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お酒と楽しむパン

最近、パンに合わせてビールやワインを提供するベーカリーが話題になっています。今回は「パン飲み」を提案する関西の4店舗を取材し、お酒に合うパンの特徴や、製法の工夫、お客様の楽しみ方についてお聞きしました。

TANIROKU BAKERY PANENA

2018年11月オープン。下町の風情が感じられる谷町六丁目、通称“谷六(たにろく)”。運営しているのはイタリアンレストランを展開する会社で、ベーカリーの出店は初めてだそう。お酒に合う「あてパン」に特化し、ターゲットを大人に絞っています。パンとお酒は、一角にある小さなテーブルで楽しむことができます。

TANI ROKU BAKERY PANENA(タニロクベーカリー パネーナ)

住所
大阪市中央区谷町7-1-39 新谷第二ビル1階
電話
06-6777-1175
営業時間
10:00~19:00
定休日
月曜(祝日の場合は翌火曜)
谷町六丁目の「TANI ROKU BAKERY PANENA」

「あてパン」専門ベーカリー

手捏ねのくるみパン360円、グラスワイン400円~(すべて税込)
店長の横山和季さん

コンセプトは「子どもにはもったいない。お酒に合う大人のためのパン」。「子どもが寝静まった夜、お父さんやお母さんがゆっくりとお酒を楽しむ。そんなシーンに合う“あてパン”を」とオープンしたベーカリーです。
パンは常時30~40種類で、一番人気は、生くるみの甘みと香ばしさ、そして焦がしバターの風味が一体となった「手捏ねのくるみパン」。カリフォルニアくるみ製パンコンテストでグランプリを受賞した自信作です。他にも、自家製ベーコンとアンチョビのエピなど素材を料理のように組み合わせたパンをラインアップ。追求しているのは「パンでしか表現できない美味しさ」です。

「お酒に合うのは、歯切れの良いパン。サクッとした食感を出すため、生地は手ごねしています。具材は、チーズやオリーブなど香りが強いものをよく使います。クリームパンのカスタードクリームにも、グランマルニエというオレンジ系リキュールをたっぷり入れて大人向けにしているんですよ」と、店長の横山和季さんは話します。

ワイン、ビール、日本酒は珍しい銘柄をセレクト

(手前)自家製ソーセージのシュークルート400円、
(奥)めんたいペペロンチーノ200円、
オリジナルクラフトビール「その苦み、爽快につき。」580円(すべて税込)

店内での飲食は、片隅に置かれた小さな机でのスタンディングスタイル。お酒はグラスワイン400円~、ビールは580円~、日本酒はグラスで300円~(すべて税込)。ワインは赤、白それぞれ3~4種類で、系列店のソムリエがセレクト。ボトルでの販売もしています。
ビールはクラフトビールのみで6種類。鳥取県「大山Gビール」とのコラボで生まれたオリジナル「その苦み、爽快につき。」は、アメリカ産ホップ品種・シトラを使ったインディアペールラガーで、トロピカルフルーツを思わせる爽やかな苦みが特徴です。他に、大阪府の地ビール「箕面ビール」などあまり見かけない銘柄ばかりです。お酒はすべて、その場で飲むことも、購入することもできます。

(左)マカダミアショコラ200円、(右)ゴルゴンゾーラとくるみ360円、
(左奥)白ワイン「ブティ・ケープ・ハイツ シャルドネ」ボトル1,200円、
(右奥)白ワイン「バイカビノス・イ・ビニェードス アントニータ テンプラリーニョ ブランコ2017」ボトル2,100円(すべて税込)
茗荷(みょうが)250円、日本酒「鉄楽人 純米吟醸(奈良・梅乃宿)」
720ml2,600円(すべて税込)

お客さまとの会話で生まれる「ペアリング」

お客さまは半分以上がリピーター。遠方から通うファンも多いそうです。
「対面販売のため、お客さまと会話を楽しむことが多いですね。個性がはっきりしたパンばかりなので、赤ワインならこれ、日本酒ならこれ、とペアリングも提案しています」と、横山さん。「このパン、ビールとも合うわね」「食パンにオリーブオイルを塗ってフライパンで焼いたら絶品だったよ」など、お客さまから提案があるとスタッフで試してみて、またその味を他のお客さまにお話しすることもあるそう。

