
競争の激しい外食業界。そのなかで、他店舗との差別化や、コロナ禍で一度離れたお客様を呼び戻すための取り組みのひとつとして注目を集めているのが既成概念に縛られない店づくりです。今回は、「中華そば×SDGs」「イタリアン×鯛ラーメン」「こだわりの出汁×創作うどん」「鉄板焼き×ラーメン」といった、今までにない発想やメニューでお客様の心を掴む都内の人気店4店を取材し、それぞれのこだわりや工夫をお聞きしました。
炭火焼濃厚中華そば 海富道
ラーメン激戦区であるJR神田駅近くに店を構える「炭火焼濃厚中華そば 海富道(しーふーどう)」は、魚介の旨味を濃縮した中華そばを提供する人気店です。店内は和食料理店をイメージした落ち着いた雰囲気で、サラリーマンや女性客など、さまざまな層から支持を得ています。
炭火焼濃厚中華そば 海富道
- 住所
- 東京都千代田区神田鍛冶町3-3-2 床屋3ビル 1F
- 電話
- 050-5890-2640
- 営業時間
- [月~金] 11:00~15:45(L.O) / 17:00~22:00(L.O)
[土日祝]10:30~15:45(L.O) / 17:00~21:00(L.O) - 定休日
- なし

「炭火焼中華そば 海富道」
『もったいない』が合言葉。SDGsを意識した中華そば


近年、社会的に興味・関心が高まっている取り組みといえば、「持続可能な世界の実現」を目指す“SDGs”。魚介そば専門店「炭火焼濃厚中華そば 海富道(しーふーどう)」では、飲食店ならではの形でSDGsと向き合っています。さまざまな取り組みで食品廃棄「0」を目指しながら「本当においしいラーメン」と「社会問題解決」の両立を狙うその戦略について、広報担当の大野悠花さんに話をお聞きしました。
「『もったいない』を合言葉に、海の富を最大限に活かす道を模索するのが『海富道』のコンセプトです。まず、当店の特徴のひとつは仕入れにあります。規格外の魚、大きさが不揃いの魚など、市場で買い手のつきにくい魚も積極的に仕入れています。こうした魚は量や内容が日々変動するため、仲卸業者と密にコミュニケーションをとりながら仕入れをおこなっています」
「海富道」が提供する炭火焼中華そばのメニューは「鯖」「海老」「鰯」「鮭」「烏賊」の5種類。フードロス削減のための取り組みのひとつとして、スープの製法にも独自の工夫があります。
「スープは、メニューごとに魚の頭から尾まですべてを炭火で焼き、あご出汁を使った秘伝の出汁と掛け合わせてつくっています。食材を余すことなく有効活用したこのスープは、濃厚な魚の旨味・風味が特徴です。仕入れの量に変動がある中でも、それぞれの食材のおいしさを最大限に引き出して、お客様に変わらぬ味を提供できるように、出汁と魚介のバランスには細心の注意を払っています」
丼にはスープと麺だけ。具材を別皿で添える
「海富道」で提供する中華そばの丼には具材を乗せず、シンプルにスープと麺だけ。海苔、チャーシュー、刻みタマネギ、ネギを別皿で提供するのも、ユニークな工夫のひとつです。ストレートで歯切れのある麺は、濃厚でトロリとしたスープによく絡み、小麦の甘みとスープの味わいを同時に楽しめます。
「麺、スープ、具材を一杯の丼に入れた状態で提供すると、スープの温度が下がりやすくなってしまいます。中華そばはアツアツの状態が一番の食べごろ。それぞれの薬味を入れる順番によってその味わいも大きく変わります。自分好みの味を見つけ出せるのも楽しみのひとつですよ」


炭火焼濃厚中華そばの味わいにさらなる彩りを加える有料トッピングも人気です。「追・特製辛味」はパンチの強い味わいで、鰯・烏賊・海老との相性は抜群。互いの旨味が最大限に際立ちます。女性客にも人気の「トリュフ煮卵」は、スープに浸すことで卵独特の甘みとトリュフの上品な旨味を楽しめます。
また、白飯・海苔佃煮・味噌小キュウリも付いた定食スタイルも「海富道」の人気メニューのひとつ。スープが濃厚だからこそ白米との相性も抜群で、スープに浸してリゾット風にも楽しめます。
「和食屋で魚定食を食べているような感覚を楽しんでもらえるよう、BGMも含めて店内は落ち着いた雰囲気づくりを意識しています。薬味も具材も、使い方はお客様次第。ひとつの中華そばをお客様ごとに自由に楽しんでいただけると考えています」
今後は多店舗展開を目指しながら、他店にはない、取り組み・製法でSDGsに取り組んでいきたいと大野さんは語ります。
「漁港近くに出店することも視野に入れています。その日に水揚げされた魚を使って、今までとはまた違った目新しいそばを提供してみたいです。そして、当店の味を切り口に食糧問題をはじめとしたさまざまな問題にも関心を持ってもらう。そんなお客様が一人でも増えていったらいいですね」


