行列のできる店として、都内を中心に10店舗以上を構える「めん徳二代目つじ田」。そんな人気店が担々麺に特化し、東京・神田にオープンしたのが「成都正宗担々麺つじ田」です。7月のオープン以来、連日行列が絶えない人気を博しています。
カレー激戦区として知られ、ほかにもさまざまな激辛料理専門店が軒を連ねる東京・神田。この地に今年7月、新たに加わったのが「成都正宗担々麺つじ田」です。その出店の狙いをつじ田グループ代表の辻田雄大さんに聞くと「誰かに怒られたかったんです」という意外な答えが返ってきました。
「お行儀が良すぎるばかりではつまらない。お客様の予想を超えるような個性を打ち出すラーメン、たとえば、『こんなの食べられないよ』という圧倒的なボリュームで勝負しているお店は、その挑戦的な部分も含め、お客様から支持を集めている。自分もそんな風に、誰かに怒られるようなラーメンをつくりたいなと思ったんです」
そこで選んだのが“辛さ”で勝負する「担々麺」でした。
「私はあまり奇をてらったようなラーメンは好きじゃないんです。文化として根付いているものをきちっとつくるのが好き。じゃあ、辛いもので文化として根付いているものってなんだろう、と考えてみたとき、最初に浮かんだのが担々麺でした」
そこから半年間、唐辛子の種類、配分、量など、さまざまな検証を重ねたという辻田さん。特に、担々麺の肝である唐辛子と山椒の選定には気を配ったと語ります。
「山椒に関しては香りが良すぎてもダメ。また、どの唐辛子を使えば、辛さを出しつつ、食欲をそそるような赤い色のラー油になるのか? その配分を見つけるのには苦労しました。色もしっかり出て、ちゃんと辛い唐辛子が意外と見つからず、中国やシンガポールからも取り寄せました。おかげでこの半年は、体に異変が起きるくらいさまざまな香辛料を検討しましたね」
「成都正宗担々麺つじ田」では、麻辣のストレートな辛味とキレが特徴の「成都式」。胡麻の芳香な香りに旨味とコクが自慢の「正宗式」の二種類の担々麺を提供。それぞれ、“汁あり”と“汁なし”が選べ、辛さについてもLevel0~6までの7段階で調整可能です。
「まずは、日本人が担々麺と聞いて連想する『正宗式』をつくりました。ただ私自身、中国や香港、シンガポールによく行きますので、やはり本場の味である『成都式』も出したい。そこで、日本人の趣向に合う『成都式』が出せれば面白いかなと、メニューに加えました」
麺はさまざまな製麺会社に依頼し、最終的には従来からつじ田で提供する麺を開発してきた三河屋製麺の麺をメニューごとに使い分けています。
「汁ありはスープや具材との絡み具合も考慮して細麺にし、これまで当店で使っていた麺よりも加水を少し落としています。反対に、汁なしでは加水を多めにし、ちょっと硬めの太麺にしています」
つじ田ブランドとして納得のいく辛さ、旨味、麺とのバランスで仕上げた担々麺。その根底にあるのは、どれだけお客様に喜んでもらえるか、という視点です。
「お客様に喜んでもらうためには、やはり店側が努力することが必要不可欠です。ラーメンのことを勉強して苦労した分、お客様は喜ぶことができる。プロ野球選手がファンに喜んでもらうのと同じだと思うんです。店側の苦労があればお客様は楽しくなる、嬉しくなる。当たり前のことですが、その部分を常に大事に、一杯のラーメンをつくるよう心がけています」
2015年、東京・大久保にオープンした「地獄の担担麺 護摩龍」。辛さと刺激が売りの担担麺が支持を集め、今年5月には五反田に早くも新店舗がオープン。若者や外国人客が多かったという本店とは異なり、サラリーマンを中心に賑わいをみせています。
店の暖簾に掲げるのはドクロのマーク。黒で統一したカラーリング。
辛さのレベルは「修羅」「飢餓」「阿修羅」「血の池」「無限地獄」。
店名にある“地獄”の文字にふさわしい店構えとメニュー構成で担担麺好き、激辛料理好きから支持を集めているのが「地獄の担担麺 護摩龍」です。新宿・大久保にある「地獄の担担麺 総本山」でも腕を振るった川村翔真さんが、今年5月にオープンした五反田店で店長を務めています。
看板メニューは、数種類の唐辛子と山椒をブレンドした自家製辣醤が自慢の「地獄の担担麺」。そしてもうひとつが、自家製マー油が効いたニンニク風味の「黒の修羅場」です。このうち、「地獄の担担麺」では辣醤の量で「飢餓」「阿修羅」「血の池」と辛さのステージが変わり、測定不能の「無限地獄」には自家製辣醤に加えて激辛唐辛子のハバネロを使用。見た目や匂いだけでも刺激的な激辛担担麺に仕上がります。
