かつて、東京・木場で絶大な人気を誇っていたタンメンの名店「来々軒」。店主の体調不良により惜しまれつつ閉店してしまったその味を受け継ぎ、地元の皆様に愛されているのが、同じ木場に店を構える「来々軒」です。伝統の味を求め、今日も店先には長蛇の列が生まれます。
「もともと、この店のそばに『来々軒』というタンメンで有名な中華料理屋があったんです。50年以上地元で愛された名店で、私もその常連客の一人でした」
店を始める前はサラリーマンだった荒張好衛さんが来々軒の閉店を知り、「この味を残したい」と一念発起。オーナーから直々に伝統の味を学び、店構えからのれんに至るまで元の来々軒を彷彿とさせる形で現在の「来々軒」をオープンしたのが今から5年前のことです。
「教えてください!と頼み込んだら、『家族で経営すること』を条件に許可をいただきました。妻と息子の3人で日々奮闘しています」(荒張さん)
先代の来々軒の味を守るべく、調理法から野菜の仕入れ先まで受け継いでいるという荒張さん。
「50年続いた名店ですから、『小学校の頃からずっと食べていたんだよ』という常連さんも多いんです。『こうしたほうがいい』、『俺の言う通り作ればいいんだ』と一家言お持ちの方もいらっしゃるのですが、それでも毎日のように来ていただけるのはありがたいし、自信になりますね。毎日夕方になると、懐かしい味を求めて地元のおじいちゃんおばあちゃんがよく来てくれます。お客様によって味付けをちょっと変えたりすることで、残さず最後までキレイに食べていただけるんです」(荒張さん)
今では常連客の他、女性客で店がいっぱいになることも。休日には家族連れで店が賑わいます。
野菜の種類は先代の「来々軒」と同じくキャベツ、もやし、ニラ、にんじんの4種類。見た目も味も伝統にこだわる荒張さんが今のお店で唯一変えたものがあります。それは「麺」でした。
「以前の『来々軒』では自家製麺を使っていたんですがその再現までは難しい。そこで、麺に関してはプロの力を借りています。製麺所の浅草開花楼さんにお願いしたところ、有名な営業マンの負死鳥カラスさんが知りうる限りの情報を集めてくれて、9種類の麺を作ってきてくれました。その中から、前のオーナーも交えて食べ比べ、今の麺に落ち着きました」(荒張さん)
タンメンとセットで頼む人が多い人気の「餃子」の皮も、同じく浅草開花楼で作ったものを使用。1日1000個は出るという餃子は、それだけを夕食のおかずとして買いに来る常連客も多いそうです。
「モチモチした耳たぶくらいの分厚い皮に仕上げてくれるんですがこれがまた美味しいんですよ。餡は1日寝かせ、1000個包むのに毎日5時間以上かかりますけど、作りがいがありますね」(荒張さん)
最後に、タンメンの名店だからこそのこだわりを聞きました。
「タンメンのスープっていうのは、濃厚な豚骨スープとは対局にあると思うんです。そして主役が野菜だからこそ、スープの旨みが正直に出てしまう。ごまかしがきかないのがタンメンの難しいところですね。いずれにせよ、大事なことは地元に愛されること。地元で生まれた伝統の味をこれからもしっかり守っていきたいと思います」(荒張さん)
つけめんで有名な「六厘舎」、まぜそばというジャンルを確立した「ジャンクガレッジ」など、ラーメン業界に次々とムーブメントを起こして来た六厘舎グループがタンメンに特化して立ち上げたブランドが「東京タンメン トナリ」です。都内に9店舗を構える人気の秘訣とは?
