トレンドレポート トレンドレポート

テイクアウトラーメンの可能性

新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな影響を受けている外食産業。この状況を打破するひとつの切り口として、テイクアウトメニューの開発・拡充は急務の課題といえます。そこで今回は、東京近郊で「テイクアウトラーメン」を提供する4つの店を取材し、それぞれの工夫、苦労、こだわりをお聞きしました。

ソラノイロ 池袋店

「女性が1人でも気軽にラーメン屋に入れるように」というコンセプトで2011年に創業したソラノイロ。いくつもある支店のうち、「ソラノイロ 池袋店」ではラーメンだけでなく、ランチ限定の焼売やチャーシューエッグなども人気商品で、夜は居酒屋としても好評です。

ソラノイロ 池袋店

住所
東京都豊島区池袋2丁目22-5 東仙第2ビル1F
電話
03-6912-6715
営業時間
[月~金]11:30~15:00(L.O.14:30)/
18:00~22:00(L.O21:30)[土]11:30~22:00(L.O21:30)[日・祝]11:30~20:00(L.O19:30)
定休日
なし
池袋駅西口から徒歩10分の場所にある「ソラノイロ 池袋店」

沖縄そばをヒントにしたテイクアウト専用の麺

看板メニューの「中華そば」(税込780円)※テイクアウト
店長の大庵康嗣さん

東京駅のラーメンストリートなど、話題のスポットにいくつも店を構えてきた人気ラーメン店「ソラノイロ」。池袋ではこれまで、ラーメンだけでなく、定食やアルコールを楽しめる居心地のいい空間を提供する「ソラノイロ食堂」として営業してきました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、世の中の外食に対する考え方も大きく変化。「混みあっている時間帯を避ける、最少人数で来店する、滞在時間は短めに」という時代の潮流を鑑みて、同店は今年9月末、「ソラノイロ 池袋店」としてリニューアルしました。

「リニューアルしたのは、ラーメンメニューの充実とテイクアウトの導入が狙いです。温かみのある居心地のいい食堂形式は以前のまま。以前と同じようにお酒を楽しみながら長居してもらうのもよし。お持ち帰りで当店の味を楽しむのもよしと、さまざまなお客様が満足できる店になりました」

話を聞かせてくれたのは、店長を務める大庵康嗣さんです。テイクアウト導入にあたって大変だったことを聞くと、「麺が伸びるのをいかに防ぐか」と答えてくれた大庵さん。その悩みを解決するためのヒントは、伸びにくく保存性の高い沖縄そばでした。

「イートインの麺は、国産準強力粉を使った自家製麺で、うどんのようにモチモチとした弾力が特徴です。ただ、10分少々で伸びてしまうために、テイクアウトには適していません。そこで、テイクアウトの麺は沖縄そばを取り扱っている沖縄の製麺業者から特注でつくってもらうことにしました。一度茹であげた麺が油で固められた状態で届くので伸びにくく、茹で時間が30秒と短めなのが特徴です」

スパイスと肉の旨味が共存した旨辛メニュー

「テイクアウト専用の容器は、スープをこぼれにくくするために内蓋式のものを使用しています。また、少しでも出来たてに近い状態で提供できるように、麺とスープをそれぞれ分けて密閉しています」

テイクアウトできる麺料理は、ふんわりと煮干しが香る生姜醤油のスープが特徴の「中華そば」。生姜が加わることで食欲が増し、以前にも増しておいしさがアップした「油そば」。そして、辛いもの好きなお客様をターゲットにした「旨辛中華そば」「旨辛油そば」です。

「旨辛中華そば」(税込830円)※テイクアウト
卵のまろやかさが楽しめる「油そば」(税込850円)※テイクアウト

写真左:どんぶりの外蓋  写真右:麺・トッピングをのせる中蓋
どんぶりにスープを入れて中蓋をはめ込み、その中蓋の上に麺・トッピングをのせて、最後に外蓋をはめ込んで提供する

店内

「『旨辛中華そば』『旨辛油そば』は、甜麺醤と豆板醤をベースにした味付けで、そこに一味唐辛子や山椒、ラー油を入れています。上にのったひき肉を溶かすことで、肉の旨味がスープ全体に広がり、辛さとおいしさの両方が丼の中で共存する商品です」

