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広がる可能性 スパイス系ラーメン”

飲食店の世界ではここ最近、「スパイスブーム」が起きています。そしてその波は、ラーメン業界にも波及。各地で「スパイス」にこだわるラーメン店が増えています。スパイスといえば辛いイメージがありますが、香りや酸味、苦み、そしてもちろん辛味と、その特徴は様々。それらを絶妙なバランスで配合して表現することで、奥深い味わいが生まれます。そこで今回は、スパイスラーメンで人気の4軒を取材。スパイス、調理法、コンセプトなど、それぞれのこだわりをお聞きしました。

スパイスらぁめん釈迦

グループ店に「麺や庄の」「gotsubo」「つけ麺 GACHI」など数多くの個性派人気店を擁し、常に新しい角度で感動を提供する株式会社麺庄。そんな人気店に新たに加わったのが2018年開業の「スパイスらぁめん釈迦」です。インドのスパイスとラーメンを掛け合わせたメニューはすぐに話題となり、数々のメディアが取材。2019年には「gotsubo」と合併する形で新宿御苑前にリニューアルオープンしています。

スパイスらぁめん釈迦

住所
東京都新宿区新宿1-32-15 エムズ新宿御苑1F
電話
03-6388-9227
営業時間
11:00~15:00/17:00~22:00
定休日
日曜日
東京メトロ新宿御苑駅近くにある「スパイスらぁめん釈迦」

スパイスの旨味・香りを最大限に活かした「天空」

株式会社麺庄・代表取締役の庄野智治さん

東京メトロ新宿御苑駅から徒歩3分の場所にある「スパイスらぁめん釈迦」。主なメニューには、15種類のスパイスを使った奥深い味わいが特徴の「天空」、バターカリー発祥の地といわれる北インド・パンジャブ地方をイメージした「北印度」などがあります。

プロデュースを手掛けたのは、「株式会社麺庄」代表取締役社長を務める庄野智治さんです。系列店の「麺や庄の」で、「チョコつけ麺」や「雲丹とキャビアの塩らーめん」などの新感覚ラーメンを提供し続けてきた庄野さんに、“スパイス×ラーメン”という組み合わせで専門店を出した狙いをお聞きしました。

「実は10年前にスパイスラーメンを開発したものの、その奥深さに驚き、もっとスパイスについて勉強する必要があると感じました。スパイスには無限の組み合わせがあり、それらの役割を全て理解したうえで選び抜かなくてはなりません。そのためには、相当な時間と覚悟が必要でした」

庄野さんが「スパイスラーメン」を再び開発することになったきっかけは、“スパイスハンター”の異名を持つシャンカール野口さんとの出会い。スパイスについて専門的に学び、野口さんとともに「天空」と「北印度」を共同監修しました。

「『天空』は、天空に昇るような幸福感を味わって欲しい、という一杯です。グンドゥチリ、カシミチリ、ガーリック、マスタードシードなど15種類の香辛料をじっくり焦がしてパンチを効かせています。焦がし唐辛子と焦がしニンニクを多用しますが、焦がしすぎると苦味だけになってしまうので、その適切な火加減を見つけるのにはとても苦労しました」

15種類の香辛料を使った「天空」(税込850円)
全粒粉を配合した自家製の中太縮れ麺

“ラーメン×スパイス”は、未知の可能性を秘めている

植物系食材のみで調理した「北印度」(税込850円)

「インドは全住民の40%が菜食主義者です。そのため、国内のレストランには必ずベジメニューがあるんです。当店でも、インドの食文化を尊重する形で、植物系食材のみで調理した『北印度』を販売しています。テジャチリ、シナモン、グローブ、カルダモンなどのスパイスに白味噌を合わせた一杯で、トマトの酸味とカシューナッツのコクがポイント。バターチキンカレーのような味わいです」

このほか、「スパイスベジらぁめん」も菜食主義のお客様が楽しめるメニュー。トマトやトウモロコシなど野菜のボリュームがたっぷりで、シナモン、クローブなどの北インドのスパイスで香り付けされています。

「天空」「北印度」に使う麺は、どちらも北海道産小麦の全粒粉を配合した自家製の中太縮れ麺。全粒粉ならではの食べ応えが、香りの強いスパイスに負けない存在感を放ちます。

店内

日本人だけでなく、外国人客も多く来店する「スパイスらぁめん 釈迦」では、お客様の反応に合わせて、スパイスの配合を微調整しています。営業し続けることで気づいたのは、ラーメンが日本だけでなく世界中で愛される食事になってきたという手ごたえ、と庄野さんは語ります。

