竹谷さんだから聞けるパン職人の理想と挑戦-vol.9 ドイツパンやフランスパンをサンドイッチにして、食事パンの食べ方を知っていただきたい 政次郎のパン 大島 政次郎さん
前編 後編

サンドイッチの人気が食事パンにも広がる


竹谷
 いちばん売れるのはどんなパンですか?
大島
 いま80アイテムぐらいある中で、調理パンや菓子パンでしょうね。特にサンドイッチ系の調理パンが人気あります。結局、売ろうと思えば菓子パンなどをいっぱいやればいいと思います。でも、私が作りたいのはドイツパン、フランスパンなので、それが店頭でよく売れるようにしないといけません。その為には、サンドイッチにする方法が有効ですね。お客さんにもこうやって食べればいいんだとわかってもらえて、今度は単体でも買ってもらえる。そんな感じで、調理パンが自然と増えていき、食事パン単体でも売れてくれています。ドイツパンは、2種類を1日2キロずつ作っています。最初は2キロ売るのも大変だったので、今はいいサイクルでまわってくれていると思います。
竹谷
 この場所でフランスパンやドイツパンを売るのは大変なこと。最初は売れなかったでしょ?
大島
 群馬県が特にそうなのかもしれないですけど、しっかり焼き込まないようなパンが多くて、お客さんにも「焦げている」ってかなり言われました。それでもやっぱり、焼き込みたいという思いがあって。

仲間と一緒ならがんばれる

竹谷
 「群馬3人組」(大島さん、高木さん、太田市マイピアの大村田さん)は、よく講習会に出てきてがんばっていますね。
大島
 講習会などで一緒になることが多く、意気投合して仲良くなりました。仁瓶さん、明石克彦さん(ベッカライ・ブロートハイム)、金林達郎さん(ボワドオル)は、ベーカリーフォーラム(竹谷が主宰し30年続いた勉強会)で出会ったんですよね。お三方の関係はすごくいいなと思っていましたが、僕ら3人の今の関係は時代が違うけど似ているのではないかと思います。疲れていてもすごい仲間と一緒に勉強するのなら、疲れたとか言っていられない。お互いすごくいい刺激になって、そういう意味では運が良かったですね。

プロもあこがれるパン屋になりたい


竹谷
 これからどんなパン屋を目指したいですか?
大島
 いずれは、トランブルーやベッカライ・ブロートハイムのようなプロが見にくるような店を作りたいというのが独立した時からの目標です。仁瓶さん、明石さん、金林さん、あのお三方のようにいずれ僕ら3人があの年代になった時、若い職人達に「あの人たちみたいな感じいいよね」と目指してもらえるようになる事が夢ですね。パン屋には家庭製パンであったり、自然志向だったりいろんなスタイルがある。だけど、自分の好きなパンっていうのは、お三方のパンに決まっている。自分もそこを目指しているし、将来は若い職人達に自分を目指してくれる人が出て来てくれたらいいなと。自分が明石さん、仁瓶さん、金林さんに教わったことを、また次の世代に自分も継ぎたいなと思います。
大島政次郎氏プロフィール

【大島政次郎氏プロフィール】
昭和49年(1974)生まれ。高校在学中からアルバイトをしていた前橋市のアルファルファに入社。その後、前橋のドンキ-、高崎のパン丸などに勤務のあと、25歳で独立し、前橋市内に政次郎のパンを開店。現在14年目。ひっきりなしに客が訪れ、開店から店じまいまで常に大混雑の人気店に成長。講習会への出席など、パン技術の習得に努めることにも余念がなく、25年夏には「ベーカリー・キャンプ」を、グランボワ高木宏直氏、マイピアの大村田氏とともに主催。

