トレンドレポート
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奥深き煮干しラーメンの世界

ここ数年、急激に増えている煮干しラーメン専門店。煮干しの出汁は日本人にとって馴染みが深いもの。子供から大人まで幅広い年齢層に受け入れられている煮干しとラーメンをどのような工夫で調和させているのでしょうか? 今回は、都内で人気を集めるこだわりの「煮干しラーメン」を提供する4つの店を取材し、メニュー開発における工夫や考え方をお聞きしました。
  • すごい煮干しラーメン凪 新宿ゴールデン街 本館
  • 九十九里つけ麺 志奈田
  • 煮干中華そば のじじR
  • 陽はまたのぼる

すごい煮干しラーメン凪 新宿ゴールデン街 本館

2004年に新宿ゴールデン街でオープンした「ラーメン凪」。当初は豚骨ラーメン専門店でしたが、創業者の生田智志さんが青森や新潟で食べた煮干しラーメンに衝撃を受け、究極の煮干しラーメンを追求する「煮干しラーメン専門店」としてリニューアルしました。

すごい煮干しラーメン凪 新宿ゴールデン街 本館
住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-10-2F
新宿ゴールデン街内
電話番号:03-3205-1925
営業時間:24時間営業
定休日:なし

毎週火曜は試食会。進化を続ける「すごい!煮干しラーメン」

新宿ゴールデン街に本店を構える「すごい煮干しラーメン凪」。看板商品である「すごい! 煮干ラーメン」は、20種類以上の煮干を独自にブレンドしたスープが特徴です。その濃厚な味わいは、日本人のみならず、外国人観光客からも大人気。多くのお客様に愛される“すごさ”について、運営する「凪スピリッツ」営業部長の小林敦さんにお聞きしました。

「『すごい!煮干しラーメン』は一口食べるごとに“すごさ”を発見できる商品と自負しています。甘味・旨味・塩味・苦味・酸味を最大限に引き出せるように、大量の煮干しを使ったり、2種類の麺を入れて食感にバリエーションを出したり、旨味がたっぷり出るようにネギを独特の切り方にしたりと、一杯の丼の中にたくさんの仕掛けを凝縮しているんです」

煮干しの仕入れ量は、店舗全体で毎月5トン。一般的な煮干しラーメンは一杯につき30gほどの煮干しを使うのが主流ですが、「すごい煮干しラーメン凪」では、倍以上の70gの煮干しを使っているといいます。

「当店では、毎週火曜日に試食会を開いています。全国各地で仕入れた煮干しを試したり、煮干しを半分だけ切った状態にしたり、棒で突いて細かくしたりと、メンバーの反応を見ながら改良を重ねているんです。現在では、苦みやえぐみのある頭・ハラワタをあえて残し、煮干しの味がたっぷり詰まったラーメンになりましたが、今後もいいものはどんどん取り入れていきたいですね」

食感豊かな自家製麺。重視するのはスープと麺のトータルバランス


麺は細麺、中太麺、平打ち麺のなかから選べるスタイル。また、スープ上に添えられたオリジナルの幅広麺「いったん麺」は、つるりとした舌触りでワンタンのような食感が特徴です。

「重視しているのは、スープと麺のトータルバランス。商品ごとに出したい味とお客様に感じてほしい驚きを考えながら製麺しています。『すごい! 煮干しラーメン』であれば、煮干しも濃くて油も濃いため、ガッツリとスープに絡む麺。優しい味の『ふつうに煮干ラーメン』ならスープとの調和を重視した麺を合わせています」

トッピングを全部のせた「特製すごい煮干しラーメン」も男性客を中心に大人気。ローストチャーシューが4枚、味玉、大判の味付け海苔がのってボリュームたっぷりです。

煮干しラーメン専門店として、日本一煮干しを追求していると自負する「すごい煮干しラーメン凪」。新メニューを開発するときには、他店には真似できない味を徹底的に追求し、納得のいったものだけを販売しています。