真鯛らぁめん まちかど
飲食店激戦区・恵比寿に店を構える「真鯛らぁめん まちかど」は、イタリアン出身の店主が提供する「真鯛らぁめん」で人気のラーメン店です。ハーフサイズのラーメンを組み込んだディナータイム限定のコース料理も好評を博し、女性客やカップル客からも支持を集めています。
真鯛らぁめん まちかど
- 住所
- 東京都渋谷区恵比寿西1-3-9 田中ビル 2F
※2023年春に同じ恵比寿内で移転予定 - 電話
- 050-3749-1392
- 営業時間
- 11:30〜22:00
- 定休日
- 月曜日

濃厚な魚の旨味を引き出す、イタリアンならではの調理方法


「真鯛らぁめん まちかど」の看板メニューである「真鯛らぁめん」は、愛媛県宇和島産の真鯛を100%使用し、化学調味料を一切使わないラーメンです。店内に入った瞬間、鯛の濃厚な香りが食欲を刺激します。このメニューのルーツは、店主の荒木宇文さんが2年間修業したイタリアで出逢った魚介パスタでした。
「ナポリ出身のシェフが振る舞ってくれた魚介のパスタは、今までに食べたことない味わいでした。食材を焦がしつけて旨味を引き出すイタリアで学んだ調理方法で、鯛、スズキ、カサゴの骨やアラをギリギリまで炒め、魚臭さは全くないのに濃厚な魚の旨味を濃縮していたんです。この技術を日本の国民食ともいえるラーメンにかけ合わせたら今までにないラーメンがつくれるのではないかと考えました」
帰国して試行錯誤の末につくりあげた「真鯛らぁめん」では、安定した仕入れが可能で、日本で縁起がいいとされる真鯛のみを使用。毎朝届く新鮮な真鯛のアラを丁寧に下処理し、野菜と一緒に香味油を絡めて焚き上げたスープは、濃厚な鯛の旨味がありながらもすっきりとした後味です。
「あえて雑味を残しつつ、少しだけ乳化させるようなイメージでスープを焚いています。この雑味こそが濃厚な旨味につながります。仕込みは全部合わせたら8時間ほど。火の入れ方や塩分濃度などの管理ひとつで味が損なわれてしまうこともありますから、とても繊細な作業ですね」
2018年に東京・駒澤で開業したイタリアンバルで限定メニューとして提供し始めた「真鯛らぁめん」は瞬く間に人気メニューに。そこで恵比寿に拠点を移し、「真鯛らぁめん まちかど」としてオープンしたのが2019年。今では女性客にも人気のラーメン店として存在感を高めています。
「自分にしかつくれないメニューを一つ生み出したという自負があります。オリジナリティがあるものを生み出すことはすごく大変ですし、意義のあることができたと思っています」
『真鯛らぁめん』をブランドとして確立していきたい
麺はパスタにも使われるセモリナ粉を配合した特注麺。モチモチとしてパスタに近い食感です。
「スープの味わい、濃度に合わせた麺を考えるのにはとても苦労しました。『真鯛らぁめん』はスープパスタではなく、あくまでもラーメンです。お客様のラーメンのイメージとかけ離れてもいけないし、『真鯛らぁめん』のオリジナリティが損なわれてもいけません。そこで選んだのが、中華麺とパスタの合いの子のような麺です。スープの味わいをしっかりと受け止め、コシのある食感が特徴です」


「真鯛らぁめん」のほかにも、オマール海老の頭を使ってつくる濃厚なビスクと真鯛のタレを合わせた贅沢な一品「真鯛とオマール海老らぁめん」や、良質なバフンウニをふんだんに使った「真鯛とウニの濃厚つけ麺」など、シーフード好きにはたまらない期間限定メニューを開発してお客様を楽しませています。
また、ハーフサイズのラーメンを組み込んだコース料理(※ディナータイム限定)も『まちかど』ならではのオリジナリティ。イタリアンのシェフとして培った腕で提供するさまざまなメニューも好評を博しています。2023年2月には恵比寿駅東口徒歩5分の場所に移転予定で、新店舗ではテラス席を設けたり、イタリアの食材を掛け合わせた新メニューの開発など、従来のラーメン店とは一線を画した店づくりをしていくつもりだと荒木さんは言います。
「一般的なラーメン店は、カウンター席がメインで回転重視です。ですが、私はゆっくりとさまざまな料理とお酒を楽しみ、〆にラーメンを食べるお客様も楽しめる空間を作りたいと考えています。日本とイタリアの食の文化を融合して、新たな角度から食の楽しさを伝えていきたいですし、『真鯛らぁめん』をもっと広めて、ブランドとして確立していきたいと思います」


