
イタリア料理を代表するメニューであり、日本でも人気メニューのひとつである「パスタ」。近年では、独自性のあるパスタ専門店も増加傾向にあり、こだわりのパスタを楽しむことができます。そこで今回は「気になる!注目パスタ」と題して、都内で話題のパスタ専門店4店舗を取材し、各店の工夫や考え方について話を聞きました。
NERORI(ネロリ)
2018年9月に吉祥寺でオープンした「NERORI」。“ネロリ”とはダイダイの木から取れる精油の名前。主な客層は子供連れの30~40代の女性客です。ひとつひとつの座席スペースが広く取られており、周囲を気にすることなく料理と会話を楽しめます。
NERORI(ネロリ)
- 住所
- 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-9-10
- 電話
- 0422-40-0331
- 営業時間
- 11:30~15:30/18:00~23:00
- 定休日
- 年中無休

味覚・嗅覚・視覚を刺激する「香りを楽しむ」コンセプト

※ディナータイムのみ提供・期間限定)
吉祥寺にある「NERORI」は、季節の食材・果物を使った料理と、香りにこだわったカクテルを揃えたオステリアです。「柿とゴルゴンゾーラのクリームソース」や「洋梨とズワイガニのアオーリオオーリオ」など、旬のフルーツをぜいたくに使ったパスタは「NERORI」ならでは。同店の「香りを楽しむ」というコンセプトの狙いについて、取締役を務める前澤邦夫さんに話を聞きました。
「香りというのは、料理そのものの香りだけではありません。料理に鼻を近づけることで、雰囲気や空間、空気感など、今まで気づかなかったことが感じ取れたりすることもあるんです。味はもちろん、嗅覚、視覚などから伝わる情報も楽しんでほしいですね」

2018年冬季であれば、「ゴールドキウイと芽キャベツのジェノベーゼクリーム コンキリエで」を販売。ゴールドキウイの香りと爽やかな味わいが特徴のクリームパスタです。芽キャベツには焼き目をつけ、外はカリッ、中はフワッとした食感。コンキリエというモチモチとしたショートパスタが濃厚なジェノベーゼクリームとよく絡みます。
「当店では淡路島の製麺業者の生パスタを使用しています。乾麺と比べて伸びにくく、時間が経っても歯応えが残ります。友人や家族と来店して会話を楽しみながら、ゆっくりと料理を味わいたいお客様でも最後まで美味しく食べられますよ」

一番人気の“ウニボナーラ”で間口を広げる
一番人気のメニューは「雲丹でウニボナーラ ペコリーノロマーノの薫り」。クリーミーな味わいのペコリーノロマーノチーズと磯の香りが相まったカルボナーラです。
「『ウニボナーラ』は、パスタの定番ともいえるカルボナーラに雲丹がのっているので、お客様にとってもイメージがしやすい味。初めて来店する方でも安心して注文できる定番メニューだと思います。この料理をキッカケに当店に足を運んでくれるようになったお客様が、次の来店時に果物系のパスタを頼まれることも多いですね」
昼と夜とで盛り付けが変わるのもNERORIのパスタの特徴。ランチタイムでは、サラダとパンを添えたワンプレートで。ディナータイムには2人前の大皿でパスタを提供しています。

「NERORI」をオープンして半年。当初はハイセンスな店づくりを考えていましたが、現在は居心地がいいカジュアルな雰囲気に方向転換。今後も吉祥寺という土地柄のニーズに適応しながら、「NERORI」のブランドを広めていきたいと前澤さんは言います。 「吉祥寺には、渋谷・代々木などと並んで、人が集まりやすくブランドの発信力が強いイメージがあります。この土地柄を活かして、今後はテイクアウトやネット販売でも、当店ならではのブランドをどんどん発信していければと考えています。『香り』を入り口として、味、食感、ビジュアルを楽しめる当店のメニューを、一人でも多くの人に楽しんでいただきたいですね」

