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ベーカリーのシュークリーム

ベーカリーにとって、固定客を増やすことは一番大切なテーマではないでしょうか。そのためには毎日でも通いたいと思わせる魅力的な商品を揃えることが重要です。パンに限定せず、パン以外のアイテムを充実させることで、お客様の来店動機を促すベーカリーが増えてきています。今回は、シュークリームを販売している人気のベーカリーを取材し、個性的で魅力的なシュークリームの活用と効果を探りました。
ブーランジェリー イアナック

ブーランジェリー イアナック
ブーランジェリー イアナック
 東京・荒川区の「ブーランジェリー イアナック」のシュークリームは、2006年の開業以来、同店を代表する商品としてお客様に愛され続けています。その名も店名入りの「イアナックボール」です。季節によっては3種類ほど展開しています。

■ ブーランジェリー イアナック
住所:住所:東京都荒川区西日暮里4‐22‐11
電話:03‐3822‐0015
営業時間:
午前8時半~午後7時(パンがなくなり次第閉店)、
不定休

● デザートとしてのパンの開発

金井孝幸さん
金井孝幸さん
「イアナックボール カスタード」(200円、写真中央)、「イアナックボール マスカルポーネ」(200円、写真右)、「イアナックボール 和栗」(220円、写真左)
イアナックボール カスタード 200円(写真中央)
イアナックボール マスカルポーネ 200円(写真右)
イアナックボール 和栗 220円(写真左)
 「『デザートとしてのパンがあったらいいね』『お土産に使ってもらえる商品があったらいいね』などと、スタッフ全員で話し合い、開発に至ったのが『イアナックボール』です。甘いものの方が、お土産には向きますからね」(オーナーシェフ金井孝幸さんの妻、直子さん)
 「イアナックボール」はブリオッシュ型を使って球形に焼き上げたデニッシュに、クリームをサンドします。デニッシュは、アーモンドプードル入りのメレンゲ生地をトッピングしてから焼き上げるので、カリカリとした食感に仕上がります。
 クリームには、ゼラチンを配合しています。その理由は、土産用の需要を考えてのことだそうです。ゼラチンを配合することで持ち運ぶ間に、クリームがだれてしまうのを防ぐことができます。
 常時揃うのは、カスタードクリームをサンドした「イナアックボール カスタード」(200円)と、マスカルポーネクリームをサンドした「イナアックボール マスカルポーネ」(200円)の2種類です。
 「販売開始当初から、カスタードとマスカルポーネの2種類が定番です。マスカルポーネはコーヒーリキュールを効かせていて、ティラミスのような味わいです。どちらもリキュールで風味付けをしているので、大人向けの味になっていると思います」(直子さん)
 これら定番の2種類に旬の果物などを使った季節限定商品が加わって、3種類揃うこともあります。
 「クリームは、中に絞るのではなくサンドする形なので、旬の果物などを使うと外観からも季節感を出せます。季節限定商品は、常連のお客様が特に楽しみにして下さっています」(直子さん)

● 簡易包装にこだわる

店内
店内
「イアナックボール」は冷蔵ショーケースに並ぶ
「イアナックボール」は冷蔵ショーケースに並ぶ
 「イアナックボール」は要冷蔵商品なので、サンドイッチなどと一緒に冷蔵ショーケースに並びます。そして、一つひとつ、紙製のトレイとフィルムで個装されています。使用包材を必要最小限に留めた簡易包装です。
 「要冷蔵ですし、据わりの悪いボール形なので、包装はかなり悩みました。日常品としてのパンを販売している当店として、『イアナックボール』も、気軽に購入してもらいたいと思っています。そのためにも、包材は低コストで、かつ環境にできるだけ負荷をかけないように、最小限の使用に抑える必要がありました」(直子さん)
 こうした同店の思いが伝わっているのか、常連客の中には、「イナアックボール」を入れるための容器を持参する人もいるそうです。
 「イアナックボール」が誕生して7年、その認知度は着実に上がってきています。手土産としての需要だけでなく、パーティーなどに使用するための大口の注文も増えてきました。
 「『イナアックボール』は、当店を代表する商品になってくれればという思いを込めて付けた商品名です。今後も、看板商品として作り続けていきたいですね」(直子さん)
 「イアナックボール」には、クリームがだれないような工夫や、包装を簡易的に済ませるなど、作り手の細かな気遣いが詰まっています。だからこそ、同店を代表する商品として支持され続けているのでしょう。

