
夏の風物詩、ともいえる麺料理といえば「そうめん」を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。サッと茹でて麺つゆで食べられる手軽さから家庭料理の印象が強いそうめんですが、最近では新たな価値を伝える「そうめん専門店」を掲げる店もでてきています。そこで今回は、関東で人気を博す「そうめん専門店」を3店舗取材し、専門店ならではの工夫、メニュー展開など、そうめんの魅力についてお聞きしました。
そうめん専門店 そそそ
JR山手線恵比寿駅から徒歩3分の場所に店を構えるそうめん専門店「そそそ」。小豆島のそうめん「島の光」を使った創作料理が楽しめる店には、オシャレな外観・内観もあって、女性客を中心に盛況をみせています。
そうめん専門店 そそそ
- 住所
- 東京都渋谷区恵比寿西1-4-1
- 電話
- 03-6416-9284
- 営業時間
- 日曜~木曜 11:30~15:00/17:00~24:00
金・土・日曜・祝日 11:30~15:00/17:00~28:00 - 定休日
- 不定休

麺つゆにつけなくても甘さが伝わる「つけそうめん」


日本三大そうめんの産地に数えられる香川県・小豆島の手延べそうめん。なかでも「島の光」は約400年の歴史を持つ伝統ある逸品で、小麦の上品な香りとツルッとしたのどごし、コシの強い食感が特徴です。
2018年1月に恵比寿でオープンしたそうめん専門店「そそそ」は、シンプルな「つけそうめん」、冬に食べたくなる「あったかそうめん」、お酒のつまみとしても楽しめる「パリパリそうめんサラダ」「納豆高菜そうめん巻き」など、さまざまな形で「島の光」の魅力を伝えています。
「もともと当店の系列である創作和食の店『楚々』で〆の一品として『島の光』を提供していました。そこで人気が出始めたときに、そうめん専門店を出したいという考えが浮かんで、この『そそそ』開業に至りました。来店されたお客様が今まで以上にそうめんを好きになって帰れるように、日々メニュー開発に取り組んでいます」
そう語るのは同店の代表・安藤成子さんです。家庭料理としてのそうめんは、氷水で冷やして麺つゆにつけるのが一般的ですが、「島の光」は麺単体でもその美味しさが十分に伝わるそうめんだと言います。
「当店の『つけそうめん』は、麺つゆにつけずに食べれば小麦の甘さが実感できると思いますし、麺つゆではなく、塩やオリーブオイルをかけてみると甘みがより引き立ちます。食事としてだけでなく、おつまみとしても人気ですよ」
そうめんの通常サイズは1.5束とボリューム満点。ディナータイムにはハーフサイズも提供していて、ハーフで何種類かのメニューを頼んでシェアする楽しみ方も人気です。


求めるのは「こうやって食べても美味しいのか!」という意外性
季節に応じてさまざまな創作メニューを展開する「そそそ」。一番人気のそうめんは「ふわふわ釜玉」です。
「『ふわふわ釜玉』は卵白をフワフワのメレンゲ状にして濃厚な黄身をのせた一品です。細いそうめんにも卵がよく絡むように研究を重ねてきました。小豆島の老舗醤油屋『金両醤油』製のだし醤油をかけることで、旨味のあるまろやかな食感を味わえます」
「明太クリームそうめん」も安藤代表イチオシのメニューのひとつ。コクがあって濃厚な明太クリームは「島の光」との相性が抜群で、麺とクリームがしっかりと絡みます。冬には「豚とおあげと九条ネギのカレーそうめん」「Kara辛そうめん」、季節限定の「鍋焼きそうめん」などの売り上げも好調です。



そうめんの美味しさをさまざまな形で伝えていきたいという安藤さん。リピーターの心をつかみ続けるために大切にしているのは『こうやって食べても美味しいのか!』という意外性です。今後も新たなメニュー開発を続けながら、多くの人にそうめんの美味しさを伝えていきたいと語ります。
「昨年、ニューヨークのど真ん中で流しそうめんを実施したことがありました。お箸を上手に使ってゲーム感覚で楽しんでくれて、いつの間にか人だかりができるほどの盛況ぶりでした。日本の国民食ともいえるそうめんですが、国境を越えても全ての人に愛される美味しさが詰まっているんだと確信しています。今後は日本だけでなく海外出店も視野に入れたいですね」
阿波や壱兆
JR中央本線の東中野駅から徒歩30秒の場所にある「阿波や壱兆」は、徳島原産の「半田そうめん」を食べられるそうめん居酒屋です。そうめんだけでなく、徳島原産のリキュールやつまみ、さまざまなメニューで“徳島の味”が楽しめます。
阿波や壱兆
- 住所
- 東京都中野区東中野1-58-11 セリタビル103
- 電話
- 03-3363-7234
- 営業時間
- 11:00~29:00
- 定休日
- 不定休

