昼はカフェのような創作蕎麦屋、夜はお酒も楽しめる蕎麦粉×創作イタリアンの店として人気を博しているのが、新宿区にある「蕎麦カフェ&バル BW CAFE」です。女性客を中心にリピーターの多い人気店です。
2014年12月にオープンした「蕎麦カフェ&バル BW CAFE」。オーナーの鈴木雅和さんは、洋食店で約8年、蕎麦屋で4年ほどの経験を経て、自分の店を持とうと思い立ったといいます。
「蕎麦屋で調理をしていた際、ある常連の女性客から『蕎麦が好きなのに入りやすい店が少ない』という話を聞いたことがありました。ならば、女性が1人でも入れるような蕎麦屋がつくれたら面白いかも、と洋食の経験と蕎麦屋の経験を掛け合わせ、カフェスタイルでオープンしてみようと考えました」
オープンから2年。「女性が一人でも入れる蕎麦屋」という狙いがハマり、ランチタイムはなんと9割近くを女性が占めています。
「ここまで女性の支持をいただけるとは想像以上でした。蕎麦を食べたかった女性はこんなにいたんだなという印象です。夜は女子会でご利用いただくことも多いですね」
そんな女性客を中心に人気メニューとなっているのが、焼いたトマトを丸ごと一個使用した「完熟焼きトマトの和え蕎麦」です。冷たい蕎麦の上にはたっぷりの野菜と焼きトマト。そこにバルサミコ酢や焼いたチーズの風味が合わさって、サラダ感覚で味わうことができる逸品です。
「トマトの蕎麦を提供するお店は他にも見かけますが、トマトの酸味と甘い蕎麦汁が喧嘩しているなと思っていました。そこで当店では、トマトを焼くことで酸味と水分を飛ばしています。こうすることで甘味だけが残って蕎麦汁ともよく合うんです」
暑い時期の一番人気が「完熟焼きトマトの和え蕎麦」なら、寒い季節に人気なのが「豆乳クリーム担担蕎麦」、そして期間限定メニューの「広島県産カキとほうれん草の冬きのこチャウダー蕎麦」です。
「チャウダー蕎麦のスープは野菜と魚介を使ったクラムチャウダーがベースですが、そこに蕎麦汁とかつおの出し汁を割ることによって蕎麦と喧嘩をしないように意識しています。また、スープはもったりしてしまうと蕎麦がすすりにくいので、サラサラ感を出しつつ旨味は残す、という部分で苦労した品です」
この他にも、「アボカドと豆腐クリームの和え蕎麦」「夏のとうもろこしスムージーつけ蕎麦」「シナモン薫る安納芋のスムージーつけ蕎麦」「おぼろ豆腐で作る蕎麦カルボナーラ」など、洋と和(蕎麦)をミックスした創作メニューが並びます。
「どのメニューでも、基本を守ったかつおの出汁を加えています。微かでも和のエッセンスを加えることで、一見『蕎麦と合うの?』という洋風テイストのメニューでもちゃんと喧嘩せずに成り立つんです。また、蕎麦を油でマリネするメニューも多いので、蕎麦そのものにも小麦粉を少し多めに配合することで茹で伸びを防ぎ、舌触りや風味もちゃんと楽しめるよう工夫しました」
料理以外でも、「蕎麦茶ラテ」「自家製蕎麦茶ぷりん」「蕎麦粉のジェラート」「国産蕎麦茶のゼリー」など、ドリンクやデザートでも蕎麦がふんだんに楽しめるメニュー構成になっています。
「ほうじ茶ラテがあるんだったら、蕎麦茶ラテがあってもいいじゃないかと思いつきました。これからも蕎麦と洋食の融合、そして女性が入りやすい店、という軸を支えに、ほかでは食べられない創作メニューを生み出し続けたいと思います」
2014年、動物園や美術館などさまざまな施設が揃う上野公園近くにオープンした新しい商業施設「上野の森さくらテラス」。上野の新しいランドマークとして話題と人を集めるこの場所で人気を博しているのが立ち食い蕎麦バル「喜乃字屋」です。
老舗の蕎麦屋が並ぶ都内屈指のそば処、上野。この地で、ワインと蕎麦を楽しむ新感覚の「立ち食い蕎麦バル」として店を構えているのが「喜乃字屋」です。運営するクマガイコーポレーション(株)代表取締役 熊谷康夫さんがその狙いを教えてくれました。
「私どもではもともと、立ち食い蕎麦の店を2店舗運営してきたノウハウがありました。その上で、この上野の森さくらテラスが開業するにあたっては『女性が入りやすい蕎麦屋を』という話があり、“立ち食い蕎麦バル”という業態、そして“クールな生粉打ちそば、粋な角打ちワイン”というコンセプトが生まれました」