対談場所:政次郎のパン 群馬県前橋市六供町 tel:027-265-6062

営業時間/7:30~18:30
定休日/月曜日

かつては田畑の広がる場所だったが、住宅地として発展した前橋市六供町。前橋駅から徒歩30分、バス停も遠くパン屋の立地としては決して良いとは言えない。しかし、売り場2.5坪の小さな店舗に客が詰めかけ、休む間も無くパンが売れ続ける。まるで山小屋のようなウッディな店舗に、古風な店名がよく似合っている。冷蔵ケースの中には様々なサンドイッチでいっぱい。バゲットやクロワッサン、パン・ド・ロデヴ、あるいは極薄に切ったドイツパンに、ロースハムやペッパーシンケン、オイルサーディンとともに野菜をたっぷりサンドしたり、食パンに分厚いカツをはさんだり。力を入れているのは、フランスパンにドイツパン、クロワッサン。バゲットはストレート法、長時間発酵のレトロバゲット。ドイツパンもベルリーナラントなど2種。フルーツとクリームをたっぷりのせたデニッシュのような甘いパン、ウインナーや粒マスタードを入れたフーガス・バリエやイベリコ豚の厚切りベーコンサンドのような焼き込み調理パンも充実。もちろん食パンやコッペパン、カレーパンのような定番まで。小さな店にさまざまなパンを詰め込んで、飽きさせることがない。

前編 後編

対談を終えて

大島さん 竹谷さんと言えば新しい製パン基礎知識。自分もその本を辞書として愛読していた一人です。この本によく助けられました。
ラッキーな事にこんな凄い人になにかとお会いする機会があり、その都度パンの話はもとよりフォーラムが出来たころの話、今憧れる三人の若い頃の話など興味を引く色々な事を聞かせてもらいました。また、竹谷さんのお店(つむぎ)に行った時も二階にある膨大な資料も見せてもらいました。
今は当時に比べて調べようと思えば色々な情報や資料が簡単に手に入る時代になっている。当時はそれすら難しかった。だからみんな必死だったのだと思う。今の自分達は彼らのそうやって築き上げてきた物のおかげで成り立っているのだと。この膨大な資料(財産)がもの語っているような気がしました。
今回対談をさせてもらい、あらためて自分はラッキー恵まれていると思いました。全国に多くのパン屋、パン職人がいる中でこんな身近に竹谷さんにおつき合いさせていただき、ありがたく思います。だからこそ竹谷さんや先輩方から学べる事をたくさん学び次の世代へとつないていきたいと思いました。
それが自分達にって竹谷さんを始め、今日の製パン業界を築き上げてきた先輩方への恩返しと思っています。
パン作りは奥の深いもの、いつまでも勉強は続くと思います。これからも宜しくお願いします。今回も貴重な体験をありがとうございました。また一つ自身のレベルアップへとつなげていきたいと思います。この一時も自分のパン屋人生の中の財産の一つになると思います。とても楽しい時間でした。

竹谷さん 今日は火曜日、1週間で最も暇な日と言うことで伺ったが、訪問時間が11時半、とにかくすごい売れ行き、2,5坪の店舗にお客が溢れるほどに入っている。狭い店舗にはパンがびっしりと並べられているがそれが次々とお客様のトレイに移され、見る間に棚が空っぽになる。厨房では窯前の政次郎さんと成形の女性5人、見事な連携で生地がさばかれている。忙しいはずなのにそこに流れている空気はとても穏やかで気持ちの良い職場である。
今回「政次郎のパン」を訪問したのは講習会にとにかく良く出席する方のお店を見たいというのがきっかけだが、売れ行き、お客の評判、店舗の回転率、厨房の設備、どれをとってもすでに限界を超えている。そんな中で講習会にはお店を閉めて従業員と共に出席する熱心さ、どこからそのエネルギーが来るのかと不思議に思ったが、今回の対談で「プロが憧れるパン屋になりたい。」「すごい仲間と一緒なら疲れたとか言っていられない。」とのこと。本当に将来のリテールベーカリーが今以上に世の注目を集めることを確信した対談でした。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2013年7月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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