Vol.28スイーツワンダーランド アラキ 荒木 浩一郎シェフ パティシエの生き方もお客様の意識も変化する時代に、
どのように独自の価値を提案していくか?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、2014年に開業した「スイーツワンダーランド アラキ」の荒木浩一郎シェフを訪問しました。大手乳業メーカー勤務で培った商品開発力や支援スキルを活かし、製菓製パンの展示会や菓子業界専門誌で菓子店経営の講座をされたり、YouTube「スイーツ繁盛店への道」で発信されたりと、多方面で活躍されています。自動販売機の導入など新しい流れも積極的にキャッチ。若いスタッフとの接し方や、お店とご自身の今後の展望についてお話を伺いました。

平岩
荒木シェフ、こんにちは。2022年2月に自動販売機を導入されたというInstagramの投稿を拝見して、「気になります!」とご連絡したのが3月のことでしたが、やっと実物を拝見することができました。自家封入の缶入りボトルスイーツなども並ぶ面白い品揃えですが、そのお話は又後ほど、お伺いさせてください。
お店ももう8周年を迎えられましたね。
荒木
こんにちは。6月25日がオープン記念日でしたが、6月いっぱいは、お買い上げ金額の10%の金券をお渡しするというサービスをしていました。オープン記念フェアって色々なやり方がありますが、結局、これが一番いいなと思いまして。それから、新商品の「ソフトクロワッサンラスク」を発売開始しました。クロワッサン丸ごと1個を横にスライスしてあって、サクッとしているけどちょっとレア、という感じです。おかげさまで人気ですよ!
平岩
確かに、お買い上げのお客様に何かノベルティをプレゼントするとか、割引販売をするとか、各店の様々なフェアを見てきましたが、また次回以降のご来店に繋げるという意味でも、その方法はいいですね。
「ソフトクロワッサンラスク」は、今も「ありがとう8周年記念販売」のポップ付きで販売されていますね。ブリオッシュ生地のスライスやマカロンの生地のラスクを販売するお店は多いですが、これは大きくて見た目もインパクトがあります。季節に合わせたギフトも力を入れていらっしゃいますね。
荒木
夏は「塩レモンケーキ」が人気で、クマの形の焼き菓子「ちびクマさん」も、レモン味にしています。クッキーも、スイカの断面のような見た目にしたのが大好評でしたね。種に見立ててチョコレートチップを入れてあります。
うちの主力商品は、デコレーションケーキと焼き菓子のギフト品です。プティガトーは遊びの場と思っていて、季節感も出せます。ただ、普通のパウンドケーキとか、シェル形のマドレーヌとか、円筒形容器に詰めたクッキーとかは、やってはみたのですが、全く駄目なんです。それだと、コンビニとか大手メーカーの物でいい、と思われてしまうんですね。
なので、秋には栗形の焼き菓子、ハロウィンにはかぼちゃ形のマドレーヌ、“ニコちゃん”顔の「スマイル」焼き菓子など、オリジナリティのあるものを出しています。最中種にフロランタンのアパレイユを流した「もなかランタン」も、夏は星形の最中種とか、季節で形や色を変えています。
平岩
焼き菓子類でも季節感を表現していらっしゃるのですね。スイカのクッキーはInstagramにも投稿されていましたが、可愛らしいですね。
荒木
うちは「ワンダーランド」ですから、お客様が求めるのは、その世界観に合うものなんですよね
平岩
そういえば、外の自動販売機に入っていた「フリカケ」って何ですか? 「お菓子ではありません!! ごはんにかけます!!」と書いてあり、「のりたまご」とか、気になって仕方なかったのですが・・(笑)
荒木
あれは、まさにご飯にかける「フリカケ」です(笑)。仕入れ販売ですね。でもパッケージとか、可愛くてうちの世界観に合うものをと、すごく探すんですよ。実はスープの素なんかも仕入れ販売しています。販売スタッフが、こういうものを販売したい、と提案してくれたりするんです。お客様からも、「クッキー1枚とミネストローネスープの素をプチギフトにして詰め合わせて」と言われたりします。いわゆる“バラまき需要”、ちょっとしたお礼にお配りしたいというものですよね。
平岩
販売スタッフの方、積極的ですね。アルバイトやパートの方ですか?今、スタッフの方はどのくらいの人数でしょうか?
荒木
うちの販売は皆、アルバイトで、17-18人くらいが交替で来てくれています。大学生が多いですね。都営三田線沿線には大学が多く、この辺りには、学生専用のマンションタイプの寮なんかがあるんですよ。彼女達は、「買う人目線」で、自分達とは発想が違うんですよね。
平岩
それは頼もしいですね!「アラキ」さんには、オープン時からカプセル入りスイーツが出てくるお子様向けの「スイーツガチャ」が置かれているなど、独自の遊び心があって、本当に「ワンダーランド」という感じがします
荒木
「昭和」の菓子店は、味で勝負してきました。「平成」は深掘りの時代。そして今「令和」は、どれだけ楽しいか、心躍るかという、“共感”で選ぶ時代なんですよね。コンビニの味に慣れている方が多く、そうでない物を「美味しい」と感じてもらえない傾向が強くなっています。コンビニは、利便性や新商品の回転の早さで支持されていますよね。

新時代の働き方、お客様との関わり方とは?

