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ラーメン新潮流

今や国民食とまでいわれるラーメン。
日本人はなぜこんなにもラーメン好きなのか?と思われるほど巷にはラーメン情報が行き交っています。
昔食べたあの懐かしいしょうゆ味から、濃厚系やあっさり系、そして、麺の太さは極太系から細めん、そしてストレートから縮れなどラーメン通でなくともワクワクするほど、さまざまな情報が溢れています。
では今のラーメンの潮流はどうなっているのか。
六厘舎に端を発した極太めんのつけ麺の人気はどうなっているのか・・・興味はつきません。
そこで今回はラーメンデータバンクの会長の大崎裕史氏に『ラーメン新潮流』と題してご執筆いただきました。
自称「日本一ラーメンを食べた男」として名高い大崎氏ならではの見解は大変興味深く、私たちをあらたなラーメンの世界へと導いてくれます。
全国的な勢いで増え続けている「二大潮流」
ラーメンの歴史、百年において、ここまで全国的に広まっていった味はあったであろうか?「ご当地ラーメン」が存在するからこそ、日本のラーメンは楽しいものであり、日本の文化であった。しかし、インターネットの普及から情報伝搬速度が極めて速くなった。そのこととラーメンのトレンドの拡がりが無関係とは言えない。
 全国的な視野で見て、今の潮流は二つである。まずは「六厘舎風濃厚魚介極太つけ麺」、そして「二郎風がっつりインパクト系」である。日本においては、地域が変われば味も好みも変わる、と言われており、過去にご当地ラーメンが他のご当地に進出して失敗した例はたくさん見てきている。例えば、博多にはなかなかつけ麺文化や醤油味が浸透しなかった。喜多方にも豚骨ラーメンはなかなか根付いてない。
 ところが、この二つの味は札幌や博多といった一大ご当地にも進出し、それなりに定着しそうな勢いで伸びている。また、私が久しぶりに訪れようとしている地域で、今流行りの店を調べてみたら、上位に二郎風のラーメンが入っていて驚いたことも一度や二度ではない。
 東京のラーメン通にしてみると「地方に行ってまで東京で流行りの味は食べたくない」と思う気持ちがある。しかし、逆に地方の人達は高い運賃を払って東京まで行くのも大変。流行りの味が地元にできるのであれば嬉しいに違いない。しかし、日本のラーメン文化は「ご当地」があってこそ。だから食べ歩きも楽しいし、そのためにお金と時間をかけられるというものだ。しかし、その構図が崩れつつある。
 だから今後のラーメン業界の課題は、ご当地ラーメン文化をいかに引き継いでいくか、そして進化発展させていくか。それと並行して新しいラーメンをいかに育てていくか?ということになると思う。ご当地の味と文化は消して欲しくない。東京にもまだまだご当地のニーズはあるので、地方からの進出にも期待したい。
ブタキング(札幌):店主が東京在住時に「ラーメン二郎」が好きで、其のインパクトを味噌ラーメンで表現。一躍、人気店となる。
ブタキング(札幌):店主が東京在住時に「ラーメン二郎」が好きで、其のインパクトを味噌ラーメンで表現。一躍、人気店となる。
三竹寿(沖縄):「六厘舎」出身者が独立して那覇に出店。自家製麺で濃厚スープのつけ麺を提供。沖縄そば文化に風穴を開けた。
三竹寿(沖縄):「六厘舎」出身者が独立して那覇に出店。自家製麺で濃厚スープのつけ麺を提供。沖縄そば文化に風穴を開けた。
超濃厚系からNEO清湯系への移行期か?
 今年の新店の傾向をいくつか探ってみると濃厚系スープから清湯系に少しずつ移り変わってきていることがわかる。
 振り返ってみると、2002年に「渡なべ」(高田馬場)がオープンすると、ラーメン業界は一気に濃厚系へとシフトした。若い人を中心に濃厚スープは人気になり、「無鉄砲」(奈良、京都、大阪、沼袋、他)「きら星」(武蔵境)のような「ドロ系」と呼ばれるドロドロスープまで登場した。全般的に濃度も塩分も「濃く」なってきた。麺も太くなり、インパクトのあるラーメンに人気が集まった。
 一方、「ラーメンはそうじゃないだろ?」という流れももちろん存在している。言うなれば「王道的ラーメン」である。昔からやっているラーメン店は、こういうタイプが多いが、そんな「懐かしい系」ではなく、見た目は昔ながらのラーメンでも、今風のこだわりを随所に散りばめ、緩やかに進化してきた清湯系のラーメンである。こうした「王道ラーメン」の代表と言ったら佐野実さんの「支那そばや」であろう。そして、その佐野さんを強くリスペクトしている「ロックンロールワン」(町田)の人気とそのクオリティの高さが少しずつ他にも影響を与えていき、ここ1~2年の新店に影響を与えてきたのだと思う。
 さて話を戻して今年の新店である。博多一風堂で十年以上の経験を持つ、宮崎さんが独立出店、ということでも話題になった「ソラノイロ」(麹町)は2種類の味を用意し、一つはまさに王道を行く「中華そば」。実にうまくまとめてある。もうひと味は「ベジそば」として野菜をうまく使った変化球系のメニュー。王道と変わり種を用意している所が、さすがと言える。