「ラーメンの調理過程では、香り油をスープに加えて調理するのが一般的です。しかし、香り油の代わりにスパイスオイルを加えることで、味わいの幅が一気に広がります。ラーメンとスパイスはとても相性がよく、未知の可能性をたくさん秘めています。当店だけでなく、さまざまな場所でスパイスを使用するラーメン店が増えていくのかもしれません。そんな激しい競争のなかでも、釈迦では“世界で愛される一杯”をこれからも研究していきます」

麻ぜろう

京急川崎駅から徒歩4分の場所にある「麻ぜろう」は麻婆まぜそば専門店です。看板メニューの「麻婆まぜそば」だけでなく、まろやかでコクのあるスープが特徴の担々麺、さっぱりとした味わいの塩そばも多くのリピーターの心をつかんでいます。

麻ぜろう

住所
神奈川県川崎市川崎区砂子1-5-12 吉浜ビル1階
電話
非公開
営業時間
11:45~15:00/17:45~22:00(売り切れ次第終了)
定休日
水曜日
京急川崎駅から徒歩4分の場所にある「麻ぜろう」

半ライスは無料、麻婆丼も楽しめる「麻婆まぜそば」

店長の前田藤郎さん

「麻婆まぜそば 麻ぜろう」は、四川麻婆豆腐を絡めて食べる新感覚のまぜそば専門店です。店長を務める前田藤郎さんは中華料理店で約5年の修行を重ね、その後11年の間、九段下の中華料理店でオーナーとして鍋をふるっていた人物です。

中華料理店で人気メニューだった麻婆豆腐は、地方から足を運ぶお客様もいたほど評判の味。そんな折、まぜそばブームからアイデアを得て開発したのが「麻婆まぜそば」で、こちらもすぐに人気商品に。もともと、「何かに特化した専門店をつくりたい」という想いを胸に秘めていた前田さんは、一念発起して中華料理店を閉店。新たにオープンしたのが麻婆まぜそば専門店「麻ぜろう」でした。

「当店の『麻婆まぜそば』は、食べたあとに麻婆丼も楽しめるように、無料で半ライスを提供しています。麺を完食したときにちょうど半ライスにかけられるくらいの麻婆餡が残るようなボリュームにしているんです。当店自慢の麻婆餡を2つの違った角度から味わってほしいですね」

「麻婆まぜそば」を開発するため、ひとつひとつの食材をじっくり試食してきた前田さん。麺についても製麺業者と50種類近くの試食と検討を重ね、麻婆餡とよく絡んでモチモチとした食感が楽しめる平打ちの短い太麺を選びました。

「豆腐の微妙な量で味の濃さは大きく変わります。適量は一丁の6分の1ほど。この塩梅を見つけるのには苦労しました。使っている豆腐は、絹のように滑らかな口当たりと木綿のしっかりとした食感が共存しているのが特徴です。麺に絡まるように型を崩していますが、それでも豆腐本来の食感が残るんです」

麻婆まぜそば(税込900円)
麻婆餡とよく絡む平打ち太麺

麻婆まぜそば+温玉で、辛味のなかに同居する濃厚さとまろやかさ

辛醤餃子(税込450円)

麻婆餡の味の決め手は、京都の食品会社から特別に仕入れている豆板醤。塩気と辛さのバランスのよさが特徴です。また、麻婆豆腐のスパイスには、八角、山椒、桂皮、クローブ、陳皮の入った五香粉(ウーシャンフェン)を使用。八角の風味がやさしい五香粉を選んだことで、八角が苦手なお客様でもおいしく食べられると前田さんは言います。

「チャーシューと蒸し鶏には香り豊かな花山椒をかけています。花山椒は大きいパックではなく、少量パックをたくさん仕入れ、すぐに使い切ることで、風味の低下を抑えています」

また、こだわりの辣油はすべて自家製です。味わい深い風味が特徴の「極・辣油(税込30円)」は、一味と輪切り唐辛子を2回ほどこしたもの。スープの旨味が増すため、「塩そば(税込800円)」が好きなお客様にも人気のトッピングです。また、人気メニューの辛醤餃子には「極・辣油」をベースにつくった辛い醤がかかっています。

店内

「『麻婆まぜそば』の完成に至る最後の1ピースとなったのは温玉です。温玉のおかげで餡と麺が濃厚に絡むようになったのと、スパイスのカドがほんのりと取れたんです。辛い料理が好きなお客様だけでなく、多くのお客様に愛される料理に進化したと思います」

麻婆まぜそばという新しいジャンルの先駆者と言える前田さん。今後は多店舗展開を視野に入れています。

「『いつもと味が違う』『味が変わった』といわれるのはすごく嫌なんです。そうならないためにも、お客様に提供する前に必ず試食をおこない、『いつもの麻婆豆腐の味だ』という確信を得る作業が必要です。どんなときでも100%満足のいく味を提供するのがプロの姿勢。多店舗展開をしても、全ての店舗で同じ味が出せるようにするつもりです」

スパイスラーメン 点と線.

