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本場の味を日本で 奥深き中国の麺

中国では4000年の歴史があるともいわれる麺文化。ひとくちに「麺」といっても、広大な中国ではその土地ごとに独自の発展を遂げてきた麺料理がたくさんあります。今回は「これから日本でも支持を集めそうな中国の麺料理」を提供している都内で人気の3店舗を取材。各店自慢の麺料理について、こだわりや工夫をレポートします。

西安麺荘 秦唐記

東京メトロ日比谷線・八丁堀駅から徒歩5分の場所にある「秦唐記(しんとうき)」は、現在人気急上昇中の中華料理『ビャンビャン麺』の専門店です。本場である中国・西安の味をベースにしたメニューの数々は多くのリピーターの心を掴み、メディアからも注目を集める人気店です。

西安麺荘 秦唐記

住所
東京都中央区新川1-13-6中央精器ビル1F
電話
03-6280-5899
営業時間
11:00~15:00/17:00~23:00(各L.O.30分前)
定休日
年中無休
八丁堀駅そばに店を構える「秦唐記」

熱盛り・冷盛りで食感が変わる、ボリューム満点の『ビャンビャン麺』

三位一体の味が楽しめる全盛り麺【ベルト麺・冷盛り】(税込1050円)
料理長の馮樹(ヒョウ・ジュ)さん

東京でもまだ珍しい、中国西安発祥の麺料理『ビャンビャン麺』を提供する「秦唐記」。西安出身の料理長・馮樹さんが本場で習得した麺打ちの技術、ビャンビャン麺の魅力を多くの人に知ってほしいという想いで開店しました。
店の看板には画数57字にも及ぶ「ビャン」の漢字が大きく描かれ、オープンキッチンで調理工程を一望できる店内では、職人の麺を打つ音が響き渡ります。

ビャンビャン麺の特徴は、長さ3m、幅4cm程度の幅広麺であること。コシがあってモチモチとした食感が魅力です。唐辛子や刻みネギ、熱したピーナツ油などがかかった麺を混ぜて食べるのが一般的ですが、「秦唐記」では本場さながらの味だけでなく、和食や洋食と掛け合わせた創作メニューも提供しています。

「当店の定番で本場の味が楽しめる『油泼(ヨウポー)麺』は、角切りチャーシューと茹で野菜の上に刻みネギ、山椒と唐辛子をのせて最後に熱した油をかけています。丼の底にたまった黒酢をしっかり絡めることで、唐辛子の辛さと優しい酸味が楽しめます」そう語るのは店長を務める杉本太一さんです。

「並盛は、一本70gで長さ3mの麺が3本入っています。大盛り(+150円)は280g、小盛り(-150円)は140gです。当店でのレギュラーサイズである幅広麺は2cm強ですが、ベルト麺は本場同等の4cm程度の麺です。また、注文時に熱盛りか冷盛りを選べるのも当店のこだわり。熱盛りはモチモチとした食感が増し、冷盛りは一層コシが強くなりますので、同じメニューでも違った味わいが楽しめます」

このほか、ディナータイムには平打ちの細麺サイズ、一般的なラーメン店の太麺サイズも用意。幅広いニーズに対応できるのも人気の秘密です。

中国でおなじみの味、油泼(ヨウポー)麺【幅広麺・冷盛り】(税込850円)

和洋中、どんな味付けにもマッチする『ビャンビャン麺』

三位一体の味が楽しめる全盛り麺【ベルト麺・冷盛り】(税込1050円)

ビャンビャン麺とともに提供しているのは、麺の茹で汁。ビャンビャン麺を食べる合間に茹で汁を飲むことで、麺のでんぷんに含まれる酵素が湯のなかに溶け、消化器官の負担を和らげる働きがあります。また、ビタミンB群も豊富に含まれているため、栄養補給としても有益です。この茹で汁を飲む文化は西安独特のもの。胃に膜を張り、余分な吸収を抑える目的で、食前に好んで飲む人も多いといいます。

また、ひと口にビャンビャン麺といっても味付けはさまざま。定番の『油泼麺』のほかにも、甘みのある肉味噌が特徴の『炸醤(ザージャン)麺』、優しい酸味と甘みのある『トマトビャンビャン麺』が人気メニュー。そして、この人気3品を一杯の丼にのせた『全盛り麺』も特徴的なメニューです。3種それぞれを食べ分けるのではなく、しっかり混ぜるのが杉本さんおすすめの食べ方です。

「お客様に常に目新しい楽しみを提供できるように、全11種類のレギュラーメニューに加えて、週替わりメニューも販売しています。カルボナーラや冷やし中華など、和洋中、どんな味付けにもマッチするのが当店のビャンビャン麺だと思います。シェフそれぞれの『こうやって食べたらおいしい!』というこだわりをベースに楽しみながら調理しています」