うどん茶房 KAKAYA LUMINE新宿店
LUMINE新宿の7階に店を構える「うどん茶房 KAKAYA」は、お出汁にこだわったオリジナルの創作うどんと釜めしを提供する人気店です。子どもからお年寄りまですべての年齢層に親しみやすい店づくり・メニュー展開で、デザートやドリンクメニューも充実しています。
うどん茶房 KAKAYA LUMINE新宿店
- 住所
- 東京都新宿区西新宿1-1-5 ルミネ新宿LUMINE1 7F
- 電話
- 03-5989-0065
- 営業時間
- 11:00~22:30
- 定休日
- 不定休(施設に準ずる)

どんな味とも合わせやすい「こだわりの黄金出汁」

新宿ルミネで2019年にオープンした「うどん茶房 KAKAYA」は、2009年に北千住で創業した「おだしうどん 嘉禾屋(かかや)」から続くブランドです。「禾」とは稲や麦など穀物の総称で、厳選した「禾」を贅沢に使ったうどんと釜飯を提供するスタイルは創業当初から変わりません。

そのメニュー構成は、具材に特徴のある「ぶっかけうどん」や「天ぷらうどん」など王道的なものから、「お出汁×クリーム系」、「お出汁×トマト系」といったパスタ的な創作うどんなどバラエティ豊か。これらの味の根幹となっているのは、改良を重ね続けてきたうどんと、こだわりの黄金出汁です。
「10年ほど前、武蔵野うどんの流行に合わせて麺の質を見直しました。小麦粉とは違った風味と食感のある全粒粉に切り替えたのですが、全粒粉だけではつなぎが弱くなって麺が切れてしまうため、何度も改良を重ねました。当店のうどんは縮れていて少し硬く、冷たくても温かくても食感に差がないことが特徴です。お客様の要望に合わせて茹で時間を長めにとって柔らかい状態で提供することもあります」
話を聞かせてくれたのは商品・技術開発部長の中野圭崇さんです。

「当店のうどんは独自に開発した黄金出汁がベース。京うどんの出汁がモデルです。鶏ガラスープに昆布、いりこ、鰹節、宗田節、鯖節を加え、白醤油で味を調えた黄金出汁は、関西特有の透き通った色合いで、魚介系の優しい風味があります。イタリアンや中華、どんなジャンルの味にも合わせやすいことも自慢です。うどんの風味と黄金出汁の優しく奥深い味わいが、お互いを引き立たせるバランスを見つけるのには苦労しました。どのメニューのおつゆも最後の一滴までおいしく召しあがっていただけます」
和洋中、さまざまなテイストと相性のいいうどんの可能性

「うどん茶房 KAKAYA」で提供する創作うどんの中で、1、2を争う人気を集めるのがクリーミーなスープが特徴の「海苔ボナーラクリームうどん」です。
「『海苔ボナーラクリームうどん』は、北千住で2号店を出店したときに、何か特徴のあるメニューを出したいという考えから生まれたメニューです。当時から変わらないのはクリームの味わい。ニンニクを牛乳で茹でこぼしたものをペーストにして臭みを消し、油を切ったアンチョビを混ぜ込んで塩辛さと甘味、旨味を引き出しています。しらす、卵黄、パルミジャーノチーズ、バラ海苔を混ぜ合わせて、それぞれの香りの良さを楽しんでほしいですね」
「トマたまうどん」も黄金出汁との相性が抜群です。ベースである黄金出汁の旨味にトマトの酸味、バターのコク、リンゴの優しい甘みを上乗せした、深い味わいが楽しめる人気メニューです。
このほか、春にはミョウガ、秋にはキノコ類と、旬の食材とうどんを掛け合わせて、季節感のあるメニューも展開しています。
今後の目標は、関東におけるうどんのファストフード化。関西ではより多くの人に受け入れられているうどん文化を、関東でより深く根付かせていきたいと中野さんは言います。
「関東は関西に比べて蕎麦の文化が定着していて、うどんはそこに一歩遅れを取っているのが現状です。しかし、和洋中、さまざまなテイストと相性のいいうどんはまだまだ可能性を残しています。その魅力を丁寧にお客様に伝え続けて、多くの人が気軽に食べられるようなうどんを提供していきたいですね」


