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地元で愛されるご当地焼きそば

ローカルフードやB級グルメでも定番の「焼きそば」。ソースや塩での味付けが一般的ですが、その土地ならではの食文化や特産物を活かし、ご当地グルメとして独自の発展を遂げてきた焼きそばも数多く存在しています。その味わい、魅力はどんなものなのでしょうか。今回は「ご当地焼きそば」をテーマに話題を集める人気の4店舗を取材し、材料や調理法など、それぞれのこだわりをお聞きしました。

きっせい

JR東海道本線湯河原駅から徒歩9分の場所にあるラーメン店「きっせい」。ラーメン激戦区といわれる湯河原町でバリエーション豊かな麺料理を提供し、近隣の住人から愛され続けています。

きっせい

住所
神奈川県足柄下郡湯河原町中央1丁目10-18
電話
0465-63-1928
営業時間
11:30~14:30/17:00~21:30
定休日
金曜日
湯河原駅から徒歩9分の場所にあるラーメン店「きっせい」

神奈川県湯河原:坦々焼きそば

神奈川県西部にある全国有数の温泉街、湯河原。この地のご当地グルメとして定着しているのが「坦々焼きそば」です。湯河原には「たぬきが見つけた温泉」伝説があることから、民謡「たんたんたぬきの……♪」にあやかって「坦々やきそば」のメニューを考案。練りゴマや豆板醤などを主原料とした香ばしいピリ辛の味付けが特徴です。地元産レモンなどの柑橘系を添えた「湯河原柑橘系」、温泉卵をトッピングする「温泉卵系」などの派生ジャンルも生まれています。

かた焼きそばスタイルの「坦々焼きそば」

名物「坦々焼きそば」(税込1,000円)
店長を務める柳下和久さん

湯河原町内で現在17店で販売している「坦々焼きそば」を、ラーメン店「きっせい」では“かた焼きそばスタイル”にて提供しています。店長を務める柳下和久さんは、自身の好物である長崎の皿うどんをヒントに、店独自の「坦々焼きそば」の着想を得たと言います。

「湯河原町商工会から『坦々焼きそばで町全体を盛り上げよう』というお話をいただいたときに思い浮かんだのが、長崎の皿うどんのようなかた焼きそばスタイルで調理することでした。トロッとした坦々風五目餡がかかった細い揚げ麺のかた焼きそばスタイルは、食感、味わいともに、当店ならではのオリジナリティが出せていると思います」

そんな「きっせい」の味の決め手は、店の定番メニューであるラーメンで使う、こだわりのスープです。

「当店は、『正油らーめん』や『ミソらーめん』のほか、あごだしが効いた『あごらーめん』や北海道で人気の『オロチョンらーめん』など、ラーメンのメニューを豊富に揃えています。しかし、どのラーメンも味付けのベースは鶏や豚などを煮込んだスープ。『坦々焼きそば』も同様です。まずはオリジナルのスープに、湯河原市特製の坦々ソースを混ぜ合わせる。そこからさらに煮込んでとろみをつけて、餡をつくっています」

旨味が濃縮された坦々風五目餡

カウンターとテーブル席のある落ち着いた店内

もやし、たまねぎなどの野菜に、豚肉、エビ、ホタテ、ウズラの卵などが絡む坦々風五目餡は、辛さの中にも野菜や肉、海鮮の旨味が凝縮されており、奥深い味わいがあります。

「湯河原町で『坦々焼きそば』を販売するお店は、湯河原市特製の坦々ソースを使っています。その味わいはピリッとしていてなかなかの辛さ。さらなる辛さを求めるお客様は、配膳時にお盆に添えた豆板醤をお好みで加えることで、辛さとコクを楽しめます」

ネットでも話題のご当地焼きそばを提供することで、多くの観光客も訪れる「きっせい」。開業してから十数年が経ちましたが、今後も変わらず、お客様に愛される店を経営していきたいと柳下さんは言います。

「『坦々焼きそば』は主に観光客から注文を受けることが多い商品です。一方でラーメンのメニューはとても多いですが、それぞれに地元のリピーターがいます。観光客とリピーター、どちらも当店には大切なお客様です。どちらも大切にできるような丁寧な接客を心がけながら、これからも店を長く続けていけたらいいですね」

