
現在、飲食業界ではテイクアウトが注目を集めています。これまでラーメンなどの麺類はのびやすく、持ち帰りには適さないと考えられてきましたが、最近ではのびにくい麺の開発や、スープがない「まぜそば・汁なしそば」をテイクアウトメニューとして採用する店舗が増えてきました。そこで今回は関東でまぜそば・汁なしそばを扱う店舗の中から斬新なメニューを取り入れている4店舗をピックアップ。その調理法やこだわりなどについて取材しました。
Handicraft Works
5年前に埼玉県八潮市にオープンした「Handicraft Works(ハンディクラフト・ワークス)」はブラジル発祥の肉料理「シュラスコ」を大胆に使ったパレット(油そば)が看板メニュー。ラーメン業界における最高権威とも呼ばれる「TRYラーメン大賞」の新人賞汁なし部門で1位に輝いたこともあり、その味を求めて県外からも多くのお客様が訪れています。
Handicraft Works
- 住所
- 埼玉県八潮市伊勢野111-1
- 電話
- 048-948-7631
- 営業時間
- 火〜金曜 11:30~14:20、17:30~19:50
土曜・日曜・祝日 11:30〜19:50 - 定休日
- 月曜

たっぷりのシュラスコでごちそう感を演出


大勝軒などで修行を積んだ店主の鶴岡さんが「Handicraft Works」をオープンする際にこだわったのは、店内でブラジル料理のシュラスコを調理できることでした。鉄の串に大きな塊肉を刺し、炭火でじっくりと焼き上げると、なんとも香ばしい匂いが店内いっぱいに広がり、食欲をかき立てます。
看板メニューの「クラシックビーフパレット」は焼きたてのシュラスコとブラジル産のソーセージを合計約120g以上も使用。その見た目は肉料理のプレートのようで、目の前に運ばれてくると一瞬にして卓上が華やかになります。
「やっぱり肉料理ってごちそう感が強いんですよね。ラーメンは1杯の値段が1,000円以上になると高額に感じられるという壁がありますが、肉をたっぷり使うことでその壁を超えられると考えました。」(鶴岡さん)
“キャンプめし”のようなワイルドさを追求
メニューの開発時には和牛をはじめさまざまな肉を使って試作を重ねたそうですが、鶴岡さんが採用したのはあえて高価ではない肉を使用したシュラスコでした。これは脂身が少なく噛みごたえのある赤身肉を使うことで、“キャンプめし”のようなワイルドさを演出するためなのだそう。
油そばの上にたっぷりと盛り付けられたサラダとシュラスコ、ソーセージは異色の組み合わせのように思えますが、豪快にかき混ぜて食べてみると味は不思議と一体化。油そばのタレの塩気と旨味、サラダの酸味、シュラスコのスパイスが見事に調和し、麺とともに口の中に運ばれてくるシュラスコを噛み締めるたび、牛肉の旨味も口の中いっぱいに広がっていきます。
「肉にかぶりついているような感じは高級な肉だと出せない」と断言する鶴岡さん。「クラシックビーフパレット」は使用している肉の特性を存分に活かしながら、お客様の満足度を高める見事な一杯にまとめられていました。


食べやすさや胃もたれしにくさにも配慮
油そばのタレはその名の通り油が多く使用されているため、ラーメンやつけ麺などよりも胃もたれを起こしやすいと考えられています。そのため女性の方は特にハードルが高く感じてしまいそうですが、「Handicraft Works」では食べやすさや胃もたれしにくさにまで配慮されていました。
具材にレタスやオニオンスライスがたっぷりと使われているのはまさにこのためで、一見サラダのように見える盛り付けによってハードルがグッと低下。卓上のフルーツビネガーを和えるとサラダ感はさらに増幅し、まるでパスタサラダのような感覚で食べられます。
使用している麺は自家製麺で、小麦は国産小麦を中心に季節によって使用する種類を変更。加水率を高めにし、毎朝打ち立ての麺を寝かさずに使うことでモチモチとした粘りのある食感とのどごしのよさを表現しています。また、加水率を高めにすることで胃もたれを予防する効果も得られるのだとか。
パレットメニューはテイクアウトも可能。調理をしてから10分後、15分後と時間を置いてからの試食を何度も繰り返した結果、25分以内ならよりおいしく食べられるという目安を設定したうえでお客様に提供しています。