カタネベーカリー

カタネベーカリー
カタネベーカリー
 東京・渋谷区の「カタネベーカリー」の「パン屋さんのシュークリーム」は、開業当初から販売している同店の定番商品です。クリームは注文後に絞り、できたてを提供しています。
■ カタネベーカリー
住所:東京都渋谷区西原1‐7‐5
電話:03‐3466‐9834
営業時間:
午前7時~午後6時半、
月曜・第1第3第5日曜休み

● デニッシュ生地を使用した出来立てのシュークリーム

オーナーシェフの片根大輔さん
オーナーシェフの片根大輔さん
シュークリーム 210円
シュークリーム 210円
 同店が開業したのは2002年。「パン屋さんのシュークリーム」(210円)は、開業当初から販売しているロングセラー商品です。同製品はその名が表している通り、ケーキ店で販売しているものとはひと味違うシュークリームで、シュー皮はデニッシュ生地を使用しています。
 「『パン屋さんのシュークリーム』は、デニッシュにクリームを絞ったシンプルな商品なので、季節を問わず通年提供できます。また、開業当初から販売しているので、常連のお客様には、馴染みの商品としてご支持いただいています」(片根大輔オーナーシェフの妻、智子さん)
 クリームは、自家製カスタードと生クリームを同量で配合しており、とろっとしたなめらかな舌触りが特長です。このクリームのおいしさをさらに引き立てるのが、デニッシュのサクサクとした食感です。
 「クリームは注文を受けた後でデニッシュに絞り、出来立ての状態で提供しています。お客様には、デニッシュのサクサクとした食感が味わえると、喜んでいただいています」(智子さん)
 同店では、「パン屋さんのシュークリーム」だけでなく、サンドイッチも出来立てを提供しています。売り場には、「サンドウィッチお作りします!(少々お時間下さい。) ジャンボンフロマージュ 350円 (ハム、エメンタールチーズ)、チャバッタサンド ツナ 380円(ツナ、トマト、レタス)」などと書かれたメニュー表が掲示してあります。
 「注文後に作るので、お待たせしてしまうというデメリットもありますが、常連のお客様がほとんどなので、ご理解いただいています」(智子さん)

● ロスを省いて10年以上価格を維持

店内
店内
クリームを詰めていない状態で陳列
クリームを詰めていない状態で陳列
 「パン屋さんのシュークリーム」は、販売開始当初から価格を変えず、材料価格の高騰による値上げも行っていません。
 「ロスを出してしまうと、最終的にはそれが商品価格にも響いてしまいますので、生地もクリームも無駄を出さない工夫をしています」(智子さん)
 シュー皮を専用の生地で作るのではなく、デニッシュ生地を使用しているという点もロスが減らせるポイントのひとつです。ほかの商品で余分になったデニッシュ生地をシュー皮に使用したり、逆にシュー皮用に用意した生地でデニッシュを作るなどして、その時々の売り上げの状況に合わせて製造個数を調節しています。一方、クリームにも汎用性を持たせる工夫をしています。余分が出てしまった場合は、「パン オ レザン」(190円)などの菓子パン生地に練り込むなどして、無駄を徹底してなくしています。
 こうした工夫の甲斐もあって、10年以上同じ品質と価格が維持できている「パン屋さんのシュークリーム」は現在、同店の定番人気商品のひとつとなっています。
 パンと一緒に購入し、その場で食べるお客様も多いですが、同店ではカフェも営業しており、前菜やスープ、パンなどのランチセットを食べた後のデザートとして注文するお客様も多くいます。また最近は、差し入れ用に70~80個ほどの予約が入るなど、用途の幅が広がっています。これからも「パン屋さんのシュークリーム」は、そのほかのパンと同様に、常連客にとって欠かせない存在として愛され続けていくのでしょう。