「当初はバー定休日の間借りで、火曜日のみの営業でしたが、SNSを積極的に使ったり、お客様と飲みに行ったりしているうちに、少しずつお客様も増えてきて、現在は年中無休の24時間営業。ゴールデン街という土地柄、年齢層や国籍を問わず、客層は本当に幅広いです。これからも試食会を開きながら、すべての人に愛される究極の煮干しラーメンを追求していきたいですね」

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九十九里つけ麺 志奈田

秋葉原駅に店を構える「九十九里つけ麺 志奈田」。看板メニューである「純濃煮干しつけ麺」を中心とした新感覚の煮干つけ麺は、男性客を中心に人気を集めています。また、火曜日は男性客を対象にごはんor賄いごはん無料、水曜日は女性客を対象にプレミアム豆乳プリンをサービスするなど、曜日限定イベントも好評です。

九十九里つけ麺 志奈田
住所:東京都千代田区外神田3-4-1
電話番号:03-3258-5282
営業時間:【火~金】11:00~15:00/17:00~20:45
【土】11:00~20:45【日】11:00~18:00
定休日:月曜

秋葉原のラーメントレンドを抑えた九十九里つけ麺

秋葉原で魚介系ラーメン専門店として人気を集めた「志奈そば 田なか second」が、2017年6月に「九十九里つけ麺 志奈田」としてリニューアル。以前は、魚介類のみを使った繊細な味わいのそばを販売していましたが、魚介系スープに動物系を合わせた濃厚なつけ麺を看板商品とするスタイルへと進化しました。

「『志奈そば 田なか second』から続くこだわりは九十九里の食材を使うこと。私が15年住んでいる地元に恩返しがしたいという想いは現在も同じです。魚介類は九十九里産ですが、野菜や豚もすべて千葉県産を使っています」

そう語るのは、「九十九里つけ麺 志奈田」の代表、田中友規さん。ラーメン激戦区の秋葉原には、独特のトレンドがあると分析しています。

「“安い”“お肉たっぷり”“濃厚でこってり”“ボリュームがある”。秋葉原で人気の多くのラーメン店は、これらの特徴に当てはまります。このトレンドを踏まえつつ、当店にしかできないメニューとして開発したのが『純濃煮干つけ麺』。豚・鶏を徹底的に煮込んだ超濃厚動物系出汁を土台に、九十九里産イワシ・アジを重ねあわせた商品です」

「純濃煮干つけ麺」は平打ち太麺にレアチャーシュー、刻み大葉、カットレモンがのったメニュー。さらに「得のせ純濃煮干つけ麺」は、味付け玉子、大判海苔2枚、チャーシュー増量とボリューム満点です。とろみのある濃厚なつけ汁に麺をディップする感覚で味わうことができます。

並盛も大盛りも値段は均一&リーズナブルな「和え玉」


辣油のピリッとした辛さが効いた煮干ベースのつけ汁で食べる「辣濃辛煮干パクチーつけ麺」も田中さんのおすすめ。パクチーがかかった幅広の平打ち麺がつけ汁をしっかりと持ちあげるので、辣油とパクチーのアクセントで煮干しの旨味をより一層感じられる逸品です。

「重視しているのは、麺とスープを調和させること。麺が主張しすぎてもいけないし、スープが勝ちすぎてもいけない。並盛り(240g)、中盛(360g)、大盛り(480g)はすべて均一価格なので、お客様にお腹いっぱいになるまで、麺とスープの調和を楽しんでいただきたいですね」

また、つけ麺を食べた後の締めとして「和え玉」も人気。煮干し香味油でコーティングされた細麺に、九条ネギとアーリーレッドとチャーシューの薄切り、煮干しを細かく砕いた粉末がのったメニューです。つけ麺として食べても良し。油そば感覚で食べても良し。価格も200円とリーズナブルです。

秋葉原のラーメントレンドを押さえながら、独自の濃厚煮干しつけ麺をつくりあげてきた田中さん。今後は「九十九里つけ麺 志奈田」とはまた違った形で、千葉県の食材を使ったラーメン店を展開してきたいと言います。

