
こだわりの具材をパンと合わせて、まるで一皿の料理のような食べ応え。「お料理パン」と呼びたくなるような惣菜パンが人気のベーカリーを取材しました。「旬野菜の料理」「ジビエ料理」「毎日食べたくなる手づくり惣菜&おつまみ」「具材満載のタルティーヌやクロックムッシュ&マダム」と、各店の個性が際立っています。
草鞋ベーカリー(わらじ)
2022年3月オープン。三鷹市ほか各地の農家さんから届く、旬の野菜をふんだんに使い、野菜のおいしさを最大限に引き出した「野菜が主役」の惣菜パンが揃います。テイクアウト専門ですが、パンによく合う季節野菜のスープや、酵素で発酵させたフルーツを使ったドリンクも販売しています。
草鞋ベーカリー(わらじ)
- 住所
- 東京都杉並区阿佐谷北1-35-5 ヴィラージュ1階
- 電話
- 非公開
- 営業時間
- 11時~完売次第閉店
- 定休日
- 不定休

旬の野菜を主役にした惣菜パンが揃います


阿佐ヶ谷駅前から続く商店街の喧騒が、少し落ち着いたあたりに位置する同店は、和の雰囲気を感じさせる外観。「草鞋」と描かれた大きなタープと入口の棚に置かれた季節の野菜が目印です。同店のプロデュースとパンづくりを統括するシェフの大越さんは、「野菜が主役のベーカリー」という今までになかった業態を立ち上げ、青山にて「farm to bakery」を創業(現在は閉店、三鷹市に移転予定)。和食やイタリアンの料理人としての経験を生かし、丁寧な手仕事で栄養価の高いパンをつくりあげています。

取材時の店内カウンターには「茄子味噌バターの五穀パン」「里芋の明太グラタン」「新蓮根のフーガス」などの惣菜パンをはじめ、1日25種類前後をラインアップ。大ぶりに切った野菜がパン生地やソース、チーズの間に見え隠れする惣菜パンの数々は、まるで料理屋のカウンターに並ぶ和洋のお惣菜メニューのよう。主役の野菜が描かれたPOPからも「お野菜たち」への想いが伝わり、ほっこりしながら選ぶ楽しさがあります。オーナーの鈴木伸弥さんにお話を伺いました。
「『野菜を主役にしたベーカリー』とは、単に『パンの具材に野菜を使う』のではなく、『野菜料理をパンで食べる』という発想です。旬野菜のおいしさを最大限に引き出し、また極力余すところなく生かすことを大切にしています」(鈴木さん)。


パンづくりの中でも、大きなウェイトを占めているのが野菜の下ごしらえや調理です。
「まずは、お野菜の『火入れ』にいちばん神経を使っています。仕込み段階で、それぞれの野菜に合わせてローストするもの、ボイルするもの、ソテーするもの、あるいは生でそのまま生地と合わせるものなど様々ですが、一般的な野菜料理よりも火入れを浅めにし、食感や色味を生かして野菜本来の味を楽しめるよう心を込めています」(大越さん)。
芋類は加熱した後、出汁(だし)につけることも。夏季に登場した「とうもろこしの塩パン」は、とうもろこしの粒をとったあとの芯でだしをとってパン生地に練り込むなど、ひと手間を加えることで、より美味しく、また素材を無駄なく、余すところなく生かしています。



野菜と合わせるパン生地は8~10種ほど。まずは、素材の野菜ありきで、その野菜にいちばん合う調理法やポピュラーな料理を考え、相性のよいパン生地と合わせて、保存性や色味、作業性などを検討したうえで惣菜パンのメニューに落としこんでいくそう。
「あとは経験上、天ぷらや炊き込みご飯に合うお野菜はパンにしても間違いなく美味しいです。そこからインスパイアされた商品はたくさんあります」(大越さん)。
また、野菜の見せ方にも工夫があります。
「そのお野菜がパンと共に焼かれた時に、食感や旨味をしっかり保ちながらも、より色味よく、きれいに仕上がるよう、野菜の切り方にも気を配ります。例えばカボチャだと、ホクホク感を大切にしながら、身の黄色と皮のグリーンが、焼かれたあと生地からきれいに見えるよう、カットや成形に気をつけています」(大越さん)。
野菜のうまみを凝縮した食パンやヴィーガン対応のアイテムも