“クールな生粉打ち”とは、つなぎを一切使用せず、北海道産キタワセソバの実を丹念に石臼で挽いた蕎麦粉100%の香り豊かな蕎麦によって、トラディショナルなメニューとイノベーティブなメニューを提供すること。“粋な角打ちワイン”とは、酒屋のカウンターで立ち飲みをする「角打ち」を日本酒からワインに置き換え、さらに「升」で提供すること。
全面ガラス張りの洗練された店構えは女性も入りやすく、従来の「立ち食い蕎麦」とは一線を画します。また、店内デザインはもちろん、器もオリジナルの有田焼を使用するこだわりようです。
この喜乃字屋で、メディアからも注目を集めている“イノベーティブなメニュー”が「フォアグラエスプーマもり」と「ハラペーニョ冷やかけ」のふたつのかわり蕎麦です。
「フォアグラを使おうと思ったのは、鴨南蛮からのアイデアです。鴨南蛮は、鴨の脂から旨味、深みも出てとても美味しい。でも、そのままでは面白味に欠けるのでフォアグラにしてしまおう、と、フォアグラの産地として知られるフランス・ベリゴールから直接輸入しています。ただ、どうすれば蕎麦に合うのか? 泡にしてみたり、メレンゲにしてみたりといろいろ工夫したんですが、どれももうひとつ。そこで行き着いたのが“エスプーマ”という手法でした」
“エスプーマ”とは、どんな食材でもムース状にしてしまう調理方法で、スペインの伝説的レストラン「エル・ブリ」の料理長が編み出した科学的な手法です。ムース状になることで、蕎麦の風味と出汁とフォアグラが絶妙に混じり合います。
「『ハラペーニョ冷やかけ』の方は、ゴマだれの蕎麦を検討した際、ちょっと辛めの味にすることをまず考え、どうせ辛くするならハラペーニョを使ってみたら面白いかな、とできたメニューです。たっぷりのせた九条ねぎとの相性も抜群だと思います。こちらは男性受けがいいですね」
もちろん、こうした「かわり蕎麦」以外の、王道蕎麦もメニューが充実。『ひや』『かけ』『もり』でそれぞれ出汁を変えてつくるなど、蕎麦の店としてのこだわりが見て取れます。
「奇妙奇天烈なことばかりやっていても意味がなくて、なぜこの食材を選ぶのか? 一本筋の通ったメニュー開発を心がけています。そうはいっても、蕎麦好きの方からは、“エスプーマ”や“ハラペーニョ”は、『なんだこりゃ!?』とお叱りを受けることもあります。でも、その反応もまたありがたい。どうでもいい、という存在ではなく、この店でしか味わえないメニューをこれからも生み出していきたいですね」
埼玉県の浦和駅近くに店を構える居酒屋「庵 浮雨(un peu)」。「un peu(アン プウ)」とはフランス語で「少し。ちょっとだけ」のこと。日本酒にもワインにもあう手軽な小皿料理“蕎麦屋のタパス”とともに人気なのが、従来の蕎麦屋には無い、クリームやオリーブオイルを使用した蕎麦の数々です。
フレンチの店で10年。その後、神田の人気蕎麦店「眠庵」で経験を積んだ店主・熊谷晴匡さんが2009年に開業したのが、和食とフレンチの融合で日本酒にもワインにも合う料理が堪能できる居酒屋「庵 浮雨(un peu)」です。
「料理の道に進んだ当初から、『いつかは“un peu”という名前の喫茶店をやりたい』と思っていました。ただ、実家が蕎麦屋だったことも影響したのか、フレンチの後に蕎麦店でも経験を積むことになりました。ならば、自分の店として出すのも、喫茶店より蕎麦もフレンチも楽しめる店がいいかなと、屋号はそのままに漢字を当てはめ、この店を始めました」
雨が浮遊するようなゆっくりとした時間を味わって欲しいとあてた「庵 浮雨」の字。その名の通り、落ち着いた雰囲気の中で、せいろやつけ蕎麦といった王道蕎麦も楽しめます。そして、フレンチと蕎麦店の両方の経験が生かされているのが、「マッシュルームクリームせいろ」「洋風花巻そば」「洋風まぜそば」などの創作蕎麦の数々です。
「メニュー考案のヒントになっているのは、蕎麦屋時代の賄いです。洋風にこだわっているわけではなく、純粋に自分が美味しいと思えるものをご提供しています。クリーム系の味わいが合うの?と思われるかもしれませんが、ちゃんと打った蕎麦であれば塩とオリーブオイルだけでも美味しいし、何をつけても喧嘩することはありません」
まず必要なのは、蕎麦そのものの美味しさ。だからこそ、蕎麦は毎日お店で手打ち。日本各地の蕎麦粉を使い、十割石臼挽きの直製粉にこだわっています。
クリーミーさが人気の「マッシュルームクリームせいろ」は、つけ汁の底にベーコンがたっぷり隠れていて、食べ進めるほどに濃厚さが増していきます。お好みでチーズをかけて味わえば、よりクリームパスタを食べているような感覚になる不思議な料理です。