「“大人のためのあてパン”というコンセプトを明確にしたことで、お酒と一緒に楽しめるパンがほしいというお客さまのニーズを掘り起こせたと思っています。今後はパンの種類をもっと増やし、さらに当店の個性を強めたいですね」と、横山さんは語ってくださいました。

大人のためのあてパンが並ぶ店内

PaPa2 BAKERY

2018年5月オープン。大阪メトロ東三国駅から徒歩2分、住宅街の一角にあるベーカリー。「毎日、あらゆるシーンでパンを楽しんでほしい」と、常時60~70種類をラインアップしています。お酒に合うパンは、15時から専用コーナーに並びます。ビールとワインは店外のテーブルで飲むことができます。

PaPa2 BAKERY(パパパパベーカリー)

住所
大阪市淀川区東三国5-6-10
電話
06-6398-7713
営業時間
8:00~20:00
定休日
月曜、第2・4火曜
東三国の「PaPa2 BAKERY」

15時から「パン飲みコーナー」を設置

15時から設置される「パン飲みコーナー」
店長の三原さん

大阪市内にある仕出し弁当の会社がオープンしたベーカリーです。昔ながらの住宅街のため地域密着を意識。小さな子どもからファミリー、シニアまで幅広い層に向けたパンを揃えています。
「地域のお客さまに、さまざまなシーンでパンを食べていただきたい。そのため、朝食、ランチ、おやつ、夜飲みといった提案をしています」と、店長の岸益三さん。営業日の1ヶ月間、1日につき食パン1斤(345円)を受け取ることができる“食パン定期券”(3,500円/税別)も、近隣のお客さまへのサービスのひとつです。毎日パンを食べるファミリーを中心に、現在は約30名が利用しています。

15時以降は、お酒に合うパンを並べた「パン飲みコーナー」を設置し、ハード系や揚げパンなどを約10種類ラインアップしています。

店外のテーブルで立ち飲みができる

コルネ220円、奇跡のパパクロサンド250円、ゴルゴンゾーラとくるみとはちみつレモン260円、ゴルゴンゾーラとくるみとアンチョビ260円、明太フランス260円。ワインはボトル2,000円で販売。余ったら持ち帰ることもできる(すべて税込)

店外にはテーブルが1卓あり、購入したパンやドリンクをスタンディングスタイルで楽しむことができます。

お酒は、缶ビール1種類と、ワインが赤・白それぞれ1銘柄です。お店での「パン飲み」のお客さまは、女性6:男性4の割合。ボトルワインをシェアするグループも多いそうです。

「一人でいろんな種類のパンを食べたい」というときには、ミニパン80円~を。ミニパンのコーナーには、クロワッサン、ベーコンとチーズのパンなど、お酒と楽しめるものも揃っています。気負わず「パン飲み」に挑戦できるのが、こちらの特徴です。

惣菜づくり出身のシェフが丁寧に手作り

パンの製造を担当しているのは、お弁当の惣菜を手がけていたシェフです。そのため、料理のように作るパンを多く揃えています。人気商品のひとつ「ガンボ」は、アメリカ南部のガンボスープをイメージした揚げパンです。オクラとひき肉を自家製ガンボルゥ(20種のスパイス入り)で炊き、パン生地に入れてからトウモロコシの粉をまぶして揚げています。かなり手間ひまをかけていることがわかります。

パン飲みコーナーでは、スパイスを使ったややスパイシーなパンや、香り高いチーズを使ったパンが人気だそう。クリームパンも「白ワインに合う」と評判です。

ガンボ230円、レッドホット150円、えだまめベーコンエピ250円、角切りベーコンと香草バターのパン230円、缶ビール350円(すべて税込)
店外にあるテーブルで飲食ができる

「トングでつかめないほど柔らかく、皮が薄いのが特徴です。カスタードクリームは練り方を工夫して軽い食感に仕上げているので、お酒にぴったりですよ」と、岸さん。
これらのパンは、仕事帰りのビジネスマンが「自宅飲みのおともに」と購入することも多いそうです。お店や自宅であれこれ試して、自分好みの組み合わせを見つけるのもいいですね。

「トングでつかめないほど柔らかく、皮が薄いのが特徴です。カスタードクリームは練り方を工夫して軽い食感に仕上げているので、お酒にぴったりですよ」と、岸さん。
これらのパンは、仕事帰りのビジネスマンが「自宅飲みのおともに」と購入することも多いそうです。お店や自宅であれこれ試して、自分好みの組み合わせを見つけるのもいいですね。

