Vol.34シャンドワゾー 村山太一シェフ 職人も変化が必要な時代。ラボ開設で生産を効率化、
カカオの高騰に際して提案したいチョコレート菓子とは?

菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、埼玉県川口市「シャンドワゾー」の村山太一シェフをお訪ねしました。
2010年にお店をオープンされましたが、現在は近隣にチョコレートとアイスクリーム専門店、イオンモール川口店内に3号店も展開。より効率的な生産を実現するため、2023年には新たに外部にラボを設立。店舗を改装して売場を広げ、リニューアルオープンされました。開業から現在に至るまでの経緯と、この先目指すことをお話しいただきました。

平岩
村山シェフ、こんにちは。最近は、工房にいらっしゃることも多いと思いますが、今日は本店でお話をお伺いいたします。改装して売り場を広げられ、ショーケースの向きも90°変わって、ゆったり眺められるようになりましたよね。
自動精算機のレジも2台、導入されています。
村山
こんにちは。そうなんです。前の店舗だと、お客様の列が店の外にまで延びてしまうことがありました。また、レジを2か所設けて動線を確保することができず、予約してくださっているのに並んでいただかないといけなかったのですが、今は、入り口を入って右手すぐのところに予約受け取りカウンターを設置して、それも解決することができました。
平岩
2023年11月から店舗のリニューアル工事に入られて、その間、休業されていましたね。でも生菓子を置いていない2号店、3号店の「シャンドワゾー グラシエ ショコラティエ」の方は営業されていました。ラボはいつから稼働していらしたのですか?
村山
ラボ(写真2枚目)は2023年11月から実動していましたね。改装工事のため、10月30日から12月6日まで本店を休業しましたが、11月15日からは伊勢丹新宿店の催事にも1週間出て、生菓子も販売していました。
あと、オンラインショップでホールケーキの予約は可能で、2号店で受け取れるようにしていました。
平岩
改装期間中も、止めることなく営業を続けることが出来ていらしたのは、さすがです。
最近、個人オーナー店では、支店をクローズしたり営業規模を縮小したり、小規模人数でお店を始めたりといったケースが増えているように感じますが、村山シェフは、周到な計画のうえで、かなり積極的な展開をされていますね。
村山
実は2025年にも、近隣にオープンする商業施設内に新たに入る話が進んでいます。ゴールデンウィーク明け以降ですね。
これまでの店舗は、綺麗で上品なデザインを目指していましたが、今度はよりカジュアルに、木を使った温かみのある感じを目指したいです。アップルパイとかクロワッサンとか、その場で焼きたての菓子やヴィエノワズリーも販売予定です。
平岩
えっ、初耳です。それは楽しみですね!
イオンモールの店舗もそうでしたが、やはり、地元への密着志向は貫いていらっしゃるのですね。
村山
都心だと競争が激しくて、ブランドの入れ替わりも目まぐるしいですが、地元で支店を出すのは、本店への集客にも繋がりますし、安定感があります。
でも実は、都内でタワーマンションの多いエリアに、パティスリー店舗を出店したいとも思っているんですよ。そういうところって、その場で作る業態だとそれなりの広さが必要で、家賃が高くなってしまうので、大手のメーカーはともかく、個人オーナー店はなかなか出店できないですよね。でも、製造機能が別にあって、販売だけの小さな店舗という業態ならば可能で、より上質な品を求める高所得のファミリー層のお客様からのニーズがあると思うんですよね。
今でも、生菓子をラボで仕上げて店舗に毎日運ぶのは大変なので、ラボで作った冷凍タイプの品を週1回運び、仕上げは店舗で行うようにしています。このビジネスモデルがうまく活かせるのではないかと考えているんです。
平岩
なんと・・そのような将来設計まで思い描いていらっしゃるのですね。
材料原価や様々な固定費の値上げ、人手不足など、経営者にとって悩みの多い今の時代に、そのようにビジネスチャンスを捉えられる視点は、とても貴重です。
村山
うちの店が、ストライクゾーンを大きく取って、マニアックすぎず幅広いお客様に好まれるようなお菓子にしているのも、そういう意識からです。
今の時代、自分達も生き残りをかけて、ちゃんと人を雇用しながら、どう経営していくかを考えて実践していかなくてはなりません。
平岩
今、お店にはどのくらいの従業員の方がいらっしゃいますか?
村山
社員は20名で、ほぼ製造ですが、1年目は販売から入ることになっています。それから、社会保険に入っている形のフルタイムのパートさんが10名ほど。それ以外のパートさんが40名弱ほど。合計65名くらいです。
2024年は新卒で4名が入りました。本店とラボの担当は、A・Bとチームを分けて、2ヶ月ごとの交替にしています。色々検討しましたが、この勤務体制がちょうどいい長さなんです。前は、製造希望が強くて1年目の販売担当が我慢できないといったスタッフもいたのですが、これだと、製造と販売の仕事をちょうどいいバランスで経験できます。
平岩
本店とラボの仕事の分担について、より詳しくお伺いできますか?
村山
クロワッサンやパン、タルトなどは本店で仕込んで作っています。これらは、ラボで製造したとしても、そんなに大量には作れない、生産効率を上げることが難しい品なんです。
ムースやショートケーキ、アイス、ショコラなどはラボで作っています。

雇用状況の変化と課題とは

平岩
ラボを作ろうという構想は、いつ頃から考え始められたのでしょうか?
村山
TVの『マツコの知らない世界』の「埼玉スイーツの世界」で平岩さんにご紹介いただいて、お客様の人数も増えた頃から考え始めました。
平岩
2016年2月に放映された時ですね。その節は、大変お忙しい思いをさせてしまいましたが、ご対応いただきましてありがとうございました!
かなり早くから、次の展開を考え始めてていらしたのですね。
村山
今、人を雇う環境というのが、ひと昔前や、自分達が雇われていたふた昔前とも大きく変わっていて、お菓子業界内だけの人材の取り合いではなく、条件面や働きがいなどで比較されて、一般企業との闘いになっていると思うんです。
平岩
給与額はもちろん、週休2日制や社会保険の有無も比較検討されますよね。「修業だから、下積み時代だから」では理解されないようになりました。
村山
自分が25年前にパティシエになった時には、仕事は厳しかったですが、夢のある職業だと感じていて、だから頑張れました。でも今は、独立するイメージが持てない。原材料も高価になっていて、昔よりも利益を出しにくい状況です。
かつては、いずれ独立を目指すならば、給料よりもノウハウが大事だったんです。今は、プライベートを充実させることが重視され、給料の方が優先事項になっていますね。
平岩
ですが、「シャンドワゾー」から独立開業された方も、既に何人かいらっしゃいますよね。2018年に西東京市・ひばりが丘に「ル マグノリア」をオープンされた伊藤大樹シェフもそのお1人です。
村山
はい。彼のことも応援しています。5-6人は独立していますが、20人は目指したいですね。
平岩
今、二番手を務めている方はいらっしゃるのですか?
村山
今、28歳のスーシェフがいます。新卒で入社して7年目です。健康上の理由で製造の第一線を退いたけれど、長く勤めてくれて13年目という販売責任者もいます。
平岩
組織が大きくなっていくと、2つの製造チームや各店の販売責任者を経験した方々など、より頼れる存在になっていかれる一方で、やがて独立されたり、様々な事情で辞めざるを得なくなったりと、人も常に移り変わっていきますね。それでも揺るがない組織、その仕組みをつくっていかなくてはならないのですね。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年10月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。