野菜が主役の惣菜パンのほか、食事パンやスイーツ系のパンも揃います。なかでも、同店らしいアイテムが、野菜を生地に練り込んだ食パンです。年間を通してメニューは新ゴボウ、ホウレン草、にんじんの食パンなど10~15種類ほどを展開。旬の野菜を使い、それぞれ火入れの加減やあく抜き、加水率も野菜によって微妙に異なるため、神経を使うところだそう。
「もちもち食パン ビーツ」は加水率100%のもちもち食感、ビーツの甘みと鮮やかな深紅色が際立ちます。野菜の食パン3種の味を楽しめる3色の「ちぎりパン」や、「お野菜食パンのガーリックチーズトースト」も展開。これから旬を迎える大根の葉を練り込んだ食パンは、現在レシピを開発中だそう。
昨今は健康意識の高まりとともに、食の分野でも多様性への対応に関心が寄せられています。
同店では、ヴィーガン対応のパンを全体の2割ほどラインアップしています。8種類ほどの野菜をトマトとオリーブオイルで煮込んだヴィーガン仕様の「ラタトゥイユ」や「15品目野菜のスパイスカレーパン」は、野菜のうまみがギュッと凝縮された、やさしく穏やかな味わいにスパイスやハーブがアクセントを添えます。
旬のフルーツを使った甘い系のパンも好評です。「チーズに溺れたイチジク」は、旬のフレッシュイチジクにゴルゴンゾーラなど4種のチーズと蜂蜜を合わせ、仕上げにブラックペッパー。リベイクするとイチジクとチーズがとろけます。季節ごとにフルーツを替えたアイテムが登場します。


同店ではSNSを通して、農家さんにスタッフみんなで出向いての畑作業の様子や、旬野菜のプロフィール紹介も折々に発信。野菜への愛情、農家さんへの想いが込められたパンの温もりが伝わってきます。 「野菜が主役ということで、野菜好きな方はもちろんですが、野菜が苦手というお子様もパンになれば食べやすい、との声もいただいています。『草鞋』を紡ぐような丁寧な手仕事で野菜料理をパンという形にして、人や街とのつながり、健康、未来を紡いでいきたいです」(鈴木さん)。
MONICA(モニカ)
フレンチレストラン「LATURE(ラチュール)」が手がけるブーランジェリー。レストランシェフの料理をベースにしたパン、パティシエがつくる美しいデザート系のパンを提供しています。ギリシア語で“唯一無二”を意味するMONICAという名前のとおり、ほかにはないパンをはじめ、伝統的な製法でつくる焼き菓子カヌレも揃えています。
MONICA(モニカ)
- 住所
- 東京都渋谷区渋谷2-2-3 青山ルカビルⅡ B1F
- 電話
- 050-5589-5816
- 営業時間
- 11:30~完売次第閉店
- 定休日
- 不定休 ※営業日は金曜、土曜、日曜、月曜のうち週3日間

フレンチレストランのジビエ料理を惣菜パンで楽しめる


フレンチの名店によるパンのテイクアウト店、その狙いや魅力について、MONICAの責任者を務めるシェフ・パティシエの橋本将樹さんにお話を伺いました。
「母体のレストランでは、ジビエ(狩猟で得た野生の鳥獣の食肉)料理に力を入れています。自らもハンターであるオーナーシェフは、より多くの方にジビエ料理の魅力を知っていただき、ファンの裾野を広げていきたいと考えています。とはいっても、レストランでジビエ料理は、いわば非日常の楽しみ。日常の中にあるブーランジェリーなら、もっと皆さんに気軽にジビエを楽しんでいただけると、この小さな店が生まれました」(橋本さん)。
ジビエは希少、というイメージがあるかもしれませんが、実は、全国各地で野生の鹿や猪などの数は増えすぎています。農作物などへの被害を防ぐためにハンターが仕留め、そのあとそのまま処分されてしまうケースがとても多いそう。
「ジビエ料理は、こうした野生動物の肉を生かし、自然からの恵みを余さずいただくというサステナブルな食文化です。当店のパンにもジビエを素材として取り入れ、サステナブルであることを大切にしています」(橋本さん)。
たとえば「LATUREのソーセージパン」は、猪のジビエを使った極太のソーセージのパンです。 「ソーセージは、猪肉をメインに豚肉を少し加えた当店のレシピで大分の加工業者さんにつくってもらっています。猪肉はうまみの濃いパワフルな肉でありながら、しつこくはなく、脂には甘みがあり、プリプリッとした歯ごたえが特長です。パンもある程度の噛み応えがある、石臼挽きのフランスの小麦粉を使ったチャバタ生地のパンを合わせています」(橋本さん)。


