
- 竹谷
- 桜製菓の後はどのような経験をされたんですか?
- 明石
- 1年後に桜製菓を辞め、働くパン屋を探しはじめました。職場を探す間に、大手のパン作りに興味があり製造工場へアルバイトに行ったりもしましたね。そこでも貴重な体験をたくさんさせていただけました。そんななかで出会ったのがハンスローゼンでした。26歳から34歳まで8年間勤めました。竹谷さんと出会ったのもハンスローゼンです。
- 竹谷
- 1986年1月に始まったベーカリーフォーラムにも熱心に参加されていましたね。皆勤賞だったのでは?
- 明石
- はい。100回目くらいまでは全て出席していましたね。また、日清製粉主催の製パン講座の受講記念に「新しい製パンの基礎知識」((株)パンニュース社)をサイン入りでいただき、今でも宝物にしています。マーカーをたくさん引いて熟読しましたね。読み直してみると、見落としていた点がまだまだたくさんあり何度読んでも勉強になります。
- 竹谷
- ありがとうございます。
- 明石
- たくさんの刺激をいただきました。そんな経験をしつつ1987年11月に「ベッカライ・ブロートハイム」をオープンしました。
- 竹谷
- お店をオープンしてからは苦労も多かったでしょう。
- 明石
- オープンしてから5、6年は寝る暇もなく、世の中の動きも知らないほど働いていましたね。しかし私は楽天的な性格なのであまり大変とは感じてはいなかったですね。おいしいパンを届けたいという想いがあればすべて楽しく乗り越えられました。それにいろいろな人が手伝いに来てくれたので、本当に助かりました。幸いオープンから順調にここまでやってこられたのもみなさんのおかげです。
- 竹谷
- 明石さんの人柄がみなさんを動かしていたのでしょうね。私自身も明石さんのお店がオープンしたことは自分のことのように嬉しかったですね。
- 明石
- そのお言葉は実際に開店祝いの時にも言っていただけて、大変励みになりました。
- 竹谷
- 明石さんはJPB友の会の代表幹事も務められていますね。
- 明石
- はい、15、6年代表幹事を務めています。日本で随一の手作りパン職人の集まりで、技術講習会、講演会、勉強会、JPB便りなどを通して会員の製パン技術の向上はもちろん、パン業界全体の発展を目指しています。


- 竹谷
- 団体の代表として人の育て方はどのようなことを心がけていますか?
- 明石
- 会員のみなさんの意見を取り入れたいときはこちらが主導権を持つのではなく、「どうしたらいと思いますか?意見を言ってみて。」と伝え、進行を任せるといい意見が出てきますね。ただ物事を決める時には「この件についてはこうします。責任は私がとる。」という“ワンマンおやじ”も必要だと思っています。みんなの意見を聞いてすべてを取り入れようとしても何も決まりません。
- 竹谷
- 次の代の代表幹事さんにも明石さんの意志を受け継いで頑張ってもらいたいですね。さて、2014年11月20日で創業28周年ということですが、2005年7月7日にカフェスペース(現在休業中)をオープンしていますね。
- 明石
- はい。自分の作ったパンを一番いい状態で食べてもらえるカフェを併設することで理想のベーカリーが完成すると思ったのです。
- 竹谷
- そのカフェでレストランでの経験が生きているのですね。はやりパンだけでなく料理や製菓などの経験を持っている方のパンは独創性があって面白いですよね。
- 明石
- パンに合う料理を作ったり、ちょっとしたデザートを考えたりカフェで提供するメニュー作りもとても面白かったです。現在は休業中ですができるだけ早く再開させたいと思っています。


- 竹谷
- 従業員教育で指針にしていることはなんですか?
- 明石
- 製造希望でも最初は販売をしてもらいます。また経験の有無に関わらず、ゼロからのスタートと思って接すること、教えていくことを心がけ、自分の想いをしっかりと伝えていくようにしています。
- 竹谷
- 新製品はどのように作っていますか?
- 明石
- 基本的にはベーシックな商品のみの展開ですが、旬を取り入れたものは随時提供しています。新商品を追いかけるパン屋になりたくないと思っていますね。ただ普遍的にある、いい商品は少しずつ取り入れて行こうと思っています。創・食Clubのコンテンツをヒントに作ったシチリア島のお菓子「カンノーリ」もその一つですね。映画「ゴットファーザー」でも登場しているんですが、パリっとした生地にクリームが入っていて、おすすめですよ。
- 竹谷
- イタリアに行くと筒だけたくさん並んでいて、注文すると中にクリームを入れてくれる。とてもおいしいんですよね。
- 明石
- 当店でもそのように販売しています。流行のパンを作って売るのではなく、食事系のパンがメインで、飽きずに来てくれるお客様を大切にしていきたいと思っていますね。