ぼん天

JR武蔵野線新秋津駅から徒歩15分の場所にある大衆中華料理店「ぼん天」。カウンター席・テーブル席が70席、座敷席が60席と規模の大きい店ですが、平日にランチタイムでも満席になるほどの盛況ぶりです。

ぼん天

住所
東京都東村山市久米川町1-37-30
電話
042-393-7074
営業時間
11:15~14:00/17:00~22:00(L.O.21:15)
定休日
不定休
新秋津駅徒歩15分の場所にある「ぼん天」

東京都東村山市:黒焼きそば

東京都東村山市の名物「黒焼きそば」は、地元のソースメーカー・ポールスタア特製の黒ソースを絡めたご当地グルメ。うまみ成分である天然アミノ酸をたっぷり含んだ「イカスミ」、“幻の旨味酒”ともいわれる鹿児島特産の日本酒「黒酒」、その他各種スパイスがブレンドされた黒ソースは、中濃ソースよりやや塩辛く、イカスミ独特の風味や苦み、甘みがあります。このソースをたっぷり使った焼きそばは、スパイシーな中にほのかな酸味と甘みのある、なんとも癖になる味わいです。

イカスミソースの味が際立つ「黒焼きそば」

東村山のご当地グルメ「黒焼きそば」(税込770円)
店主の志村一夫さん

東京都東村山市のご当地グルメ「黒焼きそば」を、本格中華さながらの味わいで楽しめると評判なのが大衆中華料理店「ぼん天」です。「黒焼きそば」以外にも、野菜たっぷりで優しい味わいの「五目タンメン」やボリューム満点の「生姜焼き丼」など、安くておいしい、ボリューム満点のメニューが揃っています。

これらを調理しているのはベテランの中華料理人の皆さん。そのひとりで、店長を務めるのが志村一夫さんです。

「当店の『黒焼きそば』が現在の味に至るまで、ソースの濃度や味の濃さなど、丁寧に改良を重ねてきました。大切にしているのは、ソースの味わいをいかにして引き立たせるか。まず野菜を強火で炒めることで、野菜の水分を飛ばして旨味を凝縮し、そこにソースを絡め、隠しスパイスの黒コショウで味を調えています。野菜の凝縮された旨味、黒コショウのパンチが加わることで、黒ソースの味わいに深みを出すことができました」

辛い物好きなお客様は卓上のラー油を入れるのもおすすめの食べ方。ラー油独特の辛味と風味は黒焼きそばの味わいと相性抜群です。

外はパリパリ、中ふんわり 『二面パリパリ黄金焼き』

「ぼん天」で「黒焼きそば」が販売されるようになってから13年。現在も季節を問わず人気を集めています。店頭でも販売している黒焼きそばソース(税込500円)を買って、自宅で「黒焼きそば」を楽しむお客様も多いと志村さんは言います。

「使用している麺は創業50年の歴史を持つ製麺メーカー、山正食品から卸した中太麺です。当店では『二面パリパリ黄金焼き』という手法で麺を調理しています。両面がきつね色になるまで焼き目をつけてそこから炒めるんです。麺のコシが楽しめるだけでなく、外はパリパリ、中はふんわりとした食感になります。家庭で『黒焼きそば』を調理するときも、ぜひ挑戦してみてほしいですね」

ファミリー層や若者客なども多く訪れ、休日・平日問わずランチタイムは満席になるという「ぼん天」。ここまで多くのお客様に愛されるお店を続けてきたのは、志村さんの料理人としての熱意の賜物のようです。

「料理人になってから常に大切にしてきたのは味に嘘をつかないこと。お客様が味・ボリューム・値段に満足して帰ってもらえるように、従業員ともども熱心に料理に向き合ってきました。現在はコロナ禍ということもあり、テイクアウトでの販売も導入していますが、どんな形であってもお客様が満足の出来る味を提供していきたいですね」

お土産としても人気の「黒焼きそばソース」(税込500円)
開放的な広々とした店内

中国菜館 まんみ 泉中央店

仙台市の地下鉄南北線泉中央駅から徒歩4分の場所にある「中国菜館 まんみ 泉中央店」。「100回食べても飽きない味」をコンセプトに調理されるラーメン、焼きそば、丼物のメニューは、それぞれに根強いリピーターを獲得しています。

