平岩理緒さんが迫る「トップパティシエの仕事」

Vol.9 菓子工房オークウッド 横田秀夫シェフ 都心から離れた場所でやりたかったこと。時代に合ったオーナーシェフの考え方とは?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、埼玉県春日部市「菓子工房オークウッド」オーナーの横田秀夫シェフです。都内ホテルでの長年の経験を経て、2004年に地元で開店。行事や季節により変化するお菓子の品揃えはもちろん、お店の中も外も様々な飾り付けが施され、時間を忘れてゆっくり過ごしたくなる幸せな空気に満ちています。そんな独自の世界観を確立したお店や商品づくりへの考えや、これからの製菓業界に対する思いについて、横田シェフにお話を伺いました。

前編後編

「チーム力」を上げて取り組む店づくり

平岩
いつ伺っても、お店の内外装ともに、装飾が素敵ですね。毎年、ハロウィンやクリスマスのディスプレイを楽しみにしているファンの方が大勢いらっしゃいますが、2018年の10月には、初となる「りんご祭り」も開催されました。
横田
「ハロウィン」が盛り上がっていると言っても、実際にはそんなに売り上げが上がる訳ではないんだよね。10月中旬から1カ月くらい、アップルパイやりんごのシブースト、タルトタタンといったりんごのお菓子を発売し、リンゴの木でつくった木製のオブジェも飾ったりして。季節感を出しやすいし、旬のおいしい素材を使ったイベントにできるからね。
平岩
そういった年間の企画やどんな商品を出すかという戦略は、横田シェフがお決めになるのですか?
横田
そうです。ディスプレイの仕方とか、皆で話しながら決める部分もありますが。その時のスタッフ達の力量によって、あまり負担になってもいけないので。イベントが終わると、製造や販売、カフェ担当など、全員に反省文を出してもらっています。よかったことや、具体的な改善点など、セクションによっても違うので。それを翌年、同じイベントの前になったら読み直して皆で参考にします。そうでないと、1年前のことを思い出そうとしても、忘れてしまうからね。
平岩
終わってすぐ、振り返りを記録しておくというのは、大事なことですね!
横田
9月に「パン祭り」があって、ハロウィンからの繁忙期には、行事も続いてスケジュールがパンパン。でも、何かをすることによって帰りが遅くなるということはしない、と決めていて、ちょっとずつ成長していっているかなと思います。
19:45には終礼をしていて、クリスマス時期であっても、それが遅くにずれるのは合計3日間くらい。
平岩
えっ!超繁忙期にもかかわらず、それは凄いですね・・。
そのために、具体的にどのようなことを意識・実践されていますか?
横田
スタッフがここで働いている目的というのは、人によって違っています。そんな中で、チーム全員が同じ速度で走っていかないと、チーム力が上がらない。
日々の仕事も各ポジションで違っているので、皆が、自分の仕事だけを把握するのではなく、他の人がどんな仕事をしているかが把握できるようにしています。具体的には、スケジュール表を前日までにつくり、それぞれのポジションが何時にどんなことをしていて、何時に終われるかということをお互いに把握する。そうすると、やはり忙しさに差が出たりするので、事前にコミュニケーションを取り、トップ同士が話し合って、余裕のあるところから人を回すといったこともします。
平岩
横田シェフは、そういった合理的なシステムづくりに長けていらっしゃると思います。ホテル時代のご経験も活きているのですね。
横田
“チーム全体で同じゴールを目指すこと”と、“皆が自分のポジションで全力を尽くすこと”が必要です。
新入社員であっても役割を明確にしてあげること。上の人間が見てあげて、ほめたり、注意したり、その後の結果もしっかり見てフォローする。任されることで、やる気ややり甲斐に繋がるからね。
平岩
スタッフの方のセクションは、どのように分かれているのですか? 今は何人くらいいらっしゃるのでしょうか?
横田
厨房は、オーブンでの焼き担当と生菓子、カフェの3つに分かれていて、販売接客はパティスリー店舗とカフェの2つです。
社員は18人で、製造が10人、販売が8人。パートやアルバイトの人もいます。元社員で、お子さんが生まれて一度辞めた人がパートさんとして入ってくれたりもしていて、3時間でも来てくれると、とても助けになってありがたいよね。
平岩
スタッフの方のキャリアプランについては、面談をするなどして、話を聞くようにされているのですか?
横田
年に2回、面談をしています。今の人達は、線路をきちんとつくって乗せてあげないと、前に進んでいかない、という傾向があって・・。それは、ケーキ屋さんだけでなく、どこもそうだと思います。
独立志向が以前より少なくなっている。「自分で店をやったら大変だ」と思うような世の中の状況だからね。
平岩
先日、「アカシエ」の興野燈シェフが、フランスから帰国して自店をオープンする際、最初は、都内でカッコイイ店を出したいといった気持ちもあったけれど、横田シェフから、「菓子店は地域密着型の商売。その場所に根を張っていくもの」と言われて考えが変わり、生まれ育った埼玉県でお店をやり、そこに根付いていこうと思うようになったと話してくださいました。ご出身地である春日部には、既に横田シェフのお店があったので、恐れ多くて浦和を選んだそうですが・・。
横田
お店を始める時は、将来の戦い方を見据えて、売り上げや従業員の人数、そのためにこういうスペースがいるとか、5年後、10年後をイメージしてオープンしないとね。
平岩
横田シェフは、都心の最先端のホテルのシェフパティシエから一転して、春日部の地にお店を構えられ、当初は周囲にも驚かれたかもしれませんが、初めから広い駐車場も備え、3年後には隣接のカフェをオープンされて・・と、計画どおりに着々と進めていらっしゃいましたものね!
横田
土地の広さは約370坪あります。20年契約で土地を借りているのですが、5年単位で次を考えていますね。
パティスリーは、2019年5月6日で15周年になります。都心から離れた場所で、集客は大変だけれど、ここだからこそ、自分がやりたい色々なことに挑戦したい、と思っています。
平岩
「オークウッドは、いつも色々と新しく楽しい企画を提案してくれる」というイメージがあります。
横田
社長として、いかに、年間の売り上げを安定させるかということが大切。お菓子屋さんの仕事は、季節労働みたいなところがあって、冬場が忙しくて夏場は手が空いてしまいがちですが、通年で売り上げが上がることで、適正雇用ができます。
夏の話題づくりとして、かき氷やグラニテといったメニューも出しますが、これをイートインメニューにしてしまうと、他のデザートメニューに比べて客単価が下がってしまう。だから、テラス席や庭のベンチでは食べられる、テイクアウトのみの品として販売しています。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年10月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

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