菓子職人の方々へのインタビュー連載。第4回目は、埼玉県さいたま市・浦和の「パティスリー アカシエ」オーナー、興野燈シェフです。1972年、埼玉県生まれ。パティシエの仕事の奥深さに魅せられ、29歳で渡仏。パリの「ストーレー」などのパティスリーやショコラトリーで修業し、帰国後、2007年に自店をオープンされました。現在は、2018年秋を目指し、北浦和への移転リニューアルオープン準備中です。これまでの経験を踏まえた今後の目標や、思い描く理想のスタイルについて伺いました。
- 平岩
- 今日はありがとうございます。ちょうどお菓子の撮影をされていらっしゃいましたが、興野シェフ、ブログやフェイスブックに載せていらっしゃる写真は、ご自身で撮られるのですね。
- 興野
- プロのカメラマンの方に撮影していただく機会があると、色々と話を聞きます。お客様は、お菓子だけがよくて店にいらっしゃるのではなくて、五感全てに訴えかけるものがある訳じゃないですか。そのためにも、様々な分野の洗練された方々から、色々吸収したいと思いますからね。
- 平岩
- 店づくりにも活きてきますね。
- 興野
- 店に来た時に、お菓子を求めるシーンに合っているかどうかですよね。もちろんお菓子が主役なんですが、全体の中のディスプレイとして融け込んでいるようにしたい。「オーボンヴュータン」の河田シェフの世界観とか素晴らしいと思いますが、空間づくりって、とても重要ですよね。
- 平岩
- いよいよ新店舗に向けて、色々と構想を練っていらっしゃいますよね。
- 興野
- 次のステージに向けて、特に表現したいと思っているのは、現代ならではの「来店動機」です。多くのお客様って、インターネットとかスマホで「埼玉、ケーキ」みたいに検索していらっしゃるじゃないですか。なら、初めの採点を高くしてもらう努力をしないと。味に自信があるならなおさら、パッケージにも力を入れるとか、プラスアルファの要素、付加価値が必要だと思うんです。
- 平岩
- 10周年記念の時につくられたオリジナルトートバッグや、「フォンダン・シトロン」のパッケージも、とても素敵なデザインでした。あれは、スタッフの中に美大ご出身の方がいらして、デザインが得意なので担当してもらったんですよね?
- 興野
- 僕自身が「こういう物をつくりたい」という想いを持つことと、それを同時進行で、別の人に具現化してもらえたら、理想的だと思うんです。人の縁の力で、「アカシエ」を理解してくださる方に出会い、商品ができた時には、それにふさわしいパッケージも形になっているというふうにしていきたい。「フォンダン・シトロン」は自分を良く理解してくれているスタッフがデザインをしてくれたことで、それが実現した商品となりました。これから、そういった商品を年に4-5個は出していきたいですね。レーズンサンドなんかもやりたいんだよなぁ。
- 平岩
- レーズンサンド大好きなので、ぜひお願いしたいです!
- 興野
- ロールケーキとか、ハレのお菓子ではなく日常のおやつとして楽しむものって、コンビニとかスーパーのお菓子もレベルが上がってきていると思いますが、その上で、なぜ専門店に行って買うか?という理由がありますよね。それが、贈り物になるパッケージだったりすると思うんです。




- 平岩
- スタッフの方との接し方も、変化してきましたか?
- 興野
- この10年で、一番変わったところだと思います。人を育てるという意識を持つようになりました。この業界は、離職率が高いという問題も抱えていて、変わらなきゃけないと。仕事の内容もですし、なぜここで働くかという理由づけ、それから、本人にとってのキャリアプランなどをきちんと整備していかなくては。人を育てながら、長く付き合っていくという気持ちがないと、「社長」とは言えないなと。
- 平岩
- 経営者として、他にも変化された部分はありますか?
- 興野
- 必要な物に対する投資をどのようにしていくか、という考え方ですね。2017年のクリスマスのために、4枚扉の冷蔵庫を新たに買ったのですが、従業員に負荷をかけているかどうかというのを基準に、必要かどうかを判断するようになりました。自分の買い物をするように、貯金してお金が貯まったから買う、みたいなやり方は、会社のお金の使い方じゃないと思って。
- 平岩
- 他にも、2017年に、新しく導入された機械がおありですね。
- 興野
- まず、超音波カッターですね。これは、包丁の代わりに、パウンドケーキを最大5本置いて、一気に切ることができます。水の圧力で自在な形にカットできるウォーターカッターとは違って、まっすぐしか切れませんが、水を使わないので、スポンジ生地も切れます。これなら、人手もあくし、人が切るよりもクオリティーも上がる。
- 平岩
- ここで機械化した分、他のことを考えたり、手間をかけたりすることができますね。
- 興野
- 次は、カスタードマシンを導入したいと考えています。そう聞くと、「職人としてそれはどうなの」という意見もあるかもしれませんが、「いつ食べても美味しい物」を提供するというのが、お客様への説得力であり、お店の信頼度が増すことにつながると思うんです。この機械は、カスタードを炊くだけでなく、ジャムも、一定の温度で焦がすこともなく、綺麗な色を保って炊くことができる。「そんなことをしたら職人仕事が失われてしまう!」と頭ごなしに否定するのではなく、スタッフにも、人手の仕事を機械化することの意味や、それによってどう変わるのかを考えてほしい。探求心と理解力を身につけてほしいですね。
- 平岩
- 今、スタッフの方は何人いらっしゃいますか?これから、新たに増やしていかれる予定ですよね。
- 興野
- 今は製造と販売で10人ですが、これから20-25人を目標に、新規採用をしていきたいと考えています。うちは、学生の現場実習を受け入れる場合は別として、新たに採用する時はアルバイト扱いで研修に入ってもらって、きちんとバイト代を支払います。やっぱり、給料をもらうことで、仕事をどんどんやっていこう、と気持ちを上げさせないといけない。
- 平岩
- 以前にも、催事販売で頑張った社員の方に、ボーナスを支給されたお話を伺いました。
- 興野
- 催事は、会社の売り上げを伸ばすためにも必要ですが、やっぱり大変なので、スタッフも正直、「嫌だな」という気落ちになりがちですよね。大変だけれど、お客様のためにもいいものをつくらないといけない。だから、モチベーションを上げてもらいたいと思い、催事の売り上げからボーナスを支給していました。今も、その分をプールして、正当な残業代としてきちんと還元しています。
催事の前には、ミーティングで目標額を決めて、百貨店など出店先にもきちんと事前の約束事をして、スタッフに無理をさせず、守るようにしています。お店は、短距離走でなく、マラソンですから、その場限りの目先の売り上げを求めては駄目ですよね。



※店舗情報及び商品価格は取材時点(2017年12月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。