Maze Cafe* ラーメン美谷
「Maze Cafe* ラーメン美谷」は店主の美谷玲実さんがクラウドファンディングなどで資金を集め、2021年3月に上野にオープンさせたまぜそば専門店。その味は通も唸るほどの本格派で、美谷さんの出身地である北海道の食材をふんだんに使った新感覚まぜそばは見た目もカラフル。従来のまぜそば・汁なしそばの枠から飛び出した斬新な一杯となっています。
Maze Cafe* ラーメン美谷
- 住所
- 東京都台東区東上野4-15-7
- 電話
- 03-5830-3308
- 営業時間
- 火〜金曜 11:30~15:00、17:30~21:00
土曜・日曜・祝日 11:30~23:00 - 定休日
- 月曜

北海道の食材を使ったクリーミーまぜそば


国内でも随一のラーメン激戦区である北海道・札幌で生まれ育った美谷さん。もともとは芸能活動をしていましたがラーメンづくりを得意とする祖母の影響を受け、自らもラーメンづくりを始めたそう。そして制作したメニュー数が30種類を超えた頃、芸能活動から一線を退いてラーメン屋を始めることを決意。クラウドファンディングでの資金調達にも成功し、2021年3月に「Maze Cafe* ラーメン美谷」をオープンさせました。
「Maze Cafe* ラーメン美谷」で店内提供している麺類は2021年6月現在まぜそばのみとなっていて、看板メニューの「北海道の白いゆきそば〜white special〜」はバター、マッシュポテト、クリームチーズなど、その名の通り北海道の食材をふんだんに使用。麺ももちろん北海道産の小麦を厳選して三河屋製麺で特注し、スープはオニオンスープを使用するなど、美谷さんの故郷である北海道への愛が強く感じられる一杯となっています。
まるでパスタのようにモチモチとした食感の手もみ麺は白だし、豆乳、生クリームなどを加えて作られた塩ダレとよく絡み、最初は塩と胡椒の優しい味わいが印象に残ります。ところが食べ進めていくうちにマッシュポテトやバター、チーズなども麺に絡み始め、味は徐々にクリーミーに。最後にはまるでクリームシチューのように濃密な味へと変化するというグラデーションを堪能できます。
女性一人でも入りやすい“カフェ”スタイル
そんな新感覚のまぜそばを提供している美谷さんのこだわりは店名にも込められていました。美谷さんがいろいろな店でラーメンを食べ歩くなかで感じたのは、「ラーメン屋は料理を早く食べてすぐに店を出なければならないような、独特の急かされる雰囲気がある」ということ。この雰囲気が苦手でラーメン屋には入りにくいと感じている女性は多いのだといいます。
「そこで店名を“まぜそば屋”ではなく“Maze Cafe”とすることで、カフェのようにゆったりとリラックスしながらまぜそばを食べてもらえる雰囲気を作っていきたいと考えました。女性や学生でも気軽にお店に来てもらえるようにカフェメニューも取り揃え、夜はお酒も楽しめるようにおつまみメニューを多く用意しています」(美谷さん)
さらにお店の外装やインテリアもカジュアルなデザインで統一。店内にはかわいらしいイラストなども飾られ、従来のラーメン屋とは一線を画した雰囲気に。この取り組みは見事に成功し、平日は近隣に勤めている女性が多く来店され、テイクアウトメニューも積極的に活用されているそうです。


インスタ映えを意識した華やかな盛り付け
もちろん女性客からの支持を集めるためには、提供しているまぜそば自体が女性にとって魅力的でなければなりません。「Maze Cafe* ラーメン美谷」では北海道の食材のほかに野菜もたっぷりと使用し、女性からも親しまれやすい盛り付けにも配慮しながらメニュー開発をおこなっているそうです。
「味と同じくらい見た目のきれいさにはこだわっています。まぜそばはどうしても味が重たく、あまり健康的でないイメージが強いですよね。でもレタスやパプリカを使ってサラダのように盛り付ければヘルシーに見えますし、色鮮やかにもなります。北海道の雪をイメージした粉チーズを振りかけたり、バターをハート型にくり抜いたりして、女性が見てかわいいと思えるような要素も盛り込みました。写真に撮ってインスタなどのSNSにアップしたくなるような盛り付けにすることで、女性が店に入りやすい雰囲気を作っていきたいと考えています」(美谷さん)
盛り付けのきれいさだけではなく、レタスやパプリカなども見事にまぜそばの食材として調和。その絶妙なバランス感覚が支持を集めている理由なのかもしれません。