「ドライカレーパン」は、パンドカンパーニュに100%鹿肉ミンチを使ったドライカレーと半熟卵、ベシャメルソース、まいたけなどを合わせたタルティーヌ仕立てです。レストランではロスになりがちな端肉の部分まで無駄なく活用し、東京スパイスハウスにて調合してもらった、オリジナルの挽きたてスパイスが香ります。
「農園野菜フォカッチャ」は、千葉・流山にある自家農園で収穫した季節の野菜を使ったパンです。形や大きさが不ぞろいでも、おいしさは変わらない規格外の野菜を生かすことができます。
「このほか、青森産の天然きのこを使ったパンも秋限定で登場しました。天然きのこは市場にはほとんど出回らないですが、香りも歯ごたえも栽培ものとは全く違います。ジビエをはじめとして、自然の中にはこんなに素晴らしい食材があることを、ぜひお伝えしたくてメニューに取り入れています」(橋本さん)。
インパクト抜群の海老フライのパンやデセールのようなデニッシュも
オープン当初から注目を集めているのが「海老フライヴィエノワ」です。食事パンの中でも、ややヴィエノワズリー寄りのヴィエノワを使い、パンのサイズよりも大きいエビフライが1尾まるごとのっています。「エビフライはエビが大きいほどうまい!」というオーナーシェフのこだわりから、このサイズになったそう。
「甘みのあるものと組み合わせることで、エビの甘さはより際立ちます。レストランでは、バニラを使った甘めのソースと合わせたりしますが、ほんのりと甘みのあるヴィエノワがその役目をしてくれます。サクッとした衣の食感が引き立つよう、パンはソフトな口当たりに仕上げ、タルタルソースは別添えにしています」(橋本さん)。
ヴィエノワの上で一直線を描く海老フライは見た目にもインパクトは抜群で、まさに唯一無二。メニュー開発に当たっては、SNS映えも意識したそうです。
このほか、鴨肉に少しレバーも加えた鴨のテリーヌを全粒粉のバンズにはさんだ「パテドカンパーニュのバーガー」も人気のメニューです。こちらは、ジビエではない鴨肉を使用しています。



パティシエの橋本さんは、フランス菓子店での修業時代にヴィエノワズリーを手がけていたこともあり、同店のパンにはたくさんのこだわりが込められています。レストランの料理をベースにした惣菜パンのほか、まるでケーキのように美しいデニッシュなども好評です。
「パンに関しては、小麦粉のうまみや香り、バターのコクと香りを濃厚に感じていただけるようにつくっています。クロワッサン生地にはフランス産石臼挽小麦粉やイズニー産バターを使い、サクッとした食感とバターの香りをしっかりと表現。また、デニッシュはアーモンドクリームを詰めて焼き上げることで、フィリングのフルーツなどの水分が浸みることを防ぎます。毎朝炊き上げるカスタードクリームは、強力粉を使うことで、粉のうまみ、滑らかさを出しています」(橋本さん)。

営業日には、渋谷の裏通りに面したショーウインドウに昼頃からパンが並んでいきます。入店すると、オープンキッチンが目の前に開けてライブ感も楽しみの1つに。
「レストランがやっているパン屋がここにあることを、まずは地域の方々に知っていただき、パンをめぐってお客様といろいろな会話を広げていきたいです。惣菜パンもヴィエノワズリーも、おいしさのためには妥協せずによい素材を選び、私たちが持っている技術を駆使して、自信をもっておすすめできるものを提供しています。そうした、つくり手のこだわりや想いも丁寧にお伝えするように心がけています。パンがおいしいから、今度はレストランにも行ってみたいと思っていただける、日常から非日常への窓口になれたら、と考えています」(橋本さん)。
田中惣菜店(たなかそうざいてん)
2022年3月オープン。「毎日食べられるお惣菜のようなパン、お酒のおつまみにもなるパン」をコンセプトに、惣菜がメインのベーカリーだから店名は「田中惣菜店」に。空間をゆったりと使った店内に35種類ほどのアイテムが揃います。
田中惣菜店(たなかそうざいてん)
- 住所
- 東京都目黒区碑文谷1-4-20 碑ハイツ1F
- 電話
- 090-3050-1004
- 営業時間
- 10:00~19:00 ※完売次第閉店
- 定休日
- 木曜日 ※臨時休業あり

