
ゴマがきいた辛いスープに、肉味噌などを合わせた「担々麺」。近年、全国では担々麺専門店が次々と登場していますが、今、注目したいのが「進化系・担々麺」です。今回は、魚介系スープがベース、香辛料の選び方が絶妙、トッピングに工夫が光るなど、個性が際立つ関西の4軒を取材しました。
味噌担担麺 style林
大阪市淀川区の有名店「創作らーめん style林 塚本本店」の2号店。2019年8月、ラーメン激戦区・天六にほど近い場所にオープンしました。イチ押しは、本店が開店した2015年から人気の「汁なし味噌担担麺」。企業やマンションが密集した立地で、平日はビジネスパーソン、週末はファミリーが多く訪れています。
味噌担担麺 style林
- 住所
- 大阪市北区本庄東2-1-18 天七ビル1F
- 電話
- 06-6225-8520
- 営業時間
- 11:00~15:00、17:00~23:00(LO/22:45)
- 定休日
- 第3木曜(15:00までは営業)

本店の人気メニューを武器にした専門店


「本店のコンセプトは、『世の中にない味と、新しいラーメンを作り続けるクリエイティブなラーメン店』。本店で開発した『汁なし味噌担担麺』を強く打ち出すため、担担麺に特化した店舗としてこちらをオープンしました」と、店長の田子健司さん。
麺は、国産小麦100%・中太ストレート麺で、大阪府寝屋川市にある池村製麺所に特注しています。麺には、八丁味噌ベースの味噌ダレをからめています。うつわの中央にのった肉味噌は、豚・鶏ミンチに韓国味噌、日本の味噌を合わせ、生クリーム、牛乳、バターを加えたマイルドな味わい。
「一般的に、担担麺の肉味噌には味噌を使いません。当店の肉味噌は、実は、本店の限定メニュー・北海道味噌ラーメンのために作ったものです。担担麺に合わせてみると、相性が抜群だったので採用しました」(田子さん)。
仕上げに使うラー油は、汁なし担担麺専用。八角や赤山椒などホールスパイスを200℃の油に入れて香りを移し、色みと辛みをつけるため2種類の唐辛子を合わせています。
「ラー油は、粉のスパイスを油通しして作るところが多いと聞いています。当店は、高温の油にスパイスを通しているのですが、1回につき20~30人前しか作ることができません。多めの量で作ると味が変わってしまうので、毎日店舗で少量ずつを手作りしています。他の商品用と合わせ、当店では3種類のラー油を作っています」(田子さん)。
香りや歯ごたえが異なる食材をトッピング
トッピングは、レアチャーシュー、角切りのコマチャーシュー、白髪ネギ、青ジソ、味付け海苔、たくわんです。底に箸を入れて全体を大きく混ぜてから食べ進めると、スパイスの辛さや味噌の甘さ、麺の風味など、複雑な味わいが一気に押し寄せます。それぞれのトッピングが、食感や香りのアクセントになっていますが、陰の立役者的な存在がたくわんです。ポリッとした歯ごたえやひなびた甘みが、担担麺に独創性を加えています。
「汁なし味噌担担麺」は、冷製か温製が選べます。麺と味噌ダレの温度以外は、作り方も、トッピングもまったく同じなのですが、食べたときの味わいが全く異なります。冷製は全体にキレがあり、ひと口ごとに個性を感じることができます。ところが温製は、辛みがじわじわ感じられる、まったりと穏やかな印象です。
「どちらも美味しいのですが、初めてお召し上がりのお客さまには、個性がはっきりとわかる冷製をおすすめしています」(田子さん)。