すだちの美味しさを徹底的に引き出した「すだちそうめん」


四国山脈から吹き降ろす冷たい風と、吉野川の澄んだ水で作られる徳島県の特産品「半田そうめん」。職人の手によって丁寧につくられる高級麺で、一般的なそうめんが1.3mm程度なのに対し、1.4~1.6mm程度の太さでコシが強く、舌触りの良さが特徴的です。そんな半田そうめんを生かしたメニューを提供しているのが「阿波や壱兆」です。
「当店ではラーメンのようにつゆに麺が入った状態でそうめんを提供しています。また、擦りこんだ青柚子をつゆに入れるのもこだわりのひとつ。さわやかな風味があって美味しいんですよ」
そう語るのは店長の田中嘉織さん。徳島出身の田中さんは、小さい頃から慣れ親しんだ食べ方をベースに料理を提供しています。数あるメニューのなかでも夏に人気なのはすだちの皮も種も丸ごと味わえる「すだちそうめん」。薄くスライスしたすだちと一緒にそうめんを食べれば、やさしい酸味と冷たい食感が口の中に広がります。
「レモンよりも酸味がやさしいのがすだちの特徴です。また種と皮にはダイエット効果とアンチエイジング効果があるという研究結果も発表されています。冬の時期には仕入れ単価が3倍近く跳ねあがることもありますが、薄くスライスすることで皆さん全部食べてくださいますし、体にいいものだから、とがんばって提供しています。すだちの酸味を楽しめる『すだちサワー』も人気ですよ」
そうめんを食べた後のスープに投入して味わうのは、そばの実100%の「替え飯」(そば米)。冷飯・温飯の両方を販売しているため、冷たいそうめん・温かいそうめんのどちらでも楽しめます。


さまざまな食感に変化し、多様な具材とマッチする半田そうめん
日替わり・週替わりで提供してきたオリジナルそうめんはこれまでに800種類以上。半田そうめんは和洋中、どんな料理とも相性がよく、メニュー構成の懐の深さも魅力です。
「太めでコシの強い半田そうめんは、あらゆる麺類の中でもいろんなことに柔軟に応えてくれる麺だと思います。調理次第でパスタやラーメン、冷麺のように自在に食感が変化して、白米のようにどんな具材にもマッチします。とはいえ、そうめんは和の食文化。おつゆや出汁があってこそ美味しさが際立ちますので、創作メニューでは必ず和のお出汁をベースにします」
数あるメニューのなかでも、冬に好評を博すのが「阿波や壱兆温めん」。人気のご当地麺・徳島ラーメンのような濃厚な味わいにもかかわらず動物性油を一切使わず、低カロリーでヘルシー。お酒の〆としても食べやすいと評判です。

(税込50円)+「替え飯」(税込180円)

「温麺で人気のトッピングは自家製辛味噌。そうめんにたくさん入れてもしょっぱくならないのが特徴です。複数の種類を使った唐辛子が味のベースですが、水分代わりで使う甘味噌と白味噌をほんの少ししか入れていないので、塩分が低く抑えられているんです」
2019年7月で開店10年を迎えた「阿波や壱兆」。これまで以上に多くの人に半田そうめんを身近に感じてもらえるよう、あるプランを考えていると田中さんはいいます。
「今後は季節に関係なく、街角でいつでも半田そうめんを楽しめる『立ち食いそうめん店』のようなものを展開したいですね。半田そうめんを食べたことのある人もない人にも、新しい感動を届けられたらと思います」
小豆島 大儀
小豆島手延うどん・そうめんを中心に、小豆島や瀬戸内海の美味しい食材を使用した創作料理を提供する「小豆島 大儀」。東京で小豆島の味を広めたいと、銀座と高田馬場の2店舗を展開し、それぞれ人気を博しています。
小豆島 大儀 高田馬場店
- 住所
- 東京都新宿区高田馬場1-26-5 F1ビル2F
- 電話
- 03-3204-5531
- 営業時間
- 11:00~23:00(L.O.22:00)
※15:00から1時間程度の休憩時間あり - 定休日
- 無休