- 竹谷
- 明石さんはベーカリーとはどうあるべきだと思っていますか?
- 明石
- パン屋は町会長であり、町・地域の中心となるべき場所だと思います。それを実現させられるように地域活動には積極的に参加するようにしています。雨の日の置き傘や地域の人が活動しているチラシを置いたりしています。
- 竹谷
- 地域はもちろん、お客様一人一人との関係も大切にしていらっしゃるんですね。
- 明石
- 毎年11月にエコバックやコーヒーなどのサービスをする感謝祭を行うのですが、大勢のお客様とお話しします。300人近くのお客様にお声かけしていただけてとても嬉しいですね。なかには初めてのおつかいでここに来たというお客様もいらっしゃいますよ。本当は来ていただいたお客様全員とお話ししたいと思っています。
- 竹谷
- お客様とお話しできるのは、パン屋さん冥利に尽きますね。今まで一店舗主義を貫いてきた明石さんですが、お店を今後どのようにしていきたいと思っていますか?
- 明石
- 今後も一店舗主義を守っていきたいですね。もっとコンパクトにしていきたいと思っています。商品の種類を絞って、クオリティを上げ、サービスや接客も向上させていきたいですね。近隣においしいパン屋さんがたくさんでき、パン事情も変化が絶えません。そのなかでも変わらずに当店のパンを買いに来ていただけるお客様に感謝しつつ、努力を続けていきたいですね。



【明石 克彦さんプロフィール】
1951年東京都生まれ。桜製菓のレストランにて料理・製菓を担当。その後26歳でパン職人に転向。ハンスローゼンにて8年間修行を積み、1987年11月に「ベッカライ・ブロートハイム」を開業し独立。現在に至る。
営業時間 7:30~19:30(定休日:月曜・第一火曜・第三火曜)
1987年11月の開業以来、近隣の人々のみならず、全国にファンを持つ「ベッカライ・ブロートハイム」。東急田園都市線桜新町駅から徒歩10分ほどの住宅街に佇み、オープンから閉店時間まで多くのお客様で賑わいます。店頭では「お客様と会話をしながらパンをただしく理解して買っていただきたい」と対面販売をしています。
他にも、ライ麦を使用した「ベルリーナラントブロート」や、人気の「バゲット・レジャンデール」、ドイツらしい「ラウゲンブレッツエル」など明石さんの想いが込められた品々が店内を埋め尽くし、訪れるお客様へおいしさを提供しています。
30年以上のお付き合いの中でなかなか竹谷さんとゆっくり話す時間がありませんでした。
久々にお話ができました。パンの美味しさ、パンの良さ、パン屋であることの素晴ら
しさなどをすべて竹谷さんに学びました。今は同じパン屋のオヤジですがいまだに竹谷さんの言葉はパンの神の代弁であると思っております。何よりも、竹谷さんのおかげでパンを通して素晴らしい人々と知り合えたこと・・・これが私の財産です。ありがとうございました。
久し振りのブロートハイム訪問である。長いお付き合いになるが、改めて、パン屋さんになるきっかけ、修業時代の事、開店時の苦労話をお伺いしたが、他の人なら投げ出したくなるような逆境をいとも簡単に、むしろ励みにして乗り越えていらしたことに驚きを感じる。開店して5~6年は睡眠時間2~3時間だったとのこと、その苦労が今の明石さんを作り、ブロートハイムの繁栄につながっていることを改めて実感した。開店18年目でお店を新装開店した時のコンセプトは厨房を広くとること、設備を充実させること、そして倉庫・休憩室をゆったり持つこと。1年後には隣にカフェー・バッハをオープンし自分のパンを一番美味しい状態で食べてもらえる空間を確保している。現在もJPB友の会代表幹事として、またキャンプブレッドの世話人として業界発展、若手の育成にも力を注いでいる。益々、お元気でご活躍されることを確信する対談になった。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2015年2月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。