京王井の頭線・小田急線の下北沢駅から徒歩3分の場所にある「スパイスラーメン 点と線.」。北海道を中心に展開するスープカレー専門店「路地裏カリィ侍.」のセカンドブランドのラーメン店として東京進出。人気飲食店の多い下北沢でも存在感を高めています。

スパイスラーメン 点と線.

住所
東京都世田谷区北沢2-14-5 イスズビル2F
電話
非公開
営業時間
11:30〜15:00/17:30〜22:00
定休日
なし
下北沢駅近くにある「スパイスラーメン 点と線.」

変化と進化を続ける「スパイスまぜそば」と「スパイスラーメン」

エリア・マネージャーの岡田洋輔さん、店長の林杏夢さん、事業部長の蓮井圭二郎さん

2017年7月にオープンした「スパイスラーメン 点と線.」。北海道を中心にスープカレー専門店を経営する「株式会社ソウルフラワー」が、“東京進出の次のステップ”“はじめてのラーメン店”として店を構えたのが下北沢店でした。

そんな「点と線.」において、「スパイスまぜそば」と「スパイスラーメン」は開店当初から変わらない看板メニュー。お客様の意見を参考にして少しずつ改良を重ね、現在の味に至っています。オープンから2年経った今、どのような工夫を持ってお客様の心をつかんでいるのでしょうか。事業部長の蓮井圭二郎さん、エリア・マネージャーの岡田洋輔さん、店長の林杏夢さんに話を聞きました。

「開店当初は、『スパイスラーメン』は中太縮れ麺、『スパイスまぜそば』はストレート麺で勝負しよう、と決めていましたが、しばらく経って『地元・北海道の慣れ親しんだ味で勝負したい』という想いが強くなり、現在はどちらも卵麺を使っています。製麺過程で真空状態にしているので、卵麺本来のやさしい甘みとともに、ぷりぷりとした食感が楽しめます」

店のコンセプトは、ラーメンとともに美味しく野菜を味わってもらうこと。以前はどの季節でも韮を入れていましたが、現在は秋には里芋やレンコン、春は筍……と、旬野菜を使って丼に季節感を出しています。

また、以前の「スパイスラーメン」に入っていた厚切りチャーシューは、提供する直前でバーナーで炙るようになりました。噛むごとにチャーシューの香りとスープの味わいが広がると、お客様からも好評です。

定番の「スパイスラーメン」(税込950円)
ぷりぷりとした食感が楽しめるこだわりの卵麺

「お客様ノート」の意見をもとに変化を取り入れる

女性にも人気の「スパイスまぜそば」(税込900円)

「スパイスまぜそば」で使う麺は、卵麺への変更以外にも改良点がありました。それは、麺量を200gから150gに変更したこと。そのきっかけは店頭に置いてある「お客様ノート」。麺の量が多いという女性客の意見を参考にしてボリュームを抑えました。

「ボリュームを抑えた分、追加したトッピングが『マヨたま』です。マヨネーズのまろやかさと卵のマイルドな味わいがスパイスの辛さを和らげてくれるんです。最初から絡めるのもいいし、途中で絡めて味変をしてみるのもいい。お客様によって2通りの楽しみ方ができます。もっとボリュームが欲しいというお客様には、限定ご飯や限定替え玉の注文がおすすめです」

クミン、コリアンダー、カイエンペッパーなどのスパイスとカレースープ、野菜、麺がそれぞれの美味しさを引き出している「スパイスまぜそば」と「スパイスラーメン」。その魅力をもっとたくさんの人に知ってほしいと岡田さんは言います。

店内

「将来的にはカップラーメン化したり、多店舗展開をしたりして多くの人にこの味を知ってほしいです。そのためには、お店以外でもこの味を伝える機会をたくさんつくりたい。たとえば、イベントに出たり取材を受けたり。そうすることで、少しずつリピーターを増やしていければと思います」

カフェのような内装で旨辛のラーメンを提供する、というギャップが人気の「スパイスラーメン 点と線.」。その狙い通り、客層は女性や若者が中心です。そんな客層のニーズを敏感にキャッチしてほしいと19歳の林さんが店長を任されています。お客様の求める味やサービスを敏感に読み取り、変化を恐れないことで、多くのお客様に愛されています。

スパイス・ラー麺 卍力 秋葉原店

JR秋葉原駅から徒歩4分の場所にある「スパイス・ラー麺 卍力 秋葉原店」。1号店の西葛西店では、インド人を中心とした外国人客が多かったですが、秋葉原店では女性客やビジネスマンを中心に人気を集めています。辛さだけではない味わい深さがある「スパイス・ラー麺」はリピーターの心をつかんで離さない一杯です。

