店長の大橋たかしさんは、神田にある「カラシビつけ麺 鬼金棒」にて修業中、スパイスの世界に魅了されます。2014年5月、西葛西駅前に幸せのシンボルとされる「卍」にあやかったラーメン店「卍力(まんりき)」をオープン。従来のラーメンとは一線を画す、大橋さんの編み出した「スパイス・ラーメン」は、食べるお客さまを幸せに、そして元気にします。
鬼金棒の「カラシビ味噌らー麺」は、味噌をベースに唐辛子と山椒がたっぷり効かせてあるのが特徴。大橋さんはさらに、スパイスに特化したラーメンの開発に取り組みます。豊富な食材で作り込まれたスープに、まず驚かされます。
「豚骨や鶏ガラの動物系に、煮干しやカツオ節、サバ節などの魚介系のだしをブレンド。基本は醤油ダレですが、トマトソースと酢が加わることで、酸味が生まれます。そこにカルダモン、コリアンダーなど14種のスパイスが絡むことで、独特のエスニックな風味を切り開くことができました」。
そして、スパイシーなスープとともに魅力を醸し出しているのが「パクチー」。通常の「スパイス・ラー麺」にもパクチーは添えられていますが(ネギに変更可能)、パクチーラー麺は名前通り、丼いっぱいに緑の花が咲き、食べる前から南国の香りに包まれます。
こうして完成したスパイス・パクチーラー麺について、大橋さんはその効能を語ります。
「ひと言でどんなラーメンかと聞かれれば、『アジアン・ヌードル』というのがふさわしいでしょうね。たしかに辛いですし、香りも強く、クセのあるラーメンですが、スパイスには消化促進や食欲増進の効果があります。見た目ほど重くはなくて、のど越しがいいのが特徴ですね」。
低かんすいのストレート中太麺、さっぱりと柔らかいチャーシュー、色あざやかなブロッコリーなど、麺や具材もスパイスとの相性を考慮し、バランスよく配置されています。
大橋さんが切り開いた、スパイシー系ラーメンの新境地。西葛西に新たな「アジア食文化の拠点」が誕生しました。
昔ながらの商店街が息づく三ノ輪駅界隈にある「トイ・ボックス」は、店からあふれる行列が目印。もともと正統派の醤油ラーメンからスタートし、今でも醤油ラーメンが根強い人気のなか、店長の山上貴典さんは、スパイシー系の味噌ラーメンは「偶然の産物です」と話してくれました。いかなる偶然から、この芸術品のような味噌ラーメンが生まれたのでしょうか。
オープン以来、醤油、塩と提供してきた山上さんは、それまで研究を重ねてきた「味噌」の開発に取り掛かります。味噌ラーメン特有の「もったり感」を緩和するため、隠し味としてスパイスを投入することに。ところが、思わぬ誤算があったといいます。
「よくカレーの隠し味に味噌を入れるじゃないですか。あれとは逆に、味噌ラーメンの隠し味として、カレーなどのスパイスを入れてみたんです。すると、隠し味のつもりが、予想以上にスパイスが前面に出てしまって…でも、お客さまには思いのほか好評をいただくことになり、最終的にはスパイスの量を半分に調整し、独自のブレンドにこだわることで現在の味噌ラーメンに仕上がりました」。
山上さんが「スパイスラーメンではなく、あくまで味噌ラーメン」とこだわるスープ。丸鶏100%に昆布のだしに、「会津味噌(辛め)」「新潟天然麹味噌(甘め)」「麦味噌(香ばしい)」の3種をブレンド。そこに山椒、コリアンダー、ガラムマサラなどのスパイスを配合。一見、多様なスパイスで味が複雑化しそうですが、味噌がしっかりとすべての食材をまとめ上げ、見事に「スパイシーな味噌スープ」に仕上がっています。
スープを際立たせるもう一つの特徴が、「油」です。スープの表面をおおう透き通った油の一部は、「緑の油」。日本の味噌、東南アジアのスパイス、そこにイタリアンなテイストまで加味されているのです。
「味噌ラーメンは“重さ”がある分、後半、どうしても食べ飽きてくる傾向があるんですね。そこで全体にまろやかさを出すために、『チー油』と『緑オイル』(=パセリ入りのグレープシードオイル)を加えています。この二つを足すことにより重さを感じさせない、まろやかでキレの良いスープになります。しかも、油の膜の保温効果で、スープが冷めにくくなるんです」。
スープを飲むと、「味噌+スパイス」のコクとはまた違った、清涼な味わいが広がります。のど越しの良さでスープと相性抜群の中細ストレート麺、レアな仕上がりの鶏+豚モモ肉のふんわりチャーシューなど、スープ以外にも“匠の技”が光ります。
店名どおり“おもちゃ箱”のような楽しさを放ちながら、洗練された味わいをたたえた味噌ラーメンは、山下さんの言うとおり、一杯のラーメンの中で次々と異なる味に出会う“ストーリー性”を感じることができます。
