湘南藤沢に店を構えて四半世紀。ノーランのパンは、「安心して食べられる美味しいパン」の代名詞のような存在です。「日々の食卓になじむパンを、いつも変わらぬ味でお届けすることを心がけています」と話すオーナーシェフの八田さん。
本店の他、藤沢市内に2つの支店を展開しているのに加え、地元藤沢や鎌倉のレストラン、小学校、保育園、老人ホームにもパンを卸しています。まさに地元密着、地域に根ざしたベーカリーと言えるでしょう。
ノーランの店頭には、常時6~8種類のデニッシュが並んでいます。定番のデニッシュが2~3種類と、「毎年この時期にはこれ」という季節ごとのデニッシュがあり、材料も製法も開店当時から変えていません。「“これじゃないとダメ”とおっしゃるお客様が多いので、変えられないんですよ」(八田さん)。
中でも「ナッツボックス」は開店当時からある超ロングセラー商品です。中身はアーモンド・くるみ・ピスタチオに、そぼろ状にしたスポンジケーキを混ぜて、バターと牛乳で練り合わせたもの。「このデニッシュはとても人気があって、これだけを買いに来られるお客様も多いですよ」と八田さんは話します。
ノーランでは、デニッシュの種類によって成型と発酵時間を変えることで、異なる食感を実現しています。例えば洋ナシやアップル、マロンのデニッシュはサクサク、クランベリーガナッシュの内側は、ふんわりとした食感です。「当店のデニッシュは、外側がサクサクとしています。やはりデニッシュやクロワッサンは、食べていてこぼれなければ!と私は思っています」(八田さん)
デニッシュはバターが命。バターとマーガリンを混ぜたものを使うと、翌日はサクサク感がなくなり、バターの風味も飛んでしまいます。ノーランのデニッシュはバター100%で作られているので、製造の翌日も食感や風味が変わりません。
ロングセラー商品の中でも、イギリスパン、フランスパン、クロワッサン等、日々の食卓に上がるパンは、特に根強い人気を誇ります。その一つである「琥珀クロワッサン」は、ノーランの代表的な名物パンです。
小麦粉、フランス産のフランスパン用の粉、全粒粉の3種類の粉をブレンドすることで、独特の食感や香り、甘みを実現しています。
「パン作りは、火も味、時間も味です」と八田さんは話します。材料だけではなく、火の強さ弱さ、焼き時間の長さもパンの味を変えるからです。どのような火を入れるか、どのくらいの時間をかけて焼くか、そしてどのくらい長く、どこに置くのか、冷蔵庫、常温、温かい所……そのような違いで、パンの味は様々に変化します。
「火と時間を味に変える、私たちが追求し続けているのはこの点なのです」(八田さん)。
BOULANGERIE E.S.(ブーランジェリーエス)のオーナーシェフ島田英治さんは、フランス料理人からパン職人へと転身した経歴の持ち主。飛騨高山の名店「トラン・ブルー」で修業を積み、2007年に逗子に独立開業しました。ハード系のシンプルなパンも美しいデニッシュも、トラン・ブルーの味やコンセプトを受け継いでいます。「手間を惜しまずに丁寧に生地を熟成させること。美味しいパンを作るには、それが最も大切です」(島田さん)
島田さんが師事したのは、世界大会のヴィエノワズリー部門で第3位を獲得した、トラン・ブルーの成瀬シェフ。それだけにデニッシュは、ブーランジェリー エスのメイン商品であると言えます。同店のデニッシュはクロワッサン生地を用いて、繊細な食感を出しています。
「こだわっているのは、サクサクとした食感と口どけの良さです」(島田さん)。
サクサクに仕上げるためには、発酵時間の見極めが重要。発酵し過ぎると生地がくっついてしまい、きれいな層が出ません。一方、発酵が足りないと生地が持ち上がらず、やはり層は出ないのです。そして口どけを良くするために大切なのが折り込みです。薄い生地を2枚重ねると簡単に上に上がりますが、それでは口どけが悪くなります。そのため、1枚で層が出るように、うまく折り込まなければいけません。
「とにかく生地作りにこだわっています。材料でごまかさないのが信条です」と島田さんは話します。
デニッシュは、きちんと折り込んで丁寧に作ることで、良い食感が生まれます。
「見た目でも、この生地ちゃんと作ってある、すごい、と分かるのがデニッシュ。こだわりを表現しやすい商品です」(島田さん)
ブーランジェリー エスのパンの多くは、トラン・ブルーの味を継承しています。発酵バターをふんだんに折り込んだクロワッサンは、均一の層が美しい逸品。外側の生地は薄く繊細で、中はしっとりした食感です。
また、バゲットは3種類の小麦粉をブレンドし、低温長時間発酵で小麦粉そのものの甘みを引き出しています。「噛めば噛むほど、口の中にうまみが広がっていきます」(島田さん)。
オープンして8年目を迎え、同店のパンの口どけの良さや生地のうまみを分かってくださるお客様も増えてきました。
「多くの方から、“エスのパン以外は食べられなくなった”と言ってもらえるようになりました」(島田さん)