「同じメニューをブランド化していくよりは、新しいメニューにどんどん挑戦していきたい。千葉県には最高の食材がまだまだたくさんあるんです。当店の九十九里つけ麺はもちろんのこと、様々な形で一人でも多くの人に千葉の食材の美味しさを知ってほしいと思っています」

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煮干中華そば のじじR

宇都宮の「煮干中華そば のじじ」からのれん分けする形で2017年7月に東京スカイツリーのお膝元、本所吾妻橋でオープンした「煮干中華そば のじじR」。本店同様、看板やメニューはすべてドット文字。かつてのテレビゲームを想起させるような店づくりが特徴的です。

煮干中華そば のじじR
住所:東京都墨田区吾妻橋2-4-11
電話番号:03-6658-8899
営業時間:[月・火・木~土] 11:30~15:30/17:30~21:30
[日・祝]11:00~15:30/17:30~21:00
定休日:水曜

難易度で煮干の濃さを調整。「EX-HARD」は女性に人気

2017年7月にオープンした「煮干中華そば のじじR」。化学調味料を一切使わない煮干清湯醤油を掲げています。丸鶏と豚骨の動物系の出汁と煮干メインの魚介系出汁をそれぞれ抽出し、提供直前にブレンドするWスープが特徴です。

提供するラーメンは煮干の味の濃さが異なる「EASY」「NORMAL」「HARD」の3つが基本。煮干がちょっと苦手なお客様でも、煮干が大好きなお客様でも満足できるきめ細やかさがあります。そのこだわりについて、店長の今井裕士さんに話を聞きました。

「煮干は大阪の煮干専門問屋から仕入れたものを使っています。難易度が高くなるにつれて、煮干独特のえぐみや苦みをあえて残しているのも当店ならではのこだわり。これがクセになるというお客様も多いんです」

クセになる味を求める常連客には、HARDを超えた濃厚な煮干の味わいが楽しめる「HARD(裏ver.)」や「EX-HARD」も用意。こちらもまた人気メニューです。

「『HARD(裏ver.)』は二番出汁に追い煮干をして煮詰めたスープ。『EX-HARD』は動物系の素材を使用せず、数種類の煮干のみで炊きだしたスープです。えぐみや苦みはかなり強め。使っている煮干の匂いが独特なんですが、意外にも女性客から人気なんです。この匂いがクセになるのかもしれませんね」

ラズベリーソースを添えた上品な「追い玉」



麺は超低加水で、歯切れのいい食感が心地いいストレートの細麺です。また、替え玉的に人気の「Continue(追い玉)」には、のじじRならではの工夫がなされています。

「香味油を絡めた麺に煮干粉、ほぐしたチャーシュー、刻みネギをのせたのが当店の『Continue(追い玉)』。皿のふちにラズベリーソースを添えているのが独特だと思います。食べる際にこのソースをつけると味にコクが出て、いいアクセントになるんです」

上品な盛り付けで女性客の心を掴むのは、Continue(追い玉)のほかにも「ニボバタご飯」があります。ご飯の上にネギ、ほぐしチャーシューに加え、ハート型の煮干バターがのったメニューで、ご飯が熱いうちによく混ぜて煮干バターを溶かし、ご飯と絡めて食べます。中華そばのスープをかけるのもオススメです。

男性客はもちろんのこと、女性客のリピーターも多数いる「煮干中華そば のじじR」。今後は、本所吾妻橋近辺で一番おいしいラーメン店だと言われるようにしたいと今井さんは語ります。

「ラーメンといえば醤油や豚骨が主流。煮干ラーメンはまだ一般的にメジャーとはいえません。音楽でいうとヘビーメタルに近い位置でしょうか。でも、コアなファンが男女問わず、一定数います。だからこそ、女性にも入りやすいラーメン店であり続けることを心がけています。当店の煮干そばをきっかけに、どんどん煮干ラーメンが普及していけたらと思います」

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陽はまたのぼる

東京都足立区綾瀬で2017年4月に開業した煮干しそば専門店「陽はまたのぼる」。「東京ラーメンオブザイヤー2017-2018新人賞煮干し部門1位」、「食べログラーメン百名店2018」に選出されており、新進気鋭の名店として全国のラーメン通から注目を集めています。

