

- 平岩
- お菓子づくりについてお伺いしたいと思いますが、西野シェフが、新しいお菓子をつくってみようと思われるきっかけは、どんな時ですか?
- 西野
- 新しい素材、面白い素材が見つかった時に、それを使ってつくってみたいと思うかな。割と、思いつきでつくっていると思いますが・・(笑)。生菓子のラインナップは、毎年、季節ごとに出るものと、新しいものとが並んでいる感じ。でも焼き菓子は、定番で残るものをと思いながら考えてつくりますね。
- 平岩
- 最近、力を入れていらっしゃる「ポルボローネ」も、まさにそうですね。スペイン・アンダルシア地方の伝統菓子で、「幸せを呼ぶお菓子」と謳っていらっしゃいます。透明の窓から中身のクッキーが見えるパッケージも可愛らしい!
- 西野
- あれは、長く販売していくつもりで、1年半か2年くらい前に出した。箱のデザインなども、自分が考えています。現地ではラードを入れたり、小麦粉を一度焼いて使ったりするけれど、うちではフランス・ノルマンディ産「イズニー」の バターを使用していて、小麦粉は、焼かなくてもサクサクほろほろの食感が出るよう、「エクリチュール」にしています。
- 平岩
- 小麦粉も色々と使い分けをされていらっしゃいますか?
- 西野
- 「エクリチュール」は、販売前から、試作品を持ってきてもらって使用感をレポートしたり、ずっと関わってきた粉なんだよね。香りがあって、ホロホロした感じになる。「バイオレット」は、ジェノワーズみたいなものにはいいけれど、サブレなんかに使うのは、自分のイメージとは少し違う。フールセックはほとんど、フランス小麦使用の「エクリチュール」。香りがいいから、クロワッサンにも入れているよ。
- 平岩
- 味もプレーン、フランボワーズ、アールグレイ、和三盆、テ・ヴェールと5種あって、全種入りのアソート詰め合わせもあるんですよね。
- 西野
- 色々な味があるというのもお客様にとってはメリットだよね。商品を出す時には、なんでもよく考えて出さないといけない。パッケージもすごく大切で、配送に耐え得るもので、人に贈りたいと思うものでないといけない。


- 平岩
- 話は少し変わりますが、京都の西原金蔵シェフが、2018年5月で「オ・グルニエ・ドール」というお店を「卒業」なさったように、最近、パティシエの世界の中でも、お店やブランドをどのように引き継ぐかということが、意識されるようになっていると思います。そのような状況については、どのようにお考えですか?
- 西野
- 継承してもらう人がいればいいけれど、自分がやってきたことを100%引き継ぐというのは難しいよね。フランス人は、ブランドの価値を高めてそれを売るという考え方だからいいけど、日本人はそこまで割り切ってできるのか?とも思う。
- 平岩
- 今後の製菓業界や、若いパティシエの方々に伝えたいこと、こうしていってほしいと思われることはありますか?
- 西野
- 自分の描いているビジョンの中で、より、自分のやりたいことを突き詰めていく必要があると思う。そこで、周りを見ることはないよね。仲良しで、横並びで手を繋ぐというのはでなく。
自分達世代なんかは、若手にとっては煙たい存在だろうけれど、クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワの先日の勉強会なんかでも、顔を出してもらって、話をすると、お互いに理解し合える。会話ができることが大切だよね。これからの世代は間違いなく、若い人達の時代になっていくんだから。 - 平岩
- ですが、西野シェフの世代の皆様も、お仕事だけでなくそれぞれご趣味もお持ちで、お店のスタッフの方々も一緒に集まってバーベキュー大会をなさったりと、パワフルですよね。
- 西野
- 自分達も時間が無い中で、合間を縫って、それぞれ、ゴルフだの車だの楽しんでる。お酒も飲んだり、息抜きもしながらね。言いたいことも言ってる世代で、それだけ自分の考えを持っているんだよね。
- 平岩
- フランス人の方の働き方も、そうですよね。しっかり働いて、しっかり休む。これからは、パティシエもそういう時代になっていかなくてはなりませんね。色々と考えさせられるお話を、どうもありがとうございました。



西野之朗シェフ プロフィール
1958年大阪生まれ。「コロンバン」で4年の勤務後、1981年に東京・世田谷区の「オーボンヴュータン」のオープニングメンバーとして入社し、河田勝彦氏に師事。1983年に渡仏し、パリの「アルチュール」「メゾン・ド・ロイ」で修業後、帰国。焼き菓子の卸売専門店として「フランス菓子工房西野」を設立し、1990年、当時、日本で初めてとなった焼き菓子専門店「メゾン・ド・プティ・フール」を開店。1991年に南馬込店、2004年に長原店をオープンする。


メゾン・ド・プティ・フール
東京都大田区仲池上2-27-17
TEL:03-3755-7055
営業時間:9:30~18:30
定休日:水曜(月1回、不定期で火曜との連休あり)
都営地下鉄浅草線の西馬込駅から徒歩7-8分程。川沿いの住宅街にある店内は、フランスの昔ながらのパティスリーのように、幅広い品揃えが魅力。スペシャリテのガトーバスクをはじめ、オリジナルのガトー類やマカロン、キッシュやクロワッサンのサンドイッチ、コンフィズリー類、さらにショーケースの上には、フランスの伝統菓子が並びます。お店のお菓子の柄が描かれた缶や箱入りの焼き菓子は、パッケージも可愛らしいとギフトに人気。銅製のお菓子の型や、西野シェフのご趣味でもあるというオートレースのポスターなども飾られ、お洒落な雰囲気です。
平岩
お店に取材をして発信をする私達にとっても、耳の痛いお話です。仰るとおり、目新しさではなく、本質を心して伝えていきたいと思います。
西野シェフに最初にお会いした時を、はっきりと思い出せないのですが、やはり「クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ」関連だったかもしれません。思い返すと、「メゾン・ド・プティ・フール」で出会ったフランスの伝統菓子も沢山あります。ねっちりした食感が特徴の「マカロン・ダミアン」などもその一つでした。「ポンヌフ」や「コンベルサッション」がホールサイズで並んでいたのにも感動しました。西野シェフが、先のことまで考えられて、他にない特徴のあるお店や商品をつくり込んでいらっしゃるすごさを、今回のインタビューで改めて感じました。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年6月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

西野シェフ
今は、自分達がいた頃に比べて、フランスも働き方がずいぶん変わってしまいました。正直言うと、ここ10年くらいは、フランスに行って何か面白いのかな?と思ったりすることもあります。仕入れの半製品を使っている店も多いし。そんなのだと面白くないよね。でも、もちろん、現地でないと吸収できない雰囲気というのはあります。自分達の世代は、フランス菓子の本来のあり方を、若い世代にきちんと伝えていかないとね。
そうそう、最近、フランスのブランドが続々と日本でオープンしていますが、それも、本質が伝わらないと駄目だなと思いますよ。