平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

vol.1 パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ 藤生義治シェフ 25年の中で育ててきた人と思い。その先とは―

新連載となる、菓子職人の方々へのインタビュー記事。第1回目にお話をお伺いしたのは、東京・日野市、高幡不動の人気店「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」オーナー、藤生義治シェフです。1947年生まれ、1969年に渡欧し、パリやウィーンの名店で修業。1993年に独立開業された、日本を代表するベテランパティシエのお一人です。多くの優れた卒業生を輩出していることでも知られる藤生シェフ。日頃からのスタッフの方への接し方や、今後のお菓子づくりへの抱負について伺いました。

前編後編

「人を育てる」とは?スタッフとの関わり方

平岩
今日はお忙しいところありがとうございます。2017年8月末に、お店の25周年記念の会を開催されていましたね。とても盛大なお祝いでいらしたご様子、OB・OGの方々のフェイスブックページでも拝見していました。
藤生
うちの店は、5年で仕事を一巡してそれぞれ次のステップに進む、というのが基本だから、気づけば卒業生も増えたね。全国各地で独立してオーナーになった子達が多く、もちろん全員ではないけれど、あの時は70-80人くらい集まったかな。女性オーナーも増えてきたね。ヨーロッパで長く働いているのもいて、パリのレストランやリヨンで働いている。10月の「サロン・デュ・ショコラ・パリ」に合わせて、彼らを訪ねるのを楽しみにしているんだよ。
平岩
卒業後もそのように絆が続くって素敵ですね。5年という限られた時間の中で、スタッフの方とは、具体的にどのように関係性を築いていらっしゃるのですか?
藤生
1年目のスタッフについては、まず、上の方のスタッフ達に、「自分が選んで入ってきてもらった人達だから、絶対に続けさせる」ということを強く言うんだよね。
平岩
シェフだけではなく、お店の皆さんでしっかり受け止めて面倒を見る、という雰囲気にしていらっしゃるのですね。
藤生
もともと、1カ月ごとに、厨房と販売の担当を入れ替えるシステムにしていたけれど、やっぱり製造と販売とを両方経験する方がいい。4-5年もいると、ケーキをつくるのはある程度できるようになるものだけれど、サービスはなかなか難しい。特に男の子は、家が商売をやっていて、子どもの頃から手伝ってきたといったことがないと、最初はうまくいかない子が多いかな。
平岩
接客の経験は大切ですね。お店によっては、新入社員の方はまず売り場担当からという所もありますものね。
藤生
2007年にJR立川駅構内の「エキュート立川」に支店がオープンして、そこでは、接客や販売のキャリアアップ研修を受けることができる。1~5段階に分かれていて、自分も受けに行ってます。
平岩
藤生シェフも自ら!それはいい機会ですから、ぜひ活用したいですよね。
藤生
エキュート以前は、5人のチームが3つあり、それぞれに1年目から5年目のメンバーがいて、グループリーダーがいる体制でした。厨房の早番と遅番、販売の担当を1か月ごとに回していたけれど、今は10人ずつに分けて、本店とエキュートとのシフトを組んでいます。次の職場に行った時に、どこへ行っても困らないようにとフォローもするので、最後の5年目は、厨房で個別に指導することも多くなったりするね。
平岩
シフトを組むのは、それぞれのグループリーダーの方ですか?
藤生
いや、シフトの作成は自分の仕事。この子はもう少しこういう仕事を覚えた方がいいなとか、一人一人のことを考えて指導するからね。
平岩
本当にきめ細やかな・・親心のようですね。
藤生
一人一人に交流ノートがあるんだよ。卒業生のも保存してある。
平岩
えっ、交換日記のようなものですか?それを、これまでのOB・OGの方全員と交わしてこられたということ?それは大切な宝物ですね・・・!
藤生
うん。最近は、学校でも、文章を書くという習慣があまり身についていないことが多いから、入社したてで、最初の頃はまだほとんど何も書けなかった子が、だんだん、しっかりしたことを書くようになってきて、そういった時に成長したなと思うよね。年3回くらい、1対1で話す機会も設けているしね。
平岩
個別面談ですね。普段のお仕事の中では、なかなかゆっくり話す時間がなかったりするし、自分から言い出しにくい性格の方もいらっしゃいますよね。
藤生
4-5年目のスタッフは特に、次の店に行く時は、少なくとも1年前には伝えてもらうようにしています。行先には、自分からもきちんと打診をして様子を聞いておきたいし。昔は、うちを卒業すると選択肢はほぼ2つで、「オーボンヴュータン」の河田さんの所か、フランスかのどちらか、という感じだったんだけど。今は、ワーキングホリデーでフランスに行く子も増えたけれど、1年終わった後にどうするかも含めて考えないといけない。
平岩
スタッフの方と接していく中で、昔と今とで変わったなと感じられること、昔に比べて難しいと思われることもありますか?
藤生
今は、スタッフの半分は女性。厨房内では男女に変わりはないんだけれど、仕事が終わった後、男の子の方が、ぱっと切り替えて一緒に打ち解けやすかったかもしれない。自分は男だから、女性だと、男の子相手みたいに気軽に入っていけない所も少しあるかな。

過剰労働時間の問題、やりがいのある働き方とは?

平岩
最近は、パティスリー業界でも、過剰労働時間の問題が話題になっていますが、フジウさんではどのような体制でいらっしゃるのですか?
藤生
朝の早番は4時からと早いので、14時には終礼をします。その後、それぞれが自分の片付けなどをして帰宅。 休みは月7日取れるようにしています。週休2日制を実現するには、スタッフの人数を補強しなくてはならないね。
平岩
スタートが早いとはいえ、かなり早く終わらせていらっしゃいますね。お店では、石臼のローラーなどもお持ちで、アーモンドパウダーやフォンダンなどの副素材も自家製でつくられていますね。そういった時間と手間暇をかけていらっしゃるのに、どうしてそのようにお仕事を回していけるのでしょうか?
藤生
パティシエにとって基本の仕事を経験させたいですし、うちは人数もいるので、そういうやり方ができています。でも、各地で独立したOB・OG達からも、同じようにやろうとしているが、うまくいかないという話を聞くことがあります。
平岩
今、働き手不足に悩むお店が多く、特に地方では、パートやアルバイトの方が主戦力となっているという話をよく伺います。こちらでは、皆さん、社員でいらっしゃるのですか?
藤生
うちは、製造も販売も全員社員で、パート・アルバイトは無し。ただ、今のところまだ、就業中のスタッフが産休や育休を取るという話は無いのだけれど、今後は考えていかなければならない。これから日本はますます高齢化社会が進むので、定年後の再雇用といったこともあるよね。
平岩
「オーボンヴュータン」で、昔、マネージャーをされていた方が、今は退職されたのですが、バレンタインの催事などになると、売り場のお手伝いにいらしているんです。そういうベテランのスタッフの方がいらしゃると、いいですよね。
藤生
顔を見ると安心感がある、というね。自分も、いると声をかけてくださるお客様も多いので、なるべく売り場に立たなくてはけないな、と思います。
平岩
藤生シェフは、お客様向けのお菓子教室もずっと続けていらっしゃいますよね。
藤生
立川の「エミリーフローゲ」で、1980年からシェフに就任して、3-4年目から教室を始めていたし、今の店では、開業後、4か月目にはスタートしていました。奇数月と、夏は7・8月に連続で、1週間ずつ。常連客の方々が多く参加してくださっています。各テーブルに責任者をつけていて、サポートを担当したスタッフにとっても勉強になるんだよ。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年9月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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