ファミリー層も多く訪れる「ソラノイロ」。今後も地域で愛され続ける店づくりに励んでいきたいと大庵さんは言います。

「食事をしながら思い思いにのんびりしたり、楽しく過ごしたりできる昔ながらの食堂のような空間を提供していきたいですね。ただ、現在は当店の味を楽しみたくても外食そのものを躊躇する方も多くいます。そんな方たちに寄り添う形で、テイクアウトサービスを続けながら味、サービスの向上に努めていきます」

中華そば うめや

京急本線・金沢文庫駅から徒歩3分の場所にある「中華そば うめや」は、動物系の旨味とコク、魚介系の奥深い味わいと香りが楽しめる中華そば専門店です。2005年3月のオープン以来、近隣の住人に愛され続けています。

中華そば うめや

住所
神奈川県横浜市金沢区釜利谷東2-16-13 ソシアルマンション金沢文庫1F
電話
045-788-3112
営業時間
11:30~14:30/17:30~21:00
定休日
水曜日(※木曜日は昼のみ営業)
金沢文庫駅から徒歩3分の場所にある「中華そば うめや」

テイクアウトの魅力は自分好みの味にアレンジできること

人気メニューの「中華そば」(税込770円)※イートイン
人気No.2の「つけ麺」(税込820円)※イートイン

「中華そば うめや」の中華そばは、国産の豚骨や鶏ガラをじっくり煮込み、鰹や煮干しなどの魚介出汁をブレンドしたスープと、小麦本来の香りを重視した低加水の中細ストレート麺が特徴です。主なリピーターは近隣の住人ですが、テイクアウト・通信販売を始めたことで、客層が広がったといいます。

「イートインのサービスだけでは、今年は多くのお客様のニーズに応えるのは難しいと考え、テイクアウトと通信販売を始めました。近隣のかたが家族で楽しむために人数分のラーメンをテイクアウトしたり、遠方から通信販売を利用する方がいたり、『お店と同じ味が家で食べられる』と好評です」

店長を務める高橋直人さんは、学生時代に北海道で味わった魚介出汁らーめんに衝撃を受けて、数年間の修業を重ねて「中華そば うめや」をオープンした人物です。

自宅で出来立ての味わいを楽しんでほしいため、商品は冷凍状態でお届けします。ラーメンはすべて麺とスープのみの販売。そこには、テイクアウトのメリットを生かした狙いがありました。

「テイクアウトで食べるラーメンの魅力は、自宅で自分好みにアレンジできること。当店の焼き豚・メンマ・揚げネギや追加用の麺を購入したり、自宅でトッピングを用意したり、当店オリジナルの『手作りらー油』や『にんにく七味唐辛子』をかけて味変したりするのもいいと思います。楽しみ方は自由自在です」

貝の旨味が味わえる「塩らーめん」(税込820円)※イートイン
写真左:「中華そば うめや」オリジナルのにんにく七味唐辛子(税込400円)
写真右:しびれるような辛みとゴマの香りが特徴の「らー油」(税込700円)

肉の旨味と香ばしさが詰まったこだわり焼豚

中華そば(スープ・麺)税込550円
トッピング(焼豚・メンマ・揚げねぎ)税込250円

テイクアウトできるメニューは「中華そば」「塩らーめん」「つけめん」の3種類。そのなかでも「中華そば」が人気です。味玉、海苔、メンマ、チャーシューをのせれば、イートインの看板メニュー「特製うめやそば」さながらの味が楽しめます。

「『塩らーめん』は海塩と岩塩をブレンドした塩だれに濃厚な豚骨魚介出汁とアサリの旨味を抽出したアサリ油を合わせたスープが特徴で、一口目から貝の味わいを感じられる個性的なラーメンです。『つけめん』は『中華そば』とともに創業当初から人気のメニューで、夏には売り上げが中華そばを上回ることがあります」

トッピングは「焼豚」が人気です。薫製用の専用釜でじっくりと吊るし焼にすることで、国産肩ロースの肉汁を閉じ込めて余分な脂を落としています。肉の旨味と香ばしさが詰まった逸品です。

店内

コロナ禍という逆風を機に、たくさんの人々に「中華そば うめや」の味を届けている高橋さん。今後もテイクアウトと通信販売は長く続けていきたいと言います。

「外食を自粛する気持ちがあったり遠方で来られなかったりと、いろいろな事情があって来店できないお客様がたくさんいます。いつでもお客様のニーズに応えられるように、常に在庫を切らさないようにして、今後も長く通信販売・テイクアウトを続けていく予定です。化学調味料を一切使用せず、素材本来の旨味を活かした当店自慢の商品を多くの人に味わってほしいですね」