東葉高速線の船橋日大前駅から歩いて5分の場所にあるブーランジェリークー。普通の住宅のようで、ベーカリーとは気付かずに通り過ぎてしまう人もいそうな外観です。オーナーは中島直人さん知美さん夫妻。千葉の人気ベーカリー「Zopf」にて共に修業を積み、2009年11月にブーランジェリークーをオープンしました。一度に7人までしか入店できない、こじんまりとした店内には、ところ狭しとパンが並べられています。「どんどん焼いて出しているので、あふれそうになることもあります」(中島知美さん)。
午前10時を過ぎると、いつも店の外には行列ができる人気店です。
ブーランジェリークーにおいて、デニッシュはお店の華であり、彩りを演出する存在です。「以前、夫婦揃って体調を崩し、手間のかかるデニッシュをお休みしたことがあります。その時はお店の中が、とても寂しい雰囲気になってしまいました」と話す中島さん。
同店ではフルーツを載せたデニッシュを、常時6~7種類は並べています。一年を通して販売しているのがブルーベリーデニッシュ、キウイとマンゴーを載せたフルーツデニッシュ、キャラメルバナナデニッシュ、その他にイチゴ、いちじく、チェリー、マロンなど、季節ごとのデニッシュがあります。
サクサクとした食感の香ばしい生地に、フレッシュフルーツをどっさり載せているのが、同店のデニッシュの特徴。「ケーキのような感覚で、プレゼント用として買っていかれるお客様も多いですね」(中島さん)。
また、甘いデニッシュだけではなく、クラムチャウダーやカニサラダ等のおかず系のデニッシュも常時5~6種類ほど並んでいます。フルーツのデニッシュ同様、具材がぎっしり入っていてボリュームたっぷりです。
入店できるのは最大7人までという面積ながら、150~160種類もの商品があります。1種類ごとに少しずつ焼いているとはいえ、店内の棚はあふれんばかりのパンでいっぱい。
「“えっ!?こんなに?”と、お客様が驚くのを見ると嬉しくなります。誰もがワクワクするお店でありたいですね」と中島さんは話します。
少しずつ焼くのは、種類を多くするためだけではありません。「お客様には、ぜひ焼き立てを味わっていただきたいと思っています。そのため一度に大量に焼き上げるのではなく、少し焼いては出すというのを繰り返しています」(中島さん)。
たくさん種類があるので色々なパンを味わえる、こまめに出てくるので焼き立てを味わえる。ブーランジェリークーは、そのような楽しみに満ちたベーカリーです。
代々木駅から徒歩2分の「代々木VILLAGE」内にあるプルクル。藤沢市辻堂にある「POURQUOI?(プルクワ)」の姉妹店で、店長を務めるのはプルクワの製造スタッフだった藤田さん。プルクワと同じルヴァンリキッド(自家製酵母)を使い、同じ製法を用いることでプルクワの味を守っています。「プルクワの定番商品や人気商品に加え、当店オリジナルのパンも増やしていきたいと思っています」(藤田さん)
プルクルでは、季節のフルーツを使ったデニッシュが、常に6~7種類は並んでいます。「パンはどうしても茶色っぽいものばかりなので、デニッシュがあるとカラフルな雰囲気になります」と話す藤田さん。
また、定番化しているパンが多いため、デニッシュには季節を感じられるものを取り入れています。メインは季節のフルーツですが、冬期限定でティラミスのデニッシュも出しています。
「当店では、サンドイッチ等とデニッシュ1個という買い方をされるお客様も多いですね。特にランチタイムは近隣のOLさんが、デザートがわりに買われるようです」(藤田さん)。
夕方には、ちょっと甘いものが欲しいというお客様、土日はまとめ買いをするお客様もいます。さらに最近は、デニッシュを買う男性客も増えてきました。
同店のデニッシュのこだわりは生地の食感。「サクサクバリバリの食感になるように、折り込み方や焼き具合に気を遣っています。また、季節による湿度の変化も考慮して、焼き時間も調整します」(藤田さん)
プルクルの商品ラインナップは、基本的には本店プルクワと同じです。本店と同じルヴァンリキッド(自家製酵母)を使い、低温で長時間発酵させる製法で、パンを焼き上げています。
「プルクワ、プルクルのパンは、しっかりとした旨味があるのが特徴です」と藤田さん。
プルクルでは、お客様に生地の美味しさを最大限に味わっていただくため、常に焼き立ての状態で並べられるように、努めています。「2種類のオーブンを使い分けて、少しずつこまめに焼いています。中でも具材をはさんで石窯で仕上げるチャバタサンドは、ランチタイムの人気商品です。」(藤田さん)
「今後も本店プルクワと同じ味を守りつつ、プルクルならではの需要に応え、オリジナル商品の開発も目指しています」(藤田さん)
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年3月)のものです