まぜそば三ツ星
東京メトロ恵比寿駅から徒歩2分、JR恵比寿駅から徒歩3分という好立地に店舗を構えて5年目となる「まぜそば三ツ星」。まぜそばは卓上の調味料などを加えて自分好みの味にカスタムできる点が醍醐味のひとつですが、「まぜそば三ツ星」はメニューやトッピング、卓上調味料が豊富で、その組み合わせの数はまさに無限大。自分好みの一杯を見つける楽しさを体験できます。
まぜそば三ツ星
- 住所
- 東京都渋谷区恵比寿西1-13-2
- 電話
- 03-6455-0552
- 営業時間
- 12:00~15:30、18:00〜25:00
※日曜・祝日は22:00まで - 定休日
- 不定休

メインの具材を5種類から選べるまぜそば


メニューブックを眺めているだけで気持ちがワクワクしてしまうのが恵比寿の「ませそば三ツ星」。定番のまぜそばのほか、まぜそば担々麺、マーボーあんかけ麺、汁なし担々麺など10種類以上のメニューがラインアップされていて、まぜそばはメインの具材を豚、和牛、ぶり、ラム、ベジの5種類から選べるという選択肢の多さが最大の特徴となっています。
定番のまぜそばの具材は青海苔、天かす、ねぎといった和風のものからピーナッツ、バナナチップなどの異色のものまで、合計10種類以上盛り付けられているという豪華な一品です。
麺はまぜそばとの相性を最優先で考え、タレが絡みやすい中太麺を三河屋製麺で特注。メインの具材に和牛を使った「和牛まぜそば」は旨味が凝縮された和牛肉味噌が使われているのですが、これが麺にたっぷりと絡みつき、食感も味も異なるさまざまな具材を引き連れながら口の中にやってきます。麺自体の食感ももっちりとして存在感があり、一口ごとに味の印象が変わっていくのがなんとも楽しい一杯です。
「定番の具材から変わり種の具材まで、たくさんの食材を足し算して味を完成させているのが三ツ星の特徴です。例えばバナナチップなどは意外に思えますが、甘味や硬い食感がいいアクセントになるんですよ。いろいろなジャンルの具材が入っているので、和風に感じる人もいればオリエンタルに感じる人もいたり、食べる人によって感想が全然違うので面白いですね」(行者さん)
トッピングや調味料で味を自在にカスタマイズ
ベースとなるまぜそばをそのまま食べるだけでも十分満足感を得られますが、豊富なトッピングや調味料を駆使して自分好みの味にカスタマイズできることこそが「まぜそば三ツ星」の最大の魅力。トッピングは辛さをプラスするハバネロや花山椒のほかに、パクチー、キムチ、ベーコンオリーブ、とろろ、納豆、高菜炒めなど、多国籍なトッピングが実に20種類近くも。さらに卓上にはゆず酢、トムヤムビネガー、麻辣スパイス、ヤミツキソルト、わさび油などの調味料がズラリ。もはや味の組み合わせは無限大!
「いろいろな具材や調味料を組み合わせて自分好みの味を見つけてもらえたらいいなと思っています。常連さんになるほど毎回味を変える人は少なくなり、自分の好きな組み合わせを見つけて、いつも同じメニューとトッピングを注文されるようになるんですよ」(行者さん)
夜はお酒も飲めるまぜそば屋としても営業していることもあって、麺は並盛の2段階下となる極小サイズから用意。グルテンフリーのこんにゃく麺もあり、気分や体調、使うシーンなどにも合わせて自在にカスタマイズすることができるのも特徴です。


動物性の油を不使用のタレ ビーガン向けも対応可
まぜそばにむやみにトッピングや調味料を加えると味が壊れてしまいそうな気がして、なかなか一歩踏み出せないという方も多いはず。「まぜそば三ツ星」ではどんな方でも気兼ねなくカスタマイズを楽しめるように、追加された食材にあわせて変幻自在に味が変わるようなタレを使用しています。
「タレは昆布だしと醤油で味付けしていて、油はネギ油を使っています。口当たりはとてもまろやかで、クセがなくマイルド。なので、追加された具材や調味料と一体化しやすく、どんな味にもマッチします。動物性の油を使用していないので胃もたれしにくく、体にも優しいですよ」(行者さん)
希望すればかつおだしの入った醤油を生醤油に変更することもできるため、メインの具材をベジにすれば動物系食品一切不使用のビーガン向けまぜそばにカスタマイズすることも可能。こちらは女性や外国人観光客からの注文がとても多くなっているそう。
まぜそばのメニューは全品テイクアウト可。麺と具材を入れた容器とタレの容器を分け、麺には茹で終えたあとに油を和えてなじませることで、時間が経過しても麺がくっつきにくいように工夫を凝らしています。もちろん、豊富なトッピングメニューもテイクアウト可能です。


