

- 平岩
- 新しいお菓子やメニューというのは、どんなきっかけで生まれるのですか?
- 横田
- 自分の場合は、素材との出会いで、そこから始まる発想も多いです。どういう特徴があるのか?どういう加工法が適しているのか?といったことを突き詰める中から、新しいものも生まれてきます。
「りんご祭り」で使った、果肉が中まで赤いりんごも、監修をしているデザートカフェ「リール銀座」が、同じ銀座にある長野県のアンテナショップ「銀座NAGANO」との交流で、そこで扱っている長野県産のりんごを使うことになり、それで知りました。 - 平岩
- 「リール銀座」のデザートは、私も時々いただきに伺います!果肉まで赤いりんごは、今、レストランやパティスリーでも注目を集め始めていますね。
以前、タイ料理を召し上がったインスピレーションで、レモングラスを使ったデザートをつくったと伺ったこともありました。横田シェフは、料理にもご関心をお持ちで、そこから柔軟な発想でお菓子に活かされることもおありですよね。 - 横田
- お菓子屋さん以外からの情報の方が、素材に対して柔軟な見方が出来たりします。料理は、まだまだ知らない世界なので、参考になることが山ほどあるし、自分自身が楽しみながら刺激を受けていますね。
- 平岩
- 「リール銀座」では、デザート専門店によるフルコースの「スイーツディナー」といったイベントもなさっています。
- 横田
- 料理人の方とのコラボ講習会などもやらせてもらっています。
同じ環境の中でずっと考えていると、頭が凝り固まっていく。「違う場所でやると違う発見がある」ということもあって、韓国でも年4回ほど講習会をしていますが、その中から生まれたお菓子もあって、たとえば「さつまいものモンブラン」は、韓国の方はさつまいもがとても好き、ということから、向こうで講習メニューとしてつくったもの。それを店でも販売することになりました。 - 平岩
- そうだったのですか! 素材ということでは、今は、チョコレートも生クリームも、メーカーさんが本当に様々な種類を提案されていますが、小麦粉については、何かご希望やご意見がおありでしょうか?
- 横田
- 自分は、多くの種類の小麦粉を使うよりも、1つの小麦粉の様々な活かし方のノウハウの方が気になります。
小麦粉なら5種類くらいあれば充分かな。でも、今、パンはスーシェフに任せているので、担当者は興味津々で色々勉強したがっていると思います。若い人達にはそんなふうに、自分の役割分担の中で全員が最大限力を発揮して、「オークウッド」の力になってほしいと願いますね。


- 平岩
- これから、独立していくスタッフの方や、業界の若い世代に対して伝えたいことはありますか?
- 横田
- 今は、労働環境の改善ということを考えていかなくてはならない。そのためには、手作業をやめるということも必要。
「インスタ映え」といったことが優先され、味は二の次になってしまっている傾向もあります。本質を見失わないように、あくまで美味しさは守ったうえで、落とし所を見つけていかなくてはならない。 - 平岩
- 労働時間の短縮や効率化と、職人としての育成や技術の継承とを両立させていくのは、なかなか難しく、ジレンマに悩むオーナーシェフの方も増えています。
- 横田
- 以前は、若い子が店をオープンする時、いきなり高い機械は買えないから、最初はなるべく手作業で・・と思っていたけれど、今は、機械化ということにも舵を切っていかなくてはならない時代だと思います。「内海会」(現代ホテルベーカリーの創始者として洋菓子界に多大な功績を残した故 内海安雄(うつみ・やすお)氏の門下生が発足させた団体。新しい洋菓子技術・技能の研鑚と、それを担う若い菓子職人の育成、業界全体の技術向上を目指して活動している。)の理事の間でも、そういう話が出ます。
- 平岩
- 横田シェフが独立された頃とは、時代が変わってきていますね。
- 横田
- 自分もオープンの時は、都心から離れたこの場所で大丈夫かと、皆にかなり心配されていただろうなと思います。先輩達からも言われましたし、自分でも、苦戦するだろうと思っていました。そして思っていた以上に、1年目は苦しかった。3年後にカフェをやろうと初めから思っていたので、初期投資も3倍くらいあって大きなプレッシャーでした。
- 平岩
- そうだったのですね・・。今のこの人気ぶりを拝見すると、そのような気がいたしませんが・・。
ここに来ると、ほっと心が和むような空間で、ゆったりした気持ちになって、つい長居してしまいます。横田シェフとスタッフの方々による、木製やパスティヤージュ(シュガークラフト)などの様々な装飾品も、いつも凝っていて素敵です。 - 横田
- 店の内容を濃くしたいと思っていますので。こういった装飾品は、できる時に造っています。自分もコンクールをやってきたので、「これだけの時間があれば、これだけできる」と、練習時間を見つけて取り組んできました。スタッフ達にも、そういった瞬発力を身に付けていってほしいですね。
- 平岩
- これまでにも様々な機会を通じて、横田シェフは、とても合理的なお考えをお持ちで、目標を実現するにはどうしたらいいかというしくみを考え、それを実践されていらっしゃる方だなと感じていましたが、今日、お話を伺って、改めてその思いを強くしました。イベントへの取り組み方など、他のお店でも、すぐに参考になりそうです。
今日は、どうもありがとうございました。




