菓子職人の方々へのインタビュー連載。今回は、2021年2月、同じ市内で旧店舗「パティスリー サン・マロー」から、店名も新たに移転オープンした「パティスリー リューコレット」の武田利秋シェフにお話をお伺いしました。名店「ラ・ヴィ・ドゥース」を経て渡仏し、パリのMOF達のもとで修業。29歳で独立し、地域に愛される菓子店として歩まれてきました。13年を経てリブランドに至った経緯や、スタッフの方々のモチベーション維持の工夫、今後の目標などをお話しいただきました。
移転リブランドオープンによる変化
- 平岩
- こんにちは武田シェフ。新店がオープンしてからずっと伺いたかったのですが、結局、1年越しになってしまいました。噂には聞いていましたが、白い外装がおしゃれで、パリにありそうなデザインのお店ですね!駐車場も広いですが、この場所って、元は何があったのですか?
- 武田
- こんにちは、ありがとうございます。ここはもと、コンビニだったんですよ。3-4年前から探していて、ようやくこの場所に出会えました。2008年6月に「サン・マロー」として開業しましたが、隣のより広い敷地が空いたので、2010年に移転し、赤い外観の店として再スタートしたんです。でも、半年で、駐車場が無くなってしまう事態となり、それからずっと次の移転先を考えていました。その一方で、駐車場が無くても来てもらえるような店にしようと努めてきましたね。そこから5-6年で売上目標を達成し、本格的に、新しい場所を探し始めました。
- 平岩
- あの赤い外観のお店は遠目にも目立ちました。ぐっと大人っぽい白へ。思い切ったイメージチェンジですね。入り口のドアに飾ってあったドライフラワーのリースも、とても素敵!


- 武田
- 店舗デザインは、「西洋菓子おだふじ」(東京都練馬区)さんや「ロートンヌ」(東京都東村山市)さんや「アカシエ」(埼玉県さいたま市)さんを手掛けられたデザイナーさんにお願いしました。
地元でも認知されたので、目立たせる必要はないと思い、高級でおしゃれな雰囲気を目指しました。内装をグレーにしようと言ったのは妻で、最初、「えぇ~?」と思ったのですが、やってみたらすごくよかったです。
あのリースは、地元の花屋さんにお願いしたもので、季節によって変えています。
- 平岩
- 店内照明もシャンデリアなどあって、高級な感じですが、グレーの色彩できらびやかすぎず、落ち着き感があってゆったりお菓子を選べる感じで、すごくいいと思います。
- 武田
- 初めは、足し算ばかりしてしまうんですよ。今は引き算の考え方が出来るようになって、物を置かない方がかっこいいなと思うようになりました。赤い店を作ってから10年経って、勉強したことですね。

- 平岩
- 最初は、居抜きで引き継がれた前の店の「サン・マロー」の名を残されましたが、いずれは、ご自身のブランドの名に変えたい、と思っていらしたのですか?
- 武田
- 軌道に乗ってしまうと名前を変えるのが難しくなります。初めは、会社の登記や包材の変更の手間もあり、同じ名前にしようかな・・とも考えたのですが、リブランドした結果、お菓子の回転が早くなり、従来のお客様だけでなく、新規のお客様も増えている手応えがあります。駐車場も広くなって、以前より1.5倍くらいは、車を停めやすくなりましたしね。それに、近くに大型のスーパーマーケットがあるので、そこの大型駐車場に車を停めて買い物をして、ついでにうちによる、というお客様もいらっしゃいます。二宮駅から見ると、少し山側に移動した形になりますが、そちらのお客様が増えました。
- 平岩
- そこまで細かく把握されているのですか?
- 武田
- 「Google ビジネス プロフィール」を活用しているんですよ。そうすると、自店がGoogle Mapでどのように探されているか、どこからどこまのルート検索をされているかが見られるようになります。
- 平岩
- えっ、それは存じませんでした。しかもそれは、無料で登録できるのですね?スマホで「リューコレット」と入力して検索すると、すぐに出てくるプロフィールですね。私もそうですが、今は皆さん、車でも電車でも、お店に行こうと思ったら、スマホでGoogle Map検索しますものね。
パティシエの方って、「ITとかインターネットとかは苦手」と仰る方が多いイメージでしたが、そんな活用をされている方がいらしたとは!
- 武田
- 活用したらいいよと、自分も友達のパティシエ達に勧めてるんですよ。