都内屈指のラーメン激戦区である、高円寺南口。そこに新規参入するにあたり、「他店にはないことをしよう」と考えた店長の野尻真也さんは、カレー、スパイス好きなところから、「カレーラーメン」で勝負をかけています。そば店にあるカレーうどんの延長のようなものが多いなか、野尻さんのオリジナル・カレーラーメン作りが始まります。
「カレーラーメン」というとどのような印象を持たれるでしょうか? 「カレーラーメン」といえば、カレーうどんのように醤油だしの上にカレールーを乗せたものか、あるいは、さらさらのカレースープに麺を投入したものをイメージする方も多いと思います。野尻さんは「しんや」のオープンにあたり、そのイメージを払拭する、革新的なカレーラーメン作りを試みます。
「もともとカレーやスパイスが好きだったのですが、エスニック風に行きすぎないよう和風を意識しつつ、単にカレー粉を溶いただけのカレーうどんのようにもならないよう、試行錯誤を繰り返しました」。
結果、オリジナルのスープの決め手となったのが、「野菜」と「豆乳」でした。鶏ガラと豚骨のだしに、玉ネギ、ニンジン、ニンニクなどの野菜を投入。そこに豆乳を合わせ、ガラムマサラなどのカレースパイスを調合することで、いわゆる“ベジポタ”風のトロトロスープが完成。見た目のこってり感に対し、野菜と豆乳ベースのため、ほどよくスパイスの角が取れ、まろみのあるヘルシースープに仕上がっています。
濃厚スープと中太ちぢれ麺の絡み具合は、パスタソースとパスタの関係にも似て、麺とスープがほどよく一体化。麺にスープをしっかりと絡めて食べるため、スープを残すお客さんはほとんどいないそうです。
さらに、「バラカツ伽辣麺」で存在感を放っているのが、丼の直径にも近い長さの“カツ”。
「カツカレーから思いついたのですが、カレーとカツって相性がいいですよね? しっかりしたカツだと重すぎるので、薄めの豚バラ肉を、細かい衣でカラッと揚げました。いろんなカツを試しましたが、これはスープと最高にマッチすると思います」
カリカリのバラカツは、スープに絡ませてもふやけず、香ばしいまま。大きさがあるので、麺を食べる合間に少しずつかじっていくのも楽しいものです。
ラーメン好き、カレー好きともに納得できるうえに、野菜と豆乳のヘルシーさ、バラカツのボリューム感まで加わった、欲ばりなバラカツ伽辣麺。スパイシーなだけではない、手の込んだ味わいの「カレーラーメン」です。
先代から40年以上続く老舗のラーメン店「金竜」。その原点は、店長・幸田洋介さんの“おふくろの味”にあったといいます。母親の家庭料理から始まった独特の味噌ラーメンが、やがて幸田さんの代になり、看板メニューとして一本立ちすることに。ここでしか味わえない、薬膳を思わせる「味噌×スパイス」のマリアージュの秘密に迫ります。
店内のメニュー板には「味噌らーめん」の一品のみ。遠方から訪れるファンも多い独特の存在感を放つこの一杯のルーツは、幸田さんのご家庭にありました。
「味噌らーめんは開店当初からあるメニューですが、そもそも、私の母親が家庭料理として作っていた、ジャージャー麺風の味噌ラーメンが原点なんです。黒っぽくて甘みがあるため八丁味噌と間違われますが、メインで使っているのは仙台味噌。北海道とか、全国の味噌を試した結果、『仙台味噌+赤味噌』の組合せに落ち着きました」
ラーメン店としての発想ではない、「家庭の味」からのスタート。スパイシーでありながら飽きることのない一杯は、幸田家の温かな食卓から生まれ、アレンジされたものでした。
もちろん、単に素朴な家庭風味噌ラーメンではなく、その味わいは重層的です。ゴマや山椒、七味、コショウなどのスパイス類が盛られ、いかにもパンチのある外見ですが、スープを口にすると思いのほかすっきりとキレが良く、食後も胃にもたれません。
その秘密は、スパイスに絡む野菜にあります。青々とした三ツ葉とスパイスの層の下から、“野菜炒め麺”と呼んでもいいほどの野菜が姿を現します。
「長ネギ、玉ネギ、ショウガ、ニンニクなどの香味野菜をアメ色になるまで炒めて、そこに味噌や酒を合わせます。さらに、だしに使っている豚ひき肉が加わることで、“和風デミグラスソース”のようなコクのあるスープになります。うちはチャーシューは使っていませんが、肉好きの方でも満足いただけるのは、デミグラ風スープの深みのためではないでしょうか」。
地元の年配のお客様も多いのですが、スープまで飲み干される方も多いそうです。スパイス効果で、駅までの帰り道も体がポカポカと温かいままです。
「味噌ラーメン+野菜炒め+スパイス」のアンサンブルの妙で、家庭の味から“松戸の味”にまで広まった金竜の味噌らーめん。刺激的でありながら、ほっと心安らぐ一杯です。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年4月)のものです