「担担麺を食べに行く」という人を増やしたい

メニューの中で人気ナンバーワンは、汁ありの「濃厚味噌担担麺」、次いで「貝出汁担担麺」、「汁なし担担麺」は3番目です。
「実は、一番お召し上がりいただきたいのは『汁なし担担麺』なのですが、汁ありの方が人気ですね。ただ、一回『汁なし担担麺』をお召し上がりいただいたお客さまは、『やっぱりこれやな』と、リピートされる率が高いですね」(田子さん)。メニューに塩ラーメンをラインアップしているのは、まだ担担麺の認知度が低いからだそうです。
「一般のお客さまは、『今日はラーメンを食べに行こう』という気持ちになることがあっても、担担麺を目的にされることはまだまだ少ないと感じています。商品には絶対の自信をもっていますので、私たちの担担麺が世の中に浸透していくことを目標に頑張っています」と、語ってくださいました。
dandan noodles なんばラーメン一座店
2018年5月から約1年間、大阪市福島区で営業していた、魚介ダシの担々麺と石焼陳麻婆豆腐の専門店。2019年6月、家電量販店・エディオンなんば本店9階、関西を中心に全国の有名ラーメン店9軒が集うフロア「なんばラーメン一座」に移転しました。若い世代のほか、外国人観光客が多く訪れています。
dandan noodles(ダンダンヌードルズ) なんばラーメン一座店
- 住所
- 大阪市中央区難波3-2-18 エディオンなんば本店9階 なんばラーメン一座 内
- 電話
- 06-6586-6390
- 営業時間
- 11:00~23:00(LO/22:30)
- 定休日
- 無

魚介スープの担々麺


「dandan noodles なんばラーメン一座店」を運営しているのは、全国で飲食店を展開する「オーイズミフーズ」の子会社「O&Mプロジェクト」。O&Mプロジェクトは、飲食の新業態を作るための、いわばクリエイター集団です。
「これまでにない、新しい担々麺を」と開発されたのが、魚介スープを使った「魚(うお)担々麺」です。
「なんばエリアは大阪の一大繁華街で、日本人はもちろん、外国人観光客も多く訪れる街です。外国人にも私たちの担々麺を味わっていただきたいと、出店を決めました」と、マネージャーの林志功さん。
ちなみに、店名の「ダンダンヌードルズ」は、英語で担々麺のことです。メニューの中でもっとも人気なのが、お客さまの約半数がオーダーする「魚担々麺」。麺類はほかに、汁なしの担々麺、白胡麻担々麺、汁なしの陳麻婆麺、激辛担々麺をラインアップしています。
濃厚なのにあと口がすっきり
魚担々麺のスープは、サバ節、カタクチイワシの煮干し、北海道産昆布からとった和風の魚介ダシがベースです。一杯の中には、醤油系のかえし、練りゴマ、みじん切りのザーサイ、魚粉、アゴの魚オイル、自家製ラー油を重ねています。ラー油は、朝天辣椒という丸い唐辛子、桂皮、八角、花椒、陳皮などをブレンドしています。
「重視しているのは、すべてのバランスです。担々麺と和風ダシは味の方向性が異なりますが、これらの材料を合わせることにより、グッと濃厚ながら絶妙なバランスに仕上げることができました」と、林さん。
中太ストレートの麺は、セントラル工場で作る自家製です。約1年前、粉のグレードを上げてリニューアル。「つるりとした喉越しともっちり食感がアップしたのに加え、小麦の香りがしっかり感じられるようになりました」(林さん)。
トッピングは、甜麺醤で甘めに味付けした粗挽き肉味噌、モヤシ、青ネギ、なるとです。なるとを選んだ理由は、「魚」つながりだからだそうです。
食べてみると、さまざまな辛さや香りがストレートに感じられるなかに、魚介の旨みをしっかりと感じることができ、魚介スープを使用することであと口がすっきりしています。


セット人気は、辛さも香りも異なる陳麻婆豆腐飯

もうひとつの名物は、石焼陳麻婆豆腐です。数種類の豆板醤と甜麺醤と合わせた自家製の肉味噌に、自家製のラー油・青山椒・赤山椒で仕上げていて、スッと鼻に抜ける爽やかな辛さが特徴です。ミニ陳麻婆飯は+200円で、各種担々麺とのセットにできます。
魚担々麺も陳麻婆飯もどちらもしっかり辛いのですが、使っている香辛料が異なるため、味の印象はまったく異なります。
「担々麺でも陳麻婆豆腐でも、ちょっとした驚きを感じていただきたいですね。現在は『なんばラーメン一座』を目当てにしてフロアを訪れ、当店を選ぶお客さまが多いです。たくさんの方に私たちの担々麺をお召し上がりいただきたいと思っています」と、林さんはお話ししてくださいました。
鯛担麺専門店 抱きしめ鯛
2018年8月オープン。大阪メトロ肥後橋駅から徒歩5分の場所にある、鯛スープの担々麺専門店。看板メニューは、フレンチ出身のシェフが開発した「鯛担麺」です。平日は近隣のビジネスマンやOLがメイン。土曜日はファミリーや遠方からのお客さまが9割で、1~3時間半の行列になることもしばしばです。
鯛担麺専門店 抱きしめ鯛
- 住所
- 大阪市西区江戸堀1-23-21 ビエラ江戸堀1F
- 電話
- 06-6225-7747
- 営業時間
- 11:00~14:30、17:00~22:00
- 定休日
- 日曜(変動あり)