ママ視点でおいしさ+栄養バランスを重視した惣菜パン


売り場中央のテーブルには店のイチオシや人気のアイテム、右側の壁面には惣菜パン各種、左側の壁面にはおやつ系のパンやシンプルな食事パンが並びます。商品は、1つ1つフィルム袋で包装してありますが、パンの全体像がよくわかり、美しく見えるようラッピングの仕方、陳列の方法も工夫されています。種類の多さに加えてどれもおいしそうで、どれにしようか迷うほど。オーナーの田中若菜さんにお話を伺いました。
「パンが大好きで、いろいろなパン屋さんのいろいろなパンを食べてきましたが、もっと惣菜をメインにしたパンがあるといいのに!と常々感じていました。そこで、素材づかいや自家製のソースなど、ほかでは出会えない、こだわりの惣菜がたっぷり楽しめる惣菜パンの店を立ち上げたのです。いろいろな種類を楽しんでいただきたいから、パンは敢えて小さめのサイズにしています」(オーナーの田中若菜さん)。
自家製ミートソースをたっぷりかけた焼きそばパンは、田中さんの出身地・山梨の喫茶店の名物メニューをアレンジしたもの。
「たくさんの野菜を使い、じっくり時間をかけて仕込んだミートソースは自信作。セロリなど香味野菜も結構な量を入れていますが、調理の工夫でセロリが苦手なお子さんにもおいしく食べていただける仕上がりです。どのアイテムもおいしさと見た目の彩りなどとともに、栄養のバランスもよく考えてつくり上げています」(シェフの出川さん)。
というのも、製造・販売を切り盛りしている田中さんはじめ3人のスタッフは皆、小学生のお子さんがいるママたち。開業を前にSNSを通じて、また地域にお住いの方々に向けてお店の前に置いたお手紙には、
「私たちスタッフは、主婦であり母親。忙しい毎日でお惣菜を買って済ませたいけれど、栄養バランスや添加物も気になる。そんな想いに応えて、毎日食べられる健康的なテイクアウトのお店を考えました」とのメッセージが綴られました。


メニューは、自分たちがこれまでに出会った料理やネットの情報もヒントにして、試作を重ねて他にはないオリジナルな惣菜パンをつくりあげたそう。
ドッグパンに揚げ餃子をはさんだ「餃子ドッグ」は、「ここにしかない、日本一の餃子ドッグをつくろう!」という目標を定めて試作を繰り返したそう。餃子は揚げることでカリカリの食感に仕上げ、酢醤油ではなく甘酢を合わせてコクを加えています。野菜多めの餃子はもちろん自家製で、大判の皮に手作業であんを包んでいます。

王道の惣菜パン、カツサンドや唐揚げサンド、卵サンドなども、自家製ソースや合わせる素材で、同店ならではのおいしさをつくっています。
「やみつきロースカツ和風にんにく醤油」は、とんかつソースではなく、少しにんにくを効かせた醤油だれのカツサンド。これまでにない味付けながら、どこか懐かしいような親しみやすいテイストです。
「大人の卵サンド」の卵サラダにはクリームチーズ、燻製チーズ、粒マスタードを合わせて、燻製の香りをアクセントにしています。
「あぶりチリドッグ」は、オーダー後にオーブンで焼いたあと、さらにバーナーで焦げ目をつけて、焼きたてを提供。売り場のPOPにはチーズがとろける炙りたての写真を掲示して、お客様の目を引きます。