タンメンといえばあっさり塩味スープで食すもの……その常識を覆し、オリジナリティ溢れる濃厚なスープで食すタンメンが人気の「東京タンメン トナリ」。この店が誕生するキッカケとなったのは、濃厚つけめんで有名な「六厘舎」を立ち上げた三田遼斉氏が街中でふと聞いた「最近、野菜をぜんぜん食べていないんだよね」という会話でした。
「ラーメンで野菜といえば、スープにのっているネギくらい。『だったら、ラーメンと野菜を一緒に摂れるタンメンを、もっと若い人に支持されるものに出来ないか』と考えて試行錯誤して出来たのが、他にはない『トナリのタンメン』です」
教えてくれたのは、トナリ2号店である「丸の内店」の店長、渡邉真治さん。
六厘舎がまだ大崎にあった2009年6月、その六厘舎の隣にあった倉庫を改装して仮オープンしたことから「トナリ」という店名になり、その後2009年9月に東陽町に1号店が誕生。現在では都内に9店舗を構える人気タンメンチェーンに成長を遂げています。
「客層は各店舗、地元の幅広い年齢層の方々にご愛顧いただいています。ここ丸の内店の場合、オフィス街ということもあって、女性客も多いですね」(渡邉さん)
女性人気が高いというトナリ丸の内店。その理由はオフィス街という立地だけではありません。厚生労働省が1日の野菜摂取量として推奨する350gの野菜をタンメン1杯で摂取できるところも、ヘルシー志向の女性から支持を集める理由です。
使う野菜の種類は全部で9種類(キャベツ、白菜、ニラ、小松菜、もやし、ショウガ、タマネギ、にんじん、トウモロコシ)。野菜に加えてかまぼこ、ゲソ、豚肉も加わり、さらに麺の量は茹で上げ前で150gと、男性でも満足できるボリューム感です。
「野菜のボリュームが多く、なかなか麺まで辿り着けないため、当店では伸びにくく、さらに濃厚スープにも負けない麺を特注で頼んでいます」(渡邉さん)
実際にタンメンを食べてみると、麺のモチモチした食感と野菜のシャキシャキした食感のバランスが実に絶妙です。この「野菜のシャキシャキ感」を出すためにも、トナリならではといえるこだわりが込められています。
「野菜の調理法には手間をかけていると思います。タンメンはスープに野菜を入れて、野菜と一緒に煮込んで作るのが普通です。でも当店では、麺の上に載せる野菜は炒めてから提供しています。野菜は茹でるより炒めたほうが美味しいですし、何よりも食感が違います」(渡邉さん)
一杯のタンメンを作るのに、野菜を炒める用とスープ用、必ず2つの中華鍋を使うのがトナリスタイルです。
東京・錦糸町で人気のタンメン専門店「タンメンしゃきしゃき」。もともと葛西で産声をあげた同店が今の場所に移転したのが5年前のこと。メニュードリンク類以外は「タンメン」と「餃子」のみという潔さがタンメン好きに愛されています。
「よく言えば、こだわり。悪く言えば、これだけしか作れない(笑)。まあ、あれこれ手を出すよりも1品を突き詰めていこうと、開店した当初からタンメン一本です」
笑顔を浮かべながら答えてくれたのは、タンメンしゃきしゃきの店長、菊地幸智さん。店に入って最初に目にする券売機は、ドリンク類以外は「タンメン」「餃子」「タンギョウセット」のみというシンプルさ。その潔さがかえってタンメンに対する強い自信を感じさせます。
その自慢のタンメンも、こだわりは「シンプル」であること。野菜はもやし、キャベツ、にんじん、ニラの4種類のみ。あっさりと透き通った塩味のスープもシンプルだからこその奥深さを感じます。
「もっといろんな野菜があったほうがいいのかなぁと思ったこともありましたが、あえて何も足さず引かず。開店以来この4種類の野菜で続けています。スープはもみじ、ゲンコツ、昆布、野菜を使って、あまり濁らないように気をつけています。炊く時間の長さにはこだわっていません。あっさりスッキリ、キレイなスープが出来るように心がけています」(菊地さん)
あっさりとしたスープでもしっかり絡むように特注された中太平打ち麺は、歯ごたえもよく、食べ応えも抜群です。
タンメンの魅力とは?と訊ねると「飽きないところ」と答える菊地さん。お腹が空いているときはもちろん、お酒を飲みながらでも、飲んだ後でも美味しいタンメンだからこそ、年齢も男女も問わず、幅広い層に愛されているといいます。