BIGOLI(ビゴリ)
東京・イオン品川シーサイドの地下にあるボロネーゼ専門店「BIGOLI」。店名の“ビゴリ”とは、チューブ型の押出成形でつくられる高級パスタのこと。高級感とボリューム感あるパスタがフードコートで手軽に食べられると評判を呼んでいます。
BIGOLI(ビゴリ)
- 住所
- 東京都品川区東品川4-12−5 イオン品川シーサイドB1F フードコート内
- 電話
- 03-6433-2662
- 営業時間
- 月曜〜金曜11:00〜21:00(L.O 20:30)
土曜・日曜・祝日10:00~21:00(L.O 20:30) - 定休日
- 無休(イオン品川シーサイドの営業に準ずる)

求めるのはリストランテのクオリティ。質と量を両立したボロネーゼ


「BIGOLI」は、リストランテの美味しいボロネーゼを大盛りで提供したい、という想いから始まったボロネーゼ専門店です。
「ボロネーゼは肉の旨味を味わう肉料理ですが、日本ではミートソーススパゲティと混同されがちです。だからこそ『これがボロネーゼです』という本場の味わいを提供したいと考えています。そのために大事にしたのが基本のソースです。たまねぎ、ニンジン、牛肉を、一滴の水も使わずに赤ワインで36時間煮込んでいます」
専門店だからこそできる贅沢なソースで味わうのは、日清製粉のデュエリオを使った自家製打ち立て麺「ビゴリ」。北イタリア名産のチューブ型の押出成形でつくられるプレミアム生パスタで、モチモチの極太麺は食べ応え抜群です。質と量を両立したボロネーゼの狙いについて、代表取締役の石川潤治さんに聞きました。
「当店のボロネーゼの特徴は、『サラダもスープもつきませんが、麺量はガツンと多い』ということ。パスタといえば女性に人気の料理ですが、もっと男性にも食べてもらいたいということを目指しました。そのため、価格設定はラーメン店を意識してどのメニューも700~1000円程度。注文を受けてから5分で提供できるので、忙しいサラリーマンでもササッと食べられます」
パスタの麺量は120g前後が一般的ですが、「BIGOLI」のレギュラーサイズは倍の240g。このほか、120gのSサイズ(-50円)、360gのLサイズ(+250円)、480gのXLサイズ(+500円)も販売しています。
調理工程はシンプルかつ手短に。鍋ひとつでつくれる「BIGOLI」のパスタ
看板メニューは「熟成チーズのボロネーゼ」。山のようにふわっと盛った手削りの高級熟成チーズの香りが際立ちます。このほか、コクと旨味が魅力の「イカスミ」は一般的なお店と比べ4〜5倍多いイカスミを使った“地球上最も黒いボロネーゼ”を掲げる一品です。
このほか、「カレー」「メキシカン」「トリュフ」など、ベースはボロネーゼでありながらも味のバリエーションが豊富で、選べる楽しさも魅力のひとつです。
「当店のソースはベースがしっかりしているので、何と組み合わせても相性がいいんです。当初は『オリジナル』だけだったんですが、現在は10種類以上のメニューを販売中です。生卵や刻みのりなどのトッピングもありますので、自分だけの楽しみ方を追求することができますよ」

メニューは多くとも、調理工程はシンプルかつ手短。鍋ひとつあれば調理経験がないスタッフでも簡単に調理できるという点を活かして、今年3月から他店舗にソースと麺を提供するメニューライセンス制度も開始しています。
もちろん、旗艦店でもある品川シーサイド店でも更に認知度を高めるべく、売り上げを3倍に伸ばしたいと石川さんは言います。
「売り上げを伸ばすためには、何よりもファンを増やしていくことが大切です。そのためには丁寧な接客を続けることと、積極的なSNSの活用を心がけています。最近では、Twitterを活用して当店のフォークをプレゼントするキャンペーンを実施して大盛況でした。お客様が快適に楽しく過ごせる環境を整えることで、少しずつでもファンは増えていくものだと信じています」