パンと惣菜の相性を大事にしています

「惣菜をどんなパンと合わせるかは、バランスを大切にしています」と田中さん。山梨のベーカリー発の「たくあんパン」には、甘みのあるバター生地の丸パン。餃子ドッグにもこのバター生地を使っています。ほかの惣菜系には甘みやバター感は控えめの玄米パン生地のドッグパンを使うことが多いそう。「たこぱん」には、ふんわりもちもちのソフトフランス生地を使い、POPに書かれているとおり、「見た目も味わいもたこ焼きそのもの!」。
「『4種類のきのこを使った季節限定クロワッサン』は、もともとは自家製のベシャメルソースを使ったクロックムッシュをつくっていましたが、もう少しバター感があるとよりおいしくなるね!というところから、クロワッサンにベシャメルソースを合わせるアイデアが生まれました」(田中さん)。
また、新作のガパオパンは丸いパンをくりぬいて中に具材を詰めています。
「パンは惣菜を受けとめる器の役目もして惣菜をより美しく見せますし、惣菜とパンが一体になった、食べやすさやおいしさも魅力です」(田中さん)。


スティック状に細長くカットしたバゲットに、ジェノベーゼならぬ、大葉とにんにく、パルメザンチーズ、オリーブオイルでつくった「しそベーゼソース」を塗って焼いた「しそベーゼ」。斜めに切ったバゲットの断面に具材をのせて焼いたブルスケッタは、タコと玉ねぎ、ワサビをマヨであえた「たこわさ」、「生のりとしらすペペロンチーノのブルスケッタ」など、お酒のおつまみにもぴったりです。

同店では、SNSを活用して、おすすめや新作パンの紹介のほか、スタッフの笑顔とできたて惣菜パン、仕込み風景などを紹介しています。
また、店の周辺は住宅街で、年配のお客様も多い土地柄。スタッフの皆さんは、店内でどれにしようか迷っているお客様にはさりげなくお声がけして商品の特長などを伝えます。会計の際には、お客様に初めてのご来店かをお聞きして、初来店の方には、持ち帰ってよりおいしく召し上がっていただけるようにリベイクの方法を丁寧に説明しています。
SNSのほか、前述したお手紙や店頭の黒板、店内でのコミュニケーションなどデジタル・アナログの両面から、幅広い層に向けてきめ細やかに情報発信していくことでファンを増やしています。
「地域の皆さんが気軽に立ち寄って、ワクワクしながらお買い物を楽しんでいただけるような商品づくり、店づくりを意識しています。そのためには働く私たち自身が自然と笑顔になれるように楽しく仕事をすることが本当に大事だと考えています。 そして、私たちがつくっている惣菜パンは、自分たちが毎日食べても『やっぱり最高!』と思えるおいしさ。ほかにはない惣菜パンを全国のパン好きな方に召し上がっていただけるように、今後は冷凍便の通販にも取り組んでいく予定です」(田中さん)。
étéco bread(エテコ ブレッド)
2019年6月のオープン以来、たくさんの具材を美しく盛り合わせたパンが人気です。惣菜系は、タルティーヌやクロックムッシュ、クロックマダム、キッシュなど。スイーツ系はフルーツのデニッシュやクリームパンのほか、キャロットケーキなど焼き菓子も充実し、45種類ほどが揃います。
étéco bread (エテコ ブレッド)
- 住所
- 東京都世田谷区代沢2-42-7
- 電話
- 03-6877-0433
- 営業時間
- 10:00~売り切れ次第閉店
- 定休日
- 月曜、火曜、金曜

一口目から感動をもたらすパンやお菓子をつくりたい


対面式のカウンターには、開店時にはアイテムがほぼ出揃います。最前列は、パンが見えないくらいに具材が盛られたタルティーヌ、大ぶりのフルーツを大胆にのせたデニッシュ、一段上に並んだクロックムッシュ、クロックマダムはたっぷりの厚さを見せながら天面は具材やソースで華やかに彩られます。コロンと丸いあんパンや円筒形のクリームパン、ホールの焼き菓子やキッシュ、くっきりと鮮やかな層の、大きなクロワッサン、後方には先端がシュッと尖ったバゲット、そして食パンが控えます。さまざまな形や色であふれる売り場は、余白を残さず彩られた西洋絵画のよう。この景観が、まずは訪れた人を魅了します。
パン職人として、20年以上にわたるキャリアの中で、さまざまな商品開発にも携わってきた梶原裕さんと、フレンチレストランで長く経験を積んだ夏子さんご夫妻がつくりあげるパンや焼き菓子には、「一口目から感動できるパン・焼き菓子をつくりたい」という想いが込められています。同店のパンの魅力について、梶原ご夫妻にお話を伺いました。

