今の時代に合った働き方とは
- 平岩
- 以前は水戸駅隣接の商業ビルに出店されていたこともありましたが、現在は本店と「イオンタウン水戸南」内の2店舗ですね。商業施設内だと、コロナ禍の影響も大きかったでしょうか?
- 小齊
- イオンタウン店は、2020年はやはりあまり売り上げがよくなかったです。駅ビルの店舗は、労働時間短縮を実現する上で難しさがあり、退店しました。
最近は菓子業界の中でも、個人店に対して大きな会社からのM&Aの話なんかが来ていますよね。うちなんかは、この場所も土地を借りて建物の“上物(うわもの)”だけでやっていますし、資産価値としてはそんなに高くないんです。だったら、若いスタッフに譲る方がいいと思いますよね。
- 平岩
- 年商で億円単位の規模の売り上げをお持ちの菓子店になると、M&Aのお話は現実的に検討されているようですね。私の耳にも、幾つかの菓子店が大手の傘下に入られたという話は入ってきます。 フランスなどでは、ある程度のご年齢になったら現役を引退して、新たな第二の人生を歩まれるパティシエの方も多いですし、ブランドの売却にも前向きですね。日本でも今後そのような傾向も強まるでしょうが、生涯現役の職人でありたいという方もいらっしゃいますね。
- 小齊
- 自分なんかは今、朝5時から店に来ています。スタッフには、朝早くは来るな。と言ってますけれど。1年生ほど遅く来ていいよという感じで、昔と真逆ですよね・・(笑)。
やりたい品も沢山ありますが、やはり商品の種類は減らしていますね。タルトタタンなんかも美味しいお菓子でやりたい気持ちはありますが、オーブンに2時間以上入ることを考えると、なかなか出来なくて・・。
- 平岩
- ガレット・デ・ロワも手間がかかるお菓子だと思いますが、毎年販売されていますね。



- 小齊
- ガレット・デ・ロワは年々、人気が高まっています。ガレット・デ・ロワも、ポワソン・ダブリルも、オープン当初はやっていませんでしたが、作ったことがない、見たこともないというスタッフも多かったし、イベントの時には、新作を出したいという気持ちがありましたね。お客様にワクワクドキドキしてほしいじゃないですか。
- 平岩
- 2021年のクリスマスケーキはどのような状況ですか?
- 小齊
- クリスマスケーキは、毎年合計で3000台くらい作ってきました。一番多いのは5号サイズの苺ショートケーキで、800台くらいは作ります。
- 平岩
- クリスマスケーキのチラシを拝見しましたが、今回、予約受付をオンラインショップからのクレジットカード決済のみで、電話での予約は受けられないと謳われていますね。これは、かなり思い切った改革でいらっしゃるのではないでしょうか?
- 小齊
- 毎年、予約開始時には電話が鳴りっぱなしになって、スタッフ1人が張り付きになりますし、後日の変更などもありますし、さらに無断キャンセルをする方もいらっしゃる。大変な労力を取られていたんですね。今年はそれを無くそう!と決心して、お客様にもご理解をお願いすることにしました。どうしてもオンラインショップがわからないとか、クレジットカードを持っていないといったお客様は、店舗での前払いでの予約も受けるのですが、電話予約は無しとしました。

- 平岩
- オンラインショップのしくみを使って、クリスマスケーキの予約・事前決済を受け付けるお店は増えていますよ。埼玉県さいたま市の「アカシエ」などもそうです。予約する側も、何度電話をかけても繋がらずに苛々するといったことが無くなり、24時間いつでも予約できるので、むしろありがたい、という方も多いと思います。
それから、2021年は26日が日曜なのでクリスマス明けに一度休みたいけれど、休業にはしづらいからどうしようと皆さん悩んでいらっしゃいますね。
- 小齊
- 平成時代は、12月23日が天皇誕生日の祝日だったので、クリスマスイブだけでなく、その日も予約が入り忙しかった。でも令和になって、23日が平日になったので、また24日・25日が忙しくなりました。
うちでは日曜であっても、2021年の12月26日は休みにすることにしました。年末年始には焼き菓子が多く出るので、一度、態勢を整えてMAXで作りためておかないと、もたないんです。あとは、もともと水曜を休みにすることが多いので、12月29日は定休日です。
通常は、月1回、火・水・木の3連休の定休日を作るようにしています。11月は16-18日でした。2日連休を2回というのもあり得ますが、これだと、仕込み準備で半日出てくると、スタッフにとっては連休にならないので・・。
12月は連休には出来ませんでしたが、クリスマス前の準備を想定して17日(金)を休業日に。店の定休日やそれぞれのシフトに応じて、スタッフは月8日休みというのをベースにしています。
- 平岩
- 年明けの2022年1月はいかがですか?長期休暇というのも取られるのでしょうか?
- 小齊
- この夏、初めて8連休を取りました。8月18日(水)~25日(水)です。日持ちするものはいいですが、メロンや苺のような生鮮品など、余った食材は友達のパティシエにあげて使ってもらったりしましたよ。
1月は、久しぶりに帰省したいというスタッフなどもいるので、1月1日以外に、2連休1回、3連休1回と分けて、月8日を定休日にします。
- 平岩
- お休みの日をフレキシブルに設定されているのですね。お客様にもわかりやすいよう、ホームページやInstagramで告知されていますね。最近は、お休みを増やされている店が多いので、私もお店に行こうと思ったら、お休みではないか、ホームページやSNSを確認するようにしています。一般のお客様にも、かなりそれが浸透してきたようには思いますね。
今、スタッフの方は何人いらっしゃいますか?
- 小齊
- 製造は社員が7人、パートさんが3人います。パートさんには、袋詰めなどをお願いしていますが、子どもが生まれるのでと一旦退職して、また戻ってきてくれた方も2人います。朝だけ来てくれる主婦の方もいらっしゃるし、学生さんで日曜だけ来てくれる人もいます。
- 平岩
- 今の時代は、子育てなどのために一度お辞めになった方に、また戻ってきて働いていただくことも重要ですね。勝手のわかっている慣れた方ですから、勤務時間が限られていても助かるという声もよく聞きます。 こちらのお店で修業して、独立された方も、徐々に増えてきていますね。
- 小齊
- なかなか中堅スタッフが育たないというジレンマを抱えつつですが、独立していく子達のことを応援したいと思っています。「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」の藤生シェフのところでは、5年という年限を設けて、そこでちゃんと人を育てていらっしゃる。こういう方を目標にしたいと思いました。僕の理想像なんです。
- 平岩
- 小齊シェフは、藤生シェフが講師をなさる古典菓子の講習会にも、熱心に参加していらっしゃいましたね。
- 小齊
- 水戸で働いていた当時、強引にお会いしに行ったこともありました。その後、首都圏に出てきて神奈川の「葦」で働き始め、藤生シェフのもとで学びたいという思いをますます強くしましたが、立川の「エミリーフローゲ」にいらした当時は難しく、「パティスリー・ドゥ・シェフ・フジウ」を開業なさってから、研修に行かせていただきました。その後「パティスリー会」という勉強会で引き合わせていただいたのが、フランス文化に造詣の深い山名将治(やまな まさはる)先生でした。
うちの「ザ・ショコラ」というお菓子は、藤生シェフのスペシャリテである「ザ・ショコラ」を元にしていて、オープンの時に出してもいいですか?とお願いして、発売させてもらったものなんですよ。
- 平岩
- アーモンド入りのチョコレートの生地をミルクチョコレートでコーティングしたお菓子ですね。そのような絆で繋がれたお菓子だったとは、私も初めて知りました!