陽はまたのぼる
住所:東京都足立区綾瀬2-1-4
電話番号:03-6231-2040
営業時間:11:30~14:30/18:30~21:00
定休日:火曜・水曜

スープをスープで炊く。味の決め手は煮干しの量の微調整

オープンしてすぐに人気の煮干しそば専門店としての評価を得た「陽はまたのぼる」。白口、背黒、平子、鯵などの煮干しをブレンドした「煮干しそば」「塩煮干しそば」「濃厚そば」は、それぞれに熱烈なリピーターがいます。店長の大川真弘さんは、かつての修行先「麺処 晴」で培った経験をもとに、独自のアイデアで煮干しそばをつくる人物です。

「煮干しそば専門店を開店するにあたって、自分にしかできないものをつくろうと思っていました。他店にはない特徴的な点は、香味油を混ぜたシソ油を塩ダレのスープに入れていること。煮干し特有のえぐみ、苦味、しょっぱさが消えて、味に清涼感が出てくるんです」

「煮干しそば」「塩煮干しそば」のスープは、2段階の工程に分けてつくっていると大川さんは言います。まずは、強火で炊かないと味が出ない煮干でスープをとる。次に、新しい煮干しが入っている寸胴にそのスープを入れてもう一度炊く。スープをスープで炊くことによって、煮干しの旨味を力強く引き出しています。

「スープづくりで肝心なのは煮干しの量。たくさん入れるとしょっぱくなりすぎるし、少ないとお湯っぽくなってしまう。その量を微調整しながら、煮干し感と旨味があるスープづくりを研究しました。日本人の舌は本当に繊細。今後もこれまで以上のギリギリのバランスを追求する必要がありますね」

ツルッとした食感が好評の『煮干しそば』と『塩煮干しそば』



「陽はまたのぼる」の煮干しそばは、レアチャーシュー、刻みたまねぎ、青菜、海苔がのっているのが基本的な形。“特製”を注文すれば、分厚い煮豚、煮たまごも追加されてボリューム満点です。このほかに、夏期限定の「冷やし煮干しそば」や、不定期販売の魚介系豚骨やつけ麺など、バラエティに富んだ「気まぐれ限定メニュー」も販売しています。さらに、煮干ラーメン専門店ではおなじみの「和え玉」にもこだわりが詰まっています。

「一般的な煮干しラーメンは歯応えのある低加水の麺が主流です。当店の『和え玉』はこの流れを汲んだ細麺を使っています。「『煮干しそば』と『塩煮干しそば』は、しなやかで加水率も高めで、子どもからお年寄りまで食べられる麺です」

「和え玉」は、タレと油が染み込んだ歯応えのある細麺に、煮干しの魚粉、たまねぎ、チャーシューの細切りがのったメニュー。塩ダレ・醤油ダレと選べるうえ、まぜそば感覚で食べたり、つけ麺として食べたりと楽しみ方は自由自在です。

サラリーマンを中心に、多くのお客様に愛される「陽はまたのぼる」。その理由は、綾瀬という街に起因するのではないかと大川さんは分析します。

「このテナントは以前、濃厚つけ麺専門店でした。そういった個性的なラーメンを食べる土壌が整っていたからこそ、当店の煮干しそばも受け入れられたのかもしれません。今後は、『綾瀬と言えば“陽はまたのぼる”だよね』と多くのお客様に思ってもらえるように、すべてのメニューのクオリティを高めていきたいと思います」

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今回取材した4店舗。シソ油と合わせてえぐみや苦みを消す、難易度別に煮干しの味の濃さを設定したメニューを構成する、特定の産地にこだわる、常に新しいものを取り入れて試食会をするなど、そのこだわりは様々でした。一方で共通していたのは、煮干しラーメンのクオリティを高め、新しい可能性を広げていきたいという想い。この飽くなき探究心こそが、リピーターを獲得するための不可欠な要素なのではないでしょうか。シンプルだからこそ、そこには奥深い世界がありました。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年9月)のものです

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