「一口目からの感動、そのためには丁寧な仕事を心がけ、端から端まで丁寧につくりあげています。たくさんの具材を組み合わせたときに、全体としてのバランスをどうとるかは、とても大切です。自分たちがつくりたいもの、お客様が望んでいる、望まれるであろうものをイメージして、均衡をとるのか、あえて崩すのか、そのときどきで匙加減を見極めながらパンづくりをしています」(裕さん)。
惣菜パンに使うパンは、食事パンとして販売しているバゲットや食パンをそのまま使っています。惣菜パンにしたときの、具材とのバランスを考えた配合でパンづくりをしているそう。バゲット1本の先端を少しだけ切り取って、長さと厚みで4等分にしたものに具材をたっぷりのせたタルティーヌは、具材によって風味の濃厚な大麦バゲットと、フランスパンを使い分けています。
たとえば、野菜の見本市のような「タルティーヌ 野菜」。大麦バゲットの上にびっくりするくらいたくさんの種類の野菜がのっています。野菜のうまみや甘み、食感、香りを楽しみながら食べ進むうちに、また違う野菜が奥の方から姿を見せる、という具合です。
大麦バゲットは、表面のガリガリッとした力強い食感を楽しみつつ、具材と一緒に歯切れよく口になじみ、野菜の味わいに大麦の濃厚な風味と甘みが溶け合います。
フランスパンを使った「タルティーヌ ツナ、柿」は、ふっくらとスープ煮にしたツナにローストした柿のやさしい食感と甘みが好相性。トッピングのカシューナッツやスライスアーモンドが香ばしさとカリっとした食感を加えます。



「具材の切り方からパンの上にのせる順番、立体感の出し方など、どうしたらよりおいしく、美しくなるか、これまでの経験を生かしてイメージし、試作を重ねてつくりあげています」と裕さん。
具材に合わせて数種のスパイス、フレッシュハーブを使い分け、端から端までまんべんなく丁寧にあしらい、仕上げのオイルでつやを加えたり、バーナーで焦げ目をつけたりしていきます。売り場に並べる直前に施されるひと手間は、まさに一皿の料理を仕上げるよう。
こうして、最初の一口目から最後の一口まで、食べる人に感動をもたらし、食べ応えと、おいしさの余韻で幸せをもたらすお料理パンが日々生まれています。
パンも具材も食べごたえ満点のラインアップ

食パンでつくるクロックムッシュは「ツナ、レンコン、ハム」「ベーコン、カボチャ、カレー」、目玉焼き入りのクロックマダムは「エビ、アボカド、ハム」「きのこ、ハム、マッシュルームソース」と、取材時には4種類をラインアップ。贅沢に厚切りにした食パンの間には、ベシャメルソースとハム(「かぼちゃ、ベーコン」はベーコン)をはさんでいます。


「食べ応えを考えて、パンも具材も少し大きめを意識している」という裕さん。大きなソーセージを1本まるごと大麦のブレッドにはさんだ「ソシス」は、レースのような紫キャベツのマリネがパンからあふれるように盛り込まれて迫力があります。


また、大きな型で焼きあげるキッシュやタルトには、季節の野菜や果物がこれでもかというくらいに盛られています。「りんごパイ」にはつややかにキャラメリゼされたりんごのソテーが、文字どおりの山盛りに。ざっくりと豪快につくられている印象も受けますが、パイやタルト生地、フィリングやアパレイユも、緻密に繊細においしさが組み立てられています。


「ベーコンエピ」は、厚切りのベーコンにスパイス&ハーブのペーストを塗りこんで、香り高くスパイシーに仕上げています。表面の打ち粉に粗く砕いた小麦も混ざり、さらに食感と香りをプラス。バゲット+αのシンプルなアイテムからも、料理的なエッセンスを感じることができます。
「皆様の日常の一コマで小さな幸せを感じていただけるよう、1つ1つ丁寧な仕事を積み重ねてパンをつくっていきたいと思っています」(裕さん)。
1つのパンで、まるで1品の料理をいただいたような食べ応えと満足感が得られるアイテム。各店それぞれに異なるテーマや切り口で、魅力的な「お料理パン」をつくりあげています。こだわり抜いてつくるパンへの想いは、お客様への想いにもつながっています。皆様のお店でも、惣菜パンメニューの参考にされてはいかがでしょうか。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年12月)のものです