talatala・taracco(タラタラ・タラッコ)
東急東横線代官山駅から徒歩30秒の場所にある「代官山地下グルメ街」。ここで、たらこパスタ専門店として勝負するのが「talatala・taracco」です。人気スポット・代官山の買い物帰りの女性客を中心に人気を集めています。
talatala・taracco(タラタラ・タラッコ)
- 住所
- 東京都渋谷区代官山町20-20 モンシェリー代官山B1F 代官山地下グルメ街内
- 電話
- 03-6455-0088
- 営業時間
- 11:00~21:00
- 定休日
- 無休(代官山地下グルメ街の営業に準ずる)

市場調査と食べ歩きで辿り着いた、たらこの質と冷凍麺

たらこパスタといえば、バターやマヨネーズとたらこをパスタに和えるだけでも、簡単に美味しく楽しめる料理です。その手軽さから、多くの家庭でも愛されています。そんなたらこパスタのあらゆる可能性を追求した専門店が「talatala・taracco」。同店取締役の大久保謙作さんは、業界一のたらこパスタ通としてメディア出演も多い人物です。多くのお客様の心を掴むたらこパスタの魅力について教えてもらいました。
「まず着手したのが、アルバイトでも美味しくつくれるレシピ開発。その秘訣は、冷凍の太麺を使うことでした。一般的なパスタは1.4~1.6cmあたりの幅ですが、当店は2.2cmほど。のどごしもよく、たらことの相性がとてもいいんです。冷凍麺なので30秒で茹であがりますし、茹ですぎても柔らかくなりすぎることがありません。時間が経っても歯応えが残るので、テイクアウトでも美味しく食べられますよ」

市場調査でさまざまな料理を食べ歩き、メニュー開発や食材選びのヒントを得たという大久保さん。たらこについても数多くのメーカーを試食。値段が高ければ質がいいはず、という考えではなく、バターや麺との相性を重視して選びました。
「一番人気のメニューは『たらことイカのペペロンチーノ』です。たらこをフライパンで軽く炒めることで風味を出しています。プチプチとしたたらこと、コリコリとしたイカが麺と絡むので、多彩な食感が楽しめる一品です」

たらこパスタの業界規模を育てていきたい
個性的なメニューとしてリピーターの心を掴むのが、「たらことトマトのジェノベーゼ」。バジルベースのパスタを囲むようにトマトを添え、中央にたらこを盛り付けます。まずはインスタ映えするビジュアルを楽しんでもらい、その後にたらこをパスタ全体になじませて味わうメニューです。
「当店では、常に目新しさを感じていただくために、「気まぐれパスタ」という月替わりの限定メニューも販売しています。2月は『ダブルタラコかりかり梅 オニオンスライス』でした。たらこは、梅干しやおかかなど、ご飯に合う食材と相性がいいんです。うまくいかないことももちろんありますが、研究・改良を重ねて楽しんでつくったものをお客様に提供していきたいですね」

定番のバター系だけを見ても、「バターレモン」「バターミモザ」「バターしょうが」「バターカリカリ梅」「バター濃旨」などといくつもメニューが分かれ、トッピングとの組み合わせを含めれば、これまでに提供したメニューは100種類以上に及びます。
このように自身の大好物であるたらこパスタを研究することで、多くの人にその魅力を伝えていきたいという大久保さん。今後は「talatala・taracco」を広くフランチャイズ展開していきたいと語ります。
「当店の営業スタイルは設備投資もそれほどかかりませんので、高額な加盟金や細かいマニュアルを出すことなく、気軽な形で仲間を募りたいと思っています。メニューはトッピングも含めれば100種類以上の組み合わせがありますが、それでも開発の余地はまだあります。仲間同士で新メニューを開発して刺激しあうことで、たらこパスタの業界規模を育てていきたいと思います」
Base(バーゼ)
東京メトロ丸の内線茗荷谷駅から徒歩8分の場所にある手打ちパスタ専門店「Base」。イートインスペースでパスタを提供するだけでなく、プロの調理人や調理の仕事に携わる人を中心にパスタ打ちのレッスンも行うなど、業界活性化も目指しています。
Base(バーゼ)
- 住所
- 東京都文京区小石川5-34-10 長島ビル1F
- 電話
- 03-5844-6992
- 営業時間
- 12:00~14:30/17:30~22:30
- 定休日
- 日曜