艶、コシ、旨味、のどごしも抜群。多加水仕込みの小豆島そうめん


瀬戸内海に浮かぶ小さな島ながら、小豆島は溢れんばかりの食文化を有しています。その代表食材ともいえる「小豆島手延そうめん」を提供するのが東京・高田馬場に店を構える「小豆島 大儀」です。
自慢の麺は、小豆島の自社工場でつくった自家製麺。「単一等級手延製麺技能士」を中心とした優秀な職人たちが四百年続く伝統技術で丁寧につくりあげています。小豆島出身の今村哲平総括マネージャーに「小豆島手延そうめん」ならではの魅力を聞きました。
「多加水仕込みの小豆島そうめんは、モチモチ感が際立ち、麺肌も滑らかです。艶、コシ、旨味、のどごしもいいですね。また、弊社のそうめんは国内産原料のみでつくっているため、国産の上質な小麦の甘みや香りが味わえます。当店のベテランの調理人によって調理されるそうめんメニューの数々を食べることで、今まで知らなかったそうめんの魅力に気づいてもらえると思います」
そうめん本来の味が楽しめる「岬のたらいそうめん」は温・冷どちらでも注文できるため、シーズンを選ばず人気の定番メニュー。つけ汁も、阿波尾鶏つけ汁とかつおいりこだしのどちらかを選ぶことができ、小豆島本場の味が楽しめます。
「そうめんといえば夏のイメージですが、実はにゅうめんこそ滋味深く、そうめんの香りや味を楽しめるものだと私は考えています。冬には土鍋でグツグツ煮込んだ視覚的にも温かみを感じられる季節限定メニューを販売していますし、夏でもにゅうめんは意外と人気があるんです」


小豆島の味を伝える観光案内所のような役割を目指して
にゅうめんのなかでも特に人気なのが看板商品の「鶏そうめん」です。一年寝かせてコシを強く熟成させた“ひね素麺”を使用し、スープは阿波尾鶏のガラを二日間かけて煮込んでいるため、鶏の旨味が堪能できます。コラーゲンもたっぷりとあって女性客からも好評です。
また、小豆島の特産品であるオリーブを飼料として育った「オリーブ牛」を使った「讃岐オリーブ牛そうめん」も、この店ならではの名物メニューです。
「小豆島のブランド牛『オリーブ牛』は、オリーブの実に含まれる豊富なオレイン酸で肉質が柔らかくなり、従来の肉牛と比べて濃厚な旨味があるのが特徴です。これらの良さを十分に際立たせるために、スープを少し甘めに味付けしています」


(税込1150円)
このほかにも、オリーブ牛の旨味がしっかり味わえる様々なおつまみも充実。刺身は瀬戸内海でとれた小豆直送の魚介類を使用するなど、麺類でもその他の料理でも、小豆島の食文化を堪能することができます。そこには、小豆島の味を東京のお客様に伝えるとともに、「小豆島観光案内所のような役割になれば」という狙いがあります。
「来店したお客様が関心を持って小豆島に旅行をする。旅行に行ったお客様が当店の料理を食べて思い出話をする。そんな店を目指しています。若者にも小豆島に興味を持ってほしい。そのきっかけになるように、銀座店・高田馬場店に続く東京3店舗目としてバル形式の出店も視野に入れています。こうした積み重ねによって、故郷がもっと賑やかになってほしいですね」
今回、3つのそうめん専門店の取材を通して、徳島の「半田そうめん」と香川の「小豆島手延べそうめん」という2つのそうめんとメニューを紹介しました。製法や太さ、コシ、のどごしなど麺の特徴を活かすには、どんなメニューにすればいいのか?どうすればそうめんの魅力を引き出し、お客様に喜んでいただけるのか?各店の工夫とこだわりが感じられました。日本全国にはさらに多種多様な乾麺があり、それぞれに伝統と職人技、手間ひまかけただけの価値ある品質を備えています。夏場だけでなく、季節を問わずに楽しめる麺料理としてまだまだ大きな可能性を秘めているそうめんの価値を、改めて考えてみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年08月)のものです