スパイス・ラー麺 卍力 秋葉原店

住所
東京都台東区台東1-10-5
電話
03-5817-4107
営業時間
11:30〜21:30
定休日
日曜日
JR秋葉原駅近くにある「スパイス・ラー麺 卍力 秋葉原店」

トマトペーストの味に合わせて毎日スパイスの量を調整

店長の伊藤健二さん

西葛西で人気を博している「スパイス・ラー麺 卍力」が、2019年夏に秋葉原で2号店をオープン。エスニックな店内、インドを連想させるBGM、スパイスの香り、麺や野菜の食感とスープの味わい……と五感で楽しめる演出でお客様をもてなしています。

なかでも、看板メニューの「スパイス・ラー麺」は、コリアンダー、クミン、クローブスなどの14種類のスパイスを使った逸品です。具材にはエスニックな味わいには欠かせないパクチーがふんだんに盛られ、さらにはもやし、チャーシュー、ブロッコリーと彩り豊か。パクチーが苦手なお客様は、代わりにネギを入れることもできます。

「スパイスラーメンというジャンルを食べたことがない人も多いと思います。当店の『スパイス・ラー麺』の魅力はカレーとはまた違った奥深い味であること。辛いだけでなく、それぞれのスパイスの旨味・苦味・酸味・香りが一杯の丼に集約されているんです」

秋葉原店で店長を務める伊藤健二さんは「スパイス・ラー麺」を提供するために、スープづくりで気を付けていることがあると言います。

「トマトペーストの熟成期間には細心の注意を払っています。寝かせすぎると酸味が出すぎてしまうんです。日によって味が変化してくるため、毎朝試飲しながらトマトペーストの量を変えています。トマトペーストとスパイスの絶妙なバランスで成り立っているので、調合を少し間違えたらまったく違う味になってしまいます」

卓上調味料のお酢を入れるのも「スパイス・ラー麺」の楽しみ方のひとつ。レンゲにとって少しずつスープに絡めることで辛さが緩和され、よりまろやかな味わいになります。

定番の「スパイス・ラー麺」(税込880円)と秋葉原店限定のネギトッピング(税込100円)
中太でモッチリした食感のストレート麺

スープとの相性が抜群の秋葉原店限定トッピング

スパイス・ラー麺(税込880円)+ネギトッピング(税込100円)+スパイシー肉飯(税込300円)

「スパイス・ラー麺」で使用するのは厳選した中太のストレート麺。スープとの絡みは抜群で、モチモチとした食感があります。

「スパイシー肉飯」はトマトペースト、スパイス、チャーシューを絡めた餡がのった人気のサイドメニュー。+100円で西葛西店ではパクチー入り、秋葉原店では温玉入りを注文できます。

「秋葉原店限定で『スパイス・ラー麺』にネギのトッピングも用意しています。賄いのときに、どんな食材が合うのか色々試した結果、白髪ネギを思いつきました。そのままのせてしまうと独特の辛さが目立ってしまうので、ごま油とブラックペッパー、塩を軽く付けてからのせています。食感、味ともにスープとの相性は抜群です」

店内

前職は営業職だった伊藤さん。お客様を観察してどうすれば喜んでいただけるのかを考え、行動に移すことで満足度を高めたいと語ります。

「お客様によって求める『快適さ』は微妙な違いがあります。たとえば、外国人客であれば箸は使えないかもしれない、だから『フォークを使いますか?』と聞いてみる。赤ちゃん連れの夫婦が来ればどちらかが交代で子どもの面倒を見るかもしれないので『ご夫婦で時間を置いて別々にお持ちしましょうか?』と提案してみる。全てのお客様に満足してもらうためにどのように接客すべきなのか、スタッフ同士で話し合い、情報を共有しています」

店名の一部である「卍力」は愛・平和に由来しています。伊藤さんの目標は「スパイス・ラー麺 卍力」を海外に出店すること。おもてなしの精神で、世界中に「スパイス・ラー麺」が広がる日もそう遠くないのかもしれません。

今回取材した4店舗。10種類以上のスパイスを調合したり、温玉を加えてまろやかさを出したり、火加減の調節や微妙な味の違いを見極めて調合を変えたり、麺や野菜にこだわったりと、さまざまな手法で“スパイス×ラーメン”の化学反応や相乗効果を引き出していました。「スパイスは辛いもの」というイメージが強いからこそ、スパイスラーメンならではの奥深い味わいが美味しさを演出することで、多くのお客様を感動させることができるのでしょう。今回は紹介できませんでしたが、ハーブを使用した辛くないスパイスラーメンも登場するなど、さらなる可能性を感じるスパイスの世界。今後ますます専門店が増えていくかもしれません。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年2月)のものです