今後の菓子店のあり方、パティシエの「第二の人生」とは
- 平岩
- 水戸はお菓子屋さんの激戦区だと思いますが、2021年10月には「アカシエ」のスーシェフを務めていらした吉成隆弘シェフが、地元に戻った形で独立開業されるなど、若い方のお店もオープンしていますね。
- 小齊
- 吉成君は、首都圏のお店での経験を活かして、初めからある程度の値段をつけてやっているなと思いました。お菓子屋さんも、これから価格を上げていかなくてはならないと感じています。
- 平岩
- 色々な原材料の価格が上がったり、物流や電気代などのコストも上がったりしていますものね。
- 小齊
- たとえば、クリスマス時期の苺のパックも、同じ値段でも入り数が減ってきたんですよ。一昨年は330gだったのが、昨年は260g、今年は230gになっている。コンビニのケーキだって、決して安くはなくなっていますよね。
- 平岩
- 単に原価を下げるということではなく、専門店は、どのように商品価値を高めて、お客様に選んでもらうかということを考えていかなくてはならないですね。 小齊シェフは、今後、このお店をどうしていきたいとお考えですか?
- 小齊
- 僕は、「人生50年」だと思ってきたんです。そこまではめちゃめちゃ必死に働いてきましたが、ふと、その先、どうしよう?と思って、54歳くらいまで、自分のモチベーションが上がらない時期がありました。
- 平岩
- 今はいかがでしょう?
- 小齊
- イオンタウン店にも17人くらいスタッフがいて、本店だけで同じ売り上げを賄うことはできませんが、いずれ、イオンタウン店を閉めることになっても、より手作り感をアップさせてこだわったお菓子を作って、地元で愛されるお店でありたい、と思います。

- 平岩
- そう言えば、「パティスリー タダシヤナギ」の柳正司シェフも、休止されていた神奈川県・海老名の本店の営業を再開する準備を始めていらっしゃると、お店のInstagramで発信されています。
京都の「コンフィズリー・エスパス・キンゾー」の西原金蔵シェフや、横浜市の「リストワール・ヤマモト」の山本次夫シェフなどもそうですが、いずれは、売り上げを伸ばすということから離れて、ご自身の作りたいお菓子を追求するというのが、パティシエにとっての“第二の人生”の一つの形なのかもしれませんね。
- 小齊
- 美味しい物や素材との出会いにはワクワクしますし、いい物があれば使いたいと思っています。
アーモンドプードルもシチリア産のものが好きですが、価格が高いとか、タヒチ産バニラも高価で使えない、といったことを考えてしまいます。
スタッフが増えていくと、売り上げ優先になっていくのですが、これまでやってきた自分の味覚を大事に、原点に返りたいという気持ちがあります。お菓子の単価も上げていくなら、本当に美味しいものを作って提供してきたいですね。
- 平岩
- いつも明るくパワフルで、周りを引っ張っていらっしゃるイメージの小齊シェフですが、今日は、色々と迷い悩みながら試行錯誤されていらっしゃる、これまであまり伺ったことのなかった一面を拝見できたように思います。貴重なお話をどうもありがとうございました。

小齊俊史シェフ プロフィール
1963年、茨城県生まれ。 水戸で修業を始め、21歳の時に地元のレストラングループの洋菓子工場の責任者に抜擢され、11年間勤務。独立を志して上京し、神奈川・湘南のフランス菓子店「葦」の勤務を経て、2000年10月に「パティスリーKOSAI」をオープン。地域一番店を目指し、地元の農産品や人との出会いから刺激を受けつつ、真摯な菓子作りに取り組む。2008年7月、ショッピングセンター内にオープンしたカフェ併設の2号店が、2011年に「イオンタウン水戸南」店となる。茨城県洋菓子協会副会長として、講習会やコンクールの企画など、若手の育成にも努める。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2021年11月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。