平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

vol.2 Ryoura(リョウラ) 菅又亮輔シェフ オープンから3年目までの変化と進化、若手実力派シェフの理想とは?

このほどスタートした、菓子職人の方々へのインタビュー連載。第2回目にお話をお伺いしたのは、東京・世田谷区、用賀の「Ryoura」オーナー、菅又亮輔シェフです。
1976年新潟生まれ。26歳で渡仏し、アルザス地方をはじめとする各地で修業。帰国後、「ピエール・エルメ・パリ・サロン・ド・テ」でスーシェフを務め、2015年に自店をオープンしています。
今、注目される若手実力派シェフのお一人ですが、独立に伴い変化したことや、今後の目標について伺いました。

前編後編

自店をオープンして変わった、商品開発についての考え方

平岩
今日はどうもありがとうございます。菅又シェフとは、2007年のオープニングからシェフパティシエを務められた「ドゥーパティスリーカフェ」(現在は閉店)からのお付き合いなので、約10年ですね。
菅又
早いですね・・・。「Ryoura」も2017年10月で、オープンして丸2年を迎えました。少しずつですが、自分がやりたいと思っている形に近づいていっているという実感を持っています。
平岩
例えばどのような点で、そのように感じられますか?お菓子も、以前と変わっていらっしゃいますよね。
菅又
前の「ドゥーパティスリーカフェ」の時は、1つずつのお菓子ありきで、それらがショーケースの中に集まっていればいいととらえていたように思います。だから、それぞれ個性の強いお菓子が多かったのですが、今は、ショーケース全体を見て、バランスを考えるようになりました。お客様が4個のケーキを買ってくださる時に、選びながら楽しんでもらえるように“もう少しこういう商品を出そう”とか、そういう考え方をしています。
平岩
確かに、以前は、アルザスらしさとか、エルメっぽさを感じるガトーを含め、かなり凝った「フランス菓子」が多かったように思いますが、最近は、肩の力が抜けた感じがします。この店になってから、ベイクドチーズケーキの「フロマージュ・キュイ」はじめ、必ずしもフランス菓子にカテゴライズされないような、菅又シェフオリジナルのお菓子が増えていっていますよね。
菅又
今は、名前だけで味のイメージがつく、シュークリームやモンブランのような親しみやすいお菓子と、自分の創作菓子との2つに分けて、それぞれに定番と季節アイテムがあるという、4つのグループ分けで考えています。お客様にも様々なニーズや嗜好があるので、そのパターンごとに自由に選べるようにって。選択肢が豊富なようでいて、実はある程度、幅を狭めているんです。それによって、1つ1つのお菓子に合わせて、食材をあれこれ注文しなくてはならないということがなく、店のオペレーションも楽になります。
平岩
ショーケースを見ると、デコレーションが華やかなエクレールや、フルーツをのせたシンプルなタルト、定番のショートケーキに、菅又シェフのスペシャリテというイメージの強いヴェリーヌなど、カテゴリーは色々とありますが、例えば秋ならば旬のぶどうを、しかも紫のとグリーンのものを使い分けることで、実は使っている素材は共通しているけれど、ラインナップは豊富に見えるという感じ。これは、以前のお店のショーケースでは無かった傾向ですね。
菅又
毎年常に同じ、というのではなく、マニュアル化はしたくないけれど、「この季節にはこういうお菓子があるはず」と、いい意味で期待値を持たせるような展開をしていきたいです。前は、「これは洋菓子っぽくて自分が出すのは嫌だな」と思ったりしていた品も、フリーになって、フランス菓子にこだわらなくても、美味しい食材を素直に食べさせるというナチュラルな考え方でいいんだ、と思えるようになりました。その方が、商品を考えるのに発想もしやすいですし、選ぶ側も楽しいんじゃないかと思うんですよね。
平岩
「和栗のモンブラン」や、貝殻形ではなく昔懐かしい昭和風の平たい形をした「マドレーヌ」なども、フランス菓子風ではないかもしれませんが、「Ryoura」に並んでいて違和感がありませんね。
菅又
季節のタルトなんかも、今までは、セルクルにパートシュクレを1個ずつフォンサージュして・・というのにこだわっていましたが、今は、ホールで作ったものをカットしたスタイルで出しています。
平岩
抹茶をはじめ、和の素材も、以前以上に使われるようになりましたか?
菅又
抹茶とか黒糖とか。最近、さつまいものガレットなんかも試作してみましたよ。店名に「パティスリー」とつけなかったのも、“フランス菓子”という枠に縛られないようにという思いがあったからです。

