平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

Vol.6 クリオロ サントス・アントワーヌシェフ&岡田愛さん 移転リニューアルで実現したこと。学び続けるご夫妻が目指す「時代に合った」スタイルとは?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、小竹向原に本店のある「クリオロ」オーナー、サントス・アントワーヌシェフです。南仏ご出身で、1993年の来日以来、日本人の味覚に合うお菓子を追究し、2000年に菓子学校「エコール・クリオロ」を始め、2003年にパティスリーもオープン。2016年5月、現在の店舗への移転リニューアルで、さらにお店としての体制を整えられました。これまでの経験を踏まえ、今後さらに目指したいことについて、店長でありマダムの岡田愛さんにもご同席いただき、お2人にお話を伺いました。

前編後編

働き方改革の問題にどう取り組むか

平岩
今日はどうもありがとうございます。リニューアル以来、何度かお伺いしていますが、店舗と隣接した建物の2階がラボで、3階に事務所や休憩室、打ち合わせ・撮影ルームなどがあるんですよね。今は、2018年度の新入社員の方が入っていらして、そろそろ落ち着いた時期でしょうか。スタッフの方は、今、何人くらいいらっしゃいますか?
サントス
社員は60人くらいですが、アルバイトの人も入れると100人弱くらい。冬の忙しい時はもっと増えます。製造担当の社員は、今26人です。
平岩
その規模になると、人材の採用も大変ですね。最近は、人手不足に悩んでいらっしゃるパティスリーも増えていますが・・。
うちは、会社説明会は製菓学校などにも告知し、オープンにしています。履歴書で100人くらい応募があるので、まず50人くらいを選んで、最終的に10人くらいに絞ります。
サントス
人によって働く目的が違って、パッション(情熱)のある人も、サラリーマン的に、給料のために働くという人もいます。まずは、いい人を採用するということに注力したいので、専門学校にもしっかりと資料を送っています。おかげさまで、今は人手不足ということはありません。
選考は、グループワークや、簡単な常識を問うテストに回答してもらう中で、気を遣える人かどうか、ということを見ていますね。10人ほどに研修に来てもらって、その中から選びます。
平岩
店舗は、本店以外に、中目黒と神戸にも支店がおありで、以前はデパ地下やエキナカに入られたこともありましたが、今は路面店のみですね。あちこちから、出店依頼なども受けられるでしょうが・・。
サントス
商業施設に入ると、営業時間や定休日を自由にできないので・・。時々、催事出店することはありますが、今は自分達でコントロールできる店舗だけですね。
平岩
やはり最近は、労働時間や環境の見直しといったことを意識されていますか?
最初はお菓子学校から始まって、2003年に千川に移転して店舗と学校を両方やって、手狭になってきたので少し離れた所にラボをつくりましたが、規模は大きくて生産能力はあったものの、人手が足りなくて大変だった時期がありました。自分達もその状況を変えたかったんです。労働基準局の方が来たのですが、色々アドバイスももらって、2005年頃からはどんどん改善していきました。
サントス
働く時間を短くするためには、機械も買う必要があるし、人も多く雇わないといけないと。それに、自分達もだんだんしんどくなってきますよ。働くためには、しっかり休まないと。
毎年、経営戦略を立てますが、店には、売れる品、利益の出る商品と、製造スタッフの技術をみがくことのできる商品の、両方が必要です。2010年頃に、日本で初となる「ウォーターカッター」を、シェフと一緒にスペインまで見にいき、導入しました。
平岩
業界内でも話題になっていました。何人もの方が、移転前の厨房に見学にいらしていましたよね。その後、導入された企業も少し増えてきましたが、個人店で使っていらっしゃるところは、未だにほとんどありませんよね。
サントス
実は、スタッフ達は最初、反対したんです。「技術が無くなるから」というのと、やはり値段も高い機械ですから・・。
平岩
だから、個人店ではそうそう導入できないんですよね。ある程度の量をつくる規模の会社でないと、導入コストとメリットとが見合いません。
今ではカットにかける人手を省力できた分、もっと他のことに手をかけることができたので、この方がよかったと思っています。
平岩
お休みの日数も増やしてこられましたか?
販売もパティシエも、業務状況と、各自の希望も考慮して月9日休めるようになっています。事務職のスタッフなどは、業務に応じて、もちろん支障がないようにですが、自由に休みを決めてもらっています。それ以外に有給休暇もあり、みな利用しています。夏休みは最大連続9日間休んでOKなので海外旅行に行くスタッフも多いです。
平岩
月9日間休みとはすごい!オーナーシェフの方々は、皆さん、そこを目指されていると思いますが、週休2日を完全に実現していらっしゃるお店は、まだなかなか無いと思います。