程よい甘さのクリームパンは白ワインにもぴったり。200円(税込)
パンが並ぶ明るい店内

ベーカリーバカンス

JR三ノ宮駅から徒歩5分。もともとお米づくりをしていたオーナーが、小麦栽培を始めたことをきっかけに2017年8月にオープン。「難しくなく、ストレスなく、直感的に美味しいパン」をコンセプトに、ハード系をメインにラインアップしています。イートインスペースは、店舗隣の建物にあります。

ベーカリーバカンス

住所
神戸市中央区旭通3-4-15
電話
078-862-5468
営業時間
8:00~19:00(イートインは~18:00)
定休日
火曜、第2・4水曜
三ノ宮の「ベーカリーバカンス」

パンの9割がハード系

ハード系がメイン
シェフの村本優馬さん

コンセプトは「安心・安全な食材を使った、シンプルで上質なパン」。パンは常時約30種類で、9割がハード系です。ライ麦以外の小麦粉はすべて国産小麦で、生地の原材料はシンプルに徹しています。バゲットやカンパーニュは低温・約20時間の長時間熟成で発酵させています。

バカンスを意識した遊び心のある店内

食べやすいハード系のパン「バカンス」は、三河みりんで上品な甘み、酒蔵から仕入れる酒粕でふわりとした香りを出しています。同店では、食パン以外のパンにはすべて米粉を配合しています。もっちり感がありながら歯切れがよいため、お酒のおともにもぴったりです。

ワインと相性のいいパンを提案

赤ワインには、瀬戸内レモンを添えたフリュイ クリームチーズ380円、カンパーニュ「バカンス」1/2サイズ350円、オレンジピールとクランベリー、くるみ入りのセーグルフリュイ450円がおすすめ(すべて税込)

「ハード系のパンに合うのはやはりワイン」と、お店では赤・白・デザートワイン(貴腐ワイン)の3種類を提供しています。ワインは系列店のソムリエがセレクトしており、銘柄は随時変えています。それぞれに「おそうざいパン」「チョコレート系」など相性のいいパンを提案しているので、パンに合わせてワインを選ぶことができます。

「神戸はパン文化が浸透していることもあり、シニア層もハード系を食べ慣れている印象です。世代を問わず、『ワインに合うパンはどれですか』と尋ねるお客さまも多いですね。神戸っ子は普段からハード系のパンとワインを楽しんでいるようです」と、シェフの村本優馬さん。

イートインスペースは、店舗横にある建物2階にあります。パンとドリンクを購入したらいったん外に出て、建物脇の階段を上がります。シンプルなフリースペースなので、肩ひじ張らずに過ごせます。お客さまが多く訪れているのは、平日・休日問わず、昼下がりの時間帯です。居酒屋やバーには入りにくい時間帯ですが、「パンを美味しく食べるなら」という理由があれば、抵抗なくお酒を楽しめるのかもしれませんね。

ワインはグラス550円~(税込)。銘柄は随時変えている
白ワインに合う、肉厚ベーコンエピ230円、フレッシュトマトを使ったフォカッチャ350円、3種類のチーズをブレンドしたチーズフランス310円(すべて税込)

米栽培のこだわりを小麦にも

イートインスペース

ベーカリーを運営しているのは、ダイニングバー「イナズマお米研究所」や日本酒バルなどお米にまつわる飲食店を展開する神戸の会社です。
「社長は実家のある山口県岩国市に通い、田んぼでお米を作っています。数年前からは、新たに麦栽培を始めました。ゆくゆくは自社栽培の小麦でパンを作りたい、その前にまずは美味しいパンづくりを、とベーカリーをオープンしました」と、村本さん。
お店の場所は、神戸随一の繁華街・三宮。ベーカリーがある東側エリアは大型商業施設がなく、落ち着いた雰囲気です。お店を訪れるのは、「バカンスに行く」という目的意識をもったお客さまばかり。パンが大好きで、食への関心が高い人たちから支持されているお店です。

germer

観光地・銀閣寺からほど近い住宅街にたたずむ、パンを主体としたベーカリーレストラン。パンのテイクアウトもできますが、夜は前菜や肉料理、パスタをふるまうレストランスタイルに。オーナーシェフと話しながらパンやワイン、料理を選べるので、食の知識も深まります。

germer(ジェルメ)