商品の見せ方の工夫
- 平岩
- 今、スタッフの方はどのくらいいらっしゃいますか?
- 武田
- 製造は8人と僕です。昨年2月に移転オープンしましたが、その4月に新卒を4人採用しました。2022年4月にも、3人採用しています。販売については16人います。
主婦の方などは、接客も飲み込みが早く、即戦力になっていただいています。
- 平岩
- 2022年のバレンタインが、移転後初のバレンタインでしたよね。これまでと比べて、変化はありましたか?
- 武田
- 専門店のこだわりをより理解してくださるお客様にいらしていただけるように、という意識をして、ギフト売り上げも伸ばせています。お菓子の内容は前と変わらないのですが、店の雰囲気が変わったからですね。
実は、「アカシエ」さんのギフトの見せ方がいいなと思い、参考にさせていただきました。前の店の時は、とにかく色々と並べてしまっていたのですが。


- 平岩
- そう言えば、デザイナーさんが同じと仰っただけあり、壁側の箱詰めギフトのコーナーは、「アカシエ」の陳列棚を彷彿とさせるものがありますね。「アカシエ」の壁側のギフト棚も、同じように、目線のところにガラスケースがあり、そこに見本が展示されていて、その下にギフトボックスが積み重ねられているスタイルですよね。あの見せ方は、確かに、他店であまり見ることがないですね。
- 武田
- 「そごう横浜店」や、高速道路のインターチェンジとかでも、その見せ方をしているんですよね。
- 平岩
- あっ、なるほど。言われてみるとそうですね。こうやってわかりやすく展示してあると、お客様も、それを買えば間違いないなと思いますよね。
- 武田
- 実は、小田原の「鈴廣かまぼこの里」もそうなんですよ。ここも、「アカシエ」の興野シェフに勧めていただいて行ったのですが、見せ方がすごく上手い。高級進物ゾーンと一般的なお土産ゾーンも分けていて、食べ方の提案がすごいんです。
- 平岩
- えぇ~、そう言われると、私も行きたくなります。いつもアンテナを張っていらして、異なる業態の商業施設からもヒントを得られているというのが、武田シェフも興野シェフも、柔軟でいらっしゃいますね!
移転されて、お店の広さは、どのくらいになりましたか?
- 武田
- 1階が厨房含めて44坪、2階が16坪になります。「おだふじ」さんが、「店舗はそんなに広くなくてもいい」と仰っていて。小さくても数億円規模の売り上げを持っているお店というのはあるんですよね。
2017年にリニューアルした際に作った焼き菓子の棚のポールや、テーブル、ランプなども持ってきて取り付け、前の店の雰囲気も少し出しています。外壁についているランプは、持ってきたものですよ。
- 平岩
- 入り口を入ると、すぐにアントルメの棚があって、ぱっと目に入りますね。
- 武田
- 以前は、10尺3段のショーケースにアントルメと生菓子と半生菓子を、まとめて入れていました。今回の店でそれぞれのショーケースを分け、アントルメを売りたいという思いがあるので、入り口正面に置いています。

