つけ麺の激戦区、東京・高田馬場で「つけ蕎麦」で勝負しているのが2007年に創業した「つけ蕎麦 安土」です。挽きたての日本蕎麦と長時間かけて煮込んだスープ、そして特製ラー油のかけ算で導きだされるこだわりの味が支持を集めています。
東京・高田馬場に店を構える「つけ蕎麦 安土」。“挽きたて・打ちたて・茹がきたて”の三たてにこだわった蕎麦をラー油が浮かんだ特製スープにつけて食べるスタイルが支持を集め、新宿歌舞伎町にも支店を増やす人気店です。しかし、今の人気を作り上げるまでには紆余曲折があったとことを、店長である千葉治さんは明かします。
「高田馬場はラーメン・つけ麺の激戦区。そこで、蕎麦好きだったオーナーがつけ麺がブームになるならつけ蕎麦も人気になるのでは? と2007年6月に始めたのがこの店です。開店当時は十割蕎麦を使い、つけ汁もラーメンのスープに近い、今とはだいぶ違うものでした。ただ、バランス面でいろいろと課題があった事が、お客様の評価につながらなかったんじゃないでしょうか。開店当初は正直、1日10組だけ、なんてことも…苦戦をしていました」。
では、具体的にはどのように味を変えていったのでしょうか。
「つけ汁に使うスープは、材料よりも炊きだし方を大きく変えました。以前はキレイに澄ましたスープでしたが、それではなかなか蕎麦と絡みません。そこで、白湯スープのような濃厚なスープを目指しました。そして、鴨南蛮をイメージして、かえしに使う醤油から見直しました。蕎麦に関してはラー油も入った個性の強いつけ汁に負けないよう、コシを強くすることを目指して、そば粉からタンパク質だけを抽出した粉 を配合するなど、今では十割蕎麦から二八蕎麦に変わっています」。
そしてもうひとつ、蕎麦でこだわったのは「鮮度」でした。
「店にある専用機で挽いたそば粉を使う『挽きたて』にこだわるのはもちろん、常に練ってから20分以内のものを使うようにしています。ウチの店では余計な打ち粉をしていないので、すぐにボソボソになってしまうんです。フレッシュさを大事にすることでコシも出るし、つけ汁に負けない蕎麦を作ることができました」。
現在、お店の一番人気は、ムネ肉とは思えないほどジューシーな総州古白鶏の香味揚げがふんだんに入った「鶏つけ蕎麦」。この看板メニューのほかにも、「カレーチーズつけ蕎麦」や「豆乳つけ蕎麦」、さらには洋風にアレンジしたり、季節の食材を使った期間限定メニューなどが楽しめます。
「蕎麦については素人だからこそ、素人なりに思い切ったことができていると思います。料理をする上で和でも洋でも変わらないのは、素材の味を引き出すこと。そして、純粋に美味しいものを作ること。そこにこだわっていくだけです」。
「ミート矢澤」「ブラッカウズ」で肉食ファンにはお馴染みのヤザワミートが仕掛ける新業態、それが「肉そば ごん」です。2014年の開店以来、蕎麦ファン、肉食ファンの双方から支持を集め、メディアでも取り上げられるなど早くも人気店となっています。
肉好きであれば知らない人はいない精肉卸「ヤザワミート」。そんな“肉のスペシャリスト”が立ち上げた蕎麦専門店が、東京・虎ノ門に店を構える「肉そば ごん」です。
「私たちは『肉の旨味を引き出すプロ』。そんな私たちだからこそできる、リーズナブルでボリューム満点な美味しい『肉そば』を多くの方に楽しんでいただきたいというヤザワミート代表・稲田智己の思いから、この店は生まれました」。
そう語るのは店長の井上彬さんです。開店したのは2014年7月。しかし、肉と麺のバランスも含め、納得のいく味を作り上げるまでには2年の構想期間が必要だったと井上さんは語ります。
「特にお肉に合う麺にはこだわりました。噛んだときの食感や弾力、そしてのどごしを楽しんでいただけるよう、麺には山芋を練り込んでいます」。
そんな麺づくりにおいても、これまでヤザワミートが培ってきた知恵と経験値が活かされています。
「私たちの直営店のひとつに『BLACOWS』というハンバーガー専門店があります。この店では、肉汁溢れる黒毛和牛のパティを受け止めるための、オリジナルバンズから開発しました。その経験を活かし、今回は肉に負けないオリジナルの麺づくりに挑戦しました」。
