Vol.22ラ・ヴィエイユ・フランス 木村 成克シェフ 材料も機械も徹底して大切に使う。
師からの教えを若い世代に伝えていきたい

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、世田谷区・千歳烏山「ラ・ヴィエイユ・フランス」木村成克シェフにお話をお伺いしました。11年に渡る渡仏修業を経た、「古きよき時代のフランス菓子店」を知る職人ならではの幅広いラインアップは、同業者からも憧れの的。しかし意外にも、機械をうまく取り入れることにも長けていらっしゃいました。師匠から学んだことや、若いパティシエ達に伝えたいこと、これからやっていきたいことなどをお伺いしました。

コロナ禍を経たバレンタイン、ホワイトデーの状況は?

平岩
こんにちは。ホワイトデーが明けて、お菓子屋さんは一段落という時期ですが、この一年は、例年以上にお忙しくお過ごしだったのではないでしょうか。
木村
こんにちは。そうですね。お菓子って、必需品ではなくて嗜好品なんですが、甘い物というのは、心の豊かさを求めることに繋がるんでしょうね。特に町場の店は、恵まれていましたね。通販も、元々、年々伸びていましたが、新型コロナ流行から本当に強烈に増えて、『婦人画報のお取り寄せ』からの注文も前年比200%くらいになっています。正直、包材が無くて追いつかない、という感じですね。
平岩
コロナ禍で、「お取り寄せスイーツ」需要は本当に伸びていますね。2021年のバレンタインはいかがでしたか?今年はバレンタインもホワイトデーも日曜で、リモートワークも進む中、職場で人にあげたりお返ししたりという機会が少なく、伸び悩むのではとも言われていましたが・・。
木村
パティシエ達も、人と会いづらい世の中で、今年のバレンタインはどうだろう?とびびっていたように思いますけど、結局のところ、「自分でチョコレートを食べる」というのが浸透していて、想像以上に売れ行きもよかったですね。包材屋さんもあちこちから予想以上に注文が多くて、困っていたのではないかな。
焼き菓子も通販でかなり売れ行きが伸びています。生菓子は、やはり種類を減らして、「時短」を意識してやっていますけれど。
平岩
「ラ・ヴィエイユ・フランス」は、お菓子の品揃えが豊富なお店ですが、それでもやはり、種類を減らしていらっしゃるのですね。
木村
若い子と一緒にやっていくのに、今はそうしないと無理ですね。逆行しようとすれば、全部自分1人でやるしかない。
全部、機械化してしまうというのもどうかなと思いますしね。手作りの良さを伝えるというのが僕らの仕事ですし、そのオリジナリティが無くなってしまうでしょう。
平岩
若い方達に技術を伝えていきたい、という思いもありますよね。

機械化と手仕事の両立にどう取り組むか

木村
でも、機械化するといい部分もあるんですよ。たとえば、うちもクッキーマシーンを入れました。最初は抵抗があったんですが、やってみたら、正解だったなと思いましたね。スピードは3~4倍速いし、手でやると生地を練ってしまうところ、機械の方が、ザクザク感を出すことが出来て、品物自体のクオリティが上がったんです。目からウロコでしたね。もちろん、機械の調整は必要ですよ。機械化すると、若い子達が成形出来なくなるのでは?という心配については、機械でやっても、中途半端に残る量がありますから、それは手作業でやるとか出来ますね。
平岩
木村シェフは、「昔ながらの手作業を大切にする職人肌」というイメージがあるので、機械も活用されているというのは、興味深いお話です。
木村
自分は「カルピジャーニ・ジャパン」さんのアンバサダーなどもやっていて、カスタードクリームを炊く機械なんかも扱って、講習会をしたりもしているんですよ。
包装機も、入れるかどうかとか悩みますよね。今はパートさんにお願いしていますが、東京って場所代が高い訳でしょう。機械を入れてどこに置くの?ということになる。でも、それを言い出すと、機械なんて買えなくなってしまう。投資した分を回収できるのか?というのが問題な訳ですが、どこかで決断しないといけないんですよね。
平岩
他に、最近購入して、お店で活躍している機械というと何ですか?
木村
エンローバーを5~6年前に買って、使っています。自分はショコラティエではなく、パティシエなので、ボンボンショコラに使うというよりも、クッキーや焼き菓子がベースのチョコレート菓子のコーティングによく使っていますね。
中には、エンローバーをせっかく買っても、バレンタインとかの年2回くらいしか使わない、みたいな話も聞きますが、それでは勿体ない。機械も、しょっちゅう使う方がいいんですよ。自分も、季節の初めに最初に使う時はちょっと緊張します。調整して、エンロービングが綺麗に行き出すと楽しいですね。人の手でやるより、5~6倍の速さですしね。
平岩
今の時代は、労働時間短縮のために、機械を上手に使いこなすことも大切ですね。ただ、機械化が進むと、職人の手仕事が失われるのではという懸念は、やはり拭えませんよね。その両立についてはどう思われますか?
木村
自分の目の届く範囲で、自分が作るものならば、機械で作るにしても、長続きするのではないかと考えていますね。
通販にしても、卸売りとかでなく、自分で把握できるところでやるならいいと思っています。
平岩
今、あちこちに増えているお取り寄せのセレクトサイトも、露出が増えるという考え方で、商品はお店から発送するものであれば、自分の目が届きますよね。
木村
フランスでもパティスリーの経営の仕方は変わっていますね。セントラルキッチンの工場を作って、そこからの多店舗展開する、みたいなところが多くて、そうしないとやっていけないんだなと感じています。昔、自分が師事したパリの店のオーナーシェフは、一店舗主義でしたよね。僕も、もう1店舗出しましたが、支店展開というのではなくアイスクリーム店に特化しました。
平岩
フランスの労務時間管理は、日本より罰則も厳しいそうですし、合理化が進んでいますね。
木村
機械を扱うにも、メンテナンスが大事なんですよ。ちょっと調子が悪いと思ったら、初期段階で業者さんを呼ぶのが一番です。機械もパートナーなので、大切にしなくてはなりませんよね。生き物ではありませんが、それに近い感覚で、丁寧に付き合えば10年、20年ともつものです。福岡時代からまだ使っている機械もありますよ。それがエコロジーでもあり、エコノミーでもありますよね。
平岩
福岡の頃からですと、15年くらい使い続けているということですね。それは機械冥利に尽きますね!
木村
若い子にも、機械の金額を言うようにしています。それもちゃんと理解していると、機械や道具を大切にするようになります。仕事は、常に見られていると思い、オープンキッチンでやっているような気持ちでやるようにとも言っています。
僕らが習ったことを、次の世代に引き継いでいきたいですからね。
クーラーのメンテナンスなんかも、毎週1回は掃除してますよ。フランス時代のオーナーもそうでした。プロに見てもらうこともありますが、自分で出来ることはするという方針です。機械屋さんも、大事に使ってくれてるって、喜んでくれていますよ。
平岩
そんなにまめに!お菓子屋さんは夏場フル稼働ですが、クーラーの掃除って、なかなかそんなに出来ないと思います。私も耳が痛いです。
木村
研修に来た子達も、ここの厨房は13~14年経っているのに綺麗ですね、と言いますよ。掃除も皆できちんとするようにしています。裏口から入った業者さんも「ここのケーキを買いたいな」と思うような厨房にしていたいですね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年03月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。