ベッカー フジワラ

ベッカー フジワラ
ベッカー フジワラ
 東京・豊島区の「ベッカー フジワラ」は、店舗面積が4.5坪という小スペースにも関わらず、40種類のパンと10種類以上の菓子を製造販売しています。数ある商品の中でも特に「シュークリーム」は、午前中に40個を完売してしまう日もある人気商品です。

■ ベッカー フジワラ
住所:東京都豊島区池袋本町3‐1‐1
電話:03‐3981‐6540
営業時間:
午前8時半~売り切れ次第、
火曜休み

● パリパリ感を楽しんでもらいたい

藤原敏夫さん
藤原敏夫さん
シュークリーム 160円
シュークリーム 160円
 店舗面積4.5坪のうち、売り場の広さは1坪ほど。1人入れば満員となるほどの小さな店内には、ショーケースが1台置かれていて、「シュークリーム」(160円)はその中に陳列されています。よく見ると、クリームを詰める前のシュー皮のみの状態で陳列されており、プライスカードには、「ご注文を頂いてからクリームをお詰めします」と書かれています。
 「シュー皮は、しっとりというよりパリパリとした食感に仕上げています。この食感を楽しんでいただくためにも、クリームは注文を受けてからお詰めするようにしています。販売を始めた当初は、すでにクリームを詰めた状態で販売していたのですが、焼きたてのパンと同じように、シュークリームも、クリームを詰めたての状態でお出しする方が、お客様の反応はいいですね」(店主の藤原敏夫さん)
 出来たての「シュークリーム」のおいしさを堪能しようと、買った直後、店先で頬張るお客様も多いそうです。
 「シュークリーム」は、パンと一緒についで買いされることが多いですが、10個以上の予約注文が入ることもよくあるそうです。主婦らのお茶会用や、土産用などとして重宝されています。

● お客様に好評なゴツゴツとした外観

店内
店内
 藤原さんは開業前、パン職人としてだけでなくレストランでパティシエとしても腕を磨いてきました。クリスマス時期にはホールケーキの製造販売も手掛けていますが、シュークリームを同店の定番アイテムに加えた理由について、藤原さんはこう話します。
 「シュークリームが老若男女を問わず人気で、よく売れる商品だということをパティシエ時代に実感したこともあり、開業当初から定番商品として販売しています。パンは少数多品種の品揃えを心掛けているので、売上げ個数では、『シュークリーム』がトップだと思います」
 パリパリとした食感が特徴の同店の「シュークリーム」ですが、このほかにも藤原さんのこだわりが詰まっています。それはゴツゴツとした外観と、160円という価格です。
シュー皮のみを陳列
シュー皮のみを陳列
 「パティスリーで販売するのであれば、表面は滑らかなドーム型にしますが、当店ではあえて、ゴツゴツとした形に焼き上げます。意外とこのような形は珍しいようで、お客様から『このゴツゴツとした形がいいですね、ボリュームもあって』と喜ばれます。作る側としても、焼成前に生地を整える手間が省けるという利点があります。また、パティスリーのケーキのように特別なものとしてではなく、パンと一緒に気軽に買っていただけるように、160円という価格にしています。そのためにも、できるだけ効率的に作り、ロスをなくしていかないといけないですね」(藤原さん)
 パンのような日常の食べ物として、お客様に提供していきたいという藤原さんの想いが、「シュークリーム」を売上げトップの人気商品として育てていったのでしょう。

ブーランジェリー プーヴー

ブーランジェリー プーヴー
ブーランジェリー プーヴー
 東京・渋谷区の「ブーランジェリー プーヴー」は、洋菓子店のシュークリームに勝るとも劣らない手間暇をかけた「シュー・ア・ラ・クレーム」を、冬季限定で販売しています。リピーターが多く、土産用としての利用者も増えています。

■ ブーランジェリー プーヴー
住所:東京都渋谷区上原1‐22‐2 良美ビル1F
電話:03‐5465‐2333
営業時間:
午前9時~午後7時、
土曜・日曜・祝日は午前9時~午後6時、
水曜・第3火曜休み