「総本山に比べて、客層はサラリーマンの方が多いですね。オーダーの多くは辛さ10倍の『飢餓』か15倍の『阿修羅』ですが、なかには昼間からでも辛さ30倍の『血の池』、さらには当店でもっとも辛い『無限地獄』を頼まれる方もいらっしゃいます」
メニューに「明日大切な用事がある人は食べないでください!」と注意書きをするほどの辛さを誇る「無限地獄」。それでも毎日誰かは注文をし、ほとんどの人が麺は完食。辛くてもしっかりとした美味しさがあるからこその現象といえます。
辛さと刺激が売りの「地獄の担担麺」ですが、ベースとなる味は意外にも「甘さ」が特徴です。
「2種類の胡麻を大量に使い、胡麻の濃厚さとクリーミーさを引き出すようにしています。だから、当店の味はただ辛いだけじゃなく、“甘辛”なんです。また、スープは8:2の割合で調合した豚と鶏に大量の野菜を加えて炊きだすことで、あっさりめに仕上げています。そのため、濃厚なのに胃もたれしにくい味になっていると思います」
この甘辛濃厚スープを最後まで楽しめるように、お店でオススメしているのが残ったスープでつくる「炙りチーズリゾット」です。
「ご飯を入れてパルメザンチーズを加えて火で炙り、最後にすったニンニクを加えています。チーズとの相性も抜群で美味しいですよ。このリゾットが食べたくて、麺を少なめに頼むお客様もいらっしゃいます。総本山ではご飯もののメニューは他にもあるんですが、五反田店ではこのチーズリゾット一本。担担麺以上に、この店の名物です」
ただ辛いだけでなく、最後まで「旨さ」を堪能できる工夫が満載の「地獄の担担麺」。今後はもっと「地獄」のキーワードを打ち出し、刺激を求める客層に認知を広げていきたいと語ります。
「インスタグラムのハッシュタグじゃないですけど、『地獄』というワードだけで当店を連想してもらえるようになりたいですね。お客様の会話のなかで『地獄? あぁ、あそこでしょ』とわかるようになるまで、コンセプトを曲げずに打ち出していきたいと思います」
東海地方を中心に6店舗を展開する「らーめん専門店ごまめ家」。そこで人気の「担担麺」に新たな特徴を持たせ、今年2月、担担麺専門店として東京・銀座に出店したのが「担担麺ごまる」です。女性でも入りやすい店構えとメニュー構成が支持を集めています。
「担担麺ごまる」のモットーは“美味しく食べて健康に”。美味しさはもちろんのこと、美容と健康に楽しさをプラスした担担麺専門店として、女性目線の施策が店舗運営やメニューづくりに活かされています。
そのひとつが、女性限定で食前に提供される、豆乳と胡麻、旬の野菜を使ったジュースです。店長の澤田直斗さんがその狙いを教えてくれました。
「豆乳によって胃の中に膜を貼るとともに、野菜から酵素を採ることで新陳代謝が促進され、食物繊維は血糖値の上昇を緩やかにします。ラーメンを食べるという行為にちょっとした罪悪感を感じることも、女性の場合あると思います。その罪悪感を少しでも取り除いて、気を楽に召し上がっていただきたいというのが狙いです」
ほかにも、契約農家から直接仕入れた野菜をふんだんに使った「野菜たっぷり担担麺」も名物メニューのひとつ。もやし、キャベツ、人参、玉ねぎをベースに、夏場であればズッキーニ、取材時にはパクチーといった旬の野菜がたっぷりと加わります。
「ご飯の代わりにバケットを選べたり、トイレにハンドクリームを置いたりと、女性のお客様も親しみやすいメニューづくりや店舗運営を心がけています。実際にお店にいらっしゃるのは男性客の方が多いですが、それでも3~4割が女性のお客様という時間帯も増えています。女性ひとりでも入りやすいお店として、もっと認知を広げていきたいですね」
健康、美容、女性目線といったキーワードが際立つ「ごまる」ですが、担担麺そのものは辛さや刺激にこだわった本格的な味わいであることも特徴のひとつ。また、SPFナチュラルポークを使った排骨担担麺など、男性でも満足できるがっつりメニューも人気です。
「ラー油は大豆油と菜種油、2種類の油をブレンド。唐辛子にはシナモンやスターアニスといった香料を加え、辛さの中にも旨味を凝縮したコクのあるラー油に仕上げています。また、山椒は辛味が特徴の赤山椒、痺れが魅力の青山椒をブレンドして使用しています」
