麺を温玉につけて食べるのもよし、麺を食べ終えて残った肉みそとご飯に和えるのもよし、と楽しみ方は自由自在です。

このほかにも「広島流油そば」や「広島豚骨醤油ラーメン」など、さまざまな形で広島の味を届ける「広島流つけ麺 からまる」。熊原さんは店の料理を楽しんでもらうことをきっかけに、広島に足を運ぶきっかけになってほしいと語ります。

「広島にはほかにもお好み焼きや尾道ラーメンなど、おいしいものがたくさんあるんです。当店をきっかけに広島に足を運ぶお客様が増えて、広島がどんどん活性化してくれたらうれしいですね。そして、巨人が好きでも時々カープも好きになってほしいです(笑)」

広島東洋カープのポスターがたくさん貼られた店内
メニューでも赤を強調

辛麺屋 一輪 水道橋店

宮崎県のソウルフード「辛麺」を提供する名店「辛麺屋 輪」。九州を出ると辛麺の認知度がとても低いことに驚いたのをきっかけに、2019年5月に満を持して東京進出。その第一歩として店を構えたのが水道橋です。東京で一番になりたいという願いを込めて、「一輪」という店名がつけられました。

辛麺屋 一輪 水道橋店

住所
東京都千代田区神田三崎町2-6-6 光建ビル 1F
電話
080-3127-3589
営業時間
[月~金] 11:00〜14:30/17:00〜22:30 [土] 11:00〜20:30
定休日
日曜日
水道橋駅から徒歩5分の「辛麺屋 一輪 水道橋店」

宮崎県:「辛麺」

宮崎県のソウルフードとして知られる「辛麺」は、唐辛子によって生み出される辛味とスープに浮かぶ大粒のニンニクの旨味が混ざり合う旨辛麺。食欲を増進させるニラ、スープ全体の辛さをまろやかに包み込むふんわり溶き卵とひき肉がその旨味をより一層引き立てます。小麦粉とそば粉を主原料とした「こんにゃく麺」はその名の通り、こんにゃくのような食感が特徴です。

27段階の辛さを選べる旨辛スープ

宮崎県ソウルフードの「辛麺」(5辛)※こんにゃく麺(税込900円)
店長の栗原愛美さん

水道橋駅から徒歩5分の場所にある「辛麺屋 一輪 水道橋店」。昼は食堂として、夜はお酒も楽しめる居酒屋として営業しながら、宮崎のソウルフードである「辛麺」を提供しています。店内はカフェのような雰囲気で居心地がよく、女性客も多く利用されています。

人気の秘訣は、何度も通いながら自分好みの味を探求できること。豊富なレギュラーメニューに、辛さを選べるスープ、数種類の選べる麺など、お客様が楽しめる選択肢が無数にあります。多くのお客様の心をつかむメニュー展開について、店長の栗原愛美さんに話を聞きました。

「鶏ガラを一日煮込んで旨味を抽出したスープはコクがあるのにあっさりとしています。そこに秘伝の調味料と唐辛子を加えることで旨辛な味わいをつくりだしています。基本的な辛さは25段階。辛い物好きなお客様には25段階よりも上の『マグマ』『とんでもねぇ』も提供しています。『とんでもねぇ』は激辛ソースを使っているため、激辛好きのお客様でも完食できないことが多いですね」

レンゲはやや大きめのサイズ。スープとともにニラ、ひき肉、溶き卵、ゴロゴロとした大粒のニンニクを同時に味わうことで、辛さとそれぞれの食材の旨味を同時に楽しむことができます。

「『海老味噌辛麺』もシーフード好きのお客様から人気です。辛麺と比べてややクリーミーなスープが特徴で、香りを出すために仕上げに海老油をかけています。おすすめは辛さをやや抑えめにして注文すること。辛さのなかにも海老独特の優しい味わいを感じ取ってほしいですね」

こんにゃくによく似た食感の「こんにゃく麺」
(小麦粉とそば粉が主原料)
辛さ表記や追加トッピングを記載したメニュー

スープの辛味と相性抜群の甘みのある中華麺

辛さと麺が選べる

宮崎県の辛麺でも一般的とされるのが、こんにゃくによく似た食感の「こんにゃく麺」。主原料は小麦粉とそば粉で、食物繊維を多く含みヘルシーと女性客からも人気です。「辛麺屋 一輪 水道橋店」ではこの「こんにゃく麺」以外でも、中華麺、平打ち麺、うどんなどを選ぶことができます。

「中華麺は、太さや加水の度合いを変えてみたり、卵麺に変えてみたりとさまざまな麺を試しました。求めていたのはスープとの相性。現在は甘味のある小麦粉を使った中太麺を使っています。麺の甘味とスープの辛味、お互いの持ち味を引き出すような組み合わせです」

海老の旨味が濃縮された海老味噌辛麺(16辛)※中華麺(税込1,090円)
辛い物好きに人気のマグマつけ麺 ※平打ち麺(税込1,000円)

つけ汁と絡みやすい平打ち麺は、「マグマつけ麺」を注文する激辛好きのお客様から好評を得ています。また、木曜日限定で提供されるうどんもツルツルしこしことした食感で、どのメニューにも相性抜群です。

ランチやディナー、お酒の〆など、様々な形で楽しめる「辛麺屋 一輪 水道橋店」のメニューの数々。月曜日の半ライス無料や金曜日の大盛無料などの曜日限定イベントに加え、「きのこ辛麺」や「スタミナホルモン辛麺」「カレーつけ麺」などの季節限定メニューも豊富です。常にお客様に目新しさを提供しながら、辛麺のファンをどんどん増やしていきたいと栗原さんは言います。

「東京に進出して3年経ちますが、メディアに取り上げられることが増えてきたり、カップラーメンとして商品化したり、宮崎のソウルフード辛麺の知名度が徐々にアップしてきた手ごたえを感じています。今後は都内でもほかの地域でも『辛麺といえば一輪だよね』と多くの世代にイメージしてもらえるように、店を成長させていきたいですね」

居心地のいいカフェのような雰囲気の店内
「元祖」「名物」の文字が目を引く店頭看板

今回取材したお店は、お客様に居心地のいい空間を提供するために「コロナ対策」「女性にも入りやすい雰囲気」「地元の雰囲気を感じられる店づくり」など、それぞれの工夫がみられました。一方で共通していたのは、「すべてのお客様に最高の一杯を提供したい」という想い。辛くないメニューを揃えたり、辛さのレベルが細かに設定されていたりと、老若男女に愛される味を日々追求しています。地元で愛され続けてきた旨辛ご当地ラーメン。今後は日本全国で愛されるソウルフードとしてますます発展を遂げていくのではないでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年5月)のものです