中国菜館 まんみ 泉中央店

住所
宮城県仙台市泉区泉中央1-22-3
電話
022-371-9111
営業時間
[昼]11:00~15:30(15:15L.O)/[夜]17:00~21:00(20:45L.O)
定休日
不定休
仙台市泉区にある「中国菜館 まんみ 泉中央店」

宮城県仙台市:仙台マーボー焼きそば

宮城県仙台市の新ご当地グルメ、「仙台マーボー焼きそば」。その定義は3つ。『麻婆を使い、具は豆腐に限定しない』『麺は焼くか、揚げたものにする』『宮城県中華飲食生活衛生事業組合の認定人が認定したものとする』。これらの定義に則り、それぞれの店が独自のアレンジも加え、個性を競い合っています。現在は仙台市内の50店舗以上の店が創意工夫のもと、「仙台マーボー焼きそば」を提供しています。

優しい味の麻婆餡が絡んだ「仙台マーボー焼きそば」

優しい味わいが特徴の「仙台マーボー焼きそば」(税込880円)
「中国菜館 まんみ」店主の大柳憲太郎さん

「中国菜館 まんみ」は、1972年の創業当初より、焼きそば・ラーメン・ご飯ものなど、常時40種類を超えるメニューを販売してきた中華料理店です。仙台の新ご当地グルメ「仙台マーボー焼きそば」の元祖的存在として、幅広い層のお客様に愛されています。

そんな「中国菜館 まんみ」の店主、大柳憲太郎さんは、マーボー焼きそば推進委員会委員長の肩書で、ご当地グルメの普及にも尽力しています。

「当店の『仙台マーボー焼きそば』は、『五目焼きそば』あってのメニューです。開店当初、たまたま五目焼きそばの売り上げが少ない日があり、賄いで焼きそばに麻婆餡をかけたことが始まりです」

そこから徐々に常連客も食べるようになり、レギュラーメニューとして定着した「仙台マーボー焼きそば」。今では小さなお子様からお年寄りまで、幅広い年齢層から支持を集めています。

「当店の焼きそばは麺が主役。大切にしているのは、焼きそばの食感や風味を損なわないように、麻婆餡の味わいを調整すること。餡は山椒やラー油などのスパイスをあまり使わず、辛さ控えめで優しい味わいにしています」

外はカリッ、中はモチッと、父の代から続く風味豊かな麺

麺はいくつかの調理工程をたどり独自の食感に

「五目焼きそば」「仙台マーボー焼きそば」はともに、大柳さんの父の代から続く、変わらぬ味。現在も創業当初からのたくさんの常連客が店に訪れています。

「焼きそばの麺は、父の代から続くオリジナル。製麺業者とともに試行錯誤しながら、小麦の配合に調整を重ねました。外はカリッと、中はモチッとした食感が特徴です。その味わいを引き出すために、生麺を一度せいろで蒸したあと、パリパリになるまで乾燥させ、お湯で戻してから焼いています。こうした調理工程をたどることで、麺独自の食感とともに、優しい風味も出てくるんです」

カジュアルで親しみやすい雰囲気の店内

今後も真心を込めて接客し、すべてのお客様を大切にしていきたいと語る大柳さん。マーボー焼きそば推進委員会委員長としては、ご当地グルメとしてさらに地元で「仙台マーボー焼きそば」を浸透させていきたいと言います。

「仙台市民であっても『仙台マーボー焼きそば』を食べたことがなかったり、知らなかったりする人がまだまだ多いのが現状です。ご当地グルメというものは、県民に認められることで初めてその町の文化に溶け込んでいくもの。老若男女すべての層でもっと知名度をあげるための取り組みとして考えているのが、学校給食で『仙台マーボー焼きそば』を楽しんでもらうこと。子どもたちが大人になったとき、『小さな頃に慣れ親しんだ味だ』と思ってもらえたらうれしいですね」

