Vol.25パティスリーKOSAI 小齊 俊史シェフ 大切にしていきたい伝統菓子や手作り感。
「働き方改革」のリアルな試行錯誤とは?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、茨城県水戸市内に2000年に開業した「パティスリーKOSAI」小齊俊史シェフにお話をお伺いいたしました。フランスの古典菓子や伝統菓子も熱心に研究され、意欲的に商品化していらっしゃいます。今の時代に合わせて働き方を変え、クリスマスの繁忙期についても様々な試行錯誤をされている小齊シェフ。スタッフへの思いや、この先に目指したいことなども語っていただきました。

コロナ禍による様々な影響

平岩
小齊シェフ、こんにちは。しばらくご無沙汰しておりました。コロナ禍前は、東京都内で開催される講習会でお会いしたり、私が茨城県洋菓子協会主催の講習会に参加させていただいたりもしていましたが、久しぶりにお店にお伺いできて嬉しいです。
小齊
こんにちは、ようこそいらっしゃいました。平岩さんは、うちのお菓子はもう色々と召し上がっていますけれど、せっかくなので、まずはモンブランを召し上がってくださいね!
平岩
ありがとうございます。茨城と言えば国内生産量1位の栗の産地!中でもこだわりの栗を使った「岩間栗のモンブラン」が、今季も登場していますね。相変わらずエレガントな絞りです。これはバラの口金を使っていらっしゃるのですね。上にのったクリームにオレンジゼストが香るのが特徴的です。
小齊
今年は栗が少なくて、値段も上がりました。コロナ禍の影響もあって、いつもお願いしている業者さんも仕入れが少ないのだそうです。
平岩
農業分野でも、コロナ禍による人手不足、それによる生産量減少などが、世界的に深刻になっていますね。
小齊
それに、最近は“絞りたてモンブラン”とかが売れていますよね。
平岩
注文を受けて目の前で絞ってくれるモンブラン専門店業態ですね。全国に続々と新規出店しているブランドもあります。なるほど、それで栗ペーストがそちらに流れるという・・そういった影響もあるのですね。
小齊
2020年は、コロナ禍になって最初の年で、商業施設は休業したり来場者が減ったりしていましたが、路面店のお菓子屋さんは、うちもそうでしたが、非常に忙しい、という感じでした。でも2021年はその反動で、売り上げの数字としては少し下がりましたね。2019年と比べると、数字はよいのですが。
平岩
忙しすぎても、手が回らなくなって大変ですよね。2020-2021年にかけては、そのバランスに悩まれたオーナーシェフも多かったかと思います。
小齊
既製品を仕入れることなく、手作りでやろう、と思って、何とかやっています。
伝統菓子もきちんと作っていきたい。1月の「ガレット・デ・ロワ」や、4月1日の「ポワソン・ダブリル」などは、お客様にも定着してきました。
平岩
KOSAIさんのInstagramなどで拝見しています。苺をのせたパイ菓子のポワソン・ダブリルは、作られるお店がもっと増えるといいなと、私も応援しているフランス菓子の一つです。
小齊
でも、「ミルリトン」とか、手のかかる伝統菓子は削られていきがちです。うちも、「シブースト」とか、やりたくても出来ないんですよね。このお菓子はやっぱり、朝、メレンゲを合わせて作るのが美味しくて、冷凍すると味が変わって、美味しくなくなってしまう。当たり前のことを当たり前にやることで、きちんとした美味しいものを提供していきたいんです。
平岩
コロナ禍を経て、具体的に、働き方を変えたことはありますか?
小齊
以前は営業が19時まででしたが、緊急事態宣言中に18時までに短縮して、宣言明けに18時半にしました。それで、2022年の1月からは、営業時間を18時までに変更しようと決めました。
平岩
東京都内の店も、以前は19時くらいまでやっていたところが、今は18時までに短縮した、というパターンがとても多いです。
小齊
仕事で都内に行くこともありますが、やはり人の流れが変わりましたよね。夜、人が引けるのが早くなりました。
平岩
コロナ禍によって、夜遅くまで営業していることを求められなくなったというのもありますし、「働き方改革」ということもあって、オーナーシェフの皆様は、スタッフの方々の労働時間が長くなりすぎないよう、意識していらっしゃいますね。
小齊
労使間協定である程度フレキシブルに出来るとしても、うちは、製菓学校などに積極的に求人を出すということはしておらず、働きたいという問い合わせがあった場合に対応しています。勤務希望者には必ず3日間の研修に入ってもらいますし、どういう勤務態勢になるかということを時間をかけて説明もします。
平岩
最近は、就職する本人は「大変な仕事だと理解している」と言っていたとしても、面接で親御さんに立ち会っていただかないと、後で「こんなはずではなかった」と問題になるケースがあるという話も聞きます。
小齊
親御さんをわざわざお呼びする、ということはしていませんが、今は職人を育てるということが一番大変な時代だと思います。

若い世代を育てていくということ

平岩
お店に就職した方には、どのようにしてステップアップしていってもらうのですか?
小齊
大体、半年から1年くらいで別のポジションに変わっていくのですが、やはりスキルが低いと時間がかかります。
昔は見て覚えなくてはならなかったし、アンテナを張っていなくてはならなかった。でも今は、こちらから説明してあげないとやろうとしない、というところがありますね。
平岩
若いパティシエの方々の独立志向が少なくなってきているとも聞きますが、いかがですか?
小齊
それもあります。でもやる気のある子はいて、うちにも、新潟出身で、都内の店でも修業して、間もなくこの店を上がる予定の子もいますし、長野出身で、いずれ地元で店を開業するために「地元で売れているケーキ屋」で働きたいと入社してくれた子もいます。
平岩
頑張っている若手の方々もいらっしゃいますよね。2021年2月には、こちらでスーシェフを務められた笠原寿人シェフが独立され、茨城県ひたちなか市に「Maison de rennes(メゾン ド レンヌ)」をオープンされましたね。笠原シェフもそうでしたが、パティスリーKOSAIさんからは、コンクールに出場する若手の方も多く、これまでにも多くの方々が入賞されてきました。
小齊
それも、昔に比べると減ってきてはいるのですが。自分は、「コンクールやれよ」とは言わないのですが、今、シェフの立場にある金澤が面倒見がよくて、後輩達を指導してくれています。自分は、聞かれたらアドバイスはするよ、というスタンスですね。
平岩
金澤佳さん、「内海会」や「ジャパンケーキショー」などのコンクールに挑戦されてきましたね。そうやって、ご自身がコンクールで培っていらした経験を活かして、今度は後輩の方々をサポートしてくださっているというのは、素晴らしいことですね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年11月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。