熱々のかけそばの上に、ちぎった焼き海苔をのせて味わう「花巻そば」をアレンジしたのが「洋風花巻そば」。一見、ジェノベーゼのような見た目のこの料理、鯛出汁とクリームソース、そして海苔のかけ算によって見事に洋と和が融合を果たしています。
そして、オリーブ、アンチョビ、ドライトマトなどでつくった特製ソースをまぜて食べる「洋風まぜそば」は、ペペロンチーノとミートソースが合わさったような一品。お好みで、チーズ、唐辛子、にんにくを加えることでよりパンチの効いた味わいになります。
「蕎麦好きな人ほど、何もつけないで食べたりしますから、上にかけるもの、混ぜるものがちゃんと美味しければ、間違いなく料理としても美味しくなるはずです」
「まだまだ改善の余地はたくさんあります」と語る熊谷さん。ランチでの蕎麦の提供も最近はじめたばかりです。庵浮雨専用の畑で育てた大豆でつくったこだわりの自家製豆腐と蕎麦のセットメニューは、これからますます人気を呼ぶかもしれません。
長野県松本市で120年前に建てられた歴史的建築物・名門商家「光屋」をリノベーションしたレストラン「ヒカリヤ本店」。その東京支店として、日本の伝統と西洋の文化の両方を併せ持つ味を提供するのが、「信州松本 ヒカリヤ」です。
「長野県にあるヒカリヤ本店には、地元食材にこだわった旬の日本料理をご提供する『ヒガシ』。そして、地産地消をテーマにマクロビオテックに基づくナチュレフレンチを展開する『ニシ』がございます。東京出店にあたっては、この両方の良さを打ち出していこうと狙いを定めました」
取材に応えてくれたのは「信州松本 ヒカリヤ」の料理長・白坂友紀さんです。2013年に誕生した東京駅隣接の商業施設「KITTE」の開業にあわせ、東京に出店。ランチは信州蕎麦と、長野県の食材を使ったミニ丼。ディナーは長野県の食材を使った一品料理をお酒とともに楽しんでいただき、最後の〆に蕎麦、というスタイルが人気です。
長野県の食材にこだわる店だからこそ生まれたのが、季節に応じた長野の地元野菜をふんだんに使った「栄養たっぷりアボカドと信州野菜のサラダ蕎麦」。マヨネーズパウダーとともに味わう一品です。取材時の使用野菜は「紫大根・白大根・青首大根・人参・トマト・アボカド・パプリカ。ミックスリーフ」の8種類。夏であればズッキーニやキュウリなどが彩りを加えます。
「キュウリも普通のキュウリではなく、信州伝統野菜である『鈴ヶ沢うり』を使用。また、長野県の冬は大根類や根菜類の美味しい季節ですので、紫大根や青首大根などを使うことが多いです。信州あづみ野池田町と長野市松代の農家さんから送って頂いています」
客層はサラリーマンが中心。また、東京駅隣接という場所柄、外国人観光客も多いというヒカリヤ。その中で、このサラダ蕎麦は女性客から熱い支持を集めています。
ヒカリヤで味わえるもうひとつの洋風蕎麦が、パルメザンチーズを蕎麦の上にふんだんに盛りつけた「パルメザンチーズ蕎麦」です。
「東京出店にあたって、何か変わったメニューも加えたいと研究してつくったのがこの『パルメザンチーズ蕎麦』です。意外な組み合わせのように思われるかもしれませんが、そもそもチーズと醤油の相性はとてもいいので、蕎麦汁とも美味しく組み合わせることができるんです」
このパルメザンチーズ蕎麦も女性客からの注文が多く、また、休日には子ども連れのファミリー層からも支持を集めているといいます。
こうしたメニューを生み出すのは、マクロビオテックアドバイザーの資格も持つヒカリヤの統括総料理長・田邊真宏さん。そのバックボーンとしてあるのが、ヒカリヤ全体で共有する「日本料理の素晴らしさを後世に伝えたい」というコンセプトだといいます。
「新しい技法を取り入れるのはもちろんですが、昔ながらの食材や伝統野菜、技法を後世に残していきたい、広めたい……そんな想いが私たちにはあります」
実は、国産そば粉の自給率は約25%。その中でも信州産となるとわずか2.5%ほどの割合です。それでも、ヒカリヤではそば処信州の蕎麦粉にこだわり、信州蕎麦100%を掲げています。そんなこだわりの蕎麦だからこそ、どの料理の味わいも、より深みを増すのではないでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2016年12月)のものです