 また、いくつかの有名店で修行経験を持つ若い兄弟が木更津でオープンした「ばくばく」。ラーメンの方は、清湯スープの王道タイプ。そしてつけ麺は濃厚系。麺は自家製でもちろんラーメンとつけ麺では麺を変えてある。
 秋葉原界隈もラーメン的に賑やかになってきた。「くろき」は塩味と味噌味の二本立て。塩は清湯すっきり系、一方、味噌は濃厚ドロ系。しかも麺もチャーシューも変えているというこだわりよう。
 この3軒は、王道系とその対極の味の2本を揃えてオープンさせ、話題になり、そして幅広い層のお客さんをつかまえている。
 席数4という超激狭の店でスタートした「楽観」は、パッと見、八王子系ラーメンのようにも見える。しかし、独学で作りだしたラーメンはうまいバランスでまとめられた清湯醤油味。西麻布ではあるが、普段、人が通らないような路地裏立地なので味だけでお客さんを呼ぼうとしている。
 ラーメン激戦区である経堂では8月上旬だけで3軒の新店がオープン。そのうちの一軒、「桜食堂。」は清湯の醤油と塩で勝負。ブロガーには好評だが、学生が多い街なので一般味覚に訴えられるかどうかがポイント。
 このように話題の新店は、清湯スープが目立っている。このまま今年のトレンドとして、清湯が突っ走っていくのか?注目の後半戦である。
ソラノイロ(麹町):両極端の2種類の味を出す店。写真は中華そば。こういう「見た目普通」でおいしく仕上げるのが、実は難しい。
ソラノイロ(麹町):両極端の2種類の味を出す店。写真は中華そば。こういう「見た目普通」でおいしく仕上げるのが、実は難しい。
くろき(秋葉原):和食とイタリアンの経験はあるが、ラーメンは独学。ただし、料理の経験が長いため、随所に其の片鱗がうかがえる。
くろき(秋葉原):和食とイタリアンの経験はあるが、ラーメンは独学。ただし、料理の経験が長いため、随所に其の片鱗がうかがえる。
ラーメンに柑橘系。新しいが歴史もある。
 30年くらい前であろうか?私が柚子入りのラーメンを初めて食べたのは。永福町大勝軒系とか中野駅前にあった「平凡」とか。妙に新鮮で好きになった。その後、柚子ジュースを使ったラーメンなどが登場した。つけ麺には柚子、かぼす、スダチ、レモンなど多種多様の柑橘系が使われるようになった。夏メニューではレモンもよく使われる。市ヶ谷の「Due Italian」の「レモンらぁ麺」は丼一杯にレモン3個分入っている。もちろんそのラーメンは私の大のお気に入りである。
 そんな私ではあるが、まさかパインがラーメンの主役になる日が来るとは思いも寄らなかった。中華料理で酢豚にパインというのはよく見かける。そのたびにパインの賛否が問われる。パイン自体は悪者ではないが、使われ方によっては何故か悪者になってしまうかわいそうな果物なのだ。今回もネット上では賛否が分かれた。しかし、私は大賛成。そして大好きである。
 店名は「パイナップルラーメン屋さん パパパパパイン」。店頭や店内のあちこちにもパインが使われている。ふざけていると思われてもしょうがないが、ここまで徹底すると気持ちがよい。さて、ラーメンではどのような使われ方なのか。店主お薦めの塩ラーメンを食べてみた。スープにパインの酸味と甘味がすぐわかるほどに出ている。タレやスープにも使っているようだ。しかも、具としてパインがトッピングされている。確かに「際物系」と言われたら否定できないかもしれないが、実にウマイ!いや、それは私の好みかもしれないが、十分に「アリ」な仕上げになっている。トマトラーメンが出始めたときに「それじゃ、パスタじゃないの?」とか「ラーメンじゃないよね?」と言われていたことを思いだす。今では、トマトラーメンは普通に多くの店で存在する。確かにパインは、トマトの時以上の衝撃と言えよう。でも、酸味甘味がラーメンにおける「キーポイント」であるなら、この甘味も酸味も有りだと思う。ちなみに味付玉子も「パイン玉子」でちゃんとパインの味付けがなされている。店主は有名店で修業した後に独立しており、基礎はできている。なので、思いつきやひょんなきっかけで出来たものではないはず。この一杯は、ラーメンの歴史、百年に新たな一石を投じたことになるかもしれない。
パパパパパイン(西荻窪):見た目違和感ないが、食べた人の感想は賛否分かれている。果たして一般に受け入れられるかどうか?
パパパパパイン(西荻窪):見た目違和感ないが、食べた人の感想は賛否分かれている。果たして一般に受け入れられるかどうか?
レモン&フロマージュ(吉祥寺):こちらも見た目は普通の塩ラーメン。しかしスープを飲むと顔がゆがむぐらいにレモンの酸味が利いている。
レモン&フロマージュ(吉祥寺):こちらも見た目は普通の塩ラーメン。しかしスープを飲むと顔がゆがむぐらいにレモンの酸味が利いている。
ラーメンデータバンク 取締役会長 大崎 裕史  
ラーメンデータバンク 取締役会長
大崎 裕史

(株)ラーメンデータバンク 取締役会長。日本ラーメン協会発起人の一人。2011年7月末で約20000杯のラーメンを食破。「自称日本一ラーメンを食べた男」として雑誌やテレビに多数出演。カップ麺の監修や商品開発、集合施設やラーメンイベント監修及びプロデュースなどでも活躍中。

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