そんなこだわりを持つ自慢の太麺は、6分間茹でたあとに水温を管理した冷水で締めることで、山芋特有のぬめりを取るとともに口当たりはツルッと、噛むとモチモチした食感になります。
こだわっているのは麺だけではありません。看板メニューの『肉そば』は、かえしの素材、そして牛肉の味付けにも工夫が重ねられています。
「かえしには煮干し、サバ節、そしてソウダガツオの厚削り節といった魚介系だしを使用しています。麺の上に乗る牛バラ肉は、旨味を最大限に引き出すために醤油と砂糖とみりんだけで調理。あえてシンプルな味付けにすることにこだわりました」。
シンプルだからこそ、肉の旨味も麺の風味も楽しめる逸品に仕上がった肉そばは、香り付けのネギ油がまた食欲をそそります。この肉そばとともに人気を誇るのが、昨今ブームの台湾まぜそばを想起させる肉味噌が乗った「シビレまぜそば」。シビレ(山椒)を1シビ・2シビ・3シビから選ぶことができるのが特徴です。
「スタンダードな1シビでも3種類の特徴の違う山椒を使っています。その内の1種類は肉辛味噌の中に仕込み、もう1種類は辛味が強いものを、もう1種類はお客様から注文を頂いてから擦ることでフレッシュさを感じて頂けると思っています。2シビ、3シビになると山椒の種類が増えるわけですが、それぞれ、配合比率や山椒の種類を変えているので、お客様によっては毎回違うシビを注文して、その違いを楽しむ方もいらっしゃいます。女性の方にも好評です」。
夜の部ではヤザワミートならではの肉汁溢れる和牛メンチカツなど、お酒とともに楽しめるおつまみも提供。そして、お酒の〆としてそばを楽しむスタイルが好評を博しています。東京の新ランドマーク、虎ノ門タワー近くというロケーションも含め、今後ますます人気を集めそうです。
来客目的以外の通行人も思わず足を止めてしまう、インパクトのある看板で話題を集める「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」。圧倒的なボリュームと、クセになる濃いめのつけ汁&ラー油のコンビネーションにリピーターが続出する人気店です。
一度目にすれば忘れることができないインパクトのある看板が目印のお店、それが「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」東新宿店です。池袋にある1号店の屋号は「壬生」ですが、2号店となるこの東新宿店から屋号を変えて営業しています。
「そもそもは、池袋の『壬生』の店でキャッチコピーとして利用していたのが『なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。』なんです。ところが、このフレーズと黄色い看板が屋号よりも目立ってしまい、お客様にもキャッチコピーのほうが屋号だと思われていました。それを逆手に取って、2店舗目以降はこのキャッチコピーをそのまま屋号にしています」。
答えてくれたのは東新宿店店長の中條仁さんです。経営母体の「そ組」は、この蕎麦の店以外にも大盛りが特徴のカレー店「カレーは飲み物。」を展開するなど、常にお客様を喜ばせる視点とボリュームたっぷりのメニュー構成が人気です。
「美味しいものをお腹いっぱい食べていただきたい、というのがコンセプトです。世間では『大盛り』と言いつつ、満足できない商品もあると思うんです。でも、当店では普通盛りの『中』で250g。同一料金で350gの『大』も選んでいただけます。さらに100円の『大盛り券』を購入いただければ、『大』のさらに『大盛り』もご注文いただけます。注文される方は結構多いですね」
つけ汁が無くなったら無料で追加できるなど、ボリュームに対するサービスはどこまでも徹底されています。
もっとも、量を食べられるのは「味へのこだわり」がベースにあるからです。牛肉がたっぷり乗った冷たい肉そば、そして温かいつけ汁で食べる鶏そばという2つの看板メニューは、どちらもラー油が効いた濃いめのつけ汁が人気です。
このパンチのあるつけ汁に負けないよう、麺の太さ、弾力、粘性のバランスを重視したオリジナルの蕎麦はコシが強く、食べ応えがあります。その麺を覆い尽くさんばかりに盛られた海苔とネギ、ゴマの風味がさらに食欲をかき立てます。テーブルに設置された生卵と天かすを無料でトッピングできるのもこの店の特徴です。