商品開発やスタッフの意識向上のためにしていること

平岩
2016年5月の、本店移転リニューアルで実現を目指したのは、どういったことですか?
サントス
まず、ラボとショップが分かれていると全体を見づらいので、それをまとめたかった。今後、チョコレートの部門をもっと伸ばしたいな、ということも考えています。
平岩
こちらがオープンした際、長さ数メートルもある冷却トンネル式のチョコレートのエンローバーを、新たに導入されましたよね。
ブランドリニューアルで、お店のイメージカラーや全体のトーンも変わって、落ち着いた雰囲気になりました。
以前の、ポップなオレンジ色の可愛い感じもよかったのですが、ケーキの価値が伝わりづらいところもあって、ウッディーそして、ナチュラルで、落ちついた内装やパッケージに変えることで、高級感あるイメージを打ち出しました。
平岩
チョコレートコーティングされた「トレゾー」も、こちらのお店のスペシャリテとして、定着していらしたのではないでしょうか?
サントス
「トレゾー」は、普通にどこのお店にもあるパウンドケーキとかでなく、他に無いものをつくりたいと考えて発売しました。昔、1種だけ出していたことがあって、つくるのは結構大変なんですが、ウォーターカッターを使って、せっかくなら1種だけではなく、まとめて5種やろうかと。でも、この商品は、少し価格も高めに設定しているので、バレンタインなどの特別な贈り物としてはよく売れるのですが、日常のギフト用に、サブレにチョコレートコーティングしたものなど、焼き菓子のような感覚で選べる品を出しています。
平岩
他にも、やりたいと思っていらっしゃる品はありますか?夏はアイスも人気ですね。
サントス
アイスのレシピは、また見直ししようかと思っています。
平岩
えっそうなんですか!昨年2017年にも、レシピを一新されたと思いますが・・。本当に進化を続けていらっしゃるのですね。
サントス
ピスターシュのアイスとか、さらに濃厚にして美味しくしたいね。その分、値段が上がって売れなくなってもいいので!
平岩
いえ、絶対美味しいので売れると思います!(笑)
低糖質アイスにも、これまでのバニラ・ショコラ・抹茶に、ピスタチオを増やしたんですよ。低糖質のスリムアイスは、リピーターの方が多く、「新しい味を出して」というリクエストをいただいていて・・。
平岩
それは食べてみたいです!こちらでは、低糖質のお菓子に早くから取り組んでいらっしゃいましたが、新作も色々と出されていますよね。
低糖質のプティガトーも何種か出していますが、新しい種類を出してほしいというお声をいただきますね。中目黒店では特によく売れます。クリスマスケーキにも、必ず、低糖質のものを入れるようにしています。
平岩
クリスマスケーキは、通販でも人気ですね。オンライン販売も、早くから手掛けていらっしゃいました。ネットショップの対応は、専任の方がいらっしゃるのですか?
2005年頃から、「楽天市場」に参加し、売り上げも伸ばしてきました。オンラインショップは、専門スタッフが対応していて、ネットでの検索順位を上げる「SEO対策」なども専門スタッフが自社でやっていますが、自社だけでなく各部門の専門家にご指導頂くこともあります。
専門家というのでは、東京都の制度で、店のレベルアップのために専門家を派遣してもらえる助成制度があって、それも利用しています。販売のプロに売り場を見てもらうとか。他にも、「リーダー研修」や衛生の研修を受けたり、「中小企業大学校」というところも利用しています。時間のできる夏の間は、私も、スタッフ達も、色々と勉強する時期ですね。
平岩
皆さんで、お菓子屋さんの食べ歩きをなさっていることもありますよね?
はい。グループに分かれて3~5店舗を訪問し、勉強するというのをやっています。また、テーマを決めて買ってきて、皆でそれを食べてうちの店のものと比較したりとか。
平岩
スタッフの方も大勢いらっしゃるので、情報共有するのも大変ですね。
メーリングリストはあるのですが・・よい方法を考え中です。製造は朝と夜と1日2回ミーティングをしますし、もちろん、製造と、各店の販売のそれぞれの責任者達が集まるトップミーティングもあります。
最近は、スタッフルームの掲示板に、クリオロの昔の歴史をまとめた展示をしつつあるところです。お店の昔のことを知らないスタッフも増えてきているので、それも共有したいなと。新入社員には、「クリオロ」スタッフの「行動理念」から、それぞれ特に目標にしたいという標語を選んでもらうということもしています。
平岩
先ほど、その展示や、新入社員の方の紹介写真もちらりと拝見しました。「いつもお客さまの気持ちになって行動します」とか、「みんなで明るく楽しく仕事に取り組みます」といった言葉を、それぞれ掲げ持った写真がありましたが、あの言葉は、スタッフの方の「行動理念」として、そもそも掲げられているものなのですね。
人事評価は、どのようになさっているのですか?
年2回、全員と1人20-30分の面接を行っています。うちは、製造10年といった長年勤めてくれている社員もいるし、産休でお休みしている社員も、お子さんを保育園に預けられないとか色々な問題で、時給制でフレックス勤務をしている社員も3人います。
平岩
それぞれのライフスタイルに合わせて、色々な働き方が選択できるように、制度を整えていらっしゃるのですね。製造も、部門が色々と分かれていますよね。担当はどのように決められるのですか?
サントス
生ケーキとアイスは同じ担当で、あと焼き菓子、パン、チョコレートと分かれていますが、大体、2年くらいは同じ部門にいて、面接で希望を聞くなどして配置換えをしたりしています。チョコレート部門は人気が高いですね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年5月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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