横田秀夫シェフ プロフィール
1959年、埼玉県生まれ。専門学校卒業後、「東京プリンスホテル」、「パティスリー・ド・レカン」、「東京全日空ホテル」を経て、1994年「パーク ハイアット 東京」開業時にペストリーシェフに就任。2004年1月に退職し、同年5月に地元の春日部市に「菓子工房オークッド」を開店。2007年には隣接するカフェもオープンさせる。1991年「シャルルプルースト杯」、1993年「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」など世界コンクールの日本代表を経験し、現在は「内海会」会長という立場でも後進の育成に努めている。


菓子工房オークウッド
埼玉県春日部市八丁目966-51
TEL:048-760-0357
営業時間:9:30~19:00
※カフェ11:00~18:30(L.O.18:00)
定休日:水曜(祝日の場合は翌木曜、火曜不定休)
まるで童話の中に登場しそうな、可愛らしい一軒家のパティスリーとカフェ。庭の木々や花も、季節の変化を楽しませてくれます。店内は、煉瓦やタイル張りの壁に木製のテーブルや家具が配された温かな雰囲気。季節や行事に合わせた手作りのディスプレイとの出会いも楽しみです。季節の果実を使った「パリパリタルト」や、抹茶と練乳と大納言の「宇治」、ローズマリーのビスコッティなど、横田シェフならではのオリジナリティに富んだケーキや焼き菓子が多彩に揃います。カフェでは旬のデザートやランチ、アフタヌーンティーも人気です。
平岩
いつもご多忙な横田シェフ。にもかかわらず、お店に伺うと、お菓子やカフェメニューの新作だけでなく、様々な季節の装飾が出迎えてくれ、新たなディスプレイや店内POPが増えているような・・。毎回、凄い!と感動しています。
今回も、取材をお願いしたところ、10時の開店前ならと時間をつくってくださいました。私達は通常、開店前はご準備でお忙しいだろうからと、こちらからその時間帯をご提案することはあまりありません。しかも実は、翌日からイベントが始まる日程だったという・・!もちろん、現場を任せられるスタッフの方がいらしてこそですが、仰っていたように、あらかじめ計画的に予定を組むことで、限られた時間の中でここまでできる、というふうに着々と進めていらっしゃる横田シェフならではだなと思いました。
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2018年10月)のものです。
最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。

横田シェフ
今日もこれから、イベント用の木製ディスプレイを完成させます。お菓子もつくるし、あれもこれもと、色々なことを並行してやらなくてはいけない。季節の装飾品が色々と増えて、しまう場所が無くなってきて・・。うちの屋根裏も、もう一杯になってしまったから、大掃除もしないといけないね。
イベントの運営で、スタッフ間のコミュニケーションがスムーズに進む状況が作れていると、普段のやり取りもうまくいきます。スーシェフにあえて任せて丸投げしてしまうことで、張り切って力を発揮してくれるといったこともある。
でも、ハロウィンやクリスマスといったイベントが忙しいのは当然で、オーナーは、そうでない日にいかに売り上げを上げていくか、ということを考えていくことが大切だね。