コンクールへの挑戦と環境づくり
- 平岩
- 色々と記録されているノートがありますが、武田シェフは、色々な記録をしっかりデータで残される方なのですね。
- 武田
- 記録しておくと、二番手の子が独立する時にも、データごと渡せるので、いいですよね。
あぁ、こんなのもありますよ。2021年の4月に、「ラ・ヴィ・ドゥース」の20周年で、内輪で集まったのですが、その時に作ったお祝いのフォトアルバムです。
- 平岩
- わぁ!これは貴重ですね。「メゾンドゥース」の伊藤文明シェフや、今「和光」のグランシェフパティシエ兼シェフショコラティエでいらっしゃる小熊亮平シェフと共に働いていらした時期の写真が載っています。皆さんがお若い・・。「ラ・ヴィ・ドゥース」堀江新シェフのもとで修業された方のお菓子は、いずれも美味しくて、私も大好きです。
- 武田
- 堀江シェフのお菓子は、バランスがよくて、どこの地域で店をやっても「美味しい」と思ってもらえる味なんですよね。
基本的な食感や硬さが統一されていたり、食べやすいお菓子です。
コンクールでも、全審査員に好まれる、けれども「普通」ではなく、どこか1か所に特徴があるんです。


- 平岩
- OBの皆様、コンクールでも活躍されていらっしゃいますものね。伊藤シェフと小熊シェフが、共に2019年開催の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」の日本代表選手になられた時には、同窓のお2人がチームになられたことに感動しました。武田シェフも現地に応援にいらしていて、会場でお会いしましたよね。
- 武田
- あの予選の時、伊藤さんは既にオーナーシェフなのに、それでも出場すると聞いて、すごいなと刺激を受けて、それで、2018年10月に開催された「ジャパンケーキショー東京」で、自分も一緒に頑張ろう!という気持ちになりました。
- 平岩
- あの時は、神奈川県でのケーキショーの予選の優勝を経て、神奈川県代表として「ジャパンケーキショー」に出場され、グランガトー部門で、見事に大会会長賞を受賞されたのですよね。
後日、お店でも「プレジール」というプティガトーとして期間限定で販売されて、私が2019年1月に二宮の商工会議所に講演で伺った機会に、お店は定休日だったのですが、わざわざ聞きに来てくださり、堀江シェフ門下生で集まられた「クープ・デュ・モンド」壮行会のためにご用意されたのと同じホールサイズで届けてくださったのですよね。あの時は本当に嬉しかったです!チョコレートとオレンジという王道の組み合わせですが、何層にもなった凝った構成で、自家製プラリネノワゼット入りガナッシュやシュトロイゼルショコラ、オレンジのマーマレードなど、食感にも様々な変化があって、とても美味しかったです。
- 武田
- 神奈川県の時には、デコレーションがもっと足し算的な発想で、ゴチャゴチャ(笑)していました。「ジャパンケーキショー東京」では、審査員の方々のことを考え、より引き算的なデザインにしました。堀江シェフの代表作「バッカス」のようなイメージで、オレンジにパッションも入れたりしてバランスを取りました。堀江シェフがグランガトーの審査委員長だったんですよ!
- 平岩
- スタッフの方々も、コンクールに挑戦して、頑張っていらっしゃいますよね。やはり、シェフ自ら挑戦されている姿をご覧になっているということは大きいと思います。
- 武田
- 講師の方にお越しいただいて、プライベート講習会もやっています。埼玉の「パティスリールリアン」の山崎正規先生にマジパンを教えていただいたり。昨年の「ジャパンケーキショー」の前にも、千葉県の「シューベルト」吉田昌史シェフにお願いして、チョコレートのピエスモンテ(工芸細工)を作っていただきましたよ。
神奈川県洋菓子協会でも、講師の方を呼んで若手の育成強化に努めています。
- 平岩
- それは素晴らしいですね!昨今は、残業禁止でコンクールの練習をするのが難しくなったり、職場によっては出場すること自体も難しくなったりという話も聞きますが、日々の仕事とのバランスを、どのようにコントロールされていますか?
- 武田
- うちは、17時には仕事を終えて、月8日は休みがあるようにしています。
- 平岩
- 理想的ですね!これだけ生菓子も種類が多く、お客様も増えてお忙しいはずなのに、なぜそれが実現できるのですか?
※店舗情報及び商品価格は取材時点(2022年02月)のものです。最新の店舗情報は、別途店舗のHP等でご確認ください。