パスタの食感を伝えることを重視した「タリアテッレ」

「Base」はプロの調理人をターゲットに、イタリア・ボローニャのパスタ打ちに受け継がれる伝統技術を普及するため、「製麺教室」「飲食店への卸」「イートインサービス」を提供しています。
同店の“パスタ打ち”河村耕作さんは、ボローニャのパスタ学校で手打ちパスタを学び、地元レストランで製麺を担当。さらに、現地のパスタ学校でプロフェッショナルコースの講師を務めた人物です。アメリカのイタリアンレストランの開業に携わった後、2014年に帰国し、2015年に本格手打ちパスタ工房“Base”を開業しました。


「イタリアから帰ってきて感じたことは、日本のパスタにおけるアルデンテ信仰の強さ、そして、麺よりもソースや具材をいかに美味しく食べてもらうか、という意識が強いことでした。でも、アルデンテが全てではないんです。どんな麺で勝負してもいい。大事なのは、求める食感を考えた時、なぜその作業が必要、または不要なのかを知ること。それを共に話し合い考える場としてBaseを開業しました」
イートインサービスのパスタのメニューは「タリアテッレ」と「トルテッローニ」の2種類です。
「『タリアテッレ』の味付けはパルミジャーノ・チーズ、コショウ、オリーブオイルのみ。美味しいか・美味しくないかということ以上に、パスタの食感、柔らかさを感じ取ってほしいですね。気温や水分の含有率で違いはありますが、食べ頃はつくってから5日以降。小麦粉の外皮が酸化して麺に黒い点々が出てきたときが頃合いです」
シンプルな味付けと柔らかい食感。技術と個性が詰まった「トルテッローニ」
「パスタの製麺で大切なことのひとつは湿度と気温。工房とイートインスペースをつなぐ窓を開けて、それぞれの部屋の冷暖房で風を通しています。湿度は低ければ低いほどいい。気温は大体23℃くらいの調整ですが、乾燥しているのであればもっと高くても大丈夫です」
2018年5月から販売した「トルテッローニ」は、3種のチーズとほうれん草の入った詰め物パスタです。
「『トルテッローニ』は僕の個性と技術が多分に入ったパスタです。舌と顎が疲れないように、シンプルな味付けと柔らかい食感にしています。本来のパスタはあくまでも食卓におけるコースのなかの一皿です。『もっと食べたい』と思ってもらえるように製麺しています」


ボローニャで学んだパスタ打ちの技術を、これまで多くの生徒に伝えてきた河村さん。製麺に携わる者同士が技術を話し合い共有することで、日本のパスタが本場イタリア人も認めるレベルに発展していけばいいと語ります。
「『Base』のイートインスペースは、試食という形で伝統的な手打ちの技術をご覧頂き、また、意見の交換を行うための場所です。工場打ち・機械打ち・手打ちに捉われず、製麺する人々がその個々の理想の食感を意識し技術を磨くことで、また次の段階のパスタ文化を作ることが出来るのだと思います」
「香り」「ボリューム満点なリストランテのクオリティ」「たらこパスタの新しい可能性」「製麺技術」と、今回取材した4店舗が伝えたいパスタの魅力はそれぞれでした。一皿のなかで、お客様になにを感じ取ってほしいのかを考え抜くこと。それこそが顧客満足度を高める秘訣なのかもしれません。今後もますます日本のパスタは発展していくのではないでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年04月)のものです