「野菜の量がすごく多いからか、女性客も多いですね。おじいちゃん、おばあちゃんの年配のお客様からは『今、どこのラーメンもしょっぱくて食えないけど、この店のタンメンは食べられる』という声も頂戴しています。家族連れのお客様からは「子どももタンメンなら野菜が食べられる」という声が多いですね」(菊地さん)
店の一番人気は5個の餃子とタンメンが一緒に味わえる「タンギョウセット」。餃子はモチモチした厚手の皮が特徴で、「あえて肉汁が出ないように努力している」といいます。しっかりした噛み応えのある餃子は決して「サイドメニュー」ではなく、メイン料理であることを心がけていると菊地さんは語ります。
「ラーメン店の餃子って、サイズが小さくてあくまでも脇役と捉えがちです。でも当店の餃子はあくまでもメインのひとつ。餡は普通の餃子と一緒ですけど、とにかく美味しい餃子を作ろうと意識しています。大事なことはシンプルであること。タンメンもそう。うちは、シンプルなことにこだわっている店。ゴチャゴチャ足したりしないのが秘訣です」(菊地さん)
シンプルで飽きのこない「タンメンしゃきしゃき」は新橋にも店を構え、サラリーマンを中心に人気を集めています。
JR川崎駅直結の商業施設「アトレ川崎」にある、ラーメン店が軒を連ねる「ラーメンシンフォニー」。各店が鎬を削る中、女性からの支持を集めているのが「たんめん専門店 百菜」です。店構えからメニュー構成にいたるまで、女性人気を集める秘訣があります。
「当店のコンセプトは“健康志向”! それと“女性をターゲットにしたい”というのがありました。やっぱりラーメン店は女性が入りにくいですから」
明るい雰囲気の店内で快活に答えてくれたのは、「たんめん専門店 百菜」店長の清海義雄さん。緑色の制服や緑の座席など、店内には野菜を連想させ、女性も入りやすくなる工夫が随所に込められています。
この店のタンメン(毎日野菜たんめん)の特徴は、なんといっても野菜の種類とそのボリューム。一杯のタンメンの中に、新鮮野菜が11種類(ちんげん菜・キャベツ・白菜・もやし・ショウガ・長ねぎ・キクラゲ・タマネギ・ニラ・トウモロコシ・にんじん)、480gも入っています。大人が1日に必要とされる野菜摂取量350gを大幅に上回る量の野菜を、1杯のラーメンで食すことが出来るのが自慢です。
「野菜不足が叫ばれる昨今。インスタント食品などで食事を済ませている方も多いと思います。その中で、当店に来れば野菜はもうバッチリ! そういうイメージが受け入れられたんだと思います」(清海さん)
お店のメニューには野菜の栄養素や豆知識が書かれているので、注文を待つ間にそれをじっくり読むお客様も多いとか。野菜のみならず、豚肉やイカなども入りボリューム満点。150gあるというコシのある自家製平打ち麺とあわせれば、男性でも一杯で十分すぎるほど満足できるボリュームです。
女性の客層を見込んでオープンしたという「百菜」。しかし、開店当初から女性支持が高いわけではありませんでした。
「もちろん、野菜がたくさん食べられるということでヘルシー志向の女性からの支持は当初からありました。ただ、お客様のアンケートを見ていると、『いっぱい食べられるから嬉しい』という声がある一方で、女性客からは『ちょっと多すぎて……』という声もいただいていました。そこで生まれたのが野菜のボリュームはそのままに麺の量だけ少なくした『ハーフサイズたんめんセット』(杏仁豆腐・ウーロン茶付き)です。このメニューを始めてからあっという間に口コミで人気が広まり、今ではお客様の約7割が女性客です」(清海さん)
女性客が多いということもあって、口コミを通じて来店するお客様が多いという同店は、今年4月、1年間の売り上げ伸び率でアトレ川崎から表彰を受けるほど安定した人気を誇っています。百菜が軒を連ねるのは、ラーメン店が5店舗ならぶ「ラーメンシンフォニー」という激戦区。味の濃さやボリュームを売りにする店が多い中、ヘルシー志向の「たんめん」というオリジナリティは確かな存在感を放っています。
「星の数ほどラーメン店がある今の時代、いろいろな意味で『満足感を満たす』ことで評価をいただいているのではないでしょうか。女性でもものすごく食べる方もいらっしゃいますからね。たくさん食べたい方、野菜をしっかり摂りたい方、どちらのお客様に満足いただけるよう、これからも努力していきたいと思います」(清海さん)
※店舗情報及び商品価格は2014年12月現在のものです