竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.3地域やベーカリー仲間との時間を大切にお店のみんなでお客様の楽しみを創っていく
マイピア 大村 田さん
前編 後編

手づくりPOPやメッセージボードを使って、お客様目線で伝えていく


 レジ横にA4サイズの通信を置いています。今回はライ麦パンを紹介しています。この通信はパートさんが担当していて毎月工夫を凝らしてつくってくれます。商品の特徴やメッセージをPOPなどで積極的に紹介しています。ベーカリーコンサルタントの今野良香さんの本を読んでPOPを書いたら効果がありました。クロワッサン人気No.1は願望も込めて書いています。ドイツを紹介したメッセージボードは製造担当者がつくりました。ドイツのiba展を研修として見てきてもらいました。海外研修は簡単ではないですが、自分も修業時代に行かせてもらったので、やる気のある人には経験してほしいと思っています。そして報告のPOPをつくることを研修の課題にしました。最初は有名シェフに会ったとか、素晴らしいデモンストレーションだったなど製造担当の目線での内容で出来上がってきました。それはお店に来るお客様が知りたいことではない。何を伝えるべきかというやりとりを経て、ドイツの土地柄とそこでのパンとスイーツを紹介するボードになりました。お客様のパンの理解も深まるし、本人にも考えてもらうよい機会になったと思っています。
 「親子パン教室」開催時の報告も元幼稚園の先生をしていたパートさんのセンスで模造紙一面に楽しく写真が貼られました。それを見るために再度来店してくれたり、パン教室やパンが口コミで広がったりします。こういうことのできるパートさんには少し時給を上げますが、お店でそのための時間を用意できるわけではありません。パートさんの好意で家でつくってきてくれます。きっとお客様が喜んでくれることが嬉しいと感じてくれているのだと思います。だからこういうことが好きな人だけが残るようになり、よい循環が生まれています。またパートさんの感覚はお客様に近いので、新商品の値決めのときには意見を聞きます。原価率や自分の考えも重要ですが、彼女たちの値ごろ感を大事にしています。

地域や仲間との充実した時間を大切に、やりたいことは様々に


復興支援チャリティセールのお礼と石巻へパンを届けた際の報告

 お店では近所の肉屋のコロッケやメンチを販売したり、ソーセージ屋のハムをパンに使ったり、商店会のメンバーとも付き合いを深めています。群馬の同世代のベーカリーオーナーたちともよく交流します。学生時代に醸造を学んだ仲間はそれぞれ違う分野に進みましたが、刺激し合っています。地域やまわりの人との付き合いを大切にしています。気分転換にも情報交換にもなる充実した時間です。
 具体的に何から取り組もうと決めているわけではありませんが、やりたいことはたくさんあります。学校が世田谷だったのでブロートハイムが近くにありました。こういうお店も憧れますし、カフェもやってみたいし、ピッツァも焼いてみたいです。一方で自分の能力が見合うなら多店舗展開してみたい気持ちもあり、海外にも興味があります。労働時間をどのように短縮できるかというベーカリーとしての課題や、セントラル機能の経営にも興味があります。目の前のこととしては、30種類ある生地を少し絞りたいと思っています。多種類で製造したい職人の考えと、作業効率を上げたい経営者の考えのバランスをとりたいと思っています。影響されやすいタイプなのですぐにいいなと思うのですが、これからの方向性はじっくりと考えたいと思っています。

大村 田(おおむら でん)氏プロフィール 【大村 田(おおむら でん)氏プロフィール】

1979年群馬生まれ。大学卒業後、デイジイ東川口店に就職。5年勤めたのち、家業であるベーカリーに入る。群馬県太田市にて「マイピア」を実質経営する若きオーナー。ドイツパン菓子研究会の幹事を務めるなど業界活動にも積極的に参画。

対談場所:マイピア 群馬県太田市西本町5-30 tel:0276-22-2200 fax:0276-22-2206

定休日/水曜日  営業時間/8:00~19:00
太田駅から徒歩15分

地元のお客様が通うアットホームなベーカリー「マイピア」は、駅から距離があるため20台以上の大きな駐車場のある店舗。いつも賑わいをみせる店内と、豊富なアイテムが印象的だ。120種類あるアイテムの内訳はパンが90、菓子30。食パン、ドイツパン、フランスパン、焼き込み調理パン、ドーナツ、サンドイッチなどを揃えたバランスのよい商品構成。修業時代に教えられたというオールマイティのパン屋、地域に目を向けることをまさに実践している。人気の黒い黒ごま食パンは1枚にスプーン1杯のごまが入っていて、風味も食感もはっきりごまだとわかるおいしさだ。温かみのあるパートさんお手製のPOPやメッセージからはパンのおいしさに加え、やさしさや楽しさが伝わってくる。


前編 後編

対談を終えて

大村氏 今回、創・食Clubの対談のおかげで、竹谷先生に群馬の田舎までお越し頂き、自店について、自分自身について、3時間もじっくりとお話し頂き、自分はとても幸せ者だと思いました。
 今一番の悩みであり課題でもある人材(従業員)については、いろいろとアドバイスを頂けました。採用、育成に関して、なるべく地域の人を雇用し、そして還元することがいい流れだと思いました。
 またこの度の震災で日本人の物や食に対する考え方が大きく変化しつつあると思います。竹谷先生も言う通りもっと地域に根ざして、自分のやりたい事よりやらなくてはいけない事を掘り下げていくのも、食に携わる者としての使命だと考えさせられました。
 先生、これからもいろいろと勉強させて頂きます。

竹谷さん  今回初めて太田の「マイピア」へ伺いました。 総ガラス張りの入り口、ゆったりとした棚スペース、そこに120種類以上のドイツパン、フランスパン、菓子パン、ドーナツ、焼き込み調理パン、サンドイッチ、焼き菓子にジャム、さらには自家製のピクルスまで並んでいました。ベーカリーの品揃えはこうあるべきと主張しているようでした。
 大村さんはとにかく熱心に講習会に参加する人という印象でしたが、今回聞くとその日は寝ないで生地を仕込み、一日の仕事を終えてから10時の講習会に出席していたとのこと。加えて、その成果を確実に商品に反映し、徐々にアイテムを増やし、お客様の嗜好も取り入れて、今のお店の品揃えになっていったのだとわかりました。
 これからも、地域に愛されるベーカリーとしてお店を充実され、一方では、ベーカリー業界の若手リーダーとして活躍されることを期待しております。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2011年5月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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