● 1日の販売個数は限定6個

オーナーシェフの片岡達志さん
オーナーシェフの片岡達志さん
 同店の「シュー・ア・ラ・クレーム」(200円)は、シュー生地にアーモンドを散らして焼き上げたシュー皮に、純乳脂肪43%のフレッシュクリームと自家製カスタードを合わせたクリームを詰めた、洋菓子店のシュークリームに勝るとも劣らない味わいと品質です。
 「フレッシュクリームは、ミルクの風味とコクが豊かで、食感の重くないものを選びました。それをカスタードに合わせることで、風味やコクは濃厚だけど、重たさがなく食べやすい味わいになります。クリームは、お客様に喜んでいただけるよう、シュー皮いっぱいに詰めるようにしていますので、軽めの口当たりの方が、食べたときにもたれる感じがしなくていいですね」(オーナーシェフの片岡達志さん)
 プライスカードには、「甘さ控えめのシュークリーム」との記載があります。
 「クリームに加える砂糖の量は少なめにしていますが、シュー皮に若干塩気がありますので、その塩気で甘さが引き立ちます。甘すぎず控えすぎず、デザートとして満足できる程度の甘さに仕上げています」(片岡さん)
 「シュー・ア・ラ・クレーム」の販売は、1日限定6個と決めています。
 「あくまでもパンを主体に作っていますので、洋菓子としての『シュー・ア・ラ・クレーム』の数は抑えています。無理のない範囲で作れることが大事ですね」(片岡さん)

● リクエストにより、販売を再開

シュー・ア・ラ・クレーム 200円
シュー・ア・ラ・クレーム 200円
店内
店内
土産用に好評なタルト
土産用に好評なタルト
 「シュー・ア・ラ・クレーム」の販売は、冬季限定商品として11月より開始しました。
 「要冷蔵品なので、夏場は品質管理上、お客様に気軽に持ち帰っていただくことが難しいですね。ですので、冬季限定にしたんです」(片岡さん)
 冬季限定商品としての販売は、今回が2回目です。2003年に開業した同店は、その5年後の2008年に初めて「シュー・ア・ラ・クレーム」を販売しました。
 「開業して5年が経ち、ようやくパンと焼き菓子の品揃えが整ってきて、その次のアイテムとして生洋菓子を加えたいと思い、『シュー・ア・ラ・クレーム』の販売を開始したんです。そのときも冬季限定商品でした。翌年も販売したかったのですが、陳列場所の確保など、販売できる体制がなかなか整えることができませんでした。そして今回、お客様からリクエストがあったことで、販売の再開に至ったんです」(片岡さん)
 「シュー・ア・ラ・クレーム」はリピーターの多い商品だそうです。そして、リピーターの中には、土産用として購入していく人が目立ちます。
 「手土産にしていただけると、当店のことを知らないお客様にも、当店の商品を味わっていただくことができます。そういう意味では、『シュー・ア・ラ・クレーム』は、当店の存在を広めてくれるアイテムでもありますね」(片岡さん)
 土産用としては「シュー・ア・ラ・クレーム」のほか、デニッシュやタルト、揚げパンなども人気のアイテムだそうです。
 「シュー・ア・ラ・クレーム」の冬季限定販売が毎年の恒例となれば、顧客にとって、冬の楽しみのひとつとなることでしょう。

今回取材した各店のシュークリームは、シュー皮の作り方から提供の仕方まで様々でしたが、どの店舗も、気軽に購入できる値段に設定している点が共通していました。ベーカリーにとってはシュークリームもパンと同様、毎日でも食べたいと思わせるアイテムとして提供しているようです。こうして、常連のお客様に馴染みの味となることは、土産用の需要も増やし、お店の存在を広めて新たな顧客を獲得するきっかけになる商品となり得るかもしれません。皆様のお店でも、洋菓子店で販売しているものとは異なる魅力を持たせたシュークリームを販売されてみてはいかがでしょうか。

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