らーめん えんや

JR京浜東北線王子駅から徒歩3分の場所にあるラーメン店「らーめん えんや」。開店したのは北浦和でしたが、9年ほど前に王子に店を移し、現在は学生から年配のお客様まで幅広い年齢層の心をつかんでいます。

らーめん えんや

住所
東京都北区岸町1-1-10 岸町NU 1F
電話
03-3905-6550
営業時間
11:00~24:00
定休日
なし
JR王子駅から徒歩3分の場所にあるラーメン店
「らーめん えんや」

真空低温調理したチャーシューの魅力

女性客から人気の「ゆずつけ麺」(税込900円)※テイクアウト
店長の長沼宏和さん

王子駅近くにある「らーめん えんや」は、「塩らーめん」を中心にバラエティ豊かなメニュー展開をしているラーメン店です。夏には「冷やしらーめん」、冬には「味噌らーめん」など、季節限定のメニューも販売しています。ラーメンは細麺で、つけ麺・油そばは平打ち麺、すべて国産小麦を使った自家製麺です。店長の長沼宏和さんに話を聞くと、緊急事態宣言を受けて、つけ麺や油そばなどのテイクアウトも充実させたといいます。

「テイクアウトのメニューを販売する際に気を付けているポイントは、つけ麺のスープがこぼれないようにプラカップをしっかりと固定してお渡しすること。また、時間が経ってもムラなく箸でほぐせるように、麺には出汁をかけています」

真空低温調理でつくったこだわりのチャーシュー

テイクアウトできるつけ麺は「塩つけ麺」「麻辣塩つけ麺」「麻辣柚子塩つけ麺」、女性から人気の「柚子塩つけ麺」です。ねぎ、山クラゲ、岩ノリ、三元豚の肩ロースチャーシューと具材も豊富で、どの商品も食べ応え抜群です。

「チャーシューは真空低温調理をすることで、しっとりした味わいとローストビーフのような食感を引き出しています。煮ただけではこの味わいやほのかなピンク色は出しにくいです。チャーシューはコロナ前からテイクアウトを受け付けていたのですが、クリスマスや正月になると毎年売り切れになる人気商品。今年の年末も多めにつくるつもりです」

高級卵を絡めて楽しむ油そば

油そばは「彩美卵の油そば」「彩美卵の麻辣油そば」の2品です。

「油そばに温泉卵として盛りつけている彩美卵は、人気養鶏場のアクアファームから取り寄せている高級卵です。まろやかで卵独特の臭みがまったくなく、卵が苦手な人でも食べられます。かき混ぜることでやさしい甘みが麺全体に広がり、おいしく食べられますよ」

「彩美卵の麻辣油そば」は旨辛好きから激辛好きの方までが楽しめるメニューです。厳選した唐辛子と花椒をブレンドした独自のスパイスを使い、オーダー時に1辛~3辛までの注文を受け付けています。追加料金を払えばさらに辛さをプラスできます。

「麺類のほかには『水餃子』のテイクアウトも人気です。おろしポン酢と麻辣の2種類の味付けを販売しています。もっちりとして食べ応えがあるのが特徴で、お酒のお供として楽しむお客様も多いです」

人気メニューの「彩美卵の油そば」(税込850円)※テイクアウト
モチモチとした食感の「水餃子 ~おろしポン酢~」(税込400円)

緊急事態宣言以降から減った客足も、現在は少しずつ戻ってきているという長沼さん。大切にしているのは、リピーターが何度来ても飽きない店づくりだといいます。

「季節限定のメニューだけでなく、イートインでもテイクアウトでも利用できるポイントカードもリピーターから好評です。ポイントがたまればトッピングが無料、ラーメンが無料になります。これからもお客様に当店の味を安心しておいしく味わってもらえるように、予防対策・メニューの充実を図っていきたいですね」

テイクアウト用容器
店内

寿製麺 よしかわ 川越店

JR川越駅からバスで10分の場所にある「寿製麺 よしかわ 川越店」は、平日も多くのお客様が車で訪れ、行列をつくる人気ラーメン店です。埼玉の上尾、坂戸、東京の西台駅そばにも店舗展開をしており、各店舗ともに連日賑わいを見せています。