平岩
自動販売機もそうですが、自動会計機も導入していらっしゃいますね。今の時代ならではの新しいツールやSNSを積極的に使っていこうという意識をお持ちでしょうか?
荒木
お店のSNSは、InstagramやFacebookをやっています。今のところ、あまり投稿はしていないのですが・・。会員登録してご利用いただけるスマホ用のアプリも準備していますが、LINEグループを利用した方がいいですね。
平岩
より熱心に投稿されているところもあるかとは思いますが、新商品や季節商品情報を中心に、動画投稿もされるなど、Instagramもしっかりと活用されている方だと思います。LINEグループは、ファンの“囲い込み”でダイレクトな訴えができるので、反応率が高いと言われますね。
荒木
最近、ようやくオンラインの通販も始めようかと思っていますが、1日5万円を売り上げるとしたら、店売りで売り上げを5万円アップさせる方が簡単なんですよ。
平岩
なるほど。今回のインタビューをお願いした際、「バックヤードでお話が出来るような場所が無くて・・」と仰っていましたが、お店や厨房を拡張したいというお考えはありますか?
荒木
うちは店が狭いのが悩みどころで・・。厨房にも、休憩スペースとか、話の出来る場所などが無いんです。ただ、今のところ、店を拡張しようとか移転して広くしようといったことは考えていないですね。
今は、「働き方改革・第2弾」を進行しようとしているところです。OEM工場とも相談しながら、外注で単体商品をやっていくことも考えています。
平岩
最近は、コンフィチュールや、夏場に冷やして食べる常温のゼリーやシャーベットなど、外注されているお店も増えてきていますね。でも、単品で看板商品になるようなものも、外注に出すことを検討されているのですか?
荒木
極力、省力化したいと思っています。「働き方改革」第1弾として、自分達のペースで仕事を進めて、何時までに終わればいい、というのは実現できるようになったので、ここからは、お店の休業日を増やしたいですね。
平岩
スタッフの方々が交替で休んで、休業日以外も休日を増やすということでなく、お店自体の休みを増やすということですか?
荒木
そうです。週休3日くらいを目指したいです。
平岩
最近、週休2日の休業日を設けるお店は増えてきましたが、週に3日お休みとは、思い切った営業スタイルですね。
でも確かに、最近、少人数でスタートされたお店などで、木曜から日曜しか営業しないとか、そういった菓子店も出てきています。その背景には、他の曜日に、外部のコンサルティングとか通販用のお菓子の製造とか、育児とか、それぞれやることがあったりするのですが・・。
荒木
8時間労働、週休2日で決まったことをやっているならば、出来ると思うんですよね。仕事をチェックポイント制にして、「ここを守ればできる」というふうにしていきたい。
最近の若いスタッフ達は、たとえばうちにもジャニーズのタレントファンの子がいて、「『推し活』が出来ないなら、働いても意味がない!」と言って、仕事も頑張るけれど、プライベートも大事にしたいという考えなんですよね。
平岩
わかります。私の知り合いのパティシエの方も、「うちのスタッフに、夏冬に『コミケ』に行くために働いているので、お盆と年末は絶対に休みますというのがいて、昔ならそんな忙しい時期にふざけるなってなったでしょうけれど、今ってそれを認めていかないといけない時代なんですよ」と仰っていました。
人によって様々な価値観や働き方があるので、それを尊重する必要がありますね。ただ、そのために人材を育てづらく、これでいいのかと悩んでいらっしゃるオーナーシェフも多いです。若い方には、どのようなことを教えたい、伝えたいですか?
荒木
この仕事は、積み上げていくことが必要で、引き出しがどれだけあるかが勝負です。基礎力が大事なんですね。
でも、それだけではなく、自分は、仮説を立ててやっています。新商品に対するお客様の反応って、半日もあればわかるんですよ。売れる品というのは、初動が全く違います。今は、お客様のいる所に物を持っていく時代なんです。どの商品を持っていくかによって、売れる物が変わってきます。
平岩
プライベートを大切にしたいという希望は尊重するけれど、やはり、職人として磨いていかなくてはならない技術や感覚がありますよね。
荒木シェフは、外部のコンサルタントや商品開発のお仕事もなさっているので、ご自身の店も客観的に見ていらっしゃるのですね。
荒木
外の仕事をすることで、新しい価値観が入ってくるんです。以前は、顧問契約を受けたりもしていましたが、新型コロナで、毎月1回行ってレシピを教える、みたいなことが難しくなったので、成功報酬型の仕事に換えていきました。
若い人と30代くらいの人の考えていることって違いますし、たとえばアパレルとか、スイーツ以外の仕事をしている方って、発想が違うんです。パティシエって、やっぱり「ムラ社会」みたいなところがあるのですが、それ以外の世界の面白さに触れることができますね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年08月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。