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- Vol.16 レタンプリュス 熊谷治久シェフ
菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、「レタンプリュス」の熊谷治久(くまがいはるひさ)シェフにお話をお伺いしました。「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」と「オーボンヴュータン」を経てフランスで修業し、2012年に千葉県・流山おおたかの森駅近くにお店をオープン。2019年6月に駅の逆側に移転オープンされた大規模なお店が注目を集めています。移転を機に変化したこと、今後の目標や、これからの製菓業界に対する思いなどをお伺いしました。
「移転」を契機に変えてきたこととは?
- 平岩
- こんにちは。今日はありがとうございます。移転オープン後、イートインが始まってからお伺いした際もウキウキしながらショーケースのケーキを選びましたが、この品数の豊富さは、見る度に嬉しくなります。
- 熊谷
- そうですね。数自体は少ないものもありますが、種類は、以前の店舗の時より多くなりました。特にパンの種類が一番増えましたね。フォッカッチャ、バゲット、ヴィエノワなどを新たに加えて、そのバリエーションも含めると、12種くらいは増えています。プティガトーは22-23種ほど出しています。
- 平岩
- フランス・ピレネー地方の郷土菓子「ガトーピレネー」と「おおたかの森バームクーヘン」も、こちらの店舗になってから始められたギフト菓子ですね。アイスクリーム・シャーベットも、通年で販売されるようにされましたか?
- 熊谷
- はい。以前は夏だけでしたが、通年で出すことにしました。将来は、広口の器に盛りつけたクープ・グラッセなどのデザートもやりたいと思っています。
- 平岩
- 店舗の規模はどのくらい拡大したのですか?スタッフの方の人数も増えましたよね。
- 熊谷
- 30坪から170坪になりました。販売スタッフの方が大きく増えましたね。製造スタッフは自分を含めて12人です。
週休2日制にしたので、交代で休みを回していて、平日は2-3人、土日は1人、常に休んでいる状況です。
働きやすい労働環境を整えないと、スタッフが集まって来ない時代だなと思いまして・・。
製菓学校を卒業した新卒の子が入社すると、うちは1年目が販売で、仕事を覚えたら、引き継いで次の人が覚える。それで5-6年で一巡する感じです。ある仕事を誰かに依存しなくてすむようにと考えています。



- 平岩
- 最初のお店をオープンして、いつ頃から移転を検討し始めていらしたのですか?
- 熊谷
- 2012年、駅の向こう側に店をオープンし、3年を経て改装しましたが、その時、将来の移転を考えていました。
手狭になってきて、他のテナントを借りてチョコレートの厨房にするといったことも検討しましたが、そのタイミングで、厨房機器なども、いずれ増設できる仕様の物に切り替えたんです。たとえば、KOMA社の冷凍庫なども。
そして、この店の計画に当たっては、まず厨房の配置から考えました。新しく導入したものは、ストック用のプレハブ冷凍庫や、「ガトーピレネー」用のオーブン、それに包装機など。包装機は、それによって仕事の効率が一番よくなったものです。今までは、製造の仕事が終わってから皆で包装していたところ、パートタイマーの方に任せられるようになりました。
- 平岩
- 全国各地のお菓子屋さんで、仕事の効率化のために、様々な試行錯誤をしています。地方では、スタッフの方が集まらないという悩みを抱えているお店も多いですが、その点はいかがですか?
- 熊谷
- 以前に比べて、菓子店がやるべきことは増えています。今年の4月1日からは、カロリーや栄養成分、アレルギー表示など、より正確な表示をしなくてはならなくなりました。うちも、日本洋菓子協会連合会から推奨されている計算ソフトを使ってカロリー計算をしています。
今のスーシェフは、うちで5年経験があり、オープニングスタッフとして働いた後にフランスに行っていた人間です。2019年の12月には、元スタッフが長崎で「オネット」というパティスリーをオープンしました。
- 平岩
- 長く働いてくれる方がいらっしゃるのは、お店とシェフに魅力があってこそですね。ここから巣立って独立する方も出ていらっしゃるというのも、素晴らしいことだと思います。
- 熊谷
- ただ、スタッフが集まりにくいという状況はその通りです。そのため、主に地元の主婦の方々となる、パートの方々に働いていただかないといけない。パートさんをうまく使える経営者になる必要がありますね。