寿製麺 よしかわ 川越店

住所
埼玉県川越市今福1738-14
電話
049-293-8609
営業時間
[平日]11:00~15:00(LO.14:30)/17:00~21:00(LO.20:30) [土曜・祝日]11:00~21:00(LO.20:30)※スープがなくなり次第終了
定休日
日曜日
JR川越駅からバスで10分の場所にある「寿製麺 よしかわ 川越店」

2つの取り組み。「テイクアウトメニュー」と「お土産メニュー」

煮干しつけ麺(税込980円)※テイクアウト
代表取締役の吉川和寿さん

「寿製麺 よしかわ」は、かたくちいわしや、青口、平子など4種類の煮干をブレンドした優しい味わいのスープと、上質な国産小麦粉と全粒粉を使った自家製麺が評判の煮干しそば専門店。ラーメンだけでなく、海鮮丼やいわし丼などの刺身類も提供しているのが特徴です。

代表取締役を務める吉川和寿さんは板前、イタリアン、フレンチなど、さまざまな店で料理人としてのスキルを磨いた人物。これまでの経験を活かしたメニューを多くのお客様に届けたいという想いで、コロナ禍となった3月下旬以降、持ち帰ってすぐに食べられる「テイクアウトメニュー」と、冷凍状態で提供する「お土産メニュー」の販売を始めました。

テイクアウトできるラーメンは「煮干しつけ麺」と「煮干し油そば」。どちらもモチモチとしていて光沢のある麺が特徴です。

「温かい麺は、時間が経つとでんぷん質が表面に出てきて、麺全体がこびりついてしまいます。それを避けるために、どちらのメニューも“冷やし”での提供です。麺一本一本の食感を保つため、つけ麺は麺に煮干し油をつけています。油そばは食べる直前に丼の底にあるタレと麺にかかっている煮干しペーストをかき混ぜることで麺がほぐれ、濃厚な味わいが楽しめます」

イートインでは真空低温調理した柔らかい食感のチャーシューが人気ですが、テイクアウトでは吊るし焼きで完全加熱した香り豊かなチャーシューを使用。夏場などに衛生面を気にするお客様でも安心して食べることができます。

煮干しつけ麺(税込980円)※テイクアウト
煮干し油そば(税込780円)※テイクアウト
つけ汁用の器
油そば、つけ麺の麺を入れる器

多店舗展開で、多くのお客様に当店の味を

お土産メニュー「煮干しそば白醤油」(税込1000円)
※通常1200円ですが、新型コロナウイルスが落ち着くまで1000円で販売

お土産メニューのラーメンは、定番の『煮干しつけ麺』『煮干し油そば』に加えて、低加水で歯切れのいい麺が特徴の看板メニュー『煮干しそば』も人気です。10月末からは、生牡蠣からじっくりと出汁をとった風味豊かなスープが楽しめる『かきそば』もメニューに加わりました。

「お土産メニューは麺が折れないように、冷凍庫で重ねないようにして保存しています。また、当店は車で来店するお客様が多く、お渡ししてから自宅の冷凍庫に保存するまで時間がかかります。そのため、少しでも溶けにくくなるように保冷バッグと保冷材も提供しています」

店内

テイクアウト、お土産メニューをお渡しする際には、お客様が店の滞在時間を少しでも減らせるように来店前に電話注文を受けたり、店の外で商品を渡したりと、丁寧なやり取りでコロナ対策に取り組んでいます。

イートイン、テイクアウト、お土産メニューなど、さまざまな形で「寿製麺 よしかわ」の味を提供する吉川さん。今後は新店舗の開業も視野に入れていると言います。

「今後も力を入れていきたいのは人材育成です。当店は刺身も提供していますから、素早く調理をしなくてはなりません。そのためには正しい知識と包丁捌きを社員に教えています。一人前になった社員にのれん分けして多店舗展開をすることで、多くのお客様に当店の味を楽しんでほしいですね」

今回取材した4店舗は、コロナ禍を受けて店をリニューアルしたり、テイクアウトで新メニューを開発したりと、厳しい状況ながらも活路を見出そうと、変化を恐れず、新しい取り組みに挑戦していました。その根底にあるのは、イートインであってもテイクアウトであっても、お客様に店の味を楽しんでほしいという強い意志です。どの店も、テイクアウトを始めたことでリピーターの心をより強く掴み、顧客層の広がりを実感していました。依然として未曽有の事態は続きますが、考え方次第で逆境も好機となるのかもしれません。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年11月)のものです