フレンチの技術を活かした「鯛担麺」


「鯛担麺」の開発者であり、店長の宇野正識さんはフレンチ出身。神戸にあるミシュランの星付きレストランなどで12年経験を積んできたという経歴の持ち主です。そのため、鯛担麺には、フレンチの技術をあちらこちらに忍ばせています。
「商品開発で目指したのは、これまでにない担々麺のジャンルを作ること。そこで、フレンチでもよく使う鯛を軸にしようと取り組みました」と、宇野さん。
鯛は、宇和島から直送される新鮮なアラを使用。「フュメドポワソン」というフレンチの魚のダシを応用し、約100匹分のアラとセロリ、ネギ、人参などの香味野菜、昆布などを合わせて8時間炊き続けます。
「昆布を炊くのは、あえて雑味を出すためです。和風ダシでは、水が沸く前に昆布を取り出しますが、これではキレの良さが出るものの、昆布らしさが全面に出にくいのです」と、宇野さん。スープは裏ごししたのちに一晩寝かせます。そして、分離した脂を取り除くとベースが完成します。提供前に、スープ・焦がしニンニクのオイル・ごまペーストなどをハンドブレンダーで乳化し、辛さをマイルドに。仕上げに鯛オイルと、八角や青山椒、赤山椒、一味、豆豉、ハラペーニョなどの辛みパウダーを振りかけます。
異なる味わいを楽しめる仕掛け
トッピングにも、フレンチのこだわりが光ります。肉味噌は、日本味噌に豚ミンチと鯛の身を合わせた甘め仕立て。豚肩ロースを低温で調理したレアチャーシュー、低温油の中でゆっくりと火を通す鶏ムネ肉のコンフィ、千切りジャガイモを素揚げしたガレット、メンマ、そしてメランジェサラダという構成です。
メランジェサラダは、水菜やカラーオニオンなどのミックスサラダで、削ったカシューナッツとバルサミコ酢を振りかけています。「ひと口ごとに異なる味わいが楽しめる仕掛け。肉味噌を少しずつほぐして、味を変えながらお召し上がりいただきたいですね」と、宇野さん。
麺は、東京・多摩の大橋製麺から取り寄せる特注の中太ちぢれ麺です。スープに負けない喉ごしと歯ごたえが特徴で、食べ応えもしっかりしています。
麺メニューは鯛担麺と、汁なし鯛担麺、夜限定の鯛の昆布水つけ麺の3種類です。鯛担麺はお客さまの7割が注文しています。鯛担麺と汁なしは辛さはゼロから激辛の5段階から選べます。辛さは、山椒と一味のパウダーや辛みオイルを増やすことで調整しています。
ランチタイムは、お客さまの9割が鯛めしのセットをオーダー。鯛めしは、鯛のスープで炊いたご飯に、鯛のお刺身2枚をのせています。まずはそのまま、次にラーメンのスープをかけて、最後に卓上のポットに入った鯛スープをかけてお茶漬けにするのがおすすめだそうです。


人も担々麺も個性派重視

こちらの店舗を運営しているのは、東京でラーメン店やたこ焼きバー、餃子居酒屋を展開する『縁petit株式会社』です。「人づてに、当社の関西初の店舗を出したいと紹介していただき、鯛スープの担々麺専門店を作らせてもらえることになりました。会社のスタンスは“自立した人づくり”。『人も商品も、個性を武器にしよう』という考えがあり、商品開発も店舗づくりも完全に任せてもらえました」と、宇野さん。
コンセプトは「ラーメン屋らしくない、女性も入りやすい店」。内装は、洋食店と居酒屋を合わせたような雰囲気です。「男女比は1:1。女性のお客さまは、お一人さまも、4人のグループも多いですね」と、宇野さん。日本人になじみのある鯛をベースにしたことで、さまざまな層に受け入れられています。
スパイス担担麺専門店 香辛薬麺
2018年9月、ラーメン店だけでなくレベルの高い飲食店が密集する大阪市福島エリアの一角にオープン。神戸で担担麺専門店を営む親戚に教えを請い、スパイスがしっかりきいた担担麺を提供。繁華街・梅田からも徒歩圏内で、平日はビジネスパーソン、土日は若いカップルが多く訪れています。
スパイス担担麺専門店 香辛薬麺
- 住所
- 大阪市福島区福島5-5-9
- 電話
- 06-6454-1009
- 営業時間
- 11:00~14:30、18:00~22:00
- 定休日
- 日曜夜