ギフトを意識した商品提案をしていく
- 平岩
- 昨今の菓子業界の状況に合わせて、商品提案のうえで意識されていることはありますか?
- 熊谷
- “レモンケーキ”と言える「モエルー オ シトロン」は、前の店舗の時から出してはいたのですが、お中元の商材として考案したものです。それ以前は、サブレのような乾いた焼き菓子の「フール・セック」がほとんどだったのですが、夏場にも売りやすい、このようなしっとりした焼き菓子の「ドゥミ・セック」もやってみようと考えました。
この店舗を作った最大の理由が、「ギフト品をしっかり売っていく」ということなんです。それは、この店自体で集客するという考え方ではなく、お客様が来店しづらくなる夏に底上げできるお中元なども含め、全国に発送していく拠点にする、ということ。ガトーピレネーやショコラといった品で売り上げを確保していかないと、「働き方改革」を実現することができません。オンラインショップも、2019年10月にオープンはさせたのですが、今、整備中で、これからより力を入れていきたいです。
- 平岩
- 「店舗でしっかり売っていけばいい」というだけではなく、オンラインショップの積極的な活用も視野に入れていらっしゃるのですね。


- 熊谷
- 生菓子も、価格を引き上げていく必要があると考えています。労働時間短縮のために手間を減らして作る物が制限されるよりも、価格を見直して、作りたい物を作って売っていきたい。
同じだけ働いても、菓子は、自動車のような高額商品を1台販売した時と比べて、得られる対価がとても少ないですよね。この業界全体として、労働に対する対価を見直していかなくてはならないと考えています。
- 平岩
- 2015年には、柏の高島屋内にも出店されていますね。最近、百貨店など商業施設に出店することについて、結局、売上の何割かは持っていかれるし、定休日が取れないなど仕事が大変になるので、避けたいという意向を持つお店が増えているように思うのですが・・。熊谷シェフは、どのようにお考えですか?
- 熊谷
- 高島屋さんにギフト品を出すようになってから、遠方からもご注文をいただく機会が増えました。そのように、百貨店に出店することで、ブランドイメージを高めたい、というのが大きいです。それに対して、一定のマージンを取られるというのは納得できます。エキナカへの出店もやりましたが、駅の場合は営業時間が長く、また、ギフトを購入するというよりは、デイリー利用なんですね。うちはギフトの方に力を入れたいなと思っていますので・・。


- 平岩
- ギフト品は、パッケージなども大切ですよね。缶や透明ボックス入りのフール・セック詰合せも素敵です。
- 熊谷
- 箱やデザインも、自分で考えて決めています。フランスにいた頃、ロレーヌ地方にもいましたので、ご当地の銘菓であるマドレーヌなど、現地らしいパッケージにしています。
- 平岩
- マドレーヌやフィナンシェ、ヴィジタンディーヌといった、フランスの伝統的な焼き菓子のシリーズは、ちょっとレトロなデザインのパッケージが目を引きますね。
クリスマス以降、バレンタインやホワイトデーと、ギフトシーズンが続きます。多くのお菓子屋さんで、ホワイトデーの売り上げの方が、バレンタインより伸び率が高いと言われますが、やはりそうですか?
- 熊谷
- 最近のバレンタイン催事は、ギフトというよりも、女性がご自分のために購入するといったことも増え、以前とは雰囲気が変わりましたね。ホワイトデーは、やはり「ギフト」市場で、男の人は、値段を見ずに選びますからね・・(笑)。
- 平岩
- ただ、母の日以降、夏に向けて、売り上げが伸び悩んでしまう傾向もありますが、何か対策はあるものでしょうか?
- 熊谷
- 夏は少し時間ができますから、この店では、その分、サロンでクープ・グラッセを出したりしたいと思っています。テイクアウトもできるようにしたい。さらに、それを発送できるようにして、お中元アイテムにしていけたらと考えています。
- 平岩
- それは楽しみですね。ぜひいただいてみたいです!お店にはなかなか行けないという遠方の方も、お取り寄せしたいと思われるでしょうね。
ところで、こちらの店はパンにも力を入れていらっしゃるということですが、小麦粉についての見解もお伺いできますか?

- 熊谷
- パンには、内麦と外麦を使い分けていて、内麦はもちっとするので、パン・ド・ミなどに使います。外麦は、歯切れをよくするために使いますね。
お菓子では、「フレジエ」のクレーム・ムースリーヌには、クレーム・パティシエールをベースとするので、コシの出る強力粉を使い、シブーストなどは軽く仕上げたいので、薄力粉とコーンスターチとを使います。フィユタージュには強力粉の「カメリヤ」です。フランス菓子ばかりでなく、ショートケーキも売れる土地柄なので、その生地には、お菓子専用と言われるような粉も使っています。強力粉、準強力粉、薄力粉、それに内麦、石臼挽きの強力粉や米粉も使いますね。
- 平岩
- かなり色々と使い分けていらっしゃいますね。米粉も使われるのですね。
- 熊谷
- ショートケーキのスポンジに加えることで、噛み応えや弾力をプラスしています。菓子専用粉を使うと、きめ細かく口どけがいいのですが、そこにぽよんぽよんとするような弾力が出るんですよ。


※店舗情報及び商品価格は取材時点(2020年1月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。