カカオ不足とチョコレートの価格高騰への対策
- 平岩
- 村山シェフが、川口という町で店をやろうと選ばれたのは何故ですか?
また、最初から、チョコレートをやっていきたいという思いをお持ちだったのですか?
- 村山
- 自分は、生まれも育ちも埼玉県で、最初に春日部の菓子店で就職しました。そこでチョコレートを経験して、当時は今よりも単価は低く、1粒が200円台くらいでしたが、ボンボンショコラをやっていきたいなと、その頃から思っていました。
そして、埼玉県内には、ボンボンショコラを1粒ずつ販売するような店というのはまだ多くなかったですから、そういう品揃えだと、都内の高級店にもいらしている方向けの商品構成になるだろうなと思い、埼玉県の中でも都内との接点に当たる、川口という町を選んで開業しました。
川口は、昔は鋳物産業で知られていましたが、再開発でマンションが増え、都内に通勤している人が多い町となっています。店がオープンした時、「値段が高い」とも言われましたが、同じくらい、「安い」とも言われたんです。都内の価格を見慣れている方々にとっては、むしろそう感じられたんですね。
- 平岩
- 2024年から、世界的なカカオの不足で、チョコレートの価格が急騰していますが、どのように対応していかれますか?


- 村山
- もちろん、値上げも考えていかなくてはいけませんが、よりシビアにチョコレートを選ぶことも必要だと思います。たとえば、70%は高価なチョコレートを使い、30%を安価なチョコレートにしても品質を維持できるかどうか、検証しているところです。今までは、そういうことを考える必要がありませんでしたが、今、日本中のショコラティエ、パティシエ達が取り組んでいると思います。
チョコレートが値上がりしても、チョコレートのお菓子が無くなるということはないと思いますが、売り上げがあっても利益を得ることが難しくなってきますよね。自分は、これまでのように、手をかけたボンボンショコラだけではなく、気軽なおやつ菓子として、たとえば色を施す作業など味には関わらない手間を省いて、低コストで美味しいボンボンショコラというのを増やしていきたいと考えています。

- 平岩
- よりシンプルで、見た目が華やかなでなくても、食べると美味しいといったものになるのでしょうか?
- 村山
- 今までは高級路線で、ギフト商品を想定してやっていましたが、日常的に自分が食べるための品というのを出していきたいです。
15粒で1セット、みたいな感じで、1箱でまとめて利益を取れるようにして、包材も余分なコストをかけない。 日本は、日常用のチョコレートというのがあまり無くて、高級店の品か、スーパーマーケットの品かみたいな感じですが、
ベルギーにはその中間の品がありました。たとえば、飲み物を選ぶのに、ワインのような楽しみ方もありますが、ドリンクバーのような楽しさもあると思うんです。チョコレートマニアの方には物足りないかもしれませんが、年代を問わず、ファミリーで食べて楽しめるような品を提案していきたいですね。
- 平岩
- 「シャンドワゾー」では、シュー生地やブリオッシュ生地を活かしたラスクとか、ケークの端っこの切り落とし2枚セットといった気軽なおやつ焼き菓子も販売していますね。食べ物を無駄にしないSDGsの実現だと思いますし、使われているのは専門店ならではの厳選素材。それを手頃な価格で楽しめるのがいいですよね。
チョコレートの不足と価格上昇の問題は、数年は続くだろうと言われています。これまでもチョコレートに力を入れていらした村山シェフの対策と取り組みは、業界でも注目されるだろうと思います。

小麦粉の選び方について
- 平岩
- 話は変わりますが、「シャンドワゾー」ではヴィエノワズリーやパンも出されていますし、小麦粉も、色々と使い分けをされているのでしょうか?
- 村山
- クロワッサンや、クグロフ、ブリオッシュなどには、準強力粉の「リスドオル」を使っていますよ。色々と試したけれど、結局、戻ってきたという感じです。食パンの「パン ド ミ」にはケーキ屋らしいもちもち感と甘みを求めて「ゆめちから」を使っています。あとは、素朴な感じが気に入って、石臼挽きの小麦粉というのも使っていますね。
2025年にオープン予定の新店舗では、強力粉の「セルヴァッジオ ファリーナ フォルテ」を使おうと考えています。

- 平岩
- 「セルヴァッジオ ファリーナ フォルテ」は、カナダ産の小麦粉を、欧州の伝統的な製粉方法を採用して粗挽きしたという小麦粉ですよね。どういう点がよかったのですか?
- 村山
- まさに粗めの挽き方で、ざっくり感が出るんです。パネットーネに合っていると思っていて、2025年秋頃から発売し始められたらと考えています。
- 平岩
- 最近、講習会の開催が増えて、パネットーネを始められる個人オーナーの菓子店が増えたなと感じていますが、村山シェフのパネットーネが食べられるとは、デビューが楽しみです!
やはり、色々な粉を使い分けていらっしゃるのですね。

時代の変化に合わせて職人に求められる技術も変化する
- 平岩
- 最後に、これからのお菓子業界に対する希望や、そのためにご自身がやっていきたいことをお聞かせください。
- 村山
- 「働き方改革」が求められて、職人がいなくなるとか技術が失われるといった声もありますが、これが大きな時代の流れだとしたら、仕方がないことです。その時代に必要とされる技術というものに順応していかなくてはなりません。
昔ながらの職人がいなくなっていくという寂しい思いもありますが、見方を変えれば、プライベートを充実させる時間を作りつつ生産性を上げて、皆が幸せに働きながらいいものを作れるというのは、いいことですよね。
今までと同じ品質を、より効率よく実現させるには、より考える力が必要になっていきます。これは、時代に必要とされている変化であって、今の時代に合った働き方、生き方なんですね。昔に戻りたいか?と言われたら、決してそうではない。必要とされる菓子職人であり続けるために、自分をアップデートさせていきたいと思います。
2024年は、ケーキと焼き菓子の価格を15%くらい上げましたが、2期連続で増収減益という状況です。今後、値段を上げたことでお客様が減ったら?という懸念に対して、生菓子、焼き菓子、アイスやチョコレートのOEMを受けるなど、BtoBの売り上げを開拓するといったこともやっています。
- 平岩
- 今の菓子業界は、働き方改革の実現や人手不足もあり、ゼリーやジャムなど製造の一部をOEMに出す個人店も増えてきましたが、逆にOEMの製造委託を受けられる態勢にあるというのは、これまで積み重ねていらしたことの帰結ですね。
今後の新たな展開も楽しみにしています! 今日は、色々と興味深いお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。

村山太一シェフ プロフィール
1979年、埼玉県生まれ。
埼玉県の「パティスリー シェーヌ」、「パティスリー アカシエ」を経てベルギーに渡り、「ヤスシササキ」、「コルネトワゾンドール」で研鑽を積む。帰国後の2010年、パティスリーショコラトリーとして「シャンドワゾー」を独立開業。2017年9月、近隣に喫茶併設のアイスクリーム&チョコレート専門店「シャンドワゾー グラシエ ショコラティエ」をオープン。2021年5月にはイオンモール川口店にも「シャンドワゾー グラシエ ショコラティエ」の店舗を出店。

※店舗情報及び商品価格は取材時点(2024年10月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。