人気専門店の味をバージョンアップ


アパレルブランドのプロデュースも行うオーナーが「大好きなスパイスを主役にした担担麺を」とオープンした専門店。神戸の人気店「担担麺専門店 DAN DAN NOODLES ENISHI(えにし)」プロデュースの店ですが、現在はバージョンアップした汁なし担担麺を提供しています。
「目指したのは、キャッチーな担担麺。スパイスを多用しつつ、マニアックすぎる味にならないように仕上げています」と、スタッフの村上彩香さん。基本の担担麺は、「担担」と「濃厚担担」の2種類。「濃厚」は、ベースのタレと練りゴマの量を増やし、クリーミーかつ辛さも楽しめます。また、クミンとベイリーフ入りオイルに13種類のカレースパイス、ガラムマサラを合わせた「13スパイスカレー担担」もあります。
スパイスだけで32種類を使用
「店名の『香辛薬麺』の通り、スパイス使いにはこだわっています。スパイスは、ラー油やパウダーなど、全部で32種類使用しています。そのまま食べても、混ぜ合わせても、素材やスパイスの味が引き立つように工夫しています」と、村上さん。
ベースのタレは、芝麻醤に醤油系香辛料ダレとあごダレを合わせたもの。麺にタレを絡ませた上に具材を盛り付け、自家製ラー油をかけ、さらに辛粉をまぶして完成です。自家製ラー油は、八角やチリホールなど20種類のスパイスを200℃の油に通したもの。辛粉は、レッドペッパーのほか、香りを出すための青山椒、辛さを出すための四川山椒、朝天辣椒をパウダーにしたものです。辛さ&シビレはレベル2~5が無料、レベル6~10が+50円で、辛粉の増減で調整しています。
麺は、大阪府豊中市にある島田製麺所に特注する中太ストレート。もちもちとした食感と、タレや具材との絡みやすさが特徴です。食べやすいよう短くカットされているのも、こちらならではの工夫です。


ひと口進めるごとに味が変化

肉味噌は、神戸ポークを甜麺醤などで味付け。他に、水菜、しば漬け、ローストしたカシューナッツ、シャキシャキの刻み玉ネギ、フライドオニオンをトッピング。レモンをぎゅっと絞っていただきます。刻み玉ネギは、高価な淡路産を使用。4~5月ごろは新玉ネギのため、やや甘めになるのだとか。混ぜながら食べると、スパイスの辛さ、カシューナッツの甘さ、柴漬けの主張しすぎない酸っぱさなどが一度に堪能できます。
「味変アイテム」は、卓上のオリジナル酢3種類です。和の風味を足すなら、「羅臼・真こんぶ酢」を。自家製ラー油を作る際に沈殿した粉を絞った、辛くない「辣粉酢」、カットしたオレンジを漬けた爽やかな「オレンジ酢」も、それぞれ異なる香りなので、ぜひ試してみたいところ。「レンゲに麺を乗せ、好みの酢をひと垂らしして、味の違いを楽しんでくださいね」と、村上さん。
もうひとつのおすすめが、ミニご飯にニボシ粉を振りかけたダイブ飯です。最後に残った具材にご飯を加え、大きく混ぜていただきます。
「当店の担担麺は、すべて汁なし、そして辛めです。冬は『体が温まる』、夏は『スープがなくて食べやすい』と、それぞれの季節でご好評をいただいています。個性がありながらも多くのお客さまにご好評いただいているので、同じ商品でもう1店舗出店したいと考えています」と、村上さんは語ってくださいました。
今回取材したオリジナリティのある進化系担々麺で共通していたのは「バランス感覚を重視すること」です。スープも香辛料も具材も、自由自在に組み合わせることができるため、個性を出しやすい商品のようです。オリジナルの担々麺開発のヒントとして、参考にしてみてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年03月)のものです