住所
京都市左京区浄土寺西田町3銀閣寺ハウス120
電話
075-746-2815
営業時間
12:00~LO21:00
定休日
月曜・火曜
銀閣寺近くの「germer」

パンを楽しむためのレストラン

レモンとくるみのカンパーニュ380円。具材を生地に混ぜ込みすぎていないので、レモンやくるみの味がクリアに感じられる
オーナーシェフの岡本幸一さん

お店の外側にはパンが並んでいますが、扉を開けるとカウンターとテーブルのあるレストラン空間。
「ベーカリーでもレストランでもなく、“自家製パンありきのレストラン”」と、オーナーシェフの岡本幸一さん。16時まではカフェ営業をしており、18時からは料理も楽しめるスタイルに。もちろん、パンをテイクアウトで購入することもできます。

パンは店舗の外に向かって並べられている

初めてのお客さまには「どんなパンをお求めですか」とお聞きし、シーンに合わせてパンを提案したり、温め方や保存方法をお話ししたりとコミュニケーションを大切にしたお店です。

お酒に合うのは「生地の風味が強いパン」

ワインはグラス800円、ボトル3,900円~。黒オリーブのバゲット240円、バゲット トラディショナル280円。(すべて税別)

パンは常時約15種類で、お酒に合うのはバゲット、カンパーニュ、フォカッチャなど7種類です。天然酵母のパン・ドゥ・ミは毎日予約だけで売り切れてしまうそうです。

バゲットにはフランス産小麦、カンパーニュには大麦・全粒粉・ライ麦を使用。発酵は、パンにより自家製の酒粕酵母やホシノ天然酵母、ドイツの乳酸菌でおこすルヴァン種などを使い分けています。
「シンプルな材料で、生地の風味をしっかり堪能できるパンを作っています」と、岡本さん。

フランスでの修業時代に学んだ、伝統的な焼き菓子も販売

岡本さんは東京と京都でパティシエを務め、フランスで2年修業。京都と大阪の外資系ホテルの立ち上げに関わり、ブーランジェリーでパンづくりも学びました。
「フランスでは、パンとワインは密接な関係にあります。日本で私が作るシンプルなパンをどう食べてほしいかを考えたところ、やはりワインが必要だと思いました」と、岡本さんは語ります。ワインは40~50種類で、フランス産がメインです。ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを一貫して行う生産者が手がけるワインなど、こだわりのある銘柄をセレクトしています。

素材本来の旨みを引き出す料理を提供

夜は、まずはつきだしとしてスープと小さなパンが登場します。料理はすべてアラカルト。前菜、メイン、サラダ、チーズなどを日替わりで提供しています。1杯だけ飲みたいときも、しっかり食べたいときにも頼れるお店です。

「左京区は、オーガニック志向が強い方が多いですね。アピールはしていませんが、野菜は無農薬のものを多く使っています。また、テリーヌやソーセージのほか、デザート、レモネード、ジンジャーエールも自家製です。熟成牛肉や京都・美山の京・匠地鶏は、炭火焼がおすすめ。素材の強さを活かした料理は、パンともワインとも相性がいいですよ」と、岡本さん。
訪問した日のメニューで目を引いたのは、「自家製 からすみの炙り」「鹿肉のリエット カナッペ 仕立て」「浜名湖 生のりと海老のパスタ」。ビストロ顔負けのラインアップに驚きます。ベーカリーやビストロといったカテゴリーにとらわれず、まっさらな気持ちでパンを堪能できる、ありそうでなかったお店です。

カウンター席とテーブル席がある。夜の予算は5,000円~
チーズは各種800円~(税別)。パンとワインに合わせて提案してもらえる

今回取材した店舗は、「お酒と合うパン」というコンセプトをしっかり打ち出したことで、お客さまの心をつかんでいました。こだわりのあるビールやワインなどのお酒をセレクトし、「生地の風味をしっかり出す」「スパイスやチーズなど香りの強い素材を使う」「歯切れの良さを追求」など、それぞれにお酒に合うパンについて研究し、取り組んでおられました。ぜひ商品開発の参考にしてみてはいかがでしょうか。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年09月)のものです