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それぞれのトマトラーメン

低カロリーなのに栄養価が高く、さまざまな料理とも相性抜群の野菜、トマト。健康志向、自然派志向の流れを受け、ラーメン業界でもトマトを使ったメニュー開発は注目を集めています。そこで今回は、トマトを使ったラーメン・つけ麺を提供する4つの店を取材し、調理法や他店にはない工夫・こだわりについて、それぞれお聞きしました。

カッパ64

東京都福生市に店を構える「カッパ64」。「個性を活かした、イカした店づくり」をモットーに、さまざまな個性的メニューを提供し続けている人気店です。カウンター席の奥には円卓席も用意され、ファミリー層にも居心地のいい空間を提供しています。

カッパ64

住所
東京都福生市北田園1-6-9
電話
042-553-8449
営業時間
平日 11:00~15:00/17:30~21:00
土曜・日曜・祝日 11:00~16:00/17:30~21:00
定休日
なし
JR青梅線牛浜駅から徒歩12分の場所にある「カッパ64」

自家製豚骨スープとトマトを合わせた「とまとらーめん」

一番人気の「とまとらーめん」(税込750円)

コンセプトは“気軽に美味しく面白く”。モットーは“個性を活かした、イカした店づくり”。そんな「カッパ64」では、「とまとらーめん」「とまと味噌つけ麺」「シーフードラーメン」「レモンラーメン」のレギュラーメニューに加えて、ユニークな限定ラーメンも販売しています。

「東京の郊外にあり、駅からも少し距離がありますので、立地的に何かのついでに来てもらえるわけではありません。わざわざ足を運んでもらえるよう、定期的に限定ラーメンを販売しています」

そう語るのは店長の田中宏樹さん。これまで提供してきたさまざまな個性的メニューのなかでも、圧倒的一番人気が「とまとらーめん」で、5割以上のお客様が注文するという看板メニューです。

店長の田中宏樹さん

「当店の『とまとらーめん』のスープには、自家製の豚骨スープを合わせています。ニンニクや唐辛子も入っていて、まったりとしていながらもコクのある味わい、ほんのりとした辛味の先にトマトの酸味・甘みを味わえるのが特徴です。辛さがもっと欲しいというお客様は、卓上のタバスコをかけてアレンジしていただくことも可能です」

「とまとらーめん」に合わせる麺は、毎朝、店で打っている自家製麺です。心地いい歯触りがありながら、つるつるっとした舌触りも楽しめるこだわりの細麺は、トマトスープともよくからみます。

「伸びにくい小麦粉を使っているため、茹でたての食感を最後まで楽しむことができます。それと替え玉も人気です。タレと脂をコーティングしている麺なので、残ったスープをレンゲ3杯ほどかけて、油そば風にして食べるのもオススメです」

大切なのは“目新しさ”と、“地域に愛される店”であること

「とまとらーめん」に加えて、「とまと味噌つけめん」も好評のメニューです。

「つけ汁のベースはトマトラーメンと同じですが、味噌だれに牛の油を入れて、食欲をかきたてる香りとコクを引き出しています。つけ麺で提供するのは極太麺です。モッチリとした食感と小麦粉の風味を楽しんでいただければと思っています。細麺でも使う小麦粉とうどんの強力粉に、少しだけ全粒粉を混ぜているのが特徴です」

サイドメニューのなかでは「チーズご飯」も人気の一品。提供する直前に表面をバーナーで炙ることで、チーズはしっかりとろけた状態になり、香ばしさが食欲をそそります。とまとらーめんのスープをかければ、トマトチーズリゾットさながらの味わいに。当然、トマトとチーズの相性は抜群です。

とまと味噌つけ麺 (税込800円)

「大切なのは常に目新しさを提供し続けること。私がこのお店に入ったのも、他店にはないユニークなアイデアに憧れたからなんです。これからも新しい角度から、美味しさと感動をお客様に提供していきたいと思っています。常連さんはやっぱり地域の人が多いです。学生時代から来ていた方が、社会人になってからも足しげく通ってくれるのは嬉しいですね。これからも、目指すのは地域に愛されるお店です」