酒彩縁屋

静岡県と山梨県を結ぶJR身延線の東花輪駅から徒歩6分の場所にある「酒彩縁屋」は郷土料理専門の居酒屋。地元の食材を大切に扱い、お客様同士の「縁」、お客様と店との「縁」を大切にするお店です。

酒彩縁屋

住所
山梨県中央市布施2459
電話
055-273-8882
営業時間
17:30~24:00
定休日
毎月第三日曜日・月曜日
山梨県中央市に店を構える「酒彩縁屋」

山梨県中央市:「青春のトマト焼そば」

山梨県中央市のご当地焼きそば、「青春のトマト焼そば」。ネーミングも特徴的なこの料理は、ソース焼きそばの上に地元中央市産の完熟トマトとブランド豚を使ったミートソースをかけて完成します。その原型は40年ほど前、県内の喫茶コーナーで販売されていた「ミート焼きそば」にさかのぼります。時代の流れとともに姿を消してしまったこのメニューを復刻させる形で、2006年ごろから町おこしの一環として「青春のトマト焼そば」が誕生しました。

高級豚富士桜ポークを使った「青春のトマト焼そば」

山梨県中央市のご当地グルメ「青春のトマト焼そば」(税込680円)
店主の甲田章さん

山梨県中央市の蕎麦屋、喫茶店、食堂など、市内11か所の飲食店で販売している「青春のトマト焼そば」。共通のレシピはあるものの、アレンジは店それぞれです。郷土料理専門の居酒屋「酒彩縁屋」では、酒類に合う形で「青春のトマト焼そば」を調理しています。

「『青春のトマト焼そば』は、山梨県下で最大の生産量である中央市のトマトと、同じく中央市産の高級ブランド豚『富士桜ポーク』を使って調理するご当地グルメです。うまみ成分たっぷりの完熟したもぎたてトマト、柔らかい肉質が特徴の『富士桜ポーク』の魅力とともに味わっていただきたいです」

店主を務める甲田章さんは、子どもの頃に食べた「ミート焼きそば」の味を、大人になった今、再現している一人です。

「当店はお客様同士が『縁』を深め合えるための手助け、おもてなしを心がけています。そのためには、料理の味はもちろんのこと、見栄えにもこだわっています。『青春のトマト焼そば』はキャベツ、ブロッコリー、ミニトマトが入って彩りも豊かな仕上がり。女性客からの注文を受けることも多いですね」

トマトの酸味・コクが引き出された秘伝のトマトソース

「酒彩縁屋」の「青春のトマト焼そば」は、モチモチとした弾力とのど越しの良さが特徴の中太麺にウスターソースを絡め、その上にじっくりと煮込んだ秘伝のトマトソースをかけています。ウスターソースの味わいとトマトの酸味・コクが絡まり、奥深い味わいがあります。

「当店の『青春のトマト焼そば』は、他店よりも豚肉を少しだけ多めにしています。おひとりさまでも、団体客でシェアする形でも満足できる食べ応えです。『富士桜ポーク』のきめ細やかな味わいは、お酒との相性も抜群です」

お客様同士の「縁」、お客様と店との「縁」を大切にする「酒彩縁屋」。山梨県中央市の郷土料理ともいえる「青春のトマト焼そば」を橋渡しとして、あらゆる「縁」をつなぎ、今後もお客さまの居心地の良いサービスを続けていきたいと甲田さんは言います。

「『青春のトマト焼そば』を販売開始した当時は、テレビや雑誌などにも取り上げられ、県外からもたくさんのお客様が来てくれました。しかし、現在はコロナの影響でどうしても客足が遠くなっています。お客様が安心して店に足を運べるようになったときには、たくさんの人に『青春のトマト焼そば』を食べてほしいですね」

落ち着いた雰囲気で個室も充実した店内

「坦々」「イカスミ」「麻婆」「トマトソース」など、意外な組み合わせでご当地焼きそばを提供していた今回の4店舗。そのなかで共通項として挙げられるのが、丁寧な接客でお客様から強い支持を得ていること。また、町おこしとして地域が盛り上がれば、という思いです。その思いが強いからこそ、自慢の味が広く受け入れられるのではないでしょうか。近い将来、それぞれのご当地焼きそばが、地元のソウルフードとしてなくてはならないものとして根付いていきそうです。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年4月)のものです