職人の麺を打つ音が聞こえる店内
店の看板には画数57字にも及ぶ「ビャン」の漢字が大きく書かれている

今後は店舗数を増やしていきたいと語る杉本さん。新店舗を開くための条件として、オープンキッチンは必須であると語ります。

「味だけでなく、音・見た目・小麦粉の香りでも、お客様に感動を与えられるのが当店の強みです。当店の料理人が麺を打っている間も『私の麺をつくってくれているのかな?』とお客様がワクワクしてくれる。こうしたスタイルを大切にしながら、店舗展開していきたいと思っています」

MOOGA

東京メトロ銀座線・末広町駅から徒歩1分の場所にある「MOOGA」。麺料理の『リャンピー』とハンバーガーのような『ロージャーモー』という2つの看板メニューを提供するカフェスタイルの店です。秋葉原からもアクセスがよく、連日、若者客や外国人客が数多く訪れています。

MOOGA

住所
東京都千代田区外神田3-7-8 インタスビル 1F
電話
03-3527-1689
営業時間
11:00~22:00(L.O. 21:30)
定休日
不定休
秋葉原からもアクセスがいい「MOOGA」

相性抜群の麺『リャンピー』とハンバーガーのような『モーガ』

小麦粉リャンピー【単品】(税込600円)
副店長の劉賢興(リュウ・ケンキョウ)さん

「MOOGA」の看板メニューである『リャンピー』と『モーガ』は、中国・西安では有名なローカルフードです。『リャンピー』は唐辛子や山椒、八角の効いたタレと、ツルッとした食感の麺を絡めて楽しむまぜそば風の料理。『モーガ』は30種類以上のスパイスで煮込んだ豚肉を使ったハンバーガーに似た料理で、本場ではロージャーモーと呼ばれています。「MOOGA」は、西安で愛されるこの2つの料理を日本人にも食べやすい形で提供しています。

「当店では、『リャンピー』と『モーガ』のセットメニューを販売しています。この2つを一緒に食べるのは西安では定番なんです。ラーメンとチャーシューご飯に近い関係性でしょうか。『モーガ』は肉まんの皮のようなバンズのふわふわモーガ、ピザ生地のような食感の白吉餅モーガの2つから選べます。『リャンピー』はきしめんに似た平たい小麦粉麺と、うどんのような丸い形状の米粉麺の2種類の麺を選べます。どちらもつるつるとした食感です」

甘酸っぱく、辛さがあとから追いかけてくるような味わいが特徴の『リャンピー』。その魅力はヘルシーであること。そして、どの季節、どの時間でも気軽に食べられる点であると、「MOOGA」で店長を務める佳山誠さんは語ります。。

「味だけでなく、クイックリーなサービスも当店の強みです。『リャンピー』は工場でつくった蒸してある麺を丼に盛りつけてタレをかければ完成です。『モーガ』も開店前に仕込んだ豚肉をバンズに挟むだけ。オペレーションをシンプルにすることで、料理の提供も早くなります」

MOOGAセット【白吉餅モーガ+米粉リャンピー】(税込880円)※セットメニューのリャンピーは単品のハーフサイズの丼で提供

リャンピーの味を広めるための、親しみやすいカフェスタイル

ソフトな雰囲気のカフェスタイルな店内

小麦粉麺と米粉麺が選べる『リャンピー』のなかでも、好評を博しているのが『野菜リャンピー』です。栄養バランスも抜群で、推奨される1日の野菜摂取量の半分の野菜が入っているため、女性客からの注文も多いと言います。

「本場の味を日本人のお客様に楽しんでほしい気持ちもありますが、初めてのお客様にも親しみやすい味わいを考えて、しょっぱさや辛さは控えめにしています。注文時にリクエストがあれば、辛さは0にもできるし、本場同様の辛さにすることもできますよ」

『モーガ』はバンズの種類だけでなく、パクチーやチーズ、肉増しなどの追加トッピングが可能です。また、最近ではタピオカドリンクも販売。日本人客、中国人客、外国人観光客、幅広い客層のニーズに応えることができるよう、メニューのラインアップも充実しています。

小麦粉リャンピー【単品】(税込600円)

「『リャンピー』や『モーガ』の知名度をもっと広めるためには、入りやすいと思ってくれるような店づくりも大事です。私は前職で大手コーヒーショップのレイアウトを担当していました。その経歴を活かして、女性一人でも気軽に入れるソフトな雰囲気のカフェスタイルをデザインしたんです」

開店当初は、グルメサイトに広告を載せたり、秋葉原のイベント会場での宣伝活動を行ない、今ではSNSを中心に知名度が高まってきた手ごたえがあると言います。

「以前、当店の味を楽しみに広島から足を運んできてくれたお客様がいました。感無量です。今後は、まずは東京近郊で100店舗展開を目指し、将来的にはどこでも当店の味が楽しめるように全国展開していくことが目標です」

南北麺館

JR宇都宮線・尾久駅から徒歩5分の場所にある「南北麺館」。中国各地で人気の“中国五大麺”を中心に、期間限定メニューや新メニューを精力的に販売しています。地域の人々を中心に、幅広い年齢層からの支持を集めているラーメン店です。