鉄板焼き&拉麺dining 麺昇 神の手
東京メトロ丸の内線の新高円寺駅そばにある「鉄板焼き&拉麺dining 麺昇 神の手」は、鉄板焼きとラーメンを融合させた新感覚の料理を提供する店です。夜はアルコールを楽しむお客様も多く訪れ、「ラーメンとお酒のマリアージュ」を楽しんでいます。
鉄板焼き&拉麺dining 麺昇 神の手
- 住所
- 東京都杉並区梅里1丁目18-12
- 電話
- 03-5378-7525
- 営業時間
- [平日]ランチ11:30〜14:00 (LO 13:30) / ディナー18:00〜0:00 (L.O23:30)
[土日祝]ランチ11:30〜15:00 (LO 14:30) / ディナー18:00〜0:00 (L.O23:30) - 定休日
- 月曜日

鉄板焼きのノウハウとラーメンのマリアージュ


「鉄板焼き&拉麺dining 麺昇 神の手」は、ステーキなどの鉄板焼き、お酒とともにラーメンも楽しめる飲食店です。店主の後藤高範さんは、鉄板焼きの名店「甚六」で13年間技術を磨いてきたほか、さまざまな料理を研究し、日本懐石における造形美やスパイスなどの知識にも精通しています。
「当店は、最も自信のある鉄板焼きのノウハウと、ラーメンを掛け合わせることをコンセプトにしています。ワイン、日本酒、ビール、カクテルなども揃えていて、ラーメンをお酒の〆として、マリアージュとしても楽しむことができます。あっさりした醤油ラーメン『神の手 黒』、四川風辛味噌ラーメン『神の手 赤』、こってりとした味噌ラーメン『神の手 黄』、塩ラーメン『神の手 白』など、お酒と相性のいいラーメンを充実させました。スープのベースはすべて豚骨鶏ガラ。ラーメンだけを楽しみにくるお客様も大歓迎です」
「神の手 黒・赤・黄」の具材で使用するチャーシューは、鉄板焼きならではの炙りを効かせて表面に少しパリッとした食感を残しつつ、肉本来の旨味・香りも楽しめます。
「中太麺を使った四川風辛味噌ラーメン『神の手 赤』は、山椒の辛さと痺れが楽しめるメニューです。オリジナルの山椒ソースをギリギリまで煮詰めたところに山椒の粉末を回し入れることで山椒独特の痺れを引き立たせています。肝心なのはどこまで煮詰めるか。煮詰めすぎれば、苦みだけが残ってしまいます。辛いけれども爽やかな痺れのある『神の手 赤』はリピーターの多いメニューですよ」
ありそうでなかった商品を創ることがニーズを刺激する近道
冬季限定販売の塩ラーメン「神の手 白」もスパイスを巧みに扱った料理のひとつ。仕入れ価格を抑えながらも質のいいトリュフの香り、味わいはおいしさをさらに際立たせます。
塩ラーメンといえば透き通ったスープが一般的ですが、「神の手 白」はドロッと濃厚な白いスープが特徴で、低温調理したローストビーフが贅沢なアクセントを加えます。
「『神の手 白』は、『クリームパスタを食べる人はたくさんいるのになぜクリーミーなラーメンはないの?』という発想を元につくった商品です。ありそうでなかった商品を創りあげることがニーズを刺激する近道ですからね」
また、スープごとに麺を変えているのもこだわりのひとつです。
「麺は中太ちぢれ麺、細麺、太麺、平打ち麺と4種類用意し、スープごとに変えています。たとえば、『神の手 白』はパスタに寄せたいので平打ち麺。中太ちぢれ麺でも相性はいいのかもしれませんが、それでは一般的なラーメンにイメージが寄りすぎてオリジナリティが損なわれます。これは、ラーメンの固定概念を打ち壊すつもりで開発したメニューでもあるんです」


さまざまな料理業界を渡り歩いた後藤さんだからこそのメニューの数々。今後は料理人として多くの人々に自身の創りあげた味を楽しんでほしいと言います。
「来店したカップルが私の料理をきっかけに仲直りをしていたことがありました。料理を通じてお客様に何かのきっかけを与えるというのは、料理人冥利に尽きます。そうした機会をもっともっとつくっていきたいですね。そのためには多店舗展開や商品化も視野に入れ、多くのお客様に私の味を楽しんでほしいと思っています。一度食べてもらえばきっとこのおいしさは伝わる。その自信はありますよ」


今回取材した4店舗は、SDGsを意識したコンセプトや、ラーメン以外でのキャリアを活かした調理方法やメニューづくりなど、さまざまなアプローチで新たな味わいを生みだしていました。その根底にあるのは、「素材を大事に扱う」という料理人としての基本。その基本を軸にしながらも、独自の創意工夫で他店にはない強みを打ち出していく。常識や定番に縛られないメニューだからこそ、お客様の感動を呼び起こせるのではないでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2023年01月)のものです