選べる辛さは「辛さ控えめ」「ノーマル」「辛さ増し」の3段階。もっと刺激が欲しい人は卓上にあるオリジナル調味料「みそスコ」(豆味噌とハバネロをあわせたもの)を加えることで、更なるコクと旨味と超辛味を堪能することが可能です。
メニューづくり、材料選びまで徹底的にこだわる「担担麺ごまる」。それでも、まだまだ改良の途中、と澤田店長は言葉を続けます。
「もともと、東京にはない担担麺を提供したいという考えから、名古屋で人気の濃厚でクリーミーな担担麺を目指しました。そのために徹底的にこだわったのが胡麻。現状は直火焙煎の深煎り胡麻を2種類使用し、まろやかな味を出しています。今後はこの深煎り胡麻にあえて浅く煎った胡麻を加えることで、より甘味を引き立てたいと考えています。また、ラー油に関しても現状は少し強すぎる辛さなので、一番辛味の立つところだけを抑えたラー油を開発中です。女性にも、男性にも支持される担担麺を目指していきたいと思います」
東京農業大学出身。さらには食の専門出版社・柴田書店で編集者を務めていたという異色の経歴の持ち主である店主が今年8月、満を持してオープンしたのが汁なし担々麺の専門店「タンタンタイガー」です。早くもメディア取材を受けるなど、注目を集めています。
タンタンタイガーの店主・東山広樹さんは、「日常の料理や食を科学で考察する」と掲げてブログを立ち上げ、さまざまな料理について研究してきた人物です。汁なし担々麺専門店オープンにあたっても、試作品のデータは全てExcelで管理。1食つくるごとにPDCAサイクルで検証して改良を続け、試作数が1000を超えたところでやっと満足できるものができたといいます。
「タンタンタイガーを開くにあたっては、私自身の資金だけでなく、何人もの友人が出資をしてくれています。その友人から、『美味い・不味いという主観的な言葉以外で、味や店について説明して欲しい』と言われたことも大きいですね。何が良かったか、悪かったか。それを次にどう改善して活かすかが商品開発です。他のビジネスの世界では当たり前のことを料理だけやらないのはおかしいなと私自身考え、データで管理するようになりました」
また、東山さん自身の学生時代の経験や前職の経歴も大きく関係しているといいます。
「料理を科学するという視点は、東京農業大学出身という側面が大きいと思います。私がいた醸造科学科は味噌・酒・醤油などを扱う学科でしたので、当時から科学的なアプローチで味を解析していました。また、前職の柴田書店では常に新しい取り組みを続けるノルウェーの『noma』さんや大阪の『ハジメ』さんなど、科学的な視点を持つ料理人について学ぶ機会にも恵まれました。その下地が生きているのかなと思います」
開店前の3ヵ月間には計212人の人たちへの試食を実施。その意見を基に更に改良を重ね、現在のタンタンタイガーの味に辿り着きました。その際、大きなヒントとなったのが「健康路線」というキーワードです。
「当店では、担々麺には珍しいトマトやアボカドのトッピングも売りのひとつなのですが、それも試食会での意見から生まれたものです。野菜トッピングが増えたことをきっかけに、もっと健康路線に寄せられないかと考えるようになり、動物性脂肪を徹底的に取り除く担々麺という発想に行きつきました。おかげで、毎日食べても胃もたれしない味になったと思います」
動物性脂肪を取り除くにあたっては、さまざまな精肉店に声をかけ、赤身のキレイな挽肉だけを提供してくれるお店と契約。4ミリ角というこだわりのオーダーで注文をしています。
「4ミリにこだわったのは食感です。細かすぎるとタレは濃厚になって美味しいんですけど、肉を食べた満足感がないんです。でも大きすぎるとタレと混ざらない。そのため、1ミリ~6ミリまで、ミリ単位で試食を重ね、4ミリに落ちつきました」
同様に、麺に関しても100種類以上の麺を吟味し、タレや具材との混ざりやすさ、食感や味わい、茹で時間を検証。オペレーション面も考慮し、3分40秒で茹で上がるように改良してもらった麺を使用しています。
「今はまだ『汁なし担々麺』と、麺少なめ・野菜多めの『レディース担々麺』の2種類のみ。今後は期間限定メニューにも挑戦するなど、毎日来てくださるお客様に新鮮な感動を提供したいと思います」
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年10月)のものです