「お客様が一番美味しいと思う食べ方をしていただくのが一番美味しい商品、という考え方です。ラー油や七味も追加で乗せられるようにしています。個人的にはつけ汁がさらに麺によく絡むようになる、とろろトッピングもおすすめです」。
池袋店ではほとんどが男性客でしたが、東新宿店ではオフィス街という場所柄もあってか、女性客も増加。着実にファン層を広げています。今後は6月に新宿駅近くに新店舗もオープン予定。新店舗では日本そばを使った「関東風そば飯」を中心に、「今までにない大衆そば食堂に挑戦していきたい」と豊富を語ります。
「消えゆく街のそば屋、衰退する蕎麦業界を復活させるために固定概念にとらわれない新しい蕎麦を生み出していきたいと思います」。
蕎麦好きだけでなく、家族連れでも、女性が一人でも入れるお店を目指し、人気を集めているのが「soba みのり」です。オーソドックスな蕎麦はもちろん、既存の蕎麦店ではまずお目にかかれない独創的なメニューを味わいたいと、遠方からの来客も絶えません。
蕎麦店とは一見思えないモダンな外観に、白を基調とした明るい店内。メニューを開けば「かけ蕎麦」や「ざる蕎麦」などのおなじみの料理名とともに、「舞茸ぺペロン汁蕎麦」「お蕎麦屋さんのカルボナーラ」「焼きチーズカレー蕎麦」、さらには「そばワッフル」や「ダッタンそば茶プリン」といったデザートに至るまで、独創的なメニューが並ぶ…東京都昭島市にある「soba みのり」は、ニュータイプの蕎麦店としてメディアでも注目を集める人気店です。
店主の加越修さんは、父親もかつてこの地で蕎麦店を営み、母方の実家も蕎麦店という蕎麦一家で育った人物。蕎麦職人の道を選んだのも自然なことだったと言います。
「屋号の『みのり』は父の名前から取っています。父は私が幼い頃に志半ばで他界しました。その想いを受け継ぎ、父にも店づくりに参加してもらおうとこの名前にしました」。
オープンは2009年。その前に2年ほどアシスタントを務めた築地のそばアカデミーで師事した人物の海外志向に刺激を受け、創作蕎麦料理を打ち出す「soba みのり」のスタイルが生まれました。
「オープン当初はメニューを見て笑っている方もいらっしゃいました。でも、だんだん馴染んできて受け入れられるようになると、一口食べてボソっと『美味しい』という声がカウンター越しに聞こえたりして。その瞬間はすごく嬉しいですね」。
独創的になればなるほど、蕎麦本来の風味と特徴のある味付けがケンカをするのでは? そんな疑問を解消してくれるのが「蕎麦つゆ」だと加越さんは語ります。
「蕎麦つゆがクッションとして加わることで、和と洋のバランスを保ち、味をまとめてくれるんです。重要なのは味のバランス。蕎麦と合わせたときにつゆが勝って蕎麦が負けてしまわないように気を使っています」。
レギュラーで提供する創作蕎麦以外にも、春夏秋冬、季節の食材をふんだんに使った「季節のメニュー」でも、みのりならではのオリジナリティーが満載です。たとえば春のメニューでは「クラムチャウダー風蕎麦」「カリフラワーとサーモンのチーズクリームつけ蕎麦」といった洋風アレンジの蕎麦。さらには「肉味噌担々汁つけ蕎麦」という中華スタイルに加え、「かきたま親子とじ蕎麦」といったホッとするメニューが並びます。
「夏であれば『トマトのつけ蕎麦』『鶏チャーシューのネギ塩ぶっかけ』、秋なら『かぼちゃのクリームつけ蕎麦』、冬なら『牡蠣のつけ蕎麦』…まだまだたくさんあるのですが、いろいろ作りすぎてすぐには思い出せないくらいです。毎回、以前人気だった商品とともに、必ずひとつは新作を用意するようにしています」。
そんな加越さんが掲げるのは「たかが蕎麦、されど蕎麦」という言葉です。
「蕎麦ひとつとっても、可能性は無限にあります。アレンジメニューもいろいろとできればなとは思いますが、まずはしっかりしたお蕎麦の味を追求することを忘れず、蕎麦でできることをもっと広げていきたいと思います」。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年5月)のものです