Tokyo Bay Fisherman’s noodle 横須賀店
オーナーが自ら東京湾まで漁に出て水揚げするホンビノス貝を贅沢に使用した、唯一無二のラーメン・まぜそばを提供している「Tokyo Bay Fisherman’s noodle(トウキョウ・ベイ・フィッシャーマンズ・ヌードル)」。看板メニューの「潮らぁ麺」は「TRYラーメン大賞」の新人賞しお部門で1位に輝いた逸品ですが、まぜそばも熱烈な支持を集めています。
Tokyo Bay Fisherman’s noodle 横須賀店
- 住所
- 神奈川県横須賀市森崎2-11-13
- 電話
- 046-887-0173
- 営業時間
- 月〜金曜 11:00~15:00、18:00〜21:00
土・日曜 11:00〜21:00(LO/20:45) - 定休日
- 不定休

海に近い横須賀だからこそ作れる一杯


TRYラーメン大賞2020-2021の新人賞・しお部門で1位を獲得した人気ラーメン店の「Tokyo Bay Fisherman’s noodle」が店舗を構えるのは神奈川県横須賀市。都心から遠く、ラーメン屋を営むのにはあまり適した立地には思えませんが、この地でなければならない必然的理由がありました。なんと「Tokyo Bay Fisherman’s noodle」のオーナーは漁師を兼業していて、自らが東京湾にまで漁に出向き、スープに使用するホンビノス貝を水揚げしているのです。
ホンビノス貝はアメリカ生まれの貝で、良質なだしがとれることからクラムチャウダーなどにも使われる高級食材。それを新鮮な状態のままふんだんに使用して炊き上げるスープはまさに絶品で、調理担当の阿南さんいわく「一般的なルートで仕入れて同じ量を使ったら確実に原価割れする」というほど。他店には絶対に真似できない唯一無二のラーメンとまぜそばを作るためには、東京湾に面した横須賀という地でなければならなかったのです。
バターとガーリックで食べごたえ抜群の味

TRYの新人賞で1位を獲得したのはホンビノス貝の旨味を凝縮させた「潮らぁ麺」で、売上の大部分を占める看板メニューとなっていますが、常連さんから人気なのが「まぜそば(潮)」です。
湘南の麻生製麺に特注で作ってもらっている麺を手揉みせずに1.5玉使用し、特製の塩ダレとホンビノス貝をベースにしたスープで味付け。麺の上からバターを添えたホンビノス貝、江戸菜、細竹、ネギをのせ、豚バラと豚ロースの炙りチャーシューを細かく切ってトッピング。仕上げにガーリックパウダーを振りかけた一杯は思いのほか味が濃くジャンクな仕上がり。ところがよくかき混ぜるほどにホンビノス貝の旨味が強く主張するようになり、口の中は多幸感でいっぱいに。食べ応えも抜群です。
「ラーメンの麺はスープを浸透させるため、茹でる前に麺を手もみして縮れ麺にしているのですが、まぜそばは味が濃い目なので揉まずにそのまま茹でています。縮れがなく、もっちり食感の麺とバターとガーリックの組み合わせなので、パスタっぽいという感想をいただくことも多いですね」(阿南さん)


締めは貝のスープで炊いたご飯で“追い飯”
まぜそばを食べ終えると丼の底にはまさにクラムチャウダーのような濃厚なスープが残りますが、ここで阿南さんがおすすめするのが“追い飯”。油そばや台湾まぜそばなどの汁なし麺では最後に白飯を入れることで残ったタレを一滴残らずおいしくいただくことができますが、「Tokyo Bay Fisherman’s noodle」で用意されているご飯はただの白飯ではありません。なんとホンビノス貝のスープを入れてご飯を炊き上げているという贅沢仕様になっていて、貝の旨味を一層強く堪能することができます。
何種類か用意されているご飯メニューのなかでも、貝だしご飯に生姜ダレと青ネギをかけた「貝ジンジャー(税込200円)」は抜群の相性を発揮。生姜による味変効果も感じながら、ホンビノス貝の旨味やガーリックのきいた追い飯を味わえます。まぜそばは麺を1.5玉使用しているため、麺だけでも十分お腹が満たされるかと思いますが、余力があればぜひ挑戦したいところです。


今回ご紹介した4店舗ではいずれも従来のまぜそば・汁なしそばの枠を飛び越え、自由な発想でメニューやサービスを考案されている点が印象的でした。テイクアウトやデリバリーの需要が大きい現在、今後もさらに表現の幅を広げたまぜそば・汁なしそばがトレンドになっていくことは間違いないでしょう。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年06月)のものです