店舗情報

南北麺館

住所
東京都荒川区西尾久4-24-8 エスカイア西尾久 1F
電話
03-6807-6943
営業時間
11:00~14:30/17:00~21:30
定休日
日曜
JR尾久駅近くの「南北麺館」

水を一切使わずに卵で小麦を練った麺『伊府麺』

“貴族の麺”として知られる「伊府麺」(税込950円)
店長の秦維(ハタ・イ)さん

唐辛子と胡麻の旨味がきいた四川省『担々(タンタン)麺』。肉味噌で味わう北京で人気の『炸醤(ジャージャー)麺』。包丁で削った麺が独特の食感を生む山西省『刀削(とうしょう)麺』。ゴマダレまぜそばに近い味わいの武漢名物『熱乾(ねつかん)麺』。コシのある麺にオイスターソースと野菜を絡めた焼きそば風の料理である江東省『伊府(イーフー)麺』……“中国五大麺”とも称されるこれらの麺を提供するのが荒川区にある「南北麺館」です。バラエティ豊かな全ての麺料理を調理するのは店長の秦維さん。山西省出身で、幼い頃から麺料理が大好きだった秦維さんは、中国でたくさんの麺料理を食べ歩きました。

“貴族の麺”として知られる「伊府麺」(税込950円)

「中国五大麺のなかでも『伊府麺』は都内でも販売しているお店が少ない麺料理です。元来、客人をもてなす際にふるまう料理で、中国では“貴族の麺”と呼ばれることも。卵だけで小麦粉を練った麺を油で揚げる、という調理工程に手間がかかる高級な麺なんです。細くて薄い麺ですが、水を一切使わないために歯ごたえと弾力が強く、小麦粉の旨味がぎっしり詰まっています。オイスターソースのやさしい味わいと野菜の香りが相まった、満足感のあるメニューだと思います」

日本の他店舗では1000円以上の値段がつくことが多いという『伊府麺』ですが、「南北麺館」では950円。ワンオペレーションで調理・接客をおこなうことで低価格で提供できていると秦維さんは言います。
「『伊府麺』目当てに遠方からお客様が訪れることもあります。また、Uber Eatsでも常時注文を受け付けていますので、自宅で『伊府麺』を楽しむこともできますよ」

特製スープとともに味わうゴマダレまぜそば風の『熱乾麺』

本場の中国五大麺に比べて、味の濃さ・辛さを薄めにしている「南北麺館」の各種料理。たとえば、『刀削麺』の味付けは定番の麻辣味、担々味のほか、豚骨スープ入りの醤油味も用意しています。辛いものが苦手なお客様でも旨味・香りが味わえるメニュー構成です。

「東京で少しずつ知名度が高まっているのがゴマダレまぜそばの『熱乾麺』です。武漢では万能ねぎや豆類が入ったシンプルな盛り付けですが、当店では野菜とひき肉を入れて栄養バランスがよく、ボリュームも満点!肉味噌とつぶしピーナツを加えているのも当店オリジナルです」

『熱乾麺』とともに提供している特製スープは、鶏ガラ・豚ガラをベースにいくつかの調味料を掛け合わせてつくったもので、コクがありつつもスッキリとした味わい。『熱乾麺』にかかっているゴマダレは口内の水分を吸収するため、一口食べるごとにスープを飲むことで、さっぱりとした麺ののどごしを最後まで損ないません。

「当店のお冷はレモン汁を少し入れているので、一口飲むごとにさっぱりします。一口一口飽きることなく、最後まで料理を楽しんでほしいですね」

熱乾麺(税込700円)
中国らしさのある店内

中国五大麺に限らず、目新しい角度を求めて新メニューを積極的に開発する「南北麺館」。夏には「冷やし担々麺」「汁なし冷やし担々麺」、昨年末には産地直送の白神あわびを丸ごと一つのせた「鮑ラーメン」が話題を集めました。

「市場調査のために日本でもさまざまなラーメン店を食べ歩いて、メニュー開発のヒントを得ています。季節の変わり目に新メニューを販売することで、目新しさを提供したいんです。リピーターのお客様が来るたびにいろんな楽しみ方ができるラーメン店にしていきたいですね」

ビャンビャン麺専門店、リャンピーを楽しめるカフェスタイルの店、中国五大麺の味を楽しめる店と、今回はそれぞれ特徴的な3つの名店を取材しました。インパクトのある看板を出す「秦唐記」、SNSを駆使する「MOOGA」、市場調査を重ねて新メニューを積極的に販売する「南国麺館」といった具合に、お客様に興味を持ってもらうための工夫は各店さまざま。その一方で共通していたのは、本場の味をベースに日本人の口に合うように独自のアレンジを加えていること。今後、日本の麺料理マーケットに新たな広がりを見せてくれるかもしれません。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2019年11月)のものです