スタッフの労働環境や技術の向上のために取り組んでいること

平岩
オープン時から週休2日の営業を打ち出していたのも、印象的でした。働き方についても、考え方を変えられた部分が、かなりあったのではないでしょうか?
菅又
「きちんと働き、きちんと休む」というのを徹底しようと思いました。お客様には、きちんと告知をして理解していただこうと。営業販売はしていないけれど仕込みの日で、実際は働いているというのではなく、本当の休みにしたくて、ローテーションで隔週では休めるようにしてきました。最初は、スタッフの休業日は平均月5日でしたが、今は、月6日は休めるように、生産力を上げる努力をしています。
平岩
夏休みや年末年始はいかがですか?
菅又
年3回くらいは連休を取れるようにと、今年は、6月、8月、9月と、お店自体に4連休を設けられるようになりました。あと年末年始にも。スタッフの皆がリフレッシュできるタイミングをつくりたかったんです。
平岩
最近の菓子店では、夏休みを長く取られたり、休みを増やす傾向が見られますね。でも皆さん、踏み切るにあたっては、売り上げに影響が出るのではないかというのが心配ですよね。
菅又
それはもちろん心配でした!でも、自分の取り分はぎりぎりでいいかと思いつつ、売り上げが下がらないよう、新商品を出したり、ついで買いしたくなるようなアイテムを増やしたりと、客単価を伸ばすような工夫をして。結局、その時期も、昨年対比100%の売り上げを出すことができたんです。
平岩
それは何よりでした。勇気を持って変えて、ちゃんと成果を出されたのは素晴らしいですね。 先ほど、生産力を上げる努力をしていると仰いましたが、スタッフの方の技術や意識向上のために、具体的にどのようなことに取り組んでいるのですか?
菅又
ショートケーキのジェノワーズやロールケーキの生地、パータシューやマカロンなどは、以前はこだわりが強くて、絶対に自分がやらないとという思いがありましたが、最近は分担して、ある程度任せるようになりました。でも、生地の合わせだけは、ずっと自分でやっていますね。職人なので、そういう仕事があってもいいのかなと思っています。
平岩
今、スタッフの方は何人いらっしゃるのですか?
菅又
厨房スタッフは、現在、女性のみなんですが、自分を入れて6人。表の販売は2人います。でも、スーシェフがフランスで修業していて、接客もきちんと出来る人間なので、忙しくなると販売にも回れる。やっぱり接客は大事。新入社員がまず接客担当をするというお店や、パート・アルバイトの方のみということもあると思いますが、任せられる安心感があります。それで、彼女が製造から抜けた時には、自分がその分フォローに回ります。
平岩
要所は押さえつつ、シェフが製造チームの中心、というのではない体制をつくろうとしているのですね。
菅又
レシピをつくる時も、色々な製法がありますが、たとえばアングレーズベースのムースを集中的に練習させて、質を向上させるなど、オペレーションを意識しながら考えています。 あと、うちは朝食タイムがあるんですが、そこでの会話も大事にしていますね。新卒採用の子もいるんですが、わからないことを積極的に言ってきてくれたりするので、嬉しいですね。
平岩
労働時間短縮の問題も、今、この業界で色々取り沙汰されますが、菅又シェフも取り組んでいらっしゃるところですか?
菅又
店は19時までの営業を謳っていますが、この辺りは住宅街で、仕事帰りの帰宅前に寄ってくださるお客様が多く、駆け込みで買いにきてくださったり、受け取りのため営業時間を延長したりとか、実質、もう少し遅くまで営業していることも多いんです。その分、終わりは、片付けなど含めてどうしても20時半とか21時とかになるので、朝の出勤時間を今より少し遅くできたらと思っています。 でも、スタッフの帰りが遅くなると、疲れて、家事とかもなかなか出来ないじゃないですか。皆、近くに住んでいるので、昼間の時間帯でも、休憩時間に帰宅してもいいよと言ってあって、昼間のうちにちょっと洗濯とか掃除とかできるので、助かるみたいです。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年9月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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