店内

つけ麺 五ノ神製作所

東京青梅市で絶大な支持を集める名店「らーめんいつ樹」。その流れを汲むのが新宿に店を構える「つけ麺 五ノ神製作所」です。海老つけ麺専門店としてメディアで取り上げられることも多く、営業時間前から行列ができる人気店です。

つけ麺 五ノ神製作所

住所
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-33-16
電話
03-5379-0203
営業時間
11:00~21:00
定休日
無し
新宿駅から徒歩4分の場所にある「つけ麺 五ノ神製作所」

「夏に旬を迎える食材×海老つけ麺」の組み合わせ

海老トマトつけ麺(税込950円)
副代表の荻野仁志さん

2007年に新宿でオープンした「つけ麺 五ノ神製作所」。本店「らーめんいつ樹」でも人気のあった「海老つけ麺」に特化し、本店よりも海老味をより前面に出した味わいが人気です。そんな看板メニューの「海老つけ麺」に負けず劣らず女性ファンが多く、夏に人気が伸びるのが「海老トマトつけ麺」です。

「当店が日頃から大切にしているのが、つけ汁・麺・トッピング、それぞれが主役であること。どれかひとつが引き立て役であるということはなく、合わせたときにケンカをしないというつくり方なんです。麺だけで食べても美味しいし、それをつけて食べるとより美味しいという発想です」

そう語るのは、副代表取締役の荻野仁志さん。「海老トマトつけ麺」は、夏に旬を迎える食材と海老つけ麺を組み合わせて、新しいつけ麺をつくりたいという思いがきっかけで生まれたメニューだと言います。フランス店で修業していた初代店長の知識と経験をつぎ込み、『海老つけ麺』に洋のテイストを肉付けして完成しました。

「開発当初はトマトソースづくりに苦労しました。ホールトマト缶を使うのがいいのか、ダイスカットされたトマトの方がいいのか。悩んだ末に自分たちの手で一からトマトソースをつくることにしました。海老の味を活かしながらトマトの甘み・酸味をしっかり残せるようにニンニクやプチトマトを加えています」

麺、バゲット、バジルご飯。トマトスープの旨味を様々な形で

「麺は太めのストレートで、昭島の工場から直送している自家製麺です。コシがあって小麦の風味を感じられるのが特徴です。強力粉と全粒粉、あとは企業秘密になりますが、ラーメンでは本来使わない粉も使っています」

自家製麺の横に添えられているのは、スライスしたバゲットとバジルソースです。バゲットをスープにディップして食べれば、バゲットの小麦の風味とともにトマトと海老の濃厚な味わいが口いっぱいに広がります。パスタの世界ではおなじみのバジルソース×トマトの組み合わせの妙はつけ麺であっても変わることなく、麺と和えることでしっかりイタリアンテイストな味わいを楽しめます。サイドメニューのバジルご飯にスープをかけてリゾット風に楽しむなど、トマトスープの旨味を様々な形で堪能することができます。

海老トマトつけ麺(税込950円)+モッツァレラチーズトッピング(税込200円)+バジルご飯(税込200円)

国内直営店の4店舗に加えて、台湾にも展開するなど、その味の魅力はすでにワールドワイド、ともいえる五ノ神製作所。今後もスタッフ全員が味の追求を続けながら刺激し合うことで盛り上げていきたいと荻野さんは語ります。

「当店のメニューは『海老つけ麺』『トマト海老つけ麺』『海老味噌つけ麺』のラインナップですが、すべてのベースは代表の伊藤真啓が考案し、それを各店舗で肉付けしていく形です。たとえば、エビの風味を引き出すスープができたら店舗間でスープを共有し、それを元にさらに美味しいスープづくりに励んでいます。今後も、店員一丸となって、お子さまからお年寄りまで、『五ノ神』と聞いたら『あぁ、あそこね』と思えるような店を目指していきたいと思います」

店内

ディップインヌードルバー

渋谷駅からひと駅、神泉に店を構える「ディップインヌードルバー」。ビール、カクテルなどのリキュールに加えて、おでん(冬季のみ)や生姜焼きなどの料理も充実。周囲にはオフィスビルも多く、夜は多くのビジネスマンが来客する居心地のいいバーとして人気です。

ディップインヌードルバー

住所
東京都目黒区青葉台3-1-18
電話
03-6416-1236
営業時間
月曜~土曜 19:00~26:00(L.O.25:00)
日曜・祝日 19:00~23:00(L.O.22:30)
定休日
不定休
渋谷駅からも歩ける距離にある 「ディップインヌードルバー」

お酒の〆にも最適。女性客からの支持も高いトマトヌードル

チリトマトヌードル(税込1,160円)

「ディップインヌードルバー」の看板商品として人気を博すのがトマトスープのつけ麺「トマトヌードル」です。低カロリーでお酒の〆として気軽に食べられるとあって、男性客だけでなく女性客からも好評を得ています。その人気の秘訣について、代表の長谷川惠太さんに聞きました。

「オープン当初から『トマトヌードル』は人気メニューでした。世界で最も消費量の多い野菜であるトマトと多様な形で受け入れられている麺をかけあわせることで、幅広い層から支持されるのではないかと考えたのが開発のキッカケです。お酒の〆としてももちろん、洋でも和でもないオリジナリティの高い料理ですので、トマトヌードルだけを食べにくるお客様も多くいらっしゃいます」

代表の長谷川惠太さん

スープは有機トマトがベースで、脂分はとても少ないものの、オクラが入っているためトロみがあります。翌朝、胃がもたれないからと、チャーシュー、ブロッコリーの入ったスープを飲みきってしまう人もいるといいます。

「辛さはピリ辛の『トマトヌードル』、辛口の『チリトマトヌードル』、激辛の『レッド』の3段階です。唐辛子をベースに調合した独自のスパイスを使うことで、辛さと旨味が共存できるように調整しています。『レッド』はかなり汗の出る辛さだと思いますが、もっと辛くしてほしいというリクエストにもお答えしていますよ」

人気の温玉トッピング(+税込108円)

世界中で愛されているトマトという食材のポテンシャル

オープンしてから5年。当初は小麦感が強い太麺を使っていましたが、製麺所と打ち合わせを重ねて、ようやく現在の麺にたどり着いたと言います。

「製麺は埼玉の老舗メーカーにお願いしています。タピオカを練り込んだツルツルとした食感が特徴で、女性客も多いことから、カロリーを抑えつつ、すすりやすいように短めの長さにしています」

チーズや温玉などの人気トッピングのうち、温玉はスープに入れるのではなく麺に和えて食べるのがこの店の流儀です。麺の甘みとスープの辛さとのコントラストがより際立ち、味わい深くなります。

サラリーマンやOLを中心に多くの人に愛されているディップインヌードルバーの「トマトヌードル」。今後はこの「ディップインヌードルバー」のほかに、表参道にあったトマトラーメン専門店「トマトマン」を別の場所でリニューアルオープンする予定です。

「豚骨ラーメンや醤油ラーメンは世界でも認知度を高めていますが、トマトラーメンとなるとまだまだ知られていません。でも、世界中で愛されているトマトという食材のポテンシャルを考えれば、日本だけでなく、海外でも新たなニーズを創造する可能性があると思います。この『ディップインヌードルバー』や『トマトマン』でトマトヌードルの魅力を日本のお客様に広めていくとともに、海外にも進出したいですね」

店内

プルーカフェ

地下鉄有楽町線銀座一丁目駅から徒歩1分、赤いドアが目印のカフェ&バー「プルーカフェ」。定番の喫茶店メニューや豊富なアルコールとともに、本格的なラーメンが食べられるとあって、ビジネスマンを中心に昼も夜も絶えず人気を集めています。

プルーカフェ

住所
東京都中央区銀座1-14-9
電話
03-3535-0516
営業時間
月曜~金曜 11:30~23:30
土曜・日曜・祝日 11:30~20:00
定休日
不定休
東京・銀座に店を構える「プルーカフェ」

100軒以上の店を食べ歩いてヒントを得た鰹出汁

トマトラーメン(税込1050円) ※ランチタイムのドリンクセット価格

古くからの喫茶店も、最先端のカフェも数多く軒を連ねる銀座にあって、“ラーメン”で人気を博す喫茶店……それが「プルーカフェ」です。喫茶店の定番メニューも数多く揃えていますが、文字通り“看板メニュー”として店頭で掲げる「山形水ラーメン」、そして「トマトラーメン」を求める客で賑わいを見せています。

「大切にしているのは、人から見聞きした情報をひとつずつ丁寧に検証すること。『山形水ラーメン』や『トマトラーメン』に使う鰹出汁には自信があります。当店は喫茶店ですが、専門店に負けないくらい出汁の研究を重ねてきました。ライバルは老舗の蕎麦屋ですね」

そう語るのは、「プルーカフェ」の代表取締役・中山惠一さん。100軒以上のラーメン店を食べ歩いて、鰹出汁のヒントを得たと言います。

代表取締役の中山惠一さん
看板メニューの「山形水ラーメン」(税込:1050円※ランチタイムのドリンクセット価格)

「山形のご当地グルメに冷やしラーメンというものがあります。いくつか食べたなかで印象に残ったのが80代のおばあちゃんが切り盛りする蕎麦屋の冷やしラーメンでした。蕎麦屋なので、豚骨や鶏は一切使わず、煮干しの風味が際立っていたんです。そのときの味わいを自分なりに探求して当店の鰹出汁が生まれました」

メディアでも紹介され、対応しきれないほどの行列も生んだというこの「山形水ラーメン」に対して、固定ファンが多いというのが「トマトラーメン」です。鰹出汁とトマトソースの相性がいいというテレビの特集を見たことがメニュー開発のきっかけでした。

「苦労したのはトッピングです。トマトと鰹出汁の相性は確かにいいんですが、煮たまごやメンマなどのラーメンの定番のトッピングは合わない。そこで、モッツァレラチーズ、ベーコンを入れて、イタリアンテイストに切り替えたことで、お客様の心を掴めました」

トマトスープの味の決め手は、素手でトマトを潰すこと

トマトベースのスープは、ガーリックオリーブ、ジェノベーゼソースが入っていてコクのある味わいが特徴で、完飲するお客様も多いと言います。

「トマトソースをつくるのは2日に1度くらいの頻度で、専門のスタッフがひとり、素手でトマトをつぶすところから始まります。イタリアで出会ったおばあちゃんから学んだ方法で、手袋を使ったり、何人かで手分けしてやるよりも、ひとりが素手でやった方が断然、トマトの味がまろやかになって美味しいんです。缶詰に頼ってみたり、トマトの皮を剥いてから仕込むなど、人から聞いたいろんな調理方法を試してみましたが、この方法が一番納得のいく味になりますね。おふくろの味噌汁が一番美味しいのと一緒で、イタリアのおばあちゃんの知恵、恐るべしですよ」

麺は、「山形水ラーメン」と同じく中太の縮れ麺。スープとモッツァレラチーズとの絡みも抜群です。

トマトラーメン(税込1050円) ※ランチタイムのドリンクセット価格
店内

お客様を飽きさせないために、レシピ改良にも常に取り組んでいると語る中山さん。今後も、見聞きした情報の吟味・検証を繰り返して、納得のいくメニューを提供していきたいと言います。

「出汁をとる食材もよく変えています。最近であれば、鰹節ではなく、鮭節を使ったりもしています。マイルドで豊かな香りが特徴ですが、これがとても美味しいんです。改良できるポイントを見つけて手探りで正解を追求することで、『トマトラーメン』だけでなく、すべてのメニューのブラッシュアップにつながっていくと信じています」

ひとくちに「トマトラーメン」といっても、今回取材した4店舗は、ラーメン店、つけ麺専門店、バー、喫茶店(カフェ)と業態は様々。扱うトマトの種類はもちろん、調理法もそれぞれ千差万別でした。その一方で、共通していたのは、常に味の追求を続けていきたいという情熱と、飽くなき向上心です。日本の新ソウルフードともいえるラーメンと世界中で人気のトマト。そこにつくり手の探究心が掛け合わさることで、